レビュー
1スロット仕様のHD 5770は冷却能力と動作音に注目
XFX HD-577X-ZMF3
とはいえ,1スロット仕様のクーラーには,冷却能力の限界というものも付いて回る。過去にも,ミドル〜ハイクラスGPUを搭載しつつ1スロット仕様にまとめてきた製品はあるが,クーラーの冷却能力が足りないか,冷却能力を追求しすぎて動作音が極端に大きくなってしまうというケースが少なくなかった。
今回,XFXブランドで知られるPine Technology(以下,XFX)から日本市場に登場した「ATI Radeon HD 5770」(以下,HD 5770)搭載カード「HD-577X-ZMF3」は,そんな“ミドルクラスGPUを搭載しつつ1スロット仕様”な製品のニューカマーだ。本製品は1スロット仕様のカードが陥りがちなワナを無事回避できているのかどうか。その実態に迫ってみることとしよう。
3本のヒートパイプが走るクーラーを採用
動作クロックは定格そのまま
HD-577X-ZMF3のカード長は実測208mm(※突起部含まず)。HD 5770のリファレンスカードと変わらないが,リファレンスカードだと,採用するGPUクーラーがカード後方に若干はみ出たデザインになっていたので,それとそのはみ出し分だけ短いということもできるだろう。
肝心のGPUクーラーは,カードの後方,PCケース内に排気するタイプで,GPUとメモリチップを覆うタイプだ。総容量1GBを実現するメモリチップはカードの表面に4枚,裏面に4枚搭載されているため,クーラーで冷却されるのは4枚のみということになる。
クーラーを外してみると分かるのは,GPUダイと接触する部分が銅製になっており,それを貫くように3本の薄型ヒートパイプが走っていること。ヒートパイプによって放熱フィン部へ効率的に熱移動することにより,この規模のクーラーでもHD 5770の冷却をまかなえるようにしているものと思われる。
なお,動作クロックなどの仕様はリファレンスどおり。搭載しているメモリチップはSamsung Electronics製のGDDR5「K4G10325FE-HC04」(0.4ns品)なので,これを4.8GHz相当(実クロック1.2GHz)させているHD-577X-ZMF3においては200MHz相当のマージンが残されている計算だ。
GPUクーラーの冷却性能,動作音は申し分なし
ただ,電圧設定は若干高め
テスト方法は基本的に4Gamerのベンチマークレギュレーション10.0準拠だが,スケジュールの都合により,今回は「3DMark06」(Build 1.2.0)「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2)「Just Cause 2」に絞り,さらに「高負荷設定」は省略する。
グラフ中,HD-577X-ZMF3は「XFX HD 5770」,HD 5770リファレンスカードは「HD 5770」とそれぞれ表記すること,そして「Core i7-975 Extreme Edition/3.33GHz」は,「Intel Hyper-Threading Technology」を有効化する一方,2枚のカードで“効き具合”が変わる可能性を踏まえ,「Intel Turbo Boost Technology」は無効化することも,あらかじめお断りしておきたい。
さて,OS起動後30分間放置した状態を「アイドル時」,「3DMark06」(Build 1.2.0)を30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,各時点のGPU温度を比較した結果がグラフ1となる。
テストは,室温23℃の環境で,バラック状態にして行っているが,HD-577X-ZMF3のGPU温度はアイドル時こそHD 5770リファレンスカードより高いものの,高負荷時は逆に低く収まった。つまり,HD-577X-ZMF3が搭載するGPUクーラーの冷却能力に問題はないわけだ。
まず事実関係から確認しておこう。TechPowerUp製のBIOSチューニングツール「Radeon BIOS Editor」(Version 1.25)で冷却ファンの回転数設定をチェックすると,HD-577X-ZMF3の搭載するクーラーはGPU温度が60℃に達するまで回転数は30%で固定され,それ以降は段階的にファン回転数が上がっていく設定になっている。
グラフ1で示したとおり,実際のゲームプレイ中でも,GPU温度は80℃以下に収まるので,外気温がよほど高いとか,何か別の熱源があるとかいった状況下にない限り,回転数は定格の50%以内で収まることになる。実際に聞いてみた印象でも,HD-577X-ZMF3の動作音は静かだ。
ちなみに下に示したのは,GPUクーラーのファンから約15cmと,かなり近い距離にマイクを置き,実際に2枚の動作音を比較してみた結果。あくまでも相対比較だと理解してほしいが,テスト後半,負荷が高い状態になると,HD-577X-ZMF3は高周波が若干目立つようになってくるものの,開始10秒間のアイドル状態だとむしろリファレンスより静かなくらい。冷却性能と静音性のバランスは高いレベルで保たれていると述べていいだろう。
次に,消費電力を比較してみる。
今回も,4Gamerのハードウェアレビューでお馴染み,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いてシステム全体の消費電力を測定することにした。各アプリケーションを実行したとき,最も高い消費電力値を示した時点を各アプリケーションの実行時とし,その結果をまとめたものがグラフ2だ。
それでも大した違いではないと言ってしまえばそれまでだが,ゲームをプレイしていないときの消費電力を重視する人は,憶えておく必要があるかもしれない。
最後に,念のためベンチマークスコアを取得した3DMark06,BFBC2,Just Cause 2だが,搭載するGPUと動作クロックが同じなので,当然のことながらテスト結果も同じである(グラフ3〜5)。
気持ち高めの実勢価格だが,悪くない
1スロット仕様の高性能カードとしてオススメ
ただ,テストで明らかになったとおり,熱の問題も動作音の問題もクリアになっており,1スロット仕様であることにこだわる人にとって,完成度の高い製品に仕上がっているのも確かだ。スリムタイプやキューブタイプの筐体で3D性能の向上を狙う場合,注目に値するグラフィックスカードであることは間違いない。
- 関連タイトル:
ATI Radeon HD 5700
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