連載
【ヒャダイン】14年前にニコニコ動画に投稿した「ストII」オリジナル楽曲がCMソングになった令和4年
ヒャダイン / 音楽クリエイター
ヒャダインの「あの時俺は若かった」 |
第88回:「14年前にニコニコ動画に投稿した『ストII』オリジナル楽曲がCMソングになった令和4年」
ども。これまで音楽業界および芸能界でいろいろと仕事をさせてもらっておりますが,私,ヒャダインの経歴をご存じない方も多いかもしれません。
私,ニコニコ動画出身なんですね。プロとしてまったく売れていない状態,アルバイトで食いつないでいた毎日で,「自分の音楽はリスナーに聴いてもらうに値しないクオリティなのだろうか」と自問自答していた頃,ニコニコ動画に出会いまして。ここだとリスナーの声がストレートに届くよなと思い,投稿を始めました。
投稿した動画は,私が幼少期から愛してやまなかったゲーム音楽をリアレンジして,勝手に歌詞をつけて歌もつけてリミックスする,といったもの。
「ロックマン2」のクラッシュマンから始まり,「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」と,いろんな作品のリミックスをやっていたら,ありがたいことにニコニコ動画ユーザーの中で話題となりまして。賛否両論はあれど,それまでの音楽人生ではあり得なかった,音楽に対する評価をしてもらえたことがたいへんな自信となり,本業の前山田健一としての作家活動もグイグイとうまくいくようになったのでした。
今でも覚えているのですが,「ロックマン2」のリミックスをシリーズとして作っていて,ちょうどクイックマンステージのリミックスをアップロードしようとしていたある日,いきなり「『ストリートファイターII』のパンチ音やキック音ってドラムみたいだよな,これでトラック作ったら面白いんじゃない?」と思い付いたんです。そしてストIIの効果音をあれやこれやとサンプリングし,短時間でトラックを作り上げました。
パンチ音をスネアに,キック音をバスドラムにして,キャラクターの声も効果音として各所に散りばめ,カラフルなトラックに仕上げました。そして何を歌おうか……と考えました。それまではゲーム音楽のカバー,つまりメロディをカバーしていたわけですが,今回はトラックを一から自分で作り上げたこともあって,「あ,完全なオリジナル曲を作ろう」と。ニコ動での活動としては初の試みでした。
私はすべてのエンタメにおいて群像劇が大好きなので,ストIIの初期メン8人がマイクリレーしていくスタイルの楽曲にしよう。せっかくなので全員声質を変えてやろうと思い,勝手に声優さんを付けたバージョンを想像してガイルは低音,ケンはクセ強め,ダルシムはベチャッとした声といった具合に勝手に設定し,歌詞を書いて歌を入れていきました。
結果,軽い自己紹介ソングのようなものになりまして,私が2010年代にアイドルグループを中心に自己紹介ソングを書きまくる原点となりました。この曲でノウハウを自ら編み出したのかもしれません。
本来,クイックマンをアップロードするタイミングだったんですが,この楽曲の出来が手前味噌ながらあまりにも素敵だったのでいち早く公開したくなり,急きょ予定を変更してこちらを先にアップロードしたところ,予想を遥かに上回る反響をいただいて爆速で再生数が伸び,国内外を問わず評価していただけました。
しかしオリジナル曲とはいえ無断でサンプリングしているわけですし,さらに当時のネット文化は嫌儲傾向。これをビジネスにでもしようものなら一気に逆風が吹くだろうということは分かっていましたし,「みなさんが喜んでくれたならそれで十分だ」と,喜びだけで胸がいっぱいでした。
それから数年が経ち,「ヒャダイン=前山田健一」と世の中に公表し,その後,ももクロやエビ中への楽曲提供,まさかの自分自身のCDデビュー,TV出演からのタレント業,そこからは本当に素晴らしいアーティストの皆様と出会い、数多くの楽曲を提供させていただくという楽しい人生を送っておりました。
やがて,2020年くらいからでしょうか。いろんな現場でスタッフさんから,「小さい頃,ニコ動でめっちゃ観てました!」「小学生の頃,ニコ厨でした!」と声をかけていただくことが増えてきました。「あー時代がぐるっと回ったんだなあ。やってきたことは無駄じゃなかったんだなあ」と,時の流れにほのぼのすることが多々あり,逆に今現在もしっかり頑張らないと未来の自分に申し訳が立たないなあ,なんて気合いを入れ直す毎日を送っているのです。
そんな2022年,マネージャーから「サントリーの『THE STRONG 天然水スパークリング』のWeb CMソングで,ストIIのあの曲を使いたいとのことなんですが,どう思いますか?」と連絡が来ました。
え? ええええ? どゆこと? 野良で作っていた作品がWeb CM? そこで私は聞き返しました。「え? ということはカプコンさんの許可は取れている,ということですよね?」「はい,そうでしょうね」。
お。おおお。なんとまあ。14年の時を超えて公式様に認識され,そして許可していただけたんですね。こんな未来が待っていただなんて,2008年のヒャダインくん,びっくりだね。当時28歳。貧しいけど夢に溢れていたヒャダインくん。こんな未来が待っているんだよ。
そしてWeb CM用に曲のスピード,すなわちBPMが上がり,ビートの刻み方も変わり,歌詞もTHE STRONG 天然水スパークリング用に変更しつつ,2022年バージョンとして新しく生まれ変わった「THE WORLD WARRIOR」が出来上がりました。
もちろん歌詞が変わったので私自身がすべて歌い直しました。2008年,ボロボロの六畳で目を輝かせて歌ったあのテンションで,2022年にそこそこいい感じの自宅スタジオで歌い直す。もっと変わってしまうかなと思っていたのですが,意外に声色とか変化なくできたかなあなんて思っています。
そして映像と合わさって世界に公開されました。その映像が本当に素晴らしくて,当時のストIIの画質のはずなのにキャラクターがTHE STRONG 天然水スパークリングを飲んでいたり,細かいところの文字がCM用になっていたりと遊び心が満載。しかもTHE STRONG 天然水スパークリングのボトルをカメラで写すとスマホでストIIのボーナスステージのようなゲームが楽しめるという。
公開されるやいなやTwitterでも「懐かしい!」という声や「ついに公式!」といった声をたくさんいただき,あらためて「ああ,こんなにたくさんの方々の想い出を作ることができていたんだな」と思うと同時に,当時の私の曲を知らない方からも動画が面白いとたくさん評価をいただき、再生数もすごいことになっていて嬉しい気持ちでいっぱいです。
ストリートファイターの公式Twitterからもツイートされていて。ああ,やってきたことには意味があったんだなとあらためて感じました。もちろん当時は公式になりたい,公式に認められたい,という気持ちで制作したわけではないですし,先程も書いたようにみなさんに楽しんでいただく,というのが一番のモチベーションだったのですが,とはいえ公式に認められるのは嬉しいものです。
そしてさらに嬉しいのが,この企画で私のあの曲を使おうと言ってくださった方々も,きっと学生時代にこの曲を聴いて育った方々だってことですよね。当時学生だった方が今バリバリ仕事をする世代になっていて,そういった方々が仕事をくれるという。そりゃ自分も老けるよな,と鏡の中の自分の老いを再確認すると共に,昔の自分と今の自分が連綿とつながっていることを実感します。
これからもあの頃と同じく「楽しいなあ」をモチベーションに、楽曲制作をガンガンやっていこうと思った令和4年のお話でした。
■■ヒャダイン(音楽クリエイター)■■ King & Prince,でんぱ組.inc,「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」への楽曲提供のほか,アニメ「彼女、お借りします」の劇伴,さらにはアニメ「デジモンゴーストゲーム」でのスガシカオさんとのコラボなどが次々と発表されているヒャダイン氏。どれも忙しい時期に頑張って作った曲ばかりだそうです。 |
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