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[E3 2010]カナダで制作中の,リアルさを目指した新しい無双。E3会場で「トロイ無双」プロデューサーにインタビュー
「TROY無双」公式サイト
ゾンビが活躍する無双案もあった!?
演出はカナダのテレビドラマ監督が監修
4Gamer:
E3でお忙しいところ恐縮ですが,よろしくお願いします。まず,無双シリーズの新作を制作するにあたって,なぜ「トロイ戦争」をテーマに選択されたのかを教えてください。
鈴木亮浩氏(以下,鈴木氏):
まずコンセプトとして,北米と欧州向けの,新しい無双を作りたいという思いがありました。ちょうどKOEI CANADA(以下,カナダ)という北米の開発拠点があったので,現地人の感覚で無双を作ってもらおうと考えたんですよ。そして,世界観を何にするかを検討していたのですが,カナダのほうから「トロイ戦争でどうか?」との意見が上がってきたんです。
4Gamer:
なるほど。では,ほかにも候補はあったのですね。
鈴木氏:
さまざまな候補がありましたね。たとえば――トロイもその一部ですが――ギリシャ神話やケルト神話ですね。果ては,ゾンビ系という話もあったんですよ(笑)。
4Gamer:
えっ? ゾンビ系の無双ですか? 倒しても倒しても起き上がってくる敵,もしくはプレイヤーキャラクター……。なんだかそれはそれで面白そうではありますけど(笑)。
鈴木氏:
ええ(笑)。ただ,やはりプレイヤーキャラクターはヒーローのほうが良いだろうということで,トロイに落ち着きました。
4Gamer:
しかし,トロイ戦争自体は,日本では馴染みが薄い題材ですよね。
鈴木氏:
もちろん日本ではマイナーなテーマなのですが,最初のコンセプトである“欧米で受ける世界観で作りたい”というのがありましたので,そこは通しました。
4Gamer:
では,欧米向けのタイトルを制作するにあたって,苦労した点はありますか?
鈴木氏:
スタッフの9割ほどがカナダ人なので,欧米向けの世界観を作ることに心配はしていませんでした。実際に仕上がりも,欧米向きになっていました。ただ,ゲームの作り方も欧米タイプなので,時間が掛かるのと,無双でトロイの世界観をというコンセプトだったのに,いつの間にか,自分達が作りたいゲームになっていくんですよ。
4Gamer:
つまり,気がついたら無双じゃなくなっていた?
鈴木氏:
はい,そのとおりです(笑)。最初に作っていたのが,ただのアクションゲームになりかけていました。そうではなくて,無双というベースがあって……と,軌道修正するのが,がなかなか大変でした。ギリシャ神話を題材にした,ただのアクションゲームはちまたに溢れていますから,いま作ってもダメですからね。
4Gamer:
時間が掛かるというのは,ここ最近の欧米作品は,映画的な制作手法が一般的というのもありそうですね。
鈴木氏:
一方で,カットシーンはスタジオに任せて問題ないというか,むしろ任せたほうが良いものができます。実は今回,カットシーンなどの演出を,カナダの有名なテレビドラマの監督さんにお願いしているんですよ。
4Gamer:
なるほど,テレビドラマの監督ですか。ムービーやスローモーションのシーンにしても,アングルがよく考えられていて,カッコイイなーと思ってたのですが,どおりで(笑)。では,制作のなかで“過剰になっていた演出”とはどのような部分ですか?
鈴木氏:
日本人の感覚からすると,過剰になっていたのは残虐シーンです。本作は,日本でも発売する作品なので,ムービーシーンもまだ検討している部分なのですが……。
4Gamer:
確かに,とにかく血の表現がすごいですよね。
鈴木氏:
ちなみに,先ほど話したテレビドラマの監督が制作したムービーシーンですが,もともとのトロイの話はすごく残虐な話で,それを忠実に再現していて,王様が敵軍の首を投げつけるシーンがあるんですよ。
4Gamer:
スパルタを題材にしたもので,「God of War」シリーズなどがありますが,あのシリーズも残虐なシーンが多いですよね。
鈴木氏:
そうですね。ただ,そちらは神話をベースにしたファンタジー的な内容ですよね。一方のトロイは,人間的なほうに振れているので,その残虐さがリアルに見えてしまいます。
4Gamer:
たしかに,デモをプレイしたときに,生々しさが感じられる演出が多かったです。
鈴木氏:
でも,カナダのスタッフには,そこが良いらしいんですよね。
4Gamer:
欧米はリアリティを求める傾向がありますよね。日本はどちらかといえば,デフォルメされた表現を好みます。そのあたりの擦り合わせは行われているんですか?
鈴木氏:
いえ,擦り合わせてません。あっちの感覚でやってもらっています。日本で売るバージョンは,そこをちょっと変えるといった感じですね。
無双ベースでありながら大きく変化した操作系
リアリティを目指した結果,ゲームにならないことも
4Gamer:
本作はジャンプがなくなって,盾の操作を行いますが,これはカナダのアイデアですか?
鈴木氏:
そうなんです。正直なところ,ジャンプをなくしてくるとは思っていませんでした(笑)。
4Gamer:
無双シリーズは,華麗なジャンプ攻撃のイメージも強いですよね。なので,冒険しているなーという印象を受けました。
鈴木氏:
私もそう感じていて,企画の段階でその案を見て大丈夫かなと思いました。ただ,逆に,これまでと同じ無双では,欧米ではまったく受けません。というのも,欧米において無双シリーズは,どれも同じものだという認識が持たれています。
その中でトロイを出すのであれば,操作系を変えるのも良いだろうと考えたのですが,実際にできあがったものをプレイしてみると,これが実にハマっていました。
4Gamer:
なくなったものと言えば「無双乱舞」もなくなりましたよね。その代わりに,覚醒状態になるというシステムになっていました。
鈴木氏:
とりあえず,プレイアブルキャラは英雄なので,非人間的な部分があっても良いだろうということで話し合って,あとからFuryモードを追加したわけです。そのときのスローモーションなどの演出はカナダの発案で,とにかく血がドバドバと。
4Gamer:
今回プレイしたデモでも,Fury状態のときに攻撃すると,ものすごい勢いで血が画面に飛び散ってますよね。
鈴木氏:
ええ,凄いですよね。ちなみに,今回用意した実機のデモに,血がドバっと出るシーンがあるのですが,ESRB(アメリカのソフト審査機関)に,そのシーンはネット上に流しては駄目と言われたんですよ。ですので,プロモーションムービーにもそのシーンに繋がるワンカットがあるのですが,血が出るシーンは編集でカットしています。
4Gamer:
一体どれほどバイオレンスなシーンなのかと,逆に気になりますね。ところで,これまでの無双シリーズの特徴は,スピードのある爽快感だと思いますが,トロイについていえば“重厚な爽快感”といえば良いのでしょうか,重い攻撃と,敵をなぎ払う爽快感を表現しているのかなと感じました。
鈴木氏:
そうですね,制作を始めた当初,カナダから上がってきた案に,モーションも重みのあるリアルなものにしたいというのがありました。そして,リアルさを求めるのであれば,力強い剣士があんな重い剣を軽々と振り回さないだろうとカナダは考えたわけです。無双シリーズもそういう批判を受けましたが。そこはゲーム的なものですからね。
4Gamer:
ゲームとしてのデフォルメですね。
鈴木氏:
そうして出来上がってきたものは,実際にかなり重量感があったんですよ。ただ,そのせいで,もっさりとしてしまって,ゲームになりませんでした。その後,ゲーム的な擦り合わせを行って,今の状態まで調整してきました。
4Gamer:
本作では,1対1の戦いが多いようですが,「北斗無双」にも1対1の戦いがありますよね。そこから何か参考にしたということはありますか?
鈴木氏:
いえ,ありません。というのも,北斗無双については社内でも情報管理が徹底されていたので,とくにカナダには情報はまったく行ってませんでした。
4Gamer:
では,1対1という戦いがあるのは……。
鈴木氏:
ええ,まったくの偶然なんですよ。
4Gamer:
タイミングを考えれば,どちらも並行して開発が行われていたでしょうし,やはり無双シリーズに,1対1の演出が必要だとどちらのスタッフも思っていたのでしょうか。
鈴木氏:
そうですね。ずっと1対多で戦っているとゲームが単調になってしまいます。ですので,ゲームに波を作る意味で,1対1というシチュエーションも必要かなと思っていました。
1対1といえば,見どころはボス戦です。E3版では,アポロの像が襲ってきます。全体的にリアルに作っているのですが,ここでは明らかにリアルでは出てこない,有名なモンスターが出てきます。
4Gamer:
巨大ボスって,無双シリーズではマルチレイドシリーズを除くと珍しいですよね。
鈴木氏:
ええ。ボス戦では,普通の戦い方もそうですが,映画的な手法でタイミング良くボタンを押す,QTEのような部分もあります。その意味でも今までの無双とは違いますね。
2010年秋発売に向けて制作中!
4Gamer:
日本向けの発売に際して,日本独自の仕様などは考えられていますか?
鈴木氏:
基本的には,表現部分以外は,欧米と同じ仕様で発売すると思います。あまりいじると,味がなくなると思いますし。
4Gamer:
発売は今年(2010年)の秋とのことですが,日本もほぼ同時となるのでしょうか。
鈴木氏:
そこは,日本にはCERO審査もありますし,表現の調整が必要なので,若干遅くなる予定です。
4Gamer:
分かりました。実際にゲームの内容を見た感じでは,良くて“D”,むしろ“Z”じゃないかな? と思ってしまいました(笑)。
鈴木氏:
Zは避けたいですね。そこは調整しますが,おそらく“D”は避けられないと思います。
4Gamer:
では,最後に日本のファンに向けて,一言お願いします。
トロイ無双は,今までの無双シリーズとは一線を画していて,カナダのスタッフが,北米向けに作ったものなので,無双シリーズのファンも新鮮にプレイできると思います。表現は過激ですが,リアルな分だけドラマ性も感じられる出来なので,楽しみに待っていてください。
(米国時間 6月16日収録――)
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(C)TECMO KOEI GAMES CO., LTD. All rights reserved.
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