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[CEDEC 2010]女性向け恋愛ゲーム“ネオロマンス系”の第一人者が,キャラクターメイキングに関するノウハウを伝授
大森氏は,コーエー(現コーエーテクモゲームス)で14年のキャリアを持つ生粋のCGデザイナーで,ネオロマンス系以外では,歴史シミュレーションゲームなどの開発にも参加した経験を持つ。そんな大森氏が,普段どのような心構えで,ネオロマンスゲームのキャラクターメイキングに携わっているか,その手法やノウハウがセッションで紹介されたのだ。
ネオロマンス系とは?
コーエーテクモゲームスのタイトルというと,(とくに4Gamer読者にとっては)「信長の野望」や「三國志」のシリーズ,近年では無双シリーズのイメージが強いかもしれない。とはいえ,「遙かなる時空の中で」にも10年以上の歴史があり,これまで多くのファンに楽しまれてきている。ネオロマンス系は同社にとって,大事なブランドの一つなのだ。
ネオロマンス系のファンの多くは,キャラクターへの強い愛情を持っており,そういったニーズに応えるべく,同社は積極的にメディアミックス展開を行なっている。ゲームのほかにも漫画,TVアニメ,ドラマCD,キャラクターソング,舞台などが行われており,CEDEC 2010の別の日程では,メディアミックスに焦点を当てたショートセッションも行われ,人気を博していた。
デザイナーの役割とは?
実際の開発現場では,キャラクターデザインは漫画家だけで完結しているわけではなく,まずはシナリオ担当がキャラクター設定を用意し,それに沿う形で漫画家がデザインを行う。キャラクターデザインとはゲームにおいて必要な“仕掛け”であり,その設定はシナリオ担当者の主導で進められているそうだ。
しかし,当然ながら漫画家もその道のプロであり,漫画家の意見が良い結果を生み出すことも多いという。そこでデザイナーが,シナリオ担当と漫画家の双方の主張をとりまとめて,落としどころを見つけていく必要が生じる。
そういった前置きをしつつ,大森氏は開発現場での実例を紹介しながら,デザイナーが担当する二つの大きな役割について解説した。
■デザイナーの役割その1:
シナリオ担当者の持つイメージと,漫画家のデザイン画の両方をつなぐ
キャラクターデザインが固まるまでの流れの具体例として,大森氏は「金色のコルダ3」に登場する“八木沢雪広”のケースを紹介した。
当初,シナリオ担当が“地味系キャラ”というコンセプトで漫画家にオファーを出してみたが,返ってきたラフデザインを見ると当然ながらどうも地味。そこで,見た目に特徴を持たせようと追加注文を出したものの,それは漫画家にとって納得のいかない指示だった。最初のコンセプトと相反する要望(=見た目に特徴)を出してしまったのだから,それも仕方のない話だろう。
そこでデザイナーは,彼に普段の姿とは違う一面を持たせてみることを提案。その結果,八木沢君は“ギャップ萌え”の属性が付加され,シナリオ担当,漫画家共に納得したのだという。
■デザイナーの役割その2:
シナリオ担当の要求に的確に応える
続いて大森氏は,原画からCGを作成する際の例として,同じく金色のコルダ3から“東金千秋”を紹介。漫画家は彼について“派手で尊大”という性格は知っていたが,それ以外の情報はよく把握していなかったという。そんな漫画家に対して,シナリオ担当が「器を大きくしてほしい」「このキャラは,いわば伊達政宗です」などと言っても,漫画家としてはピンと来ないだろう。
しかしシナリオ担当にとって,これはごく自然なオファーだったという。金色のコルダ3に登場する各高校は,実は戦国時代における各軍をモチーフとしており,東金千秋は200人の生徒を従える,伊達政宗チックなキャラクター設定があるのだ。
もちろん,漫画家にとってはそのようなことは知る由もない。そもそもキャラクターの細かな設定の総てを,漫画家に伝えるのは不可能に近い。
そこで,社内デザイナーは自らペンを取り,シナリオ担当の要求に応えた。東金君の器を大きくするべく,目や口の周りを微調整していったのだ。比較画像を見ても瞬時には分からないほどの些細な違いだが,シナリオ担当はこれを見て納得したのだという。デザイナーはこのようなシナリオ担当の要求にも,的確に応えていかねばならないそうだ。
工程管理
一般的には,デザインを紙に描いてやりとりするチームもあるが,これは効率的ではないとのこと。Photoshopを使う大きなメリットは,拡大/縮小をはじめとした修正が容易で,これが紙作業だと最悪の場合,書き直しの必要が生じてしまう。また,パーツ類の流用も簡単に行えるため,小物などのアクセントの描き間違いや,描き忘れを防ぐ効果も得られるとのことだ。
作業の細分化に関しては,大きく以下の六つのステップに分けられている。
1.下絵
重点ポイント:キャラクターの魅力,動きの勢い,表情の豊かさ,ポーズ
2.ラフ
重点ポイント:パーツの位置/形状,人体的構造の整合性,表情の詳細なニュアンス
3.線画クリンナップ
重点ポイント:ラフに色を乗せる,その上に新規レイヤーを作成(髪/目/口/体など),それぞれのレイヤーで線画を行う
4.色マスク
重点ポイント:各パーツ毎の着色範囲の確定,人物部分を隙間なく埋める,人物以外の部分のゴミ除去
5.着色
重点ポイント:色表現すべての確定,表情のニュアンスの最終確定,立体感・質感
6.目パチ&口パクアニメ
重点ポイント:顔アニメーションの確定,レイヤー構成の整理
細分化の最大のメリットは,たとえ修正の必要が生じても,工程を後戻りしないで済むことだという。これが細分化を行わない場合,仮に「着色」後にポーズを修正しようとしたら,「下絵」から全部やり直すことになる。作業の細分化を行うことは,リスクを回避すると共にコスト削減にも繋がるというわけだ。
そしてこの細分化には,もう一つの大きなメリットがあると大森氏は語る。上記の1から6を行うには多様なスキルが求められ,仮に一人の人間がすべて行おうとすると,多大な精神的/肉体的負担がかかってしまう
しかし分業化を行えば,各担当に求められるスキルは限定され,負担も軽くなる。それにより,より少ない工数と作業時間で,大量のCGを作り出せるというのだ。ゆくゆくは,納期の厳守やゲームの品質向上にも結びつくことだろう。
(C)TECMO KOEI GAMES CO., LTD. All rights reserved.
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