インタビュー
生活,生産──原点に戻ってMMORPGの面白さを追求しようとする「AILA Online」。開発者/プロダクトマネージャーインタビュー
今回,4Gamerでは,そんな本作の開発を担当する韓国sonov ゲーム開発研究チーム 企画室長 ペ・ユンス氏と,海外事業部 チーム長 イ・ジェウォン氏,そして運営のYNK Japan プロダクトマネージャー 荻原優希氏に話を聞いてみた。
「LIFE Online」「N.E.O Online」を経て,日本からのリクエストに応じて「AILA Online」へと変化
本日は,よろしくお願いします。AILA Onlineは,日本でのサービスが決まる前に,タイトルとコンセプトを変更した経緯がありますが,最初の企画がどのようなものであったのか教えてください。
ペ・ユンス氏(以下,ペ氏):
最初の企画では「LIFE Online」というタイトル名でした。まさに“生活”をテーマにした内容で,戦闘だけでなく生産に重点を置いたコンテンツの充実を図ったものでした。
4Gamer:
それはここ数年,韓国で流行しているMMORPGとは異なるスタイルだと思いますが,あえてそうした企画にしたのは,何か理由があるのでしょうか。
ペ氏:
最近のMMORPGを実際に遊んでいて,プレイヤーのクラスや種族といったものの存在が,プレイスタイルに制約をもたらしていると感じたからです。そういったMMORPGの多くは,クラスや種族によって能力が異なっており,各自の能力の範囲でやれることが決まっています。しかし,私や開発スタッフは,そういった傾向をあまり面白いと思わなかったのです。
イ・ジェウォン氏(以下,イ氏):
そうしたMMORPGは戦闘に特化していて,結局,狩りと対人戦に終始してしまいがちです。そこで,もっといろいろな楽しみ方のできるゲームにしたいと考えたわけです。
4Gamer:
なるほど。例えば黎明期のMMORPGは,プレイヤーに対するシステム的な制限が少なく,さまざまな方向性を持つコンテンツが1タイトルの中に混在していました。そのため,プレイヤーは各自のプレイスタイルを自由に築き上げることができましたよね。いわば,そういったMMORPGへの原点回帰を図ったような感じでしょうか。
ペ・ユンス氏 |
イ・ジェウォン氏 |
ペ氏:
そういうことです。私自身が,かつて「ウルティマ オンライン」「マビノギ」「リネージュ」「シールオンライン」をプレイして面白いと感じた部分をLIFE Onlineで再現しようと考えました。
4Gamer:
しかし,残念ながら韓国ではそうした意図は受け入れられなかった,と。
はい。お話ししてきた理想を掲げて開発に臨んだのですが……。一つには,韓国では完成度の低い段階でサービスインせざるを得なかったという事情がありました。またそのあとも,韓国のプレイヤーの嗜好に応じて,生活要素よりもPKや対人戦のようなコンテンツの実装に注力することになったのです。そこで「N.E.O Online」として再スタートすることになったときに,カオスバトルなどを追加しました。
4Gamer:
今回,日本でAILA Onlineとして展開するにあたり,再び生活要素がクローズアップされますよね。
ペ氏:
そうです。LIFE Onlineでは実現できなかった,“生活”“生産”の要素を充実させていきます。
4Gamer:
それは,日本市場を踏まえたYNK Japanさんからのリクエストでもあったわけですよね? その要望を聞いたとき,開発者としてどういう感想を持ちましたか。
ペ氏:
正直,複雑な気持ちでしたね。というのも運営の要望や指摘は,まさに私達がやろうと思って実現できなかった部分だったからです。開発者として至らなかったところを指摘されたようで恥ずかしく思う半面,もともと理想としていた内容ですから嬉しくもありました。よりよいゲームを皆さんに提供するという意味でも,頑張って開発していこうと考えています。
4Gamer:
実際,YNK Japanさんからのリクエストをどう受け止めましたか? 世界的にいえることですけれども,ゲームに求められる要素は各国それぞれ異なることが多いので,運営と開発で国が違うと見解の相違が生まれることもあるのではないかと思います。
YNK Japanさんは,とにかく要望や確認事項が多くて大変です(笑)。しかし,それだけの情熱を感じますし,また面白いアイデアも多いですね。新しいアイデアを提供すると,単にいい悪いではなく,「こういう形にすると,よりよくなるのではないか」というフィードバックが必ずありますし。
4Gamer:
そうした点について,何か具体的なエピソードを教えてください。
ペ氏:
例えばBGMですね。YNK Japanは,BGMのバリエーションを増やしたいとずっと提案してくれていたんです。実のところ私達はあまりBGMを重要視していなかったので,ちょっと面倒だとも思ったのですが,実際にやってみると予想以上にいい結果が得られたので驚きました。声優によるボイスも同じです。
あとは具体的とはいい難いのですが,最初は1行だったアイデアが,お互いのフィードバックを繰り返しているうちに一つの企画書になっていたというケースが結構あります。
4Gamer:
逆に,YNK Japanから見たsonovはどうでしょう?
荻原優希氏(以下,荻原氏):
こちらが出した意見に対するフィードバックが非常に早いですね。また,実現が難しい要望を出しているつもりなのですが,それを上回る内容の答えが返ってくるので嬉しい限りです。
4Gamer:
なるほど。お互いにいい関係を築いているわけですね。
調整中のハウジングシステムをはじめ,さまざまな新規コンテンツを鋭意開発中
4Gamer:
それでは,これから日本でAILA Onlineがどういった展開をしていくのか,概要を教えてください。
ペ氏:
2010年から2011年にかけては,各種コンテンツの追加はもちろんですが,プレイヤーにストレスを強いる部分を見つけ出し,解消していく予定です。そういった土台をきちんと組み上げていくことが大変重要であると考えています。
4Gamer:
追加されるコンテンツについて,もう少し詳しく教えてもらえますか。
ペ氏:
今の段階では,あまり具体的な話はできないのですが,コミュニティ関連ですね。大きなものではプレイヤー間のコミュニケーションを楽しくするものがあります。これは2010年内に実装したいのですが,正式な時期はまだ未定です。
荻原優希氏 |
もっといってしまうと,ハウジングシステムです。開発スタジオには,もう実際に家を建てることができるバージョンがあるんですよ。
ペ氏:
開発自体は,ほぼ終わっているのですが,不具合の洗い出しがまだ終わっていません。また,どうやったら皆さんに楽しく利用してもらえるかという部分にも,まだまだ検討の余地があるでしょう。
4Gamer:
なるほど,そうした検証に時間が必要であると。ただ,時期はともかく,ハウジングシステムを実装するのは決定しているんですよね?
ペ氏:
はい。プレイヤーが家を持つことができて,家具や装飾品を置いて飾りつけができます。また家は専用マップではなく,通常のフィールド上に建てることになります。
さらに同居するプレイヤーを設定することもできます。この場合,同居人は家主とまったく同じ権限を持ちます。
4Gamer:
それは,例えばギルドハウスのようなものになるのでしょうか。
ペ氏:
いえ,ギルドハウスはまた別です。ここで説明するプレイヤーの家はまったく別のものです。ただし,ギルドのメンバーやフレンドを同居人に設定できるので,ギルドハウスのように使うこともできますが。
4Gamer:
極端な話をすると,見ず知らずのプレイヤーを同居人に設定することもできてしまうわけですか。
ええ。やろうと思えば,「家を建てたから,同居人募集! 誰でも歓迎!」みたいなこともできてしまいます。今のところ,30人ほど同居できるようにしようかと考えています。今,お話しできる内容はこのくらいですね。
4Gamer:
より具体的なお話を聞ける日を楽しみにしています。そのほか,コミュニティを強化する要素はありますか?
ペ氏:
いろいろ企画していますが,確定しているのはパーティマッチング機能です。これは,パーティが何を目的としてどんなメンバーを募集しているのか,あるいはどこにいるのかといった情報を確認できるものです。
4Gamer:
なるほど。それは,表示されている情報をクリックするだけで,パーティに参加できるようなものでしょうか。
ペ氏:
もちろん,そういったアイデアも出ていますが,どんな仕様にすれば皆さんに喜んでもらえるか検討している段階なんです。
4Gamer:
お話を聞いていると,新コンテンツの実装にかなり慎重になっている感じを受けます。
荻原氏:
そうなんです。面白そうな企画がたくさんあって,実際に開発しているものもあるんですが……。
ペ氏:
いろいろ試しているのですが,面白いだろうと思って開発を始めたものでも,プレイヤーとして遊んだときに面白いとは限りません。そういったものを今の開発段階で詳しくお話してしまうと,実装を約束してしまうことになってしまいかねないので,詳しくお話できないのです。
荻原氏:
結構,変なコンテンツを作っていますよ。作った時点では皆で「面白い!」とテストプレイしたんだけど,翌週になって「やっぱり使いにくいから実装はやめた」みたいなものもたくさんあります。それを捨ててしまうのはもったいないので,インゲームイベントに再利用できないか,という案を運営から提案しているところなんです。
4Gamer:
そうした試行錯誤を経て,実装されたコンテンツについていくつか教えてください。まずは「カオスタイム」ですが,これはどういった狙いがあって企画したのですか。
MMORPGの中で変化するのは何かということを考えていたときに,変化しているのはプレイヤーだけだということに気がついたのです。プレイヤーがどんなに強くなっても,ゲーム内の世界には変化がありません。これがRTSなら,時間の経過とともに技術が発展して,文明が進化していきますよね。そこで,世界の変化をMMORPGで少しでも再現できないか,と考えて企画したのがカオスタイムなんです。
4Gamer:
モンスターを討伐していった結果が,世界に変化をもたらすというわけですか。
ペ氏:
はい。モンスターを倒すことで「カオスゲージ」が溜まり,それが限界に達すると世界にカオスが訪れるという設定なんです。カオスの中では,モンスターが強くなったりするなど,プレイヤーに困難を強いるんです。仕様の都合で,私の思い描いていたものと少し違う形になってしまったのが残念なところですけれども。
4Gamer:
「SDモード」はどうでしょう? 失礼ですが,個人的には誰のためにこのモードがあるのだろうか,と思ってしまうんですよ。
ペ氏:
実は,プログラマが数値の設定を間違えて入力してしまったことがきっかけなんです。顔だけが大きく表示されて「何だ,これは」「キモい」と,開発でもちょっとした話題になりました。しかし,それを妙に気に入ったスタッフがいて,何とかゲーム内で使えないかと考えた結果がSDモードになりました。
当初は,エモーション時に顔だけ大きく表示される形で採用されていたんです。確かに表情の変化は読み取りやすくなるのですが,日本ではどう考えても受け入れられないですから,止めておきましょうと運営側で提案しました。しかし,ただ削除してしまうのはもったいない,オプションで切り替えられるようにしておけば,SDモードを使った本人しか見えないからいいだろうという議論の落としどころが現状なんです。SDモードは,プレイヤー各自の環境に適用されるものですから。
4Gamer:
なるほど。あえてSDモードにしない限り,プレイヤーはあの巨大な顔を見ることはないわけですね。
ペ氏:
ええ。SDモードに関しては,開発側でも「くだらない,何の役にも立たないから止めよう」という意見がありました。しかし,楽しいと思う人がいたのも事実ですので,誰にも迷惑をかけない形で実装しましょう,と。もちろん,多くの皆さんを喜ばせるのが開発の本流ではありますが,面白いと思ってくださる少数の皆さんのためのコンテンツも実装していくスタンスを取っています。
また,AILA Online自体,さまざまなコンテンツの追加が簡単にできるようになっています。そこで,プレイヤーの皆さんからアイデアを募集する企画を実施します。いいアイデアを思いついたら,ぜひ応募してください。
4Gamer:
それでは最後に,4Gamerの読者に向けてメッセージをお願いします。
ペ氏:
日本のプレイヤーの皆さんから面白いアイデアをいただいて,AILA Onlineをどんどん魅力的な内容にしていきたいと考えています。ぜひプレイした感想や,ご意見をお聞かせください。
イ氏:
弊社はいくつのも開発チームを抱えていますが,その中でもAILA Onlineのスタッフはかなりオープンマインドです。国外のパブリッシャからの要望や意見に対しても,非常に積極的に取り組んでいます。期待してください。
荻原氏:
YNK Japanは,運営のクオリティを高めていくことを目標にしています。その中で,皆さんから寄せられた要望をきちんと開発に届け,しっかりとゲームに反映されるよう努めていきたいと考えています。
4Gamer:
ありがとうございました。
ペ氏は,昔からさまざまなジャンルのゲームを遊んでおり,日本産タイトルでは「ゼルダの伝説」シリーズが大好きとのこと。その理由は,プレイしているうちにいつの間にかゲームの世界に深く入り込んでおり,ただゲームを遊んでいるのではなく,まるで実際にそこで生活しているかのような感覚になるからだという。
インタビューでも触られている通り,ペ氏は「流行のMMORPGとはこういうもの」「人気の高いコンテンツはこれ」という考え方ではなく,生活感の実現を重視してLIFE Onlineを企画した。今回,日本からのリクエストによってAILA Onlineとなるにあたり,その生活感をさらにパワーアップしたという。韓国とはまったく異なる方向へと変化したゲームが,日本人ゲーマーにどのように受け止められるのか,今後の動向に注目したい。
「AILA Online」公式サイト
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