レビュー
オーバークロックを志向した「Hawk」仕様のGTX 460を試す
MSI N460GTX Hawk
GPUコアとメモリチップ,そしてPLL(Phase-Locked Loop,周波数の同期に用いる回路)の昇圧設定が可能なことから「Triple Over Voltage」仕様と謳われ,冷却能力に定評あるオリジナルクーラー「Twin Frozr II」も搭載と,なかなか見所の多い本製品。今回はその実態を,いくつかのテストから明らかにしてみたい。
Twin Frozr II搭載だが決して静かではない
静音性ではなく冷却能力に特化
N460GTX Hawkの動作クロックはコア780MHz,シェーダ1560MHz。GTX 460のリファレンスだと同675MHz,1350MHzなので,いずれも15.6%ほど,メーカーレベルでのクロックアップが施されている計算だ。なおメモリクロックは3.6GHz相当(実クロック900MHz)で,リファレンスから変わっていない。
TechPowerUp製の「GPU-Z」(Version 0.4.6)でチェックするとN460GTX Hawkはアイドル時で45%,2100rpmなのに対し,N460GTX Cycloneは同45%,1350rpm。さらに,「3DMark06」(Build 1.2.0)を30分間連続実行し,GPUに負荷をかけた状態だと,N460GTX Hawkが同66%,3600rpmに対してN460GTX Cycloneは68%,2400rpmだったので,N460GTX Hawkの回転数はかなり高い。そんな高回転のファンを2基搭載しているのだから,うるさいのは当然の結果と言えるわけだ。
冒頭で紹介したTriple Over Voltageだが,これを利用するためにはMSI製のオーバークロックツール「Afterburner」のバージョン2.0.0以降が必須。MSIによると,「メモリクロックをより高くするためにはメモリ電圧を,PCI Expressバスのクロックをより高くするにはPLLの電圧をそれぞれ上げればいい」とのことだ。一方,GPUコアのオーバークロックのみを行うのであれば,これら2か所を昇圧する必要はないという。
”空冷でコア1GHz”を謳うが,安定動作は実現せず
コア940MHz/シェーダ1880MHzまでは可能だった
誤解してほしくないのは,この数字でも十分に高いということ。また,個体差もあるだろうから,なかにはコア1GHzで動作する個体はあるかもしれないし,今回はPCケースに組み込まないバラック状態でテストしているが,エアフローの効率が極めて高いPCに組み込んだ場合にはカード背面を冷却するという条件を満たすことができるかもしれない。
ただ,製品ボックスで謳われているほど,やすやすとコア1GHz動作を達成できるような雰囲気がないことは指摘しておきたいと思う。
※注意
グラフィックスカードのオーバークロック動作は,GPUやグラフィックスカードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,カード上に実装される構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer 編集部も一切の責任を負いません。
以上を踏まえ,今回はN460GTX Hawkの定格と,N460GTXの動作クロックを安定動作する上限まで引き上げた状態(以下,N460GTX Hawk[OC])の2条件でテストを行い,これを「GeForce GTX 470」搭載カード(以下,GTX 470)と,定格クロックがコア725MHz,シェーダ1450MHzで動作するN460GTX Cyclone,そしてN460GTX Cycloneの動作クロックをリファレンス相当にまで落とした状態(以下,GTX 460リファレンス)と比較していく。
テスト方法は,先ほども紹介した4Gamerのレギュレーション10.0準拠。解像度は1680×1050/1920×1200ドットの2つだ。
定格動作でもリファレンス設定より確実に高速
OC設定時はGTX 470を上回る場面も
まずは3DMark06の結果から見ていこう。結果はグラフ1,2のとおりで,N460GTX HawkはN460GTX Cycloneから2〜4%,GTX 460リファレンスからは5〜9%高いスコアを示し,パフォーマンスは順当に上がっていると分かる。また,コア940MHz&シェーダ1880MHz動作のN460GTX Hawk/OCはGTX 470に迫るスコアを示し,オーバークロックの効果を確認できる。
続いてグラフ3,4は,「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)において,描画負荷が比較的低い「Day」シークエンスのテスト結果をまとめたものになる。
ここでN460GTX HawkとN460GTX Cycloneのスコア差は6〜7%。GTX 460リファレンスと比較した場合には11〜14%と,スコアの向上率が大きくなっており,メーカーレベルのクロックアップモデルであることの優位性が大きくなっている。N460GTX Hawk/OCがGTX 470のスコアを上回っているのも特筆すべきだろう。
STALKER CoPのテスト中,最も描画負荷の高い「SunShafts」のスコアをまとめたグラフ5,6でも,傾向は同様だ。
グラフ7,8に示した「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2)だと,N460GTX HawkはN460GTX Cyclone比で3〜9%,GTX 460リファレンス比で7〜11%高いスコアを示している。N460GTX Hawk/OCに至っては対GTX 460リファレンスでプラス15〜19%だ。
ただし,STALKER CoPのような“GTX 470超え”までは実現できていない。
一方,DirectX 9世代のタイトルである「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)だと,少々異なる結果が見られた(グラフ9,10)。N460GTX HawkがN460GTX Cycloneに対し6%程度,GTX 460リファレンスに対し12〜13%高いスコアを示すというところまではこれまでと同じ傾向なのだが,N460GTX Hawk/OCとGTX 470の力関係は,「標準設定」と「高負荷設定」とで逆転しているのだ。
Call of Duty 4は,シェーダユニットとテクスチャユニットの性能がスコアを左右するアプリケーションなので,GF104コアでテクスチャユニット周りにメスが入っていることと,シェーダクロックが1880MHzにまで引き上げられていることが,描画負荷の高い高負荷設定でプラスに働いた可能性を指摘できそうである。
グラフ11,12の「Just Cause 2」だと,3DMark06やBFBC2と同じようなテスト結果に落ち着いている。N460GTX Hawkは,GTX 460リファレンス比で9〜15%高いスコアを示し,N460GTX Hawk/OCはそんなN460GTX Hawkの定格設定よりさらに10〜15%高いスコアを示すが,GTX 470にはあと一歩届かない。
CPU負荷の高い「バイオハザード5」だと,また違った結果が得られている。グラフ13,14で,GTX 470とN460GTX Hawk/OCが同等のスコアで落ち着いているのだ。GTX 460搭載カード間でスコアを比較するに,クロックを引き上げることの効果自体ははっきりと見て取れるので,CPUボトルネックによる影響を受けている印象である。
パフォーマンス検証の最後は「Colin McRae: DiRT 2」(以下,DiRT 2)だが,結果をまとめたグラフ15,16ではN460GTX Hawk/OCが頭1つ抜け出している。GTX 470に対して9〜12%高いスコアというのは,なかなか衝撃的だ。N460GTX Hawkの定格動作に対しても12〜13%高いスコアになっていることからして,Call of Duty 4の高負荷設定時と同様,オーバークロック設定によるテクスチャユニットの高速化が“効いている”のではなかろうか。
N460GTX Cycloneよりコア電圧設定が高いHawk
Twin Frozr IIの冷却能力はさすが
7+1フェーズ仕様の電源部を搭載するN460GTX Hawkの消費電力をチェックしてみよう。テストにあたっては,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用い,OSの起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルの実行時としている。
その結果をまとめたものがグラフ17だ。アプリケーション実行時の消費電力で比較すると,N460GTX HawkはN460GTX Cycloneと比べて7〜29W高い。
この理由はもちろん,前者の動作クロックが高いということもあるのだが,Afterburnerから確認したGPUコア電圧が1.125V対1.025Vと,0.1V高いことも要因の1つとして指摘できそうだ。
その状態からさらにコア電圧を0.1V,そして動作クロックも大幅に引き上げたN460GTX Hawk/OCになると,N460GTX Cycloneから60〜75Wも増大する。それでも問題なくついてくる電源周りは大したものだが,徹底的なオーバークロックを行う場合,電源ユニットの容量には注意を払うべきだろう。
……それでもまだGTX 470より消費電力が低いというのは,なかなか趣深いが。
さて,前述したとおり,N460GTX Hawkが搭載するTwin Frozr IIクーラーは,動作音が少々耳につくのだが,冷却能力は実際のところ,どれだけのものを持っているのか。3DMark06の30分間連続実行時を「高負荷時」として,アイドル時ともども,室温23℃の環境においたバラック状態でGPU-ZからGPU温度の取得を試み,まとめた結果がグラフ18となる。
GTX 460リファレンスはN460GTX Cycloneの動作クロックをリファレンス相当に下げたものであることから,ここでGTX 460リファレンスのスコアはGTX 460レビュー時に用いたリファレンスカードのものを参考として流用することをお断りしておくが,ともあれ,N460GTX HawkのGPU温度は,高負荷時でもN460GTX Cycloneより7℃低く,なかなかに優秀。とくに,N460GTX Hawk/OCでは消費電力が膨れあがっているにもかかわらず,高負荷時の温度を60℃台前半に留めている点は大いに評価できよう。GTX 470の突き抜けたGPU温度と比べると,Twin Frozr IIの優秀性が光る。
「静音性重視のCycloneに
OC前提のHawk」という理解が正解
日本市場において,2万円台のグラフィックスカードには,性能だけでなく静音性,そしてコストパフォーマンスが求められる傾向にあることを踏まえるに,より日本市場に向くのは,N460GTX Cycloneのほうであるように思う。
ただ,自己責任でコアクロック900MHz,シェーダクロック1800MHz超級の設定を行えば,GTX 470とほぼ互角に立ち回らせることのできる可能性を持つカードとして,N460GTX Hawkには十分な存在意義が認められる。オーバークロック設定を行っての常用を前提とした使い方が,N460GTX Hawkには適していそうだ。
- 関連タイトル:
GeForce GTX 400
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