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[CEDEC 2010]技術教育は大変だが,今やらなければ将来もっと大変になる。「社内の技術教育,どうしていますか? 〜コーエーテクモの研修事例」
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印刷2010/09/02 02:25

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[CEDEC 2010]技術教育は大変だが,今やらなければ将来もっと大変になる。「社内の技術教育,どうしていますか? 〜コーエーテクモの研修事例」

コーエーテクモゲームス ソフトウェア開発本部技術支援部 リーダー 金井新一氏
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 CEDEC 2010の2日目となった9月1日,コーエーテクモゲームスでソフトウェア開発本部技術支援部のリーダーを務める金井新一氏が,「社内の技術教育,どうしていますか? 〜コーエーテクモの研修事例」と題したセッションを行った。

 金井氏は,最初にゲーム業界全体のレベルを底上げするにあたり,各社の技術教育こそが重要だと述べる。しかし多くの企業では,技術教育が大事だと理解はしているものの,なかなか手が回らないというのが実情のようだ。そこで金井氏はこのセッションにて,自らが所属するコーエーテクモ 技術開発部の,技術教育の事例を紹介した。

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 金井氏は,最近の技術教育は非常に大変になっていると指摘する。それは,ゲーム開発に必要とされる技術的な知識が,一昔前と比べて極めて高度になっているからだという。例えば,金井氏が新入社員だった当時だと,グラフィックスに要求される知識は6つ程度のカテゴリーと,それに関連する幾つかの要素,これを把握していれば十分仕事はできたのだそうだ。
 しかし現在では,グラフィックスの高度化と開発規模の大型化,それに伴う開発の効率化などにより,要求される知識が比較にならないほど多くなっている。その中でも物理計算の分野では,もはや学術レベルの知識が要求され,学習の壁が非常に高くなっているのだ。コーエーテクモにおいては,新入社員はそれらの知識を,半年前後で「仕事に使える」レベルまで高めなければならないそうだ。
 そうした話は新入社員に限らない。昨今では担当分野の専門化が進んでいるため,プラットフォームの高性能化などに伴って,ベテラン開発者であっても急遽,専門分野以外の知識を要求されることが増えているのだという。

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 「仕事に必要な知識」の不足は,ゲームを開発するうえで当然リスクを伴う。金井氏はその具体例として,担当者間のすり合わせ時に発生した些細な言葉の取り違えが大きなトラブルに発展したり,あるいは実際にトラブルが発生した場合,どこに原因があるか見当がつかないことが原因で対処が遅れたりすることなどを挙げた。ここで金井氏は,これらのリスクの中には事前にしっかり知識を与えることで,未然に防げるものも結構あり,やはり教育は必要なものであると強調した。

 それでは,技術教育はどのように行うべきなのだろうか。一つには誰かが一旦きちんと指導すべきという考え方があり,もう一つには開発者なのだから現場での実践を通じて学んでいくべきという考え方があるが,金井氏はどちらもやるべきだと述べる。
 自主的に学習する姿勢は当然持っていなければならないが,実際問題として,上記のような高度な内容を,忙しい開発の合間に自分だけで学ぶことができる人材は限られている。また教える側の先輩社員にしても忙しいのは同様で,新入社員をはじめとする後輩の指導に多くの時間を割くことはできない。そこで重要となるのが,社内にしっかりと教育できる体制を作り上げることだ。
 金井氏は,何もしなければ5年後には,社内の開発力は維持どころか後退しているかもしれないという危機感を持っているという。そこで技術支援部として,社内の教育に携わっているというわけだ。

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 具体的な教育の事例としては,まず新入社員研修カリキュラムが紹介された。全体研修は4月から5月中旬頃までの約1か月半。そのあと,新入社員は各部署に配属され,それぞれの専門研修やOJT(On-the-Job Training)を通じてさらなる教育を受ける。
 その中で,技術支援部が担当するのは3週間程度の「プログラム研修」だ。この研修はプログラマーと,プランナーやCGデザイナーなどの非プログラマーによって内容が異なる。非プログラマーに対しては,プログラムの考え方を理解させ,仕事の流れをイメージしやすくすることが目的なのだという。そこには,今後はプログラマーでなくともスクリプトを書く機会が増えるという予測や,柔軟性のある若いうちに経験させておきたいという意図なども含まれているそうだ。

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 一方プログラマー向けの研修は,C++の演習課題と座学が中心となる。演習は基礎レベルを揃え,各自のスキルを確認することが第一目的だが,大学などで他言語を学んで来た新入社員に,C++が最低限使えるよう教え込むという意味合いもあるという。
 座学では,職業プログラマーとしての心得を教える。学生レベルでは必要のなかったコードの読みやすさやメンテナンスのしやすさ,あるいはバグを未然に防ぐノウハウなど,業務的に必要となる考え方を教えていく。また共同開発や大規模開発を経験しないと理解しにくかったり,プログラムの堅牢性の観点から業務上で使われる要素などについても説明がなされるそうだ。

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 また「3Dグラフィックス講座」は,上記のとおり,近年では覚えることが増え,個人での習得が困難になったことを鑑みて取り組み始めたものだという。この講座では3Dグラフィックスに関する知識を網羅的に学習することができる。その目的はまず,聞いたことのない用語や概念を減らすことが挙げられる。金井氏によれば,難解な専門用語であっても,一度でも聞いたことがあれば,自分で検索するなどマシな対応ができるようになるとのこと。実施するための準備は非常に大変だったが,社内の評判がよく,結果的に取り組んでよかったと金井氏は述べる。

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 専門性の高い研修として,社内ツールやシェーダ,DCCツールの講習会の事例も紹介された。これらは単に各ツールの使い方を教えるだけでなく,ゲーム開発の流れを理解させたり,人材の育成に役立ったりしているという。
 また「技術連絡会」では,全社向けに開発したライブラリやツールを,ただグループウェアとして共有するだけでなく,実際に場を設けて紹介する。加えて,他社の注目タイトル情報を社内で共有するためにも使われるそうだ。
 そのほか,数学/物理/グラフィックスのスキルを,コストをかけずに底上げする「輪講」や,社内のITリテラシーを底上げする「『ITパスポート試験』の参考書」,ビジネスパーソンとしての常識を学ぶ「テーブルマナー研修」が紹介された。

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 こうした教育の効果は,定量的に測れるものではないが,社内のアンケートではおおむね好評であるとのこと。またアンケートからは,誰しも学習意欲は持っているものの,業務が忙しかったり,何から始めていいか分からなかったりするという事実が浮き彫りとなったという。金井氏は,こうした教育が,各自が自主的に学習するきっかけや,知識を整理する機会になっており,5年後に大きな差となって現れるのではないかと期待を述べた。

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 なお,教育にかかる大まかなコストも紹介された。講座形式では,2時間6コマで約3か月の準備期間を要し,講師役に大きな負担がかかる。しかし,一度実行すれば,2回目以降は使い回しが可能で,その場合には大幅に負担を軽減できることも付け加えられた。
 参考書の輪講は,ほとんどコストがかからないものの,適した書籍の有無によって,可能な分野が限られるとのこと。
 その一方で,機材と場所の確保,最適な研修形態,フィードバックの質といった,今後の課題も挙げられた。

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 最後に金井氏は,技術教育は大変だが,やらないでいるともっと大変な状況になるかもしれないと指摘。続けて,小さなことからでもいいので,自分達で実際に教育の機会を設け,ゲーム業界を底上げしていくことが必要であると続けた。金井氏は,そうやっていくことで,ゲーム業界が多くの人にとって魅力的なものとなれば,優秀な人材も集まり,さらに強い業界になっていくだろうという展望を述べ,セッションを締め括った。

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