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  • 発表日:2010/03/26
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「Fermi」で,NVIDIAはどこへ向かうのか?
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印刷2009/10/03 20:06

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「Fermi」で,NVIDIAはどこへ向かうのか?

Jen-Hsun Huang氏(Co-Founder, President, and Chief Executive Officer, NVIDIA)
画像集#002のサムネイル/「Fermi」で,NVIDIAはどこへ向かうのか?
 NVIDIA主催の開発者会議,「GPU Technology Conference」(以下,GTC)でベールを脱いだ次世代アーキテクチャが,この「Fermi」(フェルミ,開発コードネーム)である。パラレル(=並列)コンピューティング処理に最適化すべく,一から設計されたというFermiは,従来のGPUアーキテクチャから設計面で大きく変わっているのが特徴だが,一部で噂されているように,NVIDIAは,Fermiアーキテクチャへの転換を機に,グラフィックスを捨てて,ハイパフォーマンスコンピューティンの世界に行ってしまうのだろうか?
 GTC初日に開催された,NVIDIAの社長兼CEO,Jen-Hsun Huang(ジェンスン・フアン)氏の基調講演と,その後開かれた記者会見から,NVIDIAが目指す未来像を探っていこう。


グラフィックスの進化とともに

歩んできたNVIDIAが,次に目指すもの


NVIDIA製GPUの変遷。トランジスタ数は,「RIVA 128」の300万トランジスタから,Fermiではその1000倍となる30億トランジスタに増大した。それに合わせ,グラフィックスのトレンドやグラフィックスチップの用途も変わってきている。なお,本稿で掲載しているスライドがいくつかボケて見えるのは,3D Vision用の出力が行われているからだ。やや見にくいがご容赦を
画像集#003のサムネイル/「Fermi」で,NVIDIAはどこへ向かうのか?
 Huang氏は基調講演で,同社のグラフィックスチップが歩んできた進化を振り返り,「GPUの用途は4〜6年ごとに大きな転換点を迎えてきた」と語った。
 2001年にプログラマブルシェーダを実装したGeForce 3がリリースされると,それまでキューブマッピングの対応だけでも「ビジュアル的な大きな飛躍」とされてきた3Dグラフィックスは,描画品質を一気に向上させた。
 そして,2006年に登場したGeForce 8で「CUDA」(Compute Unified Device Architecture)による汎用コンピューティングの時代に突入。Huang氏は,Fermiの登場により,2010年には,第2ステージ「Computational GPU」(演算能力を持ったGPU)の時代に入ると見ている。

画像集#004のサムネイル/「Fermi」で,NVIDIAはどこへ向かうのか?
2300万トランジスタを集積する「GeForce 256」でサポートされた「キューブマッピング」を活用する消防車のデモ。当時はそのクオリティの高さで評判になった
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こちらは,6000万トランジスタを集積するGeForce 3のタイミングで作られた「Time Machine」デモ。新車が,時を経て錆びていく姿を,プログラマブルシェーダーを使って再現した

Huang氏は,Fermiの登場により,Computational GPUの時代に突入すると宣言
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 面白いのは,ここ数か月,「Co-Processing」(コ・プロセッシング)という言葉を,NVIDIAが頻繁に使うようになってきていること。その半面,IntelやAMDが多用する「Heterogeneous」(ヘテロジニアス,異種混合の)という単語を使う場所は,慎重に選んでいる印象を受けるが,そこには,CPUベンダーとNVIDIAの大きなスタンスの違い,すなわち,中央演算処理ユニットたるCPUを持つ者と,持たない者の違いがある。
 Huang氏は,Co-Processingのあり方として,「最高のCPUと最高のGPUの組み合わせが,最高のパフォーマンスを生む」として,シーケンシャル処理主体のプログラムと,パラレル処理主体のプログラムとでパフォーマンスを比較し,「Co-Processing時代には,処理ごとに最適なプロセッサを使い分けるべきだ」と主張した。

パラレル処理主体のプログラムとシーケンシャル処理主体のプログラムでCPU単体,GPU単体,そしてCPUとGPUの組み合わせによるパフォーマンス比較のスライド。CPUとGPUを適材適所で使い分けることが,Co-Processing時代における演算処理のあり方だと,Huang氏は説明する
画像集#007のサムネイル/「Fermi」で,NVIDIAはどこへ向かうのか? 画像集#008のサムネイル/「Fermi」で,NVIDIAはどこへ向かうのか?

 このメッセージが意図するものは明確だ。最速のグラフィックスチップを出し続ければ,NVIDIAはこのCo-Processing時代でも,業界をリードできる地位を譲らずに済む,というわけである。
 NVIDIAにとって,Fermiは(CPUとGPUが異種混合していく時代ではなく)処理ごとに最適なプロセッサを使い分ける,Co-Processing時代をリードするコアとなるものだ。核分裂反応の研究などで知られ,原子炉の父とも言われるEnrico Fermi(エンリコ・フェルミ)氏から,次世代アーキテクチャの名前を拝借したのも,NVIDIAの姿勢の顕れといえるかもしれない。……余談だが,「Tesla」も,発明家Nikola Tesla(ニコラ・テスラ)氏の名から取られている。

GPUクラスタリングサーバーで,オフィスの内装のCGをリアルタイムでレイトレーシング処理し,ストリーミング配信するデモ
画像集#009のサムネイル/「Fermi」で,NVIDIAはどこへ向かうのか?
 さて,NVIDIAがFermi世代で目指すのは,GPUとCPUのリソースを有効に活用した,効率的なプログラミングモデルの構築と,Co-Processing時代におけるパラレルコンピューティングアプリケーションの充実だ。
 Huang氏は基調講演で,CUDAアプリケーションが,より身近になりつつある例として,2009年10月2日の記事で紹介した「ライブのビデオストリームに対するリアルタイムのCG合成&レイトレーシング処理」のデモとは別に,「ストリーミングによる,オフィス内装のレイトレーシング配信」というデモも披露した。これらの技術がゲームサーバーに応用されれば,MMOなどのオンラインゲームにおいて,(リアルタイムレイトレーシング,とまでは言わなくても)グラフィックス品質を大幅に引き上げることも不可能ではない。

このストリーミング配信のデモでは,窓のシェードを下げたり,設定を夜に変更したりすると,内装のCGも切り替わる。こうした技術は,今後,ゲームサーバーなどにも応用されていくだろうと見られている
画像集#010のサムネイル/「Fermi」で,NVIDIAはどこへ向かうのか? 画像集#011のサムネイル/「Fermi」で,NVIDIAはどこへ向かうのか?

 そしてそのカギを握るのは,GTCのタイミングにおいて,NVIDIAが固く口を閉ざす,Fermiのグラフィックス機能,そしてDirectX 11対応だ。


明らかになるFermiの仕様。

グラフィックス製品は,「そう遠くない将来」に


Fermiの設計理念。パラレル処理性能を高めるとともに,GPUコンピューティングの裾野を広げ,アプリケーション開発をしやすい環境を提供することも,大きなテーマとされた
画像集#012のサムネイル/「Fermi」で,NVIDIAはどこへ向かうのか?
 Fermiでは,32基の「CUDA Core」を搭載した「Streaming Multiprocessors」(以下,SM)に,GT200コア比で4倍となる64KBのキャッシュを搭載し,これを16KB+48KB(あるいは48KB+16KB)の割り振りで,L1キャッシュと「Shared Memory」(グローバル共有メモリ)として利用できるようにすることで,繰り返し演算されるデータを有効活用できるようにしている。

 さらに,GT200までの世代では,すべてのSMが一つの「Global Instruction Cache」(グローバル命令キャッシュ)を使っていたのに対し,FermiではSMごとに独立した命令キャッシュとして設置されているのも特徴だ。

大きく変わったStreaming Multiprocessors(SM)のアーキテクチャ。以前は「Streaming Processor」あるいは「Processor Core」と呼ばれていたCUDA Coreが8基から32基に増えただけでなく,キャッシュ容量が強化されたほか,命令キャッシュも各SMごとに1基搭載され,処理効率を向上できるようにしている
画像集#013のサムネイル/「Fermi」で,NVIDIAはどこへ向かうのか? 画像集#014のサムネイル/「Fermi」で,NVIDIAはどこへ向かうのか?

Fermiのブロックダイアグラム。2ブロックに分かれたSMクラスタの中間に大容量のL2キャッシュが配置される
画像集#015のサムネイル/「Fermi」で,NVIDIAはどこへ向かうのか?
 また,SM群とGDDR5メモリの間には容量768KBのL2キャッシュが設けられているが,このL2キャッシュを、8セットのSMを束ねる形で対称に配置されたクラスタの中間に配することで,効率的なデータ共有を可能にしている。さらに,G80/GT200ではリードオンリーだったL1およびL2キャッシュが,Fermiでライトにも対応するようになったことで,より効率的なキャッシュの利用が可能になることも大きい。

 DirectX 11では,テッセレーション機能の実装により,バーテックスデータやジオメトリデータの使い回しが増える。そのときに,各SMがこれらのデータを素早く取り出せるキャッシュ構造を実装することは,DirectX 11のパフォーマンスアップにもつながるだろう。また,一度描画されたテクスチャに加工を加えるレンダーポストプロセシングのパフォーマンスを引き上げるうえでも,大容量のキャッシュ搭載は効果があるはずだ。

Fermiのダイ写真
画像集#016のサムネイル/「Fermi」で,NVIDIAはどこへ向かうのか?
 もう一つ,Fermiアーキテクチャでは,各機能ブロックを組み替えやすいよう,モジュラー設計をさらに進化させているのも特徴だ。
 NVIDIAは,GT200やG80アーキテクチャでも同様のアプローチを取り,シェーダークラスタ数を変更するなどして,ミドルクラス以下市場に向けて,コンパクトなサイズのGPUを生み出しているが,Fermiのダイ写真を見ると,これまでの製品以上に,各ブロックが整然と配置されていることが分かる。

 このことは,L2キャッシュ容量の変更や,メモリコントローラ数の増減,そして,そのメモリコントローラに付随する形になっているであろう,ROPやテクスチャユニットの組み替えたり,数を増減させたりすることによって,よりグラフィックス性能を発揮しやすいチップを作ることが容易である可能性を感じさせる。

 NVIDIAは,GTC初日の基調講演後に行われた報道関係者向けの会見でも,“Fermiベースのプロセッサ”や,派生するグラフィックス製品となるGeForce,Quadro両ファミリーの投入時期については明言を避けており,果たしてFermi世代が,具体的にいつ立ち上がるのかはまだ分からない。だがその一方,Huang氏は,「NVIDIAはグラフィックスビジネスを捨てて,ハイパフォーマンスコンピューティング製品に注力するのではないか」という噂に対しては,明確に否定。「グラフィックス関連製品は,今後もNVIDIAにとって重要なビジネスである」(Huang氏)として,GeForceなどの継続的な強化を約束していた。
 その方向性の例として挙げられたのが,NVIDIA PhysXや3D Visionで,サポートしたゲームタイトルが増え続けており,最新ゲームタイトル「Batman: Arkham Asylum」は,その両機能をサポートするなど,ゲームやグラフィックスも常に進化しているとアピールした。Huang氏は,「HDテレビの次に来るのは,間違いなく3D立体視技術だ」と断言。3D立体視技術などを実現するソリューションとして,今後も,高性能なGPUの需要は伸び続けると見る。


Drew Henry氏(General Manager, Desktop GPU Business Unit, NVIDIA)
画像集#017のサムネイル/「Fermi」で,NVIDIAはどこへ向かうのか?
 なお,記者会見後,同社でGeForce製品ビジネスを統括するDrew Henry氏は,筆者の質問に答える形で,FermiアーキテクチャをベースとするGeForceの登場するタイミングが,そう遠くない将来であることを明言していた。

 また,同社が開発中の次期IONプラットフォーム「ION2」は,IntelやVIAだけでなく,AMD製CPUなどにも,広く対応していく姿勢を見せるなど,PCプラットフォームの強化にも余念はない。

 NVIDIAは,2009年末までには,Fermiアーキテクチャのグラフィックス環境について,さらなる情報公開を行う予定を持っているとのこと。次期GeForceシリーズの全貌が明らかになる日は,そう遠くはなさそうだ。

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