インタビュー
売れる売れないではなく仮想世界が作りたかった――「ArcheAge」の開発者Jake氏が考えるMMORPGや日本サービスに関して聞いてみた
……とはいうものの,手がけた作品達や彼の名前はよく知られている一方で,氏本人はこれまであまりメディアで露出しておらず,最近になって――ArcheAgeに関して話すとき――インタビューに応じてくれる程度。氏がどんな考えを持ってArcheAgeの開発に携わったのか,そもそもMMORPGをどう捉えているのか伺い知ることはできなかった。日本においては,なおさらだ。
そんな折,そのJake氏が来日するという連絡があった。さっそく氏に,2013年1月末のインタビューでは聞けなかったことも含めて,いろいろ聞いてみることにした。さらに,日本でArcheAgeの運営を行うゲームオン 第一事業部部長の野田真央氏も同席し,日本サービスに関してのコメントを聞けたので,登場を心待ちにしている読者はぜひご一読を。
XLGAMES CEO Jake Song氏 |
ゲームオン 第一事業部部長 野田真央氏 |
MMORPG「ArcheAge」の韓国サーバーに潜入。MMORPG黎明期を知るプレイヤーの心を引くものとは
「ArcheAge」公式プレサイト
何もかもが,ただ自由なわけではない
ゲームとして計算された“自由度”と“導線”
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
以前,生産システムを中心に話をお聞きしましたが(関連記事),コアゲーマー揃いの4Gamerの読者は,あのインタビュー記事で期待度が大きく上がったと感じています。さらに,実際にArcheAgeを韓国サーバーで触ってみて,私自身も楽しみになっています。
ありがとうございます。
4Gamer:
……なんというか,うまく言えないんですが,いま世に出ているMMORPGは「冒険感」が少なくなっていると思うんです。僕はMMORPGにおいて「経験値を稼ぎたい」わけではなくて,「冒険」がしたいんです。
最近はその感じが強いMMORPGはずいぶん減ってしまいましたが,ArcheAgeは,久しぶりに冒険感を感じられる作品だというのが個人的な第一印象でした。これはJakeさんが意識して作り上げたんでしょうか。
Jake氏:
たしかに最近のMMORPGは,プレイヤーが道(遊び方)を作っていくのではなく,開発/運営側が道を作り,そこに沿って遊んでもらうというものがほとんどです。私には,そこから脱皮したゲームを作りたいという気持ちがあるんですよ。
4Gamer:
考えたうえで,ということであれば,ArcheAgeの初期クローズドβテストのころに,「できそうだけど,できないことが多い」という評判も何度か耳にしましたが,それも計算づく?
Jake氏:
ええ。脱皮したいからといって,何もかもを自由にしてしまうと,ゲームとして成り立たなくなる可能性があります。ですから,私がArcheAgeを制作するにあたって意識したのは,プレイヤーが作る道と開発運営が作る道を半々くらいにして,プレイヤーが自由に遊べて,かつ開発が意図しているところもプレイヤーに進めてもらえるというものでした。
4Gamer:
なるほど。できることだけを漫然と増やしていてもゲームシステムが破綻してしまう――実際に,そうした作品を見てきました――ので,ラインをどこかで引かなくてはいけないですよね。おそらく,その「出来そうだけど出来ない」と話していたプレイヤーは,UOの再来に期待していて,何もかもが自由にできたUOと同じ物を求めていたんだと思うんですよ。
Jake氏:
確かにUOはすごくいいゲームですね。しかも,1997年にこんな作品がリリースされたということが素晴らしいです。しかし自由すぎることから,最初の目的を見つけられないこともそうですが,それなりの問題点や改善点があったこともまた事実です。
ですからArcheAgeを作るときは,最初はプレイヤーに,このように遊んでほしいという導線を引く努力をして,レベルアップしていくとプレイヤー自身の楽しみが見つけられるようにデザインしました。
4Gamer:
そうした自由度と導線のバランスを,うまく計算しているわけですね。ちなみに韓国での評判はどうでしょうか。私個人の印象では,韓国の人は,あまり細々とした作業は好きじゃないのかなと思っていたんですが。
そうですね。ArcheAgeのサービスが始まる前の韓国のトレンドは,「TERA」や「Blade&Soul」などほとんどの作品で,どちらかと言えば戦闘/アクションに重点を置いた,爽快感のあるタイトルが流行しました。ですが,ArcheAgeのサービスを始めたとき,お客さんは待ってましたという感じで,喜んでくれたんですよ。
4Gamer:
久しぶりの“正統派”ということですかね。
Jake氏:
ええ。ArcheAgeは,正統派MMORPGとしてかつてのMMORPG達のように,いろいろなことがゲームの中で出来て,冒険感/生活感がある作品を目指しています。もちろんレイドコンテンツもあるし,攻城戦も行われます。
4Gamer:
これまでに出てきたArcheAgeの情報から見ると,生産などを前面に押し出した「生活系MMORPG」のように見えますが,実際のところ戦争コンテンツやPKだったりも,しっかり存在するということですね。
Jake氏:
そのとおりです。
4Gamer:
公開された情報が生産であったり造船であったり,ハウジングであったり,日本人が好きそうな内容に寄りすぎていたので――というか自分が日本人だからそういう部分に反応しちゃったんですかね――若干イメージが誤解されている可能性もあります。私だけかもしれませんが。
Jake氏:
確かに,生活というイメージから,アクション要素が好きな人にはアピールできていないかもしれません。ですが,ArcheAgeは“何でもできる”んです。韓国ではそれが,いまのトレンドにただ反しているわけではなくて新鮮だ,という評判をいただいています。
あともう一つ,昔からゲームを遊んでいる年配の方――と言っていいのかどうか分かりませんが(笑)――,韓国で言えば「Lineage」のサービスインあたりから遊んでいるようなプレイヤーは,若いプレイヤーが好きなアクション系ではなくて,自分のペースに合わせて楽しめるゲームを遊びたいと話しています。
4Gamer:
ああ,まさに僕もそうですね!
Jake氏:
ですよね(笑)。そんな中でArcheAgeは,クラシックというか,かつてのMMORPGを遊びたいという方々にアピールできていると思います。
4Gamer:
Jakeさん自身が,ArcheAgeをクラシカルな「古き良き楽しさ」を持っている作品だと認識して作っているということで,そこからブレることはなさそうですね。
売れる売れないではなく「仮想世界」が作りたかった
4Gamer:
それにしても,「何でもできる」――生産に始まり,戦闘だったりレイドだったりPKだったり,フィールドへのインタラクションだったり,木に登れたりカンテラを点けられたり――だけでなく,さらには3Dのオブジェクトまで積めたりしますよね。こんなのは久しぶりに見ました。
なんていうか,これまでのMMORPGで登場してきた,ありとあらゆるファクターが入っている作品だと思うんですが,それを一手に手がけているのはJakeさんなんですか?
全般的なディレクションは私です。ただ細かなことまで全部をやっているわけではなく,どちらかというと一段上のレイヤーで,アイデアを出したらそれをアート,企画,プログラムチームに伝えて,具現化できる方法を探すという感じになります。
例えば私が,ワールドにある木を全部切れるようにしてくれと話したんですが,プログラムチームから個体数が多すぎてできないという意見が出ました。一方のアートチームからは時間を掛けて綺麗に作ったものを全部切ってしまうのは……と別の理由で反対が出ました(笑)。そうした会議を重ねて,現状の形になったのです。
4Gamer:
なるほど。ちょうど木のことを聞こうと思っていたんですが,例えば,特定のゾーンで密度を上げようとフィールドデザイナーのような人が言ったときに,そこにはいろいろな問題が発生しますよね。いまお話をされたように,切れる木をどれだけ入れるのか,切れない木だけにするのか。そういうのを決めるとき,Jakeさんが基本的に上に立ってやっているんですか。
Jake氏:
ゾーンのコンセプトを作るときは,例えば砂漠にするのか,森にするのかというのを,私を含めて数人で会議をします。そこで方向が決まったら,プログラムチームなどが作り始め,20%ぐらいができた段階で,一度社内でプレゼンを行います。そこで,ここはおかしいんじゃないかとか,ここに街があったほうがいい,ここに街はないほうがいいといった話をします。こうしたフィードバックは,1回で終わることもあれば,何回も重ねることがあります。
4Gamer:
それを決めるとき,例えば街はこのあたりに1個ないと厳しいといった,ゲームのプレイアビリティを優先するのか,もしくはフィールドデザインの美しさ――あるべきところにあってほしい森だとか,あるべきところにあってほしい廃墟だとか――を優先するのか,Jakeさんはどちらを優先するんでしょうか。
Jake氏:
うーん……傾向的な話をすると,私は世界観を中心に話しますね。例えば,この地域は伯爵が住んでいた地域なのに,城がこんなにショボくていいのか,もっと派手にすべきじゃないか,だとか。一方で,導線を専門にやっているレベルチームや企画チームとの話は,このあたりに街がないとプレイヤーが辛いだろうといったものになります。
プレイアビリティかフィールドデザインか,そういった両極的な話をしているわけではありませんが,私としては世界観が中心です。
4Gamer:
なるほど。例えばSkyrimなんかもそうですが,ゲームの世界のリアリティは,小さな“それっぽさ”の積み重ねだと思うんです。どこまでいっても現実ではないわけですし。ただ,Jakeさんがそこで現実的な発想だけをしてしまうと,ゲームとしてそこからほつれてしまうのかもと感じたので,その点は安心しました。
Jake氏:
まぁでも,最初こそ強く主張するんですが,アップデートが近づいたり,リリースが近づくと,だんだん気弱になるんですよね(笑)。
一同:(笑)
Jake氏:
世界観は崩したくないですが,プレイヤーさんが辛いというのはもっと良くないですから。会議をしているうちに,プレイヤーさんが楽しめて,世界観も崩さず,満足できるアイデアが出て,これまではなんとなくうまくやってこれたと思います。
4Gamer:
そもそもJakeさんが思う辛さは,どれくらいがボーダーラインなんですか。ArcheAgeのようなMMORPGを遊びたいプレイヤーには,そこそこの辛さは割と望むところだと思うんですが。
いやちょっと待ってください。最初に言っておきたいのですが,ArcheAgeはそんなに辛くないですよ!(笑) 「World of Warcraft」のように,クエストを追っていけばレベルキャップまで達成できますし,後半になれば,船に乗ってどこかに行くという要素もあります。なので,プレイヤーさんの中には,ガイドラインがあるから,それに沿ってずっとプレイするという方がいると思います。
ですが,正直なところを申し上げると,ガイドラインに沿ってだけプレイするのではなくて,途中で自分なりの楽しみ方を作ってほしいんです。
4Gamer:
それは生産だったり,まったく違った遊びだったり……先ほど話していた“自由度”と“導線”ですね。
Jake氏:
そうです。それもあって,5次CBTまでの意見を反映し,レベル10になったところで,生活クエストが発生するようにもしました。ArcheAgeは,ハウジングや畑でもそうですが,自分の「何か」を持ってからが本当の楽しさになりますし。
4Gamer:
レベル上げじゃなくて,途中で農業に目覚めるかもしれないですね。グライダーを手に入れてからというもの,どこまで高い場所に行けるのか,ひたすら山登りをしたりとか。
……ところで本作の制作が始まったであろう6年前というと,カジュアルゲームの波が押し寄せていたじゃないですか。その中であえてこのような作品を作ろうというのは,どんな勝算があったのでしょうか。
Jake氏:
たしかに「アラド戦記」や「メイプルストーリー」だったり,30分くらいで気軽に遊べるゲームがあります。ですが……。
4Gamer:
ですが?
Jake氏:
まずそもそも,私がそういうゲームを作った経験がないので,まったく自信がなかったんです(笑)。
4Gamer:
すごい直球ですね!
Jake氏:
もう一つ,MMORPGというのは「ゲーム」という形をしてはいますが,私の中でのMMORPGは「仮想世界」なんです。30分で気軽にできるゲームもいいのですが,その中で社会を作ったり,生活をしたり,コミュニティを維持したり,そういうものは具現化しにくいというところがあります。
うまく売れる売れないという話――もちろんうまく売れないといけませんが(笑)――ではなく,仮想世界を作りたかったので,ArcheAgeを作ったんです。
4Gamer:
その理由は,MMORPGファンとして素直に嬉しいです。
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