レビュー
合戦を繰り返して戦国の日本を統一せよ。しなくてもいいけど。という異色のストラテジー。
戦ノ国〜もののふ絵巻〜
「戦ノ国〜もののふ絵巻〜」(以下,戦ノ国)は,1550年から1600年までの日本,つまり戦国時代における諸勢力の群雄割拠と統一への道のりを題材としたストラテジーだ。プレイヤーは一人の戦国大名となり,戦乱の日本に秩序を取り戻すことを目標にゲームを進めていく。
ゲームシステムは完全なターン制となっており,リアルタイムの要素は存在しない。ゲームシステムはかなりシンプルに仕上がっており,1回のプレイ時間は10時間程度が想定されているようだ。
フルマウスでオペレーションが可能で,ウィンドウモードで稼動させてもゲームは安定している。Netbookのように上下に狭い画面でもスクロールすることなくゲームの全画面が入るようになっており,手軽なプレイにはもってこいといえるだろう。
「戦ノ国〜もののふ絵巻〜」公式サイト
1ターン1か月のサクサク進行
戦ノ国の1ターンは1か月であり,ゲーム全体は50年間の物語なので,都合600ターンでゲームは終了することになる。もちろん,目標である「天下統一」を果たしてもゲームは終結する(この,天下統一という条件には本作の独自性が潜んでいるのだが,これは後ほど詳述したい)。
また,3ターンに1回,季節の変わり目ごとに政治フェイズが発生し,ここでのみ内政の方針変更や配下武将への論功行賞,外交などが行える。
戦闘は,「合戦を行う」と決めたターンの最後に行われる。戦闘そのものはいたってシンプルで,プレイヤーが介入できることはあまり存在しない。
国家の行く末を決める政治フェイズ
内政は,「農業」「商業」「鉱山」のどの分野を発展させていくかに影響する。それぞれの項目に,このまま推移させた場合の成長可能性が矢印で表示されるので,それを参考にしつつ適宜数値のバランスを取ることになる。
外交では,同盟と臣従,およびそれらの破棄が可能だ。おそらく,本作において最も重要なコマンドである。同盟と臣従の違いについてだが,同盟は対等な関係,臣従は文字どおり「家来とする」ことだ。同盟国よりも臣従国のほうがこちらに協力的だが,臣従国といえど「一国一城の主」であることに違いはなく,臣従国の軍隊を勝手に使って戦争をしたりといったことはできない――あくまで,戦時において援軍を要請するのが限界である。
官吏では,天皇家や将軍家に官位,官職を求められる。ゲーム的,即物的な効果の実感にはいまひとつ乏しいものの,あくまで筆者の感じた範囲で言えば,外交交渉の成功率に影響しているような気がする。
知行は,配下の武将に国を与えたり,取りあげたりするコマンドで,この場合の配下には臣従大名も含まれる。つまり,本作ではいわゆる「国替え」が可能というわけだ(当然だが,同盟相手を国替えすることはできない)。
また,知行によって配下の武将を大名に取り立てることもできる。この場合,その武将は譜代大名となり,以後彼が支配する領地の運営はAIに委任される。本作において,2番目に重要なコマンドである。
俸禄では,配下の武将の給与を設定できる。給与に応じて兵数の上限が決定されるので,軍拡はこのコマンドで行うと理解してもさほど間違いではないだろう。懐かしの「天下統一」と異なり俸禄は下げることも可能だが,忠誠心を著しく損ねるため,ある程度の覚悟は必要になる。繰り返しになるが,このコマンドでしか指揮兵数を増やせないということを理解しておくことは,非常に重要である。
国家のマイクロマネジメントを行う戦略フェイズ
戦略フェイズでは,「城」「移動」「侵攻」「統治」を選択できる。これらはそれぞれ領地(あえていわせていただくと,「プロヴィンス」)単位で行うが,某ゲームのように「実行したい領地をクリック→コマンドを選択」ではなく,「コマンドを選択→実行したい領地をクリック」であることに注意したい(注意しなくてはならないのは,限られた人だろうとは思うが……)。
城では,その領地にある城の拡張ができる。城が大きくて悪いことなどまったくないので,財政的に余裕があれば城の拡張は行っておきたい。もちろん,どう考えても前線になりそうにない領地であれば無視して構わないが。
移動では,配下の武将を動かすことが可能だ。もちろん,無制限に遠くまで移動できるわけではなく,距離によっては1ターンでは動ききれないこともある。また,移動コマンドで同盟相手の領土を通過することはできないが,臣従相手であれば通過可能になっている。
侵攻は,文字どおり他国へ攻撃を仕掛けるコマンドで,前述したように,これによる合戦はターンの最後に発生する。
統治は,本作における「地味な内政」をひとまとめにしたコマンドで,これによって国内の治安度を向上させられる。治安度はその領地を経営する効率に影響し,なによりも徴兵の効率が高くなり兵を増やしやすくなるので,資金に余裕があれば必ず実行しておきたいところだ。統治を行うと若干の兵が犠牲になるが,投資以上の効果は必ず得られるはずだ。
合戦,それは戦国の華?
本作において,合戦はほぼ最終手段である。対等の勝負になりそうな相手との合戦など,下策中の下策で,合戦をしていい相手とは,自分よりも圧倒的に弱い相手のみである。
自分より弱い相手であれば,野戦はほぼ発生せず,敵軍はすぐに篭城して,あとはそれをゆっくりと締め上げるだけで済む。場合によっては事前の調略が功を奏することもあるだろう。
合戦を下策とする理由は,本作では兵の損耗を回復させることが非常に難しいからだ。何度も大いくさを繰り返して兵を消耗してしまうと,ちょっとばかり領地が広いだけの張子の虎ができあがる。合戦,とくに兵士をすり減らす野戦は,ここ一番でしか行うべきではないのだ。
自国の領土がある程度まで広がれば,以前は臣従を拒んだ大名も,臣従の誘いに乗ってくるようになる。これによって,他国を臣従させる可能性はさらに高まる。
このように,戦わずして勝つことをよしとする戦の国においては,他国との戦争はゲーム全体を通じて2回――外交的な優位を得るための最初のジャンプと,最後まで自分に歯向かう勢力を討伐する「戦争を終わらせるための戦争」に留めるのが理想なのだ。
多様なエンディングと巧みな勝利条件
エンディングの多彩さは,本作の大きな特徴の1つだ。ゲームを途中で「投了」することができ,それによって相応しいエンディングが年表として示されるというギミックは,従来のストラテジーゲームでは滅多に見られなかったものだ。
エンディングでは,戦国時代が終わったそのあとまでも語られていき,倒幕運動の帰趨や,そこで活躍する大名などが,ゲームのプレイ具合に応じて自動的に生成される仕掛け。中には非常にマニアックな逸話が挟まれるエンディングもあり,日本史マニアであればニヤリとできる展開も多そうだ。
このエンディング年表を根底で支えるのは,「天下統一」だけが終了条件ではないという,勝利条件の設定である。本作において,勝利には主に3つの可能性がある。従来の戦国ゲームのように地図の色塗りを主眼とすることで成立する「江戸幕府型」,同盟大名,臣従大名との連合政権として成立する「豊臣在京政権型」,そして親幕勢力のボスとなる「室町幕府推戴型」である。
「日本地図を俺色に染めることがゲームの目的」ではないというのは,本作の可能性を大いに高めている。実際,史実においてまず成立したのは江戸幕府ではなく,豊臣政権なのだ。これがゲーム内で自然に実現しうる(しかも特殊な操作を必要としない)というのは,歴史マニアにとって十分に評価できる点だ。
美点を覆い隠す問題点
さて,ここまで本作の美点を語ってきたが,残念ながら本作はこれらの美点を覆い隠すほどの問題を孕んでもいる。
最大の問題はインタフェースだ。例えば「統治」コマンドだが,領地1つに対して実行するコマンドでありながら,実際には
(1)統治コマンドをクリック
(2)縮小版の日本地図が表示されるので,コマンドを実行したい領地を選ぶ
(3)統治コマンドを実行する武将を選ぶ
(4)コストを支払って実行。実行結果を確認
これを,全領地に対して行うことになる(あるいは「治安専用部隊」を巡回させながら行っていく)。確認ウィンドウはマウスクリックでしか閉じることができず,見た目の簡易さに比較して意外と作業量が多い。
しかも,コマンドを実行し終えると,再び拡大マップに戻るため,ほかの領地に対して統治を実行したいなら,また統治コマンドをクリックし,地図が切り替わり,その地図で領地を選び……という作業をひたすら繰り返すことになる。
合戦にもまた問題がある。合戦が始まるとターンは1日刻みで進行するが,各ターンの攻撃を実行すると,一定時間強制的に待たされるのだ。これはかなりイライラする。それこそ「了解」ダイアログが出てでもいいから,クリック連打で先に進んでくれると話が早いだろう。とくに,明らかに勝ちが決まっている包囲戦のときなど,イライラ度が高まるのだ。
ちなみに,合戦にはもうひとつ不思議なUIがあり,なぜか合戦だけは通常マップにポップアップする武将窓から出撃する武将を選び,攻撃を実行できる。これができるのであれば,なぜ統治ではできなかったのだろうと思ってしまうのも仕方ないだろう。
また,臣従大名,同盟大名の領地に踏みとどまれないことにより,それらの大名で自国周辺を固めてしまうと,敵国への進撃路が封鎖されるという問題が起きる。この状況を打破する手段は2つあり,
(1)臣従,同盟関係を破棄し,進撃路を確保する
(2)臣従大名であれば「国替え」で進撃路を確保する
いずれにしても,「邪魔だから潰す」という方法論であることには違いはない。ゲーム的な合戦(大軍による野戦につぐ野戦)を防ごうとして,ゲーム的な合戦(邪魔になった配下の小国を裏切って潰す)が発生してしまうわけだ。
折角のテンポの良いゲーム展開が問題のあるUIと待ち時間の長い合戦によって阻害され,外交を重視したゲーム展開がゲームの仕様によって「不都合な戦争」を発生させる。現状では,残念ながらゲームの美点が欠点を上回っているとは言いづらい。
外交が面白い戦国ゲームとして
しかし,だからといって戦ノ国がつまらないかと聞かれれば,各種のゲームギミックを理解するにつれ確実に面白くなってくるゲームであるとは言える。臣従大名領が通過できないという問題にしても,最悪,国替え2回である程度まで平穏に解消することも可能だ。
また,ゲームのテンポそのものは,かなり良い。1ゲーム約10時間ということだったが,実際にはそこまで必要としない。合戦で待たされることさえなければ,また,ひたすら統治コマンドを実行し続ける時間がカットできれば,体感的にもっと短く感じるはずだ。
実際のところ,筆者は本作のインタフェースには不満を持っているが,それでも「次は別の大名家で遊んでみよう」と思うくらいには楽しんでいる。ゲームのギミックはシンプルとはいえ,軍事と経済のバランスを取るのは結構難しく,破綻すると本当に取り返しがつかないというシビアさも,プレイ時間の短さを考えれば決して悪くない(最初はいったい何が起こったのか分からないまま経済破綻して,呆然とするかもしれないが,その手の呆然が怖くてストラテジーゲームはできない)。
まずは,背後の安定した大名(島津家や上杉家)でプレイして,ルールやバランスを把握したところで織田家などに挑んでみるといいだろう。将来的な裏切りまで計算に入れた外交が,ゲームとしてちゃんと機能するのはとても面白い。
上杉家でのプレイ風景。ほとんど外交だけでここまで押し切ってきた。残るは毛利と九州勢。徳川,今川連合軍は同盟軍が押さえ込んでいる |
毛利家への侵攻開始。いざ戦ってみたら,毛利は張り子の虎になっていた。むしろ難しいのは,財政破綻を起こさないためのバランス感覚 |
ただ,パラドが10年間を耐え得たのは,ユーザーによる精力的なMOD提供という背景があってのことであり,熱狂的なユーザーを獲得し得たのは,「ゲームとしての常識よりも,自分たちの抱いている歴史解釈を優先する」という思い切りがあればこそだった。
戦ノ国のMODを制作するのは容易ではないだろうし,そもそも,上記の問題点はデータ部分を充足させること(追加データは,最も簡単なMODだ)では解決できない。むしろデータについていうなら,戦ノ国は相当充実していると思われる。
また,戦ノ国では,いかにも日本の作品らしく,「ちゃんとしたゲームにしよう」という真摯な努力があちこちに見て取れる。それだけにパラド的な自己主張は少なく,市場に埋もれてしまう可能性がある。
幸い,前作「空母決戦Ver2.0〜日本機動部隊の戦い〜」のことを考えると,パッチのリリースには期待できそうだ。問題のあるインタフェース部分を改善するだけでも,本作の評価は大きく変化するに違いない。少なくとも,勝利条件設定や外交の面白さなどにおいて本作には十分見るべきものがあるのは間違いなく,今後の発展を楽しみにしたい。
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