インタビュー
「Steins;Gate」の開発元5pb.の志倉氏らが考えるコンテンツ戦略――“原作”たり得る表現メディアとしてのノベルゲーム
5pb.の新たな役員として就任したのは,太田豊紀氏(株式会社ドワンゴ/取締役副社長)や中西 孝氏(株式会社AG-ONE/代表取締役社長),そして安藝貴範氏(有限会社グッドスマイルカンパニー/代表取締役社長)らといった,コンテンツ業界の第一線で活躍する経営者達。これにより5pb.は,ニコニコ動画やラジオ配信,フィギュア販売など,関係各社の強みを生かせる新たな体制で事業に乗り出すことになる。
5pb.といえば,昨年末に発売したSteins;Gateのヒットで,一躍その名を知らしめたゲームメーカーだ。同社の代表取締役を務める志倉千代丸氏は,株式会社ヒューマンを経て5pb.の設立に参画した経歴を持ち,また「Memories Off」シリーズや「Ever17 -the out of infinity-」に楽曲を提供するなど,作曲家としても知られる人物だ。
今回4Gamerでは,そんな5pb.の志倉氏および新役員のメンバーにインタビューを行い,今後の取り組みや同社の戦略,そして現在のゲーム市場やコンテンツ産業全般についてまで,話を広げて聞いてみた。
インターネットや携帯電話など,情報インフラの発達に伴い,ビジネスひいては作品のあり方そのものにおいても劇的な変化を迎えているコンテンツ産業。そんな中にあって,5pb.を率いる志倉氏らは何を思い,どういう形/方向で次のビジネスへ進もうと考えているのだろうか。
「Steins;Gate(シュタインズ・ゲート)」公式サイト
これは“神ゲー”かも。「ゲームで泣くとか(笑)」という人にこそお勧めしたい「Steins;Gate(シュタインズ・ゲート)」レビュー
志倉千代丸(しくらちよまる):5pb.代表取締役社長。「Memories Off」シリーズや「Ever17 -the out of infinity-」に楽曲を提供するなど,音楽家としても知られる |
中西 孝(なかにしたかし):5pb.取締役。株式会社AG-ONEや株式会社ピクチャーマジックの代表取締役社長も兼任し,長年にわたってアニメ/ゲーム/声優を中心としたコンテンツ制作に従事する |
安藝貴範(あきたかのり):5pb.取締役。フィギュアメーカーとして国内で名を馳せるグッドスマイルカンパニーの代表取締役社長。最近では,「ブラック★ロックシューター」などのプロジェクトを展開 |
なぜ今,あえてノベルゲームなのか。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずは,今回の資本提携の経緯や背景を教えてください。
こちらこそよろしくお願いします。
そうですね。まずここにいるメンバー共通の問題意識として,コンテンツ……というか“原作”を生み出すためのビジネスモデルあるいは表現手法が,アニメや漫画,小説以外でもっとやりようがあるんじゃないか,もっと今の時代に即したやり方があるんじゃないか?という思いがありました。
4Gamer:
ドワンゴの太田さんは「5pb.はノベルゲームのPixar(※)を目指すんだ!」と仰っていましたが。
※Pixar Animation Studios。映画「トイ・ストーリー」シリーズなどで知られる映像制作会社
志倉氏:
あれは太田さんが勝手に言ってるだけです(笑)。
ただ,僕がノベルゲーム/アドベンチャーゲームという手法そのものに可能性を感じているのは確かで,そこを軸にしながら「可能な限りビジネスの幅を広げていきましょう」というのが,今回の座組というか,資本提携の大きな目的だったりします。
4Gamer:
こういう言い方も失礼なのですが,ここに来ていまさら“ノベルゲームに着目”というのが,個人的には「逆にとても興味深いな」と感じられるのですが。
コンテンツ開発と一言で言っても,一番簡単なところだと同人マンガや小説,最近ではニコニコ動画みたいなところがある一方で,果ては何十億円と制作費のかかる映画やゲームというスタイルがありますよね。サブカル系のポップカルチャーでいえば,アニメーションという表現手法もポピュラーです。
ただ,コンテンツ開発というものを商業ベースで考えた場合,例えばアニメ制作であれば,1クール数億円という投資が最初の段階で必要になり,とても大きなリスクを背負うことになります。
中西 孝氏(以下,中西氏):
今のコンテンツ業界というのは,ハイリスクハイリターンな“賭け”に最初に乗っからないと,そもそもそのコンテンツ(事業)自体に参加させてもらえないという状況にあるんですよね。もちろん,当たれば“もの凄くデカイ”のですけれど,それ以上に失敗も多いのはご存じの通りです。
安藝氏:
とくにお客さんの趣向やニーズが細分化している現代では,最初に大きなリスクをとるビジネスそのものがやりづらくなっている側面はありますよね。つまり,物作りと市場性の間にあるジレンマというのかな。近年というのは,そういう部分が顕在化してきた時期だと思うんです。
その意味で,本当に最初から大きな投資をしなくちゃコンテンツって作れないものなのか? もっと徐々にステップアップしていくような仕組みが作れないのか? という疑問を,ずっとコンテンツ業界の関係者みんなが抱いているわけです。
そんな状況に対して僕らが出した回答の一つが,今回の資本提携であり,5pb.という会社を軸にしたプロジェクトなんです。
4Gamer:
ゲーム業界でも,開発費の高騰はずっと大きな課題ですからね。つまり端的に言うと,ノベルゲームに着目しているのは,初期投資(開発費)の少なさゆえ,ということでしょうか。
志倉氏:
開発費の少なさも大きな理由の一つではありますが,僕がノベルゲームを指向する理由は,決してお金の面だけではありません。何よりも,ノベルゲームというものの「表現形式としての可能性」に着目しているんです。ノベルゲームは,“原作”を生み出すための表現手法として,とても優れていると思っているんですよね。
コンテンツ産業というものを俯瞰して考えた場合,とにかく“原作”をどう生み出していくかというのが大きなポイントになります。例えば,今はニコニコ動画やmixi,TwitterみたいなWebサービスが大きく伸びる一方で,出版社や既存の媒体は苦しい状況に置かれていて,雑誌などの休刊/廃刊が相次いでいますよね。
4Gamer:
ええ,確かにそういった例は非常に多いですよね。
中西氏:
出版社というのは,コンテンツ産業の中で見た場合に,原作を生み出すために必要な装置/仕組みという役割を果たしています。雑誌や書籍で作品が展開され,そこで磨かれてヒットしたものが次のステージ――映画やアニメ,ゲームなどの“より大きなプロジェクト”へ移行していく,といった流れがある。
出版社の元気がなくなるということはどういうことか。それはつまり,“原作”が生まれる余地がなくなってしまうということなんです。
安藝氏:
新しい作品(原作)が生まれてこなくなるのは,コンテンツ産業にとって一番の恐怖ですよ。原作が生まれなくなると,その周辺のビジネスが全部崩壊してしまいますから。
だから,今のように出版社の枠組みだけでしか原作が作られない状況が続くと,単純に今の雑誌が減る流れに飲まれて,原作の絶対数が減ってしまう。その結果として,メディアミックスビジネスといったものが成立しなくなり,コンテンツビジネスそのものがしぼんでしまう可能性だってあるんです。実際問題,そうした流れはすでに見え始めていると思います。
4Gamer:
確かにそうですよね。人気作を抱えていたはずの出版社ですら,苦境を強いられているようですし,その影響がほかのメディアに及んでいる例は少なくありません。
安藝氏:
また今は,新しい作家さんなりクリエイターさんが乗っかっていける“仕組み”が減っていく傾向にあるので,ここもみんなで変えていかないといけない部分なんですね。雑誌の休刊ラッシュを補う何かは,絶対に必要なんですよ。
中西氏:
出版社とは違う新しい形で“原作”を生み出す仕組み,「初音ミク」や「ブラック★ロックシューター」のように,キャラクターなり原作が生まれるための新しいあり方を,みんなで模索していかないといけないんですね。
“原作”たり得る表現メディアとしてのノベルゲーム
4Gamer:
では改めてお聞きしますが,そこでなぜ「ノベルゲーム」なのですか?
ノベルゲームの大きな特徴って,膨大な量のテキストを駆使して,作家の持つ物語や世界観を表現できるところですよね。コンテンツとしての“濃さ”というのかな。原作たり得るだけの“奥行き”を十分に表現できる手法,それがノベルゲームというジャンルだと感じているんです。
4Gamer:
考えてみれば,近年オタク業界でヒットしたブランドの中には,ノベルゲーム発のものが少なくありませんね。
志倉氏:
そもそも,最初にノベルゲームというものの可能性を大きく示したのは,チュンソフトの「弟切草」や「かまいたちの夜」などといったサウンドノベルシリーズですよね。
4Gamer:
その前にもアドベンチャーゲームと呼ばれるものはありましたが,ノベルゲームという意味では確かに。かまいたちの夜は,累計125万本ですからね。
志倉氏:
当時……というか今もですが,コンシューマゲーム業界を取り巻く環境というのは,大容量化や3D技術の革新などがあり,その流れに引きずられる形で,リッチな表現を追い求める風潮が強くありました。
4Gamer:
そうですね。サウンドノベルシリーズも何かしらの形でのリッチ化が求められていた時期はあったと思いますし,その回答として「街」のように実写を使った方向性があり。
はい。ただ,コンソール業界にそういうリッチ化の波が押し寄せるなかで,相対的に存在感を無くしていってしまったのがノベルゲームというジャンルだったと思います。
一方で,PCゲーム業界――というか,エロゲ業界――では,「痕」という作品のヒットを契機に,ノベルゲームが一大ブームを巻き起こしました。一部のタイトルはアニメになったり,関連商品がドカドカ出てバブルみたいになったわけですが,そこも一度は飽和して市場が弾けた状態になりました。
4Gamer:
そうですね。
志倉氏:
で,エロゲー界隈のブームが一段落した頃に,「CLANNAD」や「ひぐらしのなく頃に」とかがヒットして。「ああ,ノベルゲームって別にエロじゃなくてもちゃんと成り立つじゃないか」というのが証明された。
安藝氏:
例えばの話ですが,アニメって作ろうとすると,30分の映像で1000〜2000万円程度のお金が掛かるんですよ。つまり,お客さんを30分楽しませるために1000〜2000万円というコストが掛かる。
一方で,それがノベルゲームだと,作品の大小によりますが,制作費は5000万円前後が相場です。それでいて全部遊ぶには,40時間とか下手すれば100時間とかを必要とする。要するに,お客さんを没頭させてキャラクターなり世界観なりに浸らせるためのコスト/時間単価という視点で考えると,ノベルゲームは,圧倒的に安価な表現手法なんです。 だからといって,その内容自体が安っぽいかというとそういうわけではない。終わったときの満足感だって,映画やアニメなどに比べても,そんなに遜色あるものじゃないですよね。
4Gamer:
なるほど。
志倉氏:
“原作”に必要な要素とは何かと考えた時に,それはユーザーさんの思い入れであったり,没入感みたいなものがとても大切だと思っているんです。原作を持つことに対するこだわりや意味というのは,そこを無しには語れない。
キャラクターのフィギュアなどといったファンアイテムだって,そういう“熱”がないと買いませんよね。
志倉氏:
原作(ライツ)をベースにビジネスを広げることを考えても,それがアニメ化にせよコミック化にせよ,原作側に作品としての濃さ/奥行きがないと成り立ちません。アクションゲームをコミック化するみたいな話になると,むしろコミック側が原作として扱われてしまったりという話もありますよね。
そうじゃなくて,僕はあくまでも原作を持つ,原作を作るってところにこだわりをもっていて,その意味でノベルゲームという表現手法は,そうしたものを生み出しやすいスタイルだと考えているんです。
4Gamer:
ただ,最近はいろいろなサービスやコンテンツが溢れかえるなかで,時間の奪い合いが激しさを増しているじゃないですか。そんな状況のなかで,「プレイに100時間かかる」というのは逆にデメリットにもなり得るのではないでしょうか?
志倉氏:
ええ,そこについては僕も重々承知しています。例えば,ここに居る二人(中西氏と安藝氏)は,Steins;Gateを遊んでません。「Steins;Gateが面白いって噂を聞いたよ!」みたいな話を僕にしてくるんですよ。……とても失礼でしょ(笑)。
安藝氏:
うちの社員はみんな遊んでたよ(笑)。
中西氏:
数十時間も掛かるのは厳しいです(笑)。
4Gamer:
まぁノベルゲームに限った話ではないですが,テレビの前に座って数十時間遊び込むというプレイスタイルそのものが成り立ちづらくなっているところはありますよね。
中西氏:
やっぱり,ちょっとした時間で遊べちゃうコンテンツが空いた時間を侵食してきますから。
志倉氏:
なので,ノベルゲームの長所を活かすためにも,プレイヤーさんへの「遊ばせ方」みたいな部分はもっと工夫していかなくてはと考えています。
例えば僕が作ったSteins;Gateでは,章仕立てのストーリー構成になっているのですが,これは切りよく遊べるようにという配慮からですし,さらには1章毎にバラ売りする可能性など,今後のビジネスを考慮したうえでの仕様でもありました。
4Gamer:
オンラインゲーム界隈でも,重厚長大なMMORPGから始まって,簡単に遊べるカジュアルゲームへ。そして近年では,プレイヤーの時間や手間を拘束しないブラウザーゲームの隆盛など,プレイそのものが負担を感じさせない方向へ向かう,という流れが顕著です。
志倉氏:
最近話題のソーシャルゲームやブラウザゲームなどは,当然僕も,とても注目しているし,いろいろな可能性のある分野だと感じます。それこそ5pb.が持つコンテンツを,ニコニコ遊園地だったり自社サイトなどで,ブラウザベースで遊べるようにすることだってできると思うんです。
使い古されたアドベンチャーというスタイルを,最新のWebであったりソーシャルであったり,そういうものにどう乗っけていくのかは大きなポイントになっていくでしょう。ただビジネスとしてそこにどんな可能性や魅力があるかというのは,慎重に考えなければなりませんけれど。
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