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[CEDEC 2010]女性向け恋愛ゲーム“ネオロマンス系”の第一人者が,キャラクターメイキングに関するノウハウを伝授

コーエーテクモゲームス ソフトウェア開発本部 CG部 シニアリーダーの大森まゆこ氏
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 CEDEC 2010の2日目,「ネオロマンスゲームにおけるキャラクターメイキング」と題されたセッションが行われた。セッションに登壇したコーエーテクモゲームス ソフトウェア開発本部 CG部 シニアリーダーの大森まゆこ氏は,ネオロマンス系ゲームの開発を専門に行う同社内の開発チーム“ルビー・パーティー”を率いる,いわばこのジャンルの第一人者である。

 大森氏は,コーエー(現コーエーテクモゲームス)で14年のキャリアを持つ生粋のCGデザイナーで,ネオロマンス系以外では,歴史シミュレーションゲームなどの開発にも参加した経験を持つ。そんな大森氏が,普段どのような心構えで,ネオロマンスゲームのキャラクターメイキングに携わっているか,その手法やノウハウがセッションで紹介されたのだ。


ネオロマンス系とは?


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 (男性率が高めの)4Gamer読者に向けて最初に補足しておくと,“ネオロマンス”とはコーエーテクモゲームスが提唱する,女性向け恋愛ゲームの総称である。業界初の女性向け恋愛ゲームとして登場した「アンジェリーク」(スーパーファミコン,1993年)のほか,「遙かなる時空の中で」「金色のコルダ」そして「ネオ・アンジェリーク」の4シリーズなどがリリースされている。

 コーエーテクモゲームスのタイトルというと,(とくに4Gamer読者にとっては)「信長の野望」や「三國志」のシリーズ,近年では無双シリーズのイメージが強いかもしれない。とはいえ,「遙かなる時空の中で」にも10年以上の歴史があり,これまで多くのファンに楽しまれてきている。ネオロマンス系は同社にとって,大事なブランドの一つなのだ。

 ネオロマンス系のファンの多くは,キャラクターへの強い愛情を持っており,そういったニーズに応えるべく,同社は積極的にメディアミックス展開を行なっている。ゲームのほかにも漫画,TVアニメ,ドラマCD,キャラクターソング,舞台などが行われており,CEDEC 2010の別の日程では,メディアミックスに焦点を当てたショートセッションも行われ,人気を博していた。

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デザイナーの役割とは?


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 本題に入ると大森氏はまず,社内デザイナーの役割について具体的な説明を行った。ネオロマンス系のキャラクターデザインは少女漫画家が中心であるが,そのほかに,コーエーテクモゲームス側の“シナリオ担当”と“デザイナー”が関わっているという。大森氏はこの中でいうと,デザイナーに相当する。

 実際の開発現場では,キャラクターデザインは漫画家だけで完結しているわけではなく,まずはシナリオ担当がキャラクター設定を用意し,それに沿う形で漫画家がデザインを行う。キャラクターデザインとはゲームにおいて必要な“仕掛け”であり,その設定はシナリオ担当者の主導で進められているそうだ。

 しかし,当然ながら漫画家もその道のプロであり,漫画家の意見が良い結果を生み出すことも多いという。そこでデザイナーが,シナリオ担当と漫画家の双方の主張をとりまとめて,落としどころを見つけていく必要が生じる。
 そういった前置きをしつつ,大森氏は開発現場での実例を紹介しながら,デザイナーが担当する二つの大きな役割について解説した。


■デザイナーの役割その1:

シナリオ担当者の持つイメージと,漫画家のデザイン画の両方をつなぐ


 キャラクターデザインが固まるまでの流れの具体例として,大森氏は「金色のコルダ3」に登場する“八木沢雪広”のケースを紹介した。
 当初,シナリオ担当が“地味系キャラ”というコンセプトで漫画家にオファーを出してみたが,返ってきたラフデザインを見ると当然ながらどうも地味。そこで,見た目に特徴を持たせようと追加注文を出したものの,それは漫画家にとって納得のいかない指示だった。最初のコンセプトと相反する要望(=見た目に特徴)を出してしまったのだから,それも仕方のない話だろう。

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 シナリオ担当と漫画家,双方の意見をとりまとめるデザイナーからすると,地味系キャラはゲームの演出上必須の存在である。しかし,大きな特徴がないというのは,ネオロマンス系ファンに受け入れられるかどうか不安でもある。
 そこでデザイナーは,彼に普段の姿とは違う一面を持たせてみることを提案。その結果,八木沢君は“ギャップ萌え”の属性が付加され,シナリオ担当,漫画家共に納得したのだという。

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■デザイナーの役割その2:

シナリオ担当の要求に的確に応える


 続いて大森氏は,原画からCGを作成する際の例として,同じく金色のコルダ3から“東金千秋”を紹介。漫画家は彼について“派手で尊大”という性格は知っていたが,それ以外の情報はよく把握していなかったという。そんな漫画家に対して,シナリオ担当が「器を大きくしてほしい」「このキャラは,いわば伊達政宗です」などと言っても,漫画家としてはピンと来ないだろう。

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 しかしシナリオ担当にとって,これはごく自然なオファーだったという。金色のコルダ3に登場する各高校は,実は戦国時代における各軍をモチーフとしており,東金千秋は200人の生徒を従える,伊達政宗チックなキャラクター設定があるのだ。
 もちろん,漫画家にとってはそのようなことは知る由もない。そもそもキャラクターの細かな設定の総てを,漫画家に伝えるのは不可能に近い。

 そこで,社内デザイナーは自らペンを取り,シナリオ担当の要求に応えた。東金君の器を大きくするべく,目や口の周りを微調整していったのだ。比較画像を見ても瞬時には分からないほどの些細な違いだが,シナリオ担当はこれを見て納得したのだという。デザイナーはこのようなシナリオ担当の要求にも,的確に応えていかねばならないそうだ。

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工程管理


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 そのほかには,工程管理に関する話もなかなか興味深かった。ネオロマンス系ゲームでは,1タイトルあたり平均で200点程度のCGを製作しており,バストアップ画像などの加工グラフィックスを含むと,数はその2倍になるという。これだけの膨大なCGを,3〜4か月で制作しなくてはならないのだ。ルビー・パーティーはこの難題に対し,キャラメイクにおける全工程をPhotoshopで行い,作業を細分化することで効率よく行っているという。

 一般的には,デザインを紙に描いてやりとりするチームもあるが,これは効率的ではないとのこと。Photoshopを使う大きなメリットは,拡大/縮小をはじめとした修正が容易で,これが紙作業だと最悪の場合,書き直しの必要が生じてしまう。また,パーツ類の流用も簡単に行えるため,小物などのアクセントの描き間違いや,描き忘れを防ぐ効果も得られるとのことだ。

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 作業の細分化に関しては,大きく以下の六つのステップに分けられている。

1.下絵
 重点ポイント:キャラクターの魅力,動きの勢い,表情の豊かさ,ポーズ

2.ラフ
 重点ポイント:パーツの位置/形状,人体的構造の整合性,表情の詳細なニュアンス

3.線画クリンナップ
 重点ポイント:ラフに色を乗せる,その上に新規レイヤーを作成(髪/目/口/体など),それぞれのレイヤーで線画を行う

4.色マスク
 重点ポイント:各パーツ毎の着色範囲の確定,人物部分を隙間なく埋める,人物以外の部分のゴミ除去

5.着色
 重点ポイント:色表現すべての確定,表情のニュアンスの最終確定,立体感・質感

6.目パチ&口パクアニメ
 重点ポイント:顔アニメーションの確定,レイヤー構成の整理

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 細分化の最大のメリットは,たとえ修正の必要が生じても,工程を後戻りしないで済むことだという。これが細分化を行わない場合,仮に「着色」後にポーズを修正しようとしたら,「下絵」から全部やり直すことになる。作業の細分化を行うことは,リスクを回避すると共にコスト削減にも繋がるというわけだ。

 そしてこの細分化には,もう一つの大きなメリットがあると大森氏は語る。上記の1から6を行うには多様なスキルが求められ,仮に一人の人間がすべて行おうとすると,多大な精神的/肉体的負担がかかってしまう
 しかし分業化を行えば,各担当に求められるスキルは限定され,負担も軽くなる。それにより,より少ない工数と作業時間で,大量のCGを作り出せるというのだ。ゆくゆくは,納期の厳守やゲームの品質向上にも結びつくことだろう。

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 このような作業の細分化は,当然“共同作業”の大規模化につながる。その際に大切なのは,「相手を思いやり,尊重する心」だと大森氏は語る。漫画家の先生からいただいた絵柄を大切にし,シナリオ担当者の意図を汲み取りつつ,細分化された各作業の工程を管理する能力が,デザイナーには求められるというのだ。そして最後に,こういった統括作業を行える人員の育成の重要性を説き,大森氏は本セッションを締めくくった。


企画書の内容を確認し,物語のプロットを読み,舞台背景や歴史背景を学ぶ。そうすることで,コンセプトに沿った世界やキャラクターが作り出されていく
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コーエー流の,いわば“ネオロマンスアレンジ”が施され,次々とゲーム内世界が作り出されていく。これまでに誕生した美男子たちは約100名とのことだ
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キャラクターごとに“イメージカラー”を設定することもあるという。カラーをどのようにキャラデザインに反映させるかは,漫画家のセンスに任せてしまったほうが,結果的に良いものが完成することが多いのだそうだ
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