レビュー
世界最速シングルカードの座を奪還する2連GPU仕様の長砲身砲
ATI Radeon HD 5970リファレンスカード
» AMDのスイートスポット戦略によって登場した,ATI Radeon HD 5000シリーズの最上位モデルとなるデュアルGPUソリューション。いわゆるパフォーマンスクラウンをNVIDIAから奪い返すのは確実だが,実のところどれだけ速いのか? 宮崎真一氏によるレビューをお届けしたい。
ニュース記事でお伝えしているとおり,従来製品でデュアルGPUソリューションであることを示していた「X2」の表記を止め,ATI Radeon HD 5800(以下,HD 5800)シリーズの上位製品であることを示すモデルナンバーを採用してきた新製品。HD 5800シリーズの最上位製品「ATI Radeon HD 5870」(以下,HD 5870)のパフォーマンスを見る限り,HD 5970が世界最速グラフィックスカードの座を奪還するのはまず間違いないが,果たして,「GeForce GTX 295」(以下,GTX 295)に,どれだけの差を付けられるだろうか?
AMDの日本法人である日本AMDから借用したリファレンスカードを使って,その実力を明らかにしてみたい。
堂々300mm超えの“最長カード”に
1600SP仕様のGPUを2基搭載
Stream Processor数が1600基×2という構成からも分かるように,基本的にはHD 5870相当のGPUを2基搭載した製品ということになる。
一方で,GPUやグラフィックスメモリの動作クロックが「ATI Radeon HD 5850」(以下,HD 5850)相当に抑えられているのは,最大消費電力を300Wの枠内に留め,6ピン+8ピン仕様PCI Express外部電源コネクタでまかなえるようにするためだろう。
もちろん,自作PC市場向けに投入されている近年のグラフィックスカードの中では最長クラス。HD 5870がなんとか収まる,というレベルのPCケースでは取り付けられない可能性が高く,相当にPCケースを選ぶシロモノであることに疑いの余地はない。
リファレンスデザインのHD 5870と並べてみた。奥がHD 5970だが,カードはHD 5870よりさらに長くなっている。なお重量は実測で1215gだった |
こちらは外部出力インタフェースを比較した写真。左がHD 5970で,DVI-I×2,Mini DisplayPort×1で,最大3画面出力に対応する |
補強板を兼ねると思われるカード背面のメモリチップ用ヒートスプレッダ,そしてGPUクーラーというい順で取り外していくと,2基のGPUを搭載した基板が姿を見せる。
メモリチップは基板の両面に4枚ずつ,計8枚が1基のGPUに接続され,GPU 1基当たりの容量1GBを実現。そのメモリチップは,Hynix Semiconductor製のGDDR5「H5GQ1H24AFR-T2C」(0.4ns品)となっていた。「ATI Catalyst Control Center」(以下,CCC)から確認すると,コアクロックが725MHz,メモリクロックが4GHz相当(実クロック1GHz相当)なので,メモリチップのスペック的には,1GHz相当(実クロック250MHz)という,比較的大きなマージンが設けられている計算になる。
なお,省電力機能「ATI PowerPlay」により,低負荷時にはコアクロックが157MHz,メモリクロックが1.2GHz(実クロック300MHz)まで低下するが,このあたりはHD 5870と同じだ。
もちろん,オーバークロック設定は自己責任であり,動作は一切保証されないが,最上位モデルでオーバークロック制限を緩くするというのは,CPUの「Black Edition」に通じるものがあり,面白い。
HD 5870やHD 5850のCFX構成,GTX 295と比較
ドライバはATI Catalyst 9.11βを利用
今回のテスト環境は表2に示したとおりだ。基本的に,HD 5870やHD 5850のレビュー時から構成は変えていないが,ATI Radeonのテストに用いたドライバソフトウェアは,「ATI Catalyst 9.11」(以下,Catalyst 9.11)のβ版という位置づけのレビュワー向けバージョン,「8.663.1-091105a-091227E」となる。
Catalyst 9.11の紹介記事でも紹介されているとおり,今回の2009年11月版ATI Catalystでは,日本語版「バイオハザード5」でパフォーマンスが上がらない問題が解決を見ているのが大きなポイントだ。「ATI Radeon HD 5770&5750」のレビュー記事など,ここ何回か4Gamerでは,この問題を理由に,英語版の公式ベンチマークアプリケーションを用いていたが,今回から再び国内版を用いるので,お断りしておきたい。
表で示したように,比較対象としては,Stream Processor数が1600基×2でHD 5970と揃うHD 5870のATI CrossFireX(以下,CFX)構成,そして,動作クロックがコア725MHz,メモリ4GHz相当で揃うHD 5850のCFX構成を用意した。マスター(=プライマリ)として用いるのはAMDのリファレンスカードとし,ASUSTeK Computerから貸し出しを受けたHD 5870カード「EAH5870/G/2DIS/1GD5」と,4Gamerで独自に用意したSapphire Technology製HD 5850カード「SAPPHIRE HD 5850 1G GDDR5 PCI-E DUAL DVI-I/HDMI/DP」は,いずれもスレーブ(=セカンダリ)カードとして用いる。
また,これまで最速のシングルカードとして君臨していたGTX 295デュアルGPUソリューションとの比較も,もちろん行う。
EAH5870/G/2DIS/1GD5 動作電圧カスタマイズ対応のHD 5870 メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:4万5000〜4万8000円(※2009年11月18日現在) |
ENGTX295/2DI/1792MD3 “2階建て”仕様のデュアルGPUカード メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 販売終了(※2009年11月18日現在) |
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション8.3準拠。CFX構成の真価は高解像度環境でこそ発揮されるため,解像度は1680×1050/1920×1200/2560×1600ドットの3パターンに絞っている。
また,CPUボトルネックの発生を極力防ぐよう,CPUには「Core i7-975 Extreme Edition/3.33GHz」を利用。GPUによって「Intel Turbo Boost Technology」の影響が異なるのを避けるため,同機能を無効化した。
HD 5850 CFX相当のパフォーマンスを発揮
“25x16”でGTX 295より最大38%速い
「3DMark06」(Build 1.1.0)の結果から見ていこう。グラフ1,2は,総合スコア「3DMarks」をまとめたものになる。
アンチエイリアシング,テクスチャフィルタリングをともに無効化した「標準設定」だと,ハイエンドGPUには“荷が軽すぎ”てしまい,数値はほぼ横並びになってしまった。そこで,4xアンチエイリアシングと16x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」を見てみると,HD 5970のスコアは,HD 5850 CFXとほぼ同じ。揃ってHD 5870 CFXには置いて行かれており,HD 5850 CFXに対する「Stream Processor数の多さ」というメリットが,あまり発揮されていない印象を受ける。
もっとも,GTX 295には最大で26%の差を付け,圧倒。ゲームアプリケーションのテストを待つまでもなく,シングルカード最速の座は奪還したと述べてよさそうだ。
ここで,3DMark06のデフォルト設定となる解像度1280×1024ドット,標準設定における「Feature Test」の結果をチェックしてみたい。
グラフ3〜5は順に,順にFill Rate(フィルレート),Pixel Shader(ピクセルシェーダ),Vertex Shader(頂点シェーダ)のテスト結果となる。Fill RateのMulti-Texturingや,Pixel Shaderのスコアを見る限り,HD 5850 CFXに対して,1600基対1440基というStream Processor数,80基対72基というテクスチャユニット数の違いは出ている。
グラフ6のShader Particle(シェーダパーティクル),グラフ7のPerlin Noise(パーリンノイズ)はいずれも,GPUを汎用演算に用いたときのポテンシャルを推し量るためのものだが,前者でHD 5970のスコアはHD 5850 CFXとほぼ同等。後者では,HD 5970がHD 5850 CFXをかわしている。
ただ,ここまでのFeature Test 5項目を通じて気にかかるのはむしろ,HD 5970のスコアが,HD 5870 CFXにかなり離されていることのほうだったりもする。クロック差があるので,差が出るのは当然なのだが,それにしても,少々大きすぎるのではないか,とも思う。
では,このあたりが実際のゲームにどう出るか。グラフ8,9は,「Crysis Warhead」のテスト結果になる。
HD 5970のスコアは,ここでもHD 5850 CFXと同等。高負荷設定の2560×1600ドットを除いて,GTX 295を安定的に上回っているが,しかしHD 5870 CFXには届かないという,3DMark06と同様のスコアに落ち着いた。
なお,いま例外処理した高負荷設定の2560×1600ドットでは,HD 5970だけでなく,HD 5870 CFX,HD 5850 CFX,GTX 295といったデュアルGPU構成が揃って大きくスコアを落とした。ATI RadeonかGeForceかを問わず,まだまだマルチGPU環境には,いろいろと改善点が残っている印象だ。
続いて,「Left 4 Dead」のテスト結果をまとめたのがグラフ10,11となる。
ご覧のとおり,標準設定,高負荷設定問わず,1920×1200ドット以下ではCFX構成のスコアが頭打ちになっているため,2560×1600ドットで比較したいと思うが,やはりここでもHD 5970のスコアはHD 5850 CFX相当。GTX 295に対して27〜28%高いスコアを示しているのも,3DMark06を踏襲している。
この傾向は,グラフ12,13で示した「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)でも変わらない。Call of Duty 4は,Stream Proscessor数とテクスチャユニット数がスコアを大きく左右するアプリケーションなので,HD 5970がHD 5850 CFXを上回るスコアを出して然るべきと考えていたのだが,その傾向はわずかに2560×1600ドットで見える程度だ。ブリッジチップか,ドライバの完成度に,少なからず問題があるような印象である。
なお,対GTX 295では26〜41%高いスコアで,この観点では相当に景気がいい。HD 5870シングルカードに対しては,59〜67%と,安定して1.5倍以上のパフォーマンス向上率を見せている。
前述のとおり,今回から国内版でもATI Radeonで正常なスコアを取得できるようになったバイオハザード5の結果をまとめたものがグラフ14,15となる。
ここでも,1920×1200ドット以下ではスコアが頭打ち気味なので,2560×1600ドットで比較するが,やはりHD 5970のスコアはHD 5850 CFX相当。GTX 295とは,高負荷設定で約20%の差をつけていた。
グラフ16に示した「ラスト レムナント」でも傾向はこれまで同様だ。HD 5870 CFXを頂点とした並びになっている。
HD 5970のスコアは,対GTX 295で12〜15%,HD 5870シングルカード比では36〜50%高い。
パフォーマンス検証の最後は「Race Driver: GRID」(以下,GRID)。多くのテスト条件で,HD 5970およびHD 5800シリーズのCFX構成にとっては負荷が低すぎる状態が生じているが,2560×1600ドットでGTX 295が大きくスコアを落とすのに対し,HD 5970だとほとんどビクともしていない点は注目しておきたい。結果,両者の間にあるスコアの差は最大38%に広がっている。
HD 5970は消費電力もHD 5850 CFXと同程度
ただし低負荷時の消費電力はCFX構成に軍配
カード1枚に2基のGPUを搭載したデュアルGPUソリューションでは,通常,2枚のカードを差すデュアルグラフィックスカードと比べて,消費電力面では有利となる傾向にあるが,HD 5970はどうなのか。294Wという,インパクトのある最大消費電力の実態も含めてチェックしてみよう。
テストに当たっては,ログを取得できるワットチェッカー,「Watts up? PRO」を用意して,システム全体の消費電力を取得することにした。OSの起動後,30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時として,その結果をまとめたものがグラフ19になる。
アイドル時から先に見ると,HD 5870より高くなるのはやむを得ないが,HD 5800シリーズのCFX構成よりもわずかに高いのが少々気になった。CFX構成で,アイドル時にスレーブカードの消費電力を下げる「Ultra Low Power State」がHD 5970ではうまく働いていないのか,PLX製ブリッジチップの消費電力が無視できないレベルなのかまでは断言できないが,少なくとも,「電源回路の最適化によって,デュアルグラフィックスカードよりも消費電力が下がった」といえない結果になっている点は押さえておく必要がありそうだ。
一方のアプリケーション実行時は,おおむねHD 5850 CFXと同等か,それより若干低いレベル。パフォーマンス検証とほぼ同じ結果になったことになる。GTX 295比ではアイドル時,高負荷時で総合的に20〜50W程度低く,新世代デュアルGPUソリューションらしいところを見せつけている。
GPUクーラーの冷却能力を見るべく,3DMark06を30分間連続実行させた状態を「高負荷時」として,アイドル時ともども,CPUID製のハードウェアモニタリングソフトウェア「HWMonitor Pro」(Version 1.06)からGPU温度を取得した結果がグラフ20である。
GPUクーラーが異なるため横並びの評価はできないものの,CCCから確認するファン回転数設定がHD 5870と同じ25%ということもあり,アイドル時におけるHD 5970のGPU温度はCFX構成と比べるとやや高め。もっとも,40℃台中盤なら,なんの問題もないレベルだが。
高負荷時のGPU温度は80℃台前半で,ハイエンドのグラフィックスカードとしてはこちらもまったく問題のない水準だ。
なお,筆者の主観になることを断ったうえで付記しておくと,高負荷時のファン回転数は,「うるさい」というほどではないが,HD 5870よりは確実に大きい印象だった。
2560×1600ドット超を目指すための世界最速カード
価格対性能比はHD 5850 CFXのほうが有利
30インチクラスのPC用ディスプレイや,ATI Eyefinityによる3画面接続といった,2560×1600ドット超級の環境をシングルカードで構成し,今すぐ,とにかく高いパフォーマンスを得たいのであれば,HD 5970以外に選択肢はない。
そんなHD 5970について,あえて課題を探すなら,それはおそらく価格ということになると思われる。
北米市場におけるHD 5970カードの想定売価は599ドルだが,国内では当初,7万5000〜9万円程度で登場する見込み。HD 5800シリーズのGPUを搭載したグラフィックスカードの販売状況からして,同じクラスのGPUを2基搭載したHD 5970の出荷量にも過度の期待は持てず,価格がこなれてくるのは相当に先の話になるのではないだろうか。
シングルカードであることにこだわりがないなら,3万円強から購入できるHD 5850カードをがんばって2枚探すほうが,現時点におけるコストパフォーマンスでは有利であるといえる。
最後に個人的な見解を述べておくと,HD 5970には,まだドライバの最適化による伸びしろがあるように思えてならない。ベンチマークテスト結果考察の段で繰り返したように,HD 5850 CFXと同等のパフォーマンス“しか出せていない”のは,やはりおかしいのだ。
ATI Radeon HD 4870 X2も,ドライバのアップデートでパフォーマンスが大きく向上したことを考えると,AMDの関係者が述べていた「リアル並列駆動モード」の正体も含め,もう少し状況がクリアになるのを待っても,遅くはないように思う。
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ATI Radeon HD 5900
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