レビュー
日本市場再上陸を果たしたブランドの上位製品を試す
Cyber Snipa Silencer Mouse
メカニカルタッチを好むゲーマーから支持を集めるキーボード製品「Majestouch」など,「FILCO」ブランドのPC周辺機器で知られるメーカー兼販社のダイヤテックが,そんなCyber Snipaの国内販売代理店として名乗りを上げたのは2009年12月のこと。並行輸入版でしか入手できなかった頃と比べると,取り扱い店舗数も目に見えて増えている。ダイヤテックによる奇抜な紹介文が,PCゲーマーの間で話題になるほどには。
「奇抜?」と思ったかもしれないが,そう,奇抜である。ダイヤテックは,取り扱い製品ごとに製品紹介ページを設けており,今回取り上げる「Cyber Snipa Silencer Mouse」(国内製品名:Cyber Snipa Silencer Laser Mouse,以下 Silencer)にも用意されているのだが,そこにある紹介文は,下記のとおりの案配なのだ。
「漆黒のカルマ:“Silencer”……通称「The Quietness Genocide」
5000dpiという暴力的なまでの精度を持つセンサーと,最大63モードのマクロを登録可能という異能力を宿した故,戦場では多くの敵を死に至らしめ,終わりの始まりを告げる烙印者。
臓腑に塗れたその姿は敵からは恐れられ,味方からは疎まれる。漆黒のカルマを背負うSilencer。
神よ我に祝福を,我に仇なす敵に死を。神とは?……我とは?
SILENCERを持つ者にだけに神である資格と権限が与えられる。
ええと,何かの決めゼリフでしょうかと,思わず下手に出てしまいそうになる文章だが,もちろん,Cyber Snipaの英語版公式サイトに,漆黒のカルマとか,そういった文言は一切ない。おそらく,ダイヤテック担当者がノリノリで書いたのだと思われるが,ぜひこれからも突き抜けていっていただきたいと思う。
右手用で,右サイドのラバーグリップが交換可能
つかみ心地,操作性ともにかなりよい
Cyber Snipaというブランドが国内市場に復活した経緯をまとめるつもりが,脇道に逸れて行数を使ってしまったが,冷静になって,Silencerというマウスをチェックしていこう。
必要性については賛否あるが,錘(おもり)による重量調整機構を備えており,交換式グリップパーツを外すことでカートリッジへアクセスできるようになっているのも,ゲーマー向けマウスらしいといえばらしい。
段々タイプ装着時 |
シンプルタイプ装着時 |
一方,シンプルタイプのグリップは,段々タイプと比べてクセが少なく,他社製品から乗り換える場合に違和感を覚えないのはこちらだろうと思われたのだが,実際に使い比べてみると,FPSにおける操作性では,段々グリップのほうがはるかに優れている。むしろ,シンプルタイプを目的にするなら,Silencerを選ぶ必要はなく,他社製品で十分ではないか。そう思えるほど,段々タイプの操作性は独特かつ好印象である。
いかにもゲーマー向けマウスらしい大きめサイズだが,ただ,大きさからすると意外なことに,「かぶせ持ち」よりも「つまみ持ち」「つかみ持ち」のほうが操作しやすい。というか,最も背の高い部分が本体の中央よりも前側(=ケーブル側)にあるため,手のひらをかぶせること自体が難しく,相当深めに握っても,手のひらは浮くことになる。結果として,かぶせ持ちしようとすると,深い位置でつまみ持ちするような格好になるのだ。
特徴的なのは,この窪みに設けられたカーブがかなりきつく,左サイドボタンの真下あたりを押さえようとすると,親指が所在なさげな感じになること。筆者が試した限り,かなり奥側,トラッキング解像度インジケータLED(※詳細は後述するが,右の写真で青く三つ光っている部分)の手前あたりに指先を当て,親指の関節を曲げた状態で操作するのが,最も操作しやすかった。
両サイドに指を引っかけるための窪みや段差が設けられているので,持ち上げるときには数字ほどの重さを感じないが,30分ほど集中してゲームをプレイしていると,疲労を感じ始める程度には重量感がある。低センシティビティでぶんぶん振り回すプレイスタイルだときつそうだ。
ボタンの質は他社製品と遜色なし
カスタマイズ周りは“使えない”可能性大
スクロールホイールよりも本体中央寄りのところに二つ並んでいるのが[Mode][Lift]の両ボタン,写真で左サイドボタンの右下に見えるのが,シーソー的に動作するトラッキング解像度変更ボタンだ |
上下スクロールは,ノッチが少し緩い印象は受けるものの,おおむね許容範囲内。ホイールクリックは若干柔らかめで,ごくわずかにストロークがある |
このうち,ゲームで主に使うことになるメインボタンとサイドボタン,ホイールの操作感は,他社製のゲーマー向けマウスとまったく遜色ないレベルだ。マイクロスイッチ的な,カチカチしたクリック感のメインボタンはもちろん,サイドボタンも高い品質にまとまっている。
気になったのは,本体をホールドするとき,親指が左サイドボタンに被さるため,左右に振った勢いで,前側(=ケーブル側)のボタンを押し込んでしまいがちな点や,センタークリック時に,チルトを誤って入力してしまいやすい点など,意図に反して反応しかねないボタンがあることくらい。これらは,他社製品でも割とよく見られるうえ,筆者のように,サイドボタンやチルトにクリティカルな機能を割り当てるのを嫌うゲーマーからすると,それほど問題ではなかったりもするので,目くじらを立てるほどではないだろう。
専用のドライバソフトウェアをインストールすると,トラッキング解像度は100〜5000DPIの範囲から,100刻みで最大四つを割り当て可能。割り当てた解像度設定の段階は,左メインボタン脇のLEDインジケータから確認できる。
ドライバソフトウェアから,トラッキング解像度の選択肢4パターンを設定するメニュー。X軸Y軸を単独で設定できる |
設定内容は,左メインボタン脇(※写真では左)に用意された4連の青色LEDインジケータから確認可能だ |
割り当ての組み合わせは最大9パターンを登録できるようになっており,[Mode]ボタンを押すごとにプロファイル1→プロファイル2→プロファイル3→……プロファイル7→プロファイル1といった具合で,順繰りに切り替えながら使うことになる。トラッキング解像度インジケータ脇の丸いLEDが何色で発光するかによって,「いまどのプロファイルを使っているか」は判断できるようになってはいるのだが,正直,七つを順繰りに切り替えるというのは少々面倒くさい。
さてこのトラッキング解像度とプロファイル周りだが,面白いのは,
- トラッキング解像度の4段階は,一度設定すると,(ドライバソフトウェアがインストールされていない)別のPCに持って行っても,その設定で利用できる
- プロファイルにかかわらず,トラッキング解像度設定は共通
- プロファイルの設定内容は,基本的に別のマシンへは持ち越せない(※ファイルで書き出し,移動先でインポートするという手間をかければ可能)
こと。筆者が調べた限り,Silencerのスペック表,そしてマニュアルには,設定内容をマウス本体に保存するためのフラッシュメモリを搭載するとは書かれていないのだが,トラッキング解像度設定だけは,Silencer本体側でハードウェア的に設定を切り替えるようになっているようだ。
なお,以上の説明で想像が付くように,マクロはいわゆるソフトウェアマクロ。機能的には,単発実行のほか,押している間入力を繰り返すループモード,一度押してから,次に押すまで入力を繰り返すファイアキーモードと,マクロ設定でおなじみのものが一通り揃っているのだが,ソフトウェア(≒ドライバ)ベースなので,オンラインゲームだと規約やアンチチートツールとバッティングする可能性があるなど,相性はよろしくない。ゲームでは利用できない機能だと思っていたほうが安全だ。
センサー性能は残念ながら今ひとつ
リフトオフディスタンス自動調整機能が原因か?
これは,最近,一部のゲーマー向けマウスで実装が始まっているもので,Silencerが初採用というわけではない。調整方法は,サーフェスを自動認識するフルオートだったり,設定ツール上のスライダーを動かして手動設定したりと製品によってまちまちだが,Silencerが採用しているのは,本体側に用意された[Lift]ボタンを押すことによる半自動の最適化である。
Silencerが搭載するレーザーセンサーのカタログスペックは,トラッキング速度最大150IPS(※公式サイトより。ただし製品ボックスには65IPSとの表記がある),フレームレート7200fps,レポートレート1000Hz。他社のハイエンドモデルと比肩するものを有する本製品について,今回は,リフトオフディスタンスの自動調整機能を活用しつつ,複数のマウスパッドで動作をチェックすることにした。
テストに用いたPCシステムは表1のとおりだ。
そして,詳細なテスト条件は下記のとおりとなる。
●Silencerの基本設定
- ドライババージョン:2.03
- トラッキング解像度設定:5000DPI
- ポーリングレート:1000Hz(※選択肢がなく,1000Hz以外には変更不可)
- Windows側設定「マウスのプロパティ」内「速度」スライダー:中央
- Windows側設定「ポインタの精度を高める」:オフ
●テスト方法
- ゲームを起動し,アイテムや壁の端など,目印となる点に照準を合わせる
- マウスパッドの左端にマウスを置く
- 右方向へ30cmほど,思いっきり腕を振って動かす「高速動作」,軽く一振りする感じである程度速く動かす「中速動作」,2秒程度かけてゆっくり動かす「低速動作」の3パターンでマウスを振る
- 振り切ったら,なるべくゆっくり,2.の位置に戻るようマウスを動かす
- 照準が1.の位置に戻れば正常と判断可能。一方,左にズレたらネガティブアクセル,右にズレたら加速が発生すると判定できる
テストに用いたゲームタイトルは「Warsow 0.5」。本テストにおいて,ゲーム内の「Sensitivity」設定は,「180度ターンするのに,マウスを約30cm移動させる必要がある」0.2(5000DPI)に設定した。マウスに厳しい条件を設定し,読み取り異常の発生を分かりやすくさせているわけだ。
なお,上に示した「Silencerの基本設定」でも断っているように,Silencerには,レポートレートを1000Hzから別の値に変更する方法が用意されていなかった。筆者のマウスレビューでは通常,500Hz設定を行っているが,今回はそういった事情により,1000Hz設定でのテストになることをあらかじめお断りしておきたい。
というわけで,結果は表2のとおりとなる。
一目瞭然なのだが,カタログスペックからすると信じられないくらい悪い結果が出てしまった。今回のテストに当たっては,ダイヤテックから入手した貸出機とは別に,秋葉原のPCショップ店頭で購入した個体も用いているのだが,結果は同じである。
マウスのソールを重ね貼りするなどして,センサーとサーフェスの距離が長くなった場合,一般にセンサーの追従性は落ちる。また,手動でリフトオフディスタンスを調整できる他社製品の場合,設定値を極端に小さくすると,今回の表で示したような結果になったことがあるので,Silencerが持つ,自動設定機能がシビア過ぎるという可能性はある※。もちろん,「センサーの実性能がその程度」という,身も蓋もない可能性も捨てきれない。
※筆者の調整方法が不完全だった可能性もあるが,マニュアルや日本語サポートページの表記に従い,サーフェスごとに何度か設定し直したうえで,これといって挙動に改善が見られないことを確認している。
個性的な“段々グリップ”が魅力的なだけに
センサー周りの完成度不足が悔やまれる
センサーの挙動に関して何らかの対策を施す余地はあるはず。個人的に,このままで終わらせるには惜しいという印象を,Silencerの形状からは強く受けたので,Cyber Sport(=Cyber Snipa)には,どうにかなるのなら,ぜひどうにかしてほしいと思う。
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