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[CEDEC 2010]「ドラクエ」や「ポケモン」はなぜバカ売れするのか。それぞれの関係者を招いた特別セッション「人を楽しませるプロデュース」をレポート
このセッションは,「ポケットモンスター」と「ドラゴンクエスト」という,日本を代表するRPGの作り手が顔を合わせるというユニークな内容で,吉田氏が司会役を務めながら,石原氏と市村氏がお互い気になっていたところを聞きあうというスタイルで進められた。
「人を楽しませる」プロデュースとは
吉田氏がまず話題にしたのは,講演のタイトルにもなっている「人を楽しませる」という点についてだ。それに対して石原氏は,「当たり前の話かもしれませんが,まずは自分が楽しめるものであることが大切ではないでしょうか」と語り,そのうえで「なるべくたくさんの人に楽しんでもらうという意味では,全年齢対象という部分にこだわっています。暴力表現や性的な描写,あるいは射幸心をやたらと煽ろうとする内容でなくても,ゲームは十分に面白いものにできる」と延べ,過激な表現方法などを取ることに対しては「それによってプレイヤーの幅を狭めるのはもったいない」という。
一方で市村氏は,「僕は石原さんのように生みの親というわけではなく,どちらかというと,元々プレイヤーだった立場。だから僕は,自分が当時感じた感動をどうやって新しい人に伝えるか,という視点です」と言い,「僕は,ありそうでないものというのかな。見たことがない……いや,あったかも?というような微妙なさじ加減が大事だと思ってます。独創的なものだと伝えるのが難しいので,作品の世界観などは誰にでも受け入れられるものとしながらも,遊んでみると実は革新的なもの……というような方向性が私の考えです」と,自身の考え方を開陳する。
株式会社ポケモンという特殊性
ドラクエのプロデューサーである市村氏をして「凄い!」と言わしめるポケモンの売れ方について,石原氏は「やはりそこは,株式会社ポケモンがあるかどうかの差だと思う」とし,「我々は,ポケットモンスターというIPをどうすればいいのかを,日々考えているし,逆に言えばそれしかやっていない」と語る。
石原氏は,「派生商品を作るというのは,ややもすれば“キャラクターを消耗してしまう”というイメージがあります。なので,そうならないよう,できるだけキャラクターを強化するような形での商品開発/プロデュースを行う。そこが大事だと思っています。派生商品を作る事で,ポケモンというIPをより力強いものにする,という形でなければならない」のだという。
もちろん,ドラクエがそういう展開をしていないわけではない。六本木にオープンした「ルイーダの酒場」やサントリーと共に開発した清涼飲料「ドラゴンクエスト とろとろスライム」など,さまざまな取り組みに力を入れていたのはドラクエも同様だ。
しかし,市村氏は「それこそお弁当箱だとか,一つ一つの商品に対して,しっかりと考えながらプロデュースすることは並大抵のことではない」と延べ,ポケモンの持つ特殊性や凄さに感心していたのが興味深い。
ちなみに石原氏は,自分たちと似たような会社という意味で,「株式会社読売巨人軍」に一定の共通点を見いだしていたらしく,「巨人軍というブランドのことを常に考えて,未来の子供のために野球教室を開いたりなど,できることはなんでもやる。ゲーム業界では,なかなか我々に似たような会社さんは見あたらないので,こういうところに近い考えを持った方々がいるというのは,ちょっとした発見でした」と語っていた。
ポケモンに足りなかったもの?
それに対して市村氏は,「正直な話をすると,すれ違い通信の機能は,そんなに力を入れて作ったわけではありませんでした」としながらも,「ただ,ドラクエにおける昔ながらのコミュニケーションって,おまえどこまで進んだ?とかそういう部分。だから,そういう要素を踏まえたうえで,mixiでマイミクが増えていくような感覚を盛り込みたいと考えていました」と返答。
曰く,「最近いろいろ分析をして,ポケモンに足りなかったものを掴めたかなと考えています」と延べ,さらに「(ドラクエに負けないための)作戦はもう立ててあります」とコメント。
それには市村氏も苦笑いで答えていたが,石原氏が言うと,まったく冗談に聞こえないから困ったものである。実際,ただのサービストークという感じでもなかったので,9月18日に発売となる「ポケットモンスター ブラック・ホワイト」の通信機能では,何かしらの施策が盛り込まれている可能性は高そうだ。いずれにせよ,そうしたひたむきな姿勢が,ポケモンというブランドを下支えしているのも確かなのだろう。
当初からアニメ化を考えていたわけではなかった
石原氏はこの問いに対し,ポケモンでは,カードゲーム化だけは当初から考えられていたが,それ以外の展開についてはまったく未定だったのだと答える。そんな状態からアニメ化までこぎ着けるには,いろいろな苦労もあったようだが,それについては「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」を,いわば反面教師にしたのだと言う。その具体的な内容こそこの場では語られなかったが,「失礼な話ですが,ああならないようにアニメをプロデュースしようと,いろいろと勉強させて頂きました」と語った。
アニメ版「ポケットモンスター」は,結果として大成功を収め,今では毎年の恒例行事のように劇場版なども公開されているわけだが,プロジェクトとしてゲーム制作とアニメを連動させるのは至難の業のようで,曰く「ものすごく大変ですよ。結果としてつじつまがあっているように見えていますが,内部ではえらいことが起きていたりします。まぁそこは表に出しませんけど,どこかがコケるとみんながコケてしまうので,コケないようにすることが大切です。あるいはコケたときにすぐ立ち直れるよう,精神を鍛えておくのです(笑)」とのことであった。
「変わらない安心感」と「新しい面白さ」との狭間で
講演の最後で語られた,「変わらない安心感」と「新しい面白さ」というテーマも興味深い。
市村氏は,「今日,いろいろとお話を伺っていて,ドラクエとポケモンには,共通する部分があるなと思いました。それは,どちらにも“変わらない部分”がある,という点です。“変わらない勇気”を持っている点です」という。
ポケモンでいえば,最初に3匹のポケモンの中から一つを選ぶ行為だったり,ドラクエでいえば,独特の言い回しやお馴染みのファンファーレであったり。プレイヤーは,変わらない部分にある種の安心感を感じ,それがブランドへの信頼感やシンパシーを生み出す。しかしそれと同時に,プレイヤーは,ゲームに新しい面白さや新鮮な体験も求めるものだ。
そうしたジレンマに対して石原氏は,「変えない方がお客さんは安心します。一方で,新しい驚きや刺激が欲しいというお客さんもまた多いと思います。僕はどちらかといえば,破壊する(変えていく)ことをためらわない方です」とコメント。ただ,そのなかで,「刺激という点に関して,冒頭でも触れましたが,暴力的や表現や性的な表現,あるいはいたずらに射幸心を煽るような方向はどうかと思っています。最近はパチンコの代わりのようなゲームが増えているが,本当にその作り方でいいのかといつも考えている」と,近年流行しているオンラインゲームやソーシャルゲームへの批判にも見える発言が見受けられた。
それに対して市村氏は,「ただ,それは本能に刺さる要素でもある」としながら,「例えばカードゲームなどでも,悪い意味ではなく,ゲームをより楽しむためのスパイスとして射幸心が必要な場合がある。あるいは性的な表現にしても,ドラクエで言うと『ぱふぱふ』だとか,子供心にぷぷっと笑ってしまったり。そういうのは良いと思う」として,「非常に扱いが難しいところだが,バランスが大事なのでは」とコメント。「我々もポケモンに負けないように頑張ります」として,講演を締めくくった。
ともあれ,一人のプレイヤーとしては「ポケットモンスター」と「ドラゴンクエスト」という,日本を代表するこの二つの作品が,今後もより発展していくことを願うばかり。刻々と変化するゲーム市場のなかにあって,「変わらない安心感」と「新しい面白さ」の両立を,これらの作品には体現していってほしいものである。
- 関連タイトル:
ポケットモンスターブラック
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ポケットモンスターホワイト
- 関連タイトル:
ドラゴンクエストIX 星空の守り人
- 関連タイトル:
ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー2
- 関連タイトル:
ドラゴンクエスト モンスターバトルロードビクトリー
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ポケットモンスター・ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。
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