インタビュー
「XL2735」と「VITAL」誕生の経緯をZOWIEのトップに,使い勝手をプロゲーマーに聞いてみた
XL2735の開発に込めた想い
まずは,XL2735からだ。どういう経緯で「DyAc Technology」(以下,DyAc)や「SHIELD」を採用する液晶ディスプレイを開発したのかを尋ねると,Lin氏はYouTube上の動画(※埋め込み再生が許可されていないので,見たい場合はリンクをクリックしてください)を引っ張り出して,筆者に見せてきた。
氏によると,BenQが初めてハイフレームレート表示に対応したゲーマー向け液晶ディスプレイを発売したのは2010年だったが,「その1年後においても,まだハードコアゲーマーの間ではブラウン管信仰が残っていた」と言う。氏はこの映像を見たときから「いつの日か,ブラウン管と同等以上の動体表示能力をもつゲーマー向け液晶ディスプレイを開発してやろう」と心に誓ったのだそうだ。
その根拠となるのが,先のレポートで動作原理に関する考察を紹介したDyAcである。
現在,市場には,144Hzという垂直リフレッシュレートを超える製品がごろごろしている。その中でXLシリーズの最上位モデルが従来同様の144Hzであることは,スペック面で見劣りする結果にならないのだろうか。この点をLin氏に振ってみると,次のような,自信満々の回答が得られた。
Lin氏:
6月にお会いしたときもお話ししたと想いますが,我々は新機能の早期実装とか,スペック数値競争にはあまり関心がないのです。それよりも,ハードコアゲーマーに提供出来る「利益」(Benefit)のほうに意識を集中して製品を開発しています。
垂直リフレッシュレートが200Hzの製品よりも,我々のDyAcのほうが,動体表示におけるスムーズな見え方では上のはずです。疑念を抱く方には,ぜひとも実際にXL2735の表示を見てほしいですね。
今回,デモ会場の実機展示では,垂直リフレッシュレート144Hzに対応した従来製品「XL2730」と,DyAcに対応するXL2735との比較をチェックできたが,確かにこの比較では,XL2735のほうが圧倒的に鮮烈な動体表示を行えていた。
競合他社の,リフレッシュレートと180Hzや200Hzの製品と比較した場合に,どちらに優劣があるかは,XL2735が登場したときに,あらためて検証すると面白そうである。
XL2735の“面白機能”SHIELDを採用した意図
Lin氏:
ハードコアゲーマーの中には,画面までの視距離をとても短く取る人が少なくないんです。その理由を聞くと,「画面外に見えるものが邪魔だから」と答えるんですよ。
そこで「それならば」と開発したのが,画面外の情報を遮断するための板というわけである。
最初は半分「馬鹿げている」と思われるかもしれないと自信がなかったそうだが,実際にプロゲーマー達に使ってもらうと,思いのほか好評だったそうで,最終的にXL2735で取り入れることにしたのだそうだ。
Lin氏:
プロゲーマー達のインプレッションとしては,「SHIELDの活用により,視距離が縮まったような実感が得られる」とのことでした。これは開発側の期待どおりでしたね。
Lin氏からはこのSHIELDについて,もう1つ,面白い話を次のとおり聞かせてもらった。
プロゲーマーやハードコアゲーマーの中には,「狭額縁の液晶ディスプレイはイヤだ」と言う人達が一定割合でいるんです。我々,映像機器業界側は,いかに額縁を狭くしていこうかと努力しているのに(笑)。
おそらく,額縁が広いと,画面外の情報がそれだけ広く遮断できるため,XL2735のSHIELDと同等の効果が得られるんだと思いますね。
プロゲーマーが見るXL2735〜SHIELDが思わぬ(?)高評価
XL2735とVITALをテスト中の日本のプロゲーマークラン,Rascal Jesterのメンバー達 |
XL2735のシールドの効能についてプロゲーマー視点で語ってくれた |
聞くところによると,大会では,敵チームと隣接したテーブルに着座してプレイすることも多いのだが,敵チームの画面を覗くのはもちろん御法度。また,別に覗くつもりがなくても,すぐ近くにいると,自分の視界最外周に映像が入り込んでくることがあり,気が散るのだという。これをシールドで遮断できるのはありがたいというわけである。
逆に味方同士は画面を見てもいいので,「敵に隣接している側だけシールド機構を活用し,味方と隣接している側は活用しないといったこともできて便利かも」という声もあった。
また,ZOWIE側が「不要」と判断した上辺側のシールドに対しては,メンバーの一人が「自分は上にも欲しい。やや上側の背後にある天井の照明が画面に映り込むことがあるので,左右にあるならば上側にも遮光フード的に付けてほしい。」という意見を述べていた。これについてはBenQ ZOWIE側のスタッフも「なるほど」と頷いていたので,ひょっとすると今後,対策が入るかもしれない。
なぜいま,ZOWIEがUSBサウンドデバイスなのか
Lin氏:
それはハードコアなゲーマーのニーズに応えたUSBサウンドデバイスが少ないからです。
氏によると,VITAL開発の契機となったのは,開発部門(=旧ZOWIE GEAR)による,「ゲーマーが納得のいく,高品質なサウンドデバイスを作りたい」という,シンプルな思いだったという。
e-Sports大会に参戦する多くのハードコアゲーマーは,ヘッドセット(やヘッドフォン)を着用する。それは勝つために必要な音情報を聞き取るためだが,そこにノイズが紛れたり,その結果として聞き取るべき音が聞き取れなかったりすると,それは敗北につながることになる。
そういう問題を解決するための一番シンプルな解決策は,サウンドのアナログ回路をノイズ源であるPCから遠ざけることだ。そこでUSB接続型のサウンドデバイスを作ることに決まったのだという。
Lin氏:
そのほかにも,「手軽に使う」ためには,ドライバのインストールが不要でなくてはなりません。その点でも,USB接続型が一番でした。
なるほど,ごもっともである。
あとは,掲げた性能目標に見合った,高品位なD/Aコンバータとヘッドフォンアンプを採用し,シンプルな操作系を実装した。結果として,最終的なVITALのスペックと販売価格になったというわけだ。
VITALは,比較的コンパクトなUSB接続タイプとなったので,ゲーム大会やLANパーティーに,お気に入りのゲームパッドを携行する感覚で持って行ってもらえればと思います。
ところで,ゲームユーザー向けサウンドデバイスというと,5.1chなどといったサラウンドサウンドへの対応を期待する読者もいると思うが,e-Sportsシーンでは,処理の遅延などを嫌って2chステレオで使うことが当たり前になっているため,ZOWIEとしてもマルチチャネルサラウンドサウンドは想定していなかったという。
まあ,現在は「Razer Surround Pro」などもあるので,どうしても必要ならそういうのを使えばいいということなのだろう。
手元での操作に特化したVITALの操作系
VITALの操作系についても先のレポートでお伝えしているが,VITALは,本体正面側にさまざまなボタン風タッチセンサーをあしらい,それらをタップすることで操作する仕様となっている。
それこそがハードコアゲーマーの使い勝手に配慮した結果なんです。ゲームを起動した後に「音量を調整したい」「低音を増強したい」といった要求に駆られたときにどうしたらいいでしょうか。[Alt]+[Tab]キーや[Alt]+[Esc]キー,あるいは[Windows]+[D]キーを使って,ゲーム画面を最小化し,サウンドのプロパティを出しますか? とても面倒じゃありませんか。
ゲーム開始前だったら,Windowsのデスクトップ画面に“下りて”,サウンドのプロパティを呼び出すのもいいでしょう。しかし,ゲーム開始後に調整が必要だと感じたら? デスクトップ画面に切り換えてサウンドのプロパティを出してからの操作中,あなたのキャラクターは戦場で棒立ちになります。敵に殺されてしまう可能性は大です。
Lin氏によれば,先行発売された欧州ではすでに,VITALを携行してe-Sports大会に参戦するプレイヤーが出てきているという。今後,e-Sportsシーンでは「マイサウンドデバイス」を持参する時代に突入していくということになるのかもしれない。
プロゲーマーが見るVITAL〜200ユーロの価値はある!?
VITALについても,Rascal Jesterのメンバーは「すぐにでも欲しい」と口を揃えていた。
e-Sportsの大会で,PCは競技会場にあるものを使うことがほとんどで,サウンドの設定はまちまちである。そのため,持参したヘッドセットを接続してサウンドを出力したときに,プレイし慣れた同じゲームでも,普段聞き慣れている音と違って聞こえることがあるという。
そんな場合でも,当該ゲームタイトル向けにあらかじめ音質傾向と音量を最適化したVITALを持って行ければ,そうした違和感を覚えなくて済むというわけだ。
設定はメンバー各自のVITALに記録されるから,本番のマシンにVITALを差せば,納得のサウンドコンディションで勝負が挑めるというわけだ。
税別200ユーロという,PC用としてはかなり高いサウンドデバイスだけに,一般受けはしそうにないというのが正直なところだが,ZOWIE製品らしく,プロ受けはかなりしそうであり,最終的な評価も,プロ用途としては妥当な金額というところに落ち着くのかもしれない。
なお,こうしたVITALのようなUSBサウンドデバイスの持ち込みが,e-Sports大会で反則機器扱いにならないか心配するメンバーもいたが,Lin氏はこれに対して「VITALはただのサウンドデバイスなので,反則機器にはならないはずだ。もし,VITALを禁止しようという動きが出てきたときには,そうならないようe-Sports業界に働きかけていきたい」と述べていた。
BenQのXL2735製品情報ページ(英語)
ZOWIEのVITAL製品情報ページ(英語)
- 関連タイトル:
ZOWIE(旧称:ZOWIE GEAR)
- 関連タイトル:
XL,XR,RL
- この記事のURL:
キーワード
All rights reserved Briccity International, LLC DBA: Zowie Gear Copyright 2009