連載
【鈴木謙介】「ゲームハードとしてのiPhone」
鈴木謙介 / 社会学者
鈴木謙介の「そこ見るんですか?」 |
ゲームインタフェースとしてのタッチスクリーン
さて,ご存じのとおりiPhone/iPod touchに採用されているマルチタッチスクリーンは,ゲームのインタフェースとして考えた場合,複数の接触点を検知できることと同じくらい,「指でないと操作できない」という点が重要です。
ニンテンドーDSに採用されている「抵抗膜方式」のタッチスクリーンであれば,指でもタッチペンでも操作できるのですが,「静電容量方式」を採用するiPhone/iPod touchの場合,指で直接画面に触れる必要があります。
技術的な違いはさておき,この制約はゲームインタフェースとして考えた場合,長所にも短所にもなり得る特徴だといえます。
先に短所から挙げると,「指で触る」インタフェースは,細かな入力に向かないという点があります。とくにiPhone/iPod touchの画面サイズとなると,文字入力や画面のドラッグですら,イライラさせられることが多いわけです。そのため,リアルタイム性を取り入れたゲームだと,操作ミスが発生する確率は高くなると考えられます。僕の試した範囲だと,「Real Racing」などのレーシングゲームなどで,この傾向は顕著でした。
また,画面上に表示されたコントロールアイコン(ボタンなど)は,あくまで疑似コントローラーでしかなく,押す,回すといった動作を行っても,物理的なコントローラが持つフィードバックはありません。
たとえばiPhoneアプリでも「ストリートファイター」シリーズは大人気のようですが,ソフトウェアの面でどれだけオリジナルの再現度が高かろうと,アーケード版のファンを魅了した,レバーとボタンならではの「入力の快楽」をそこに求めることは不可能でしょう。
一方,長所としては,指で触ることでしか得られない,物理コントローラとは別の「入力の快楽」が挙げられます。カードゲームやパズルゲームなどでは,「めくる」「線を引く」といった動作がよく用いられますが,指で触れることで,コントローラやタッチペンを使うよりもダイレクトな感覚を得られます。
例えば,映画「サマーウォーズ」に出てきた花札ゲーム「こいこい」をアプリ化した「サマーウォーズ〜花札KOIKOI」は,花札ならではの「ばしっ!」と叩きつけたくなる感覚をよく伝える作りになっています。実際にやってみたことはないんですが,麻雀ゲームなんかも似たような部分があるかもしれません。
また,入力ミスを誘いやすいという,インタフェースとして考えた場合には負の要素になりがちな特徴も,ときには〈ゲーム〉性を高めるものになることがあります。
時間制限のあるパズルゲームやアクションゲームなどで,スピードが速くなったりBGMが変わったりすることで,プレーヤーを焦らせるという表現手法がありますが,コントロールのしにくさが,その焦りゆえのミスをさらに誘発するというわけです。
新しいゲームハードとしての可能性
もちろん,iPhone/iPod touchの特徴は,タッチスクリーンだけではありません。ゲームに応用が利く機能として,ネットワーク機能,3軸加速度センサー,GPS機能(iPhoneのみ),あるいは音声入力機能や音楽再生機能などが挙げられます。
ネットワーク機能の応用法としては,すでに多くのゲームで採用されているネットワーク対戦やスコアランキングなどのほか,パズルゲームのマップを作成して配信したり,追加コンテンツとしてダウンロードしたりするソーシャルメディア的な使い方があるでしょう。mixiアプリなどのソーシャルアプリが注目を集めている今,ネットワーク機能を取り入れたゲームは,今後も増えていくと考えられます。
同じく,3軸加速度センサーも,アクションゲームを中心に多くのゲームで利用されています。こちらはコントローラの入力のしにくさを補完する一方,「左右の傾き」だけを入力情報に用いるものが目立ち,つい「前後の傾き」まで意識してしまうプレーヤーの自然な身体の動きとうまくなじまず,かえって操作しにくくなっているものも見受けられました。このあたりは,「慣れ」という側面もあるのでしょうが。
また,GPS機能との連動でいえば,「コロニーな生活☆PLUS」(関連記事)のような「位置ゲー」的な応用の方向があり得ます。アプリとしてはGPS連動型のものはたくさんリリースされていますが,〈ゲーム〉性を高める方向でGPS情報を利用するようなゲームも,今後は出てくる可能性があります。
アプリとしてリリースされているわけではないものの,メディア教育の一環として,リアル空間での鬼ごっことiPhoneを連携させた遊びを取り入れる試みもあるそうです。ただしこの場合,プライバシーの問題をどうするかといった点は,クリアしなければいけないハードルになってきます。
音声入力機能は,ゲームというよりは,ちょっとしたアプリのレベルでは見かけますが,この連載でいう〈ゲーム〉の中にうまく組み込まれたものを見つけることはできませんでした。
音楽再生機能は,イントロクイズのようなものがあるほか,「ソングサマナー 歌われぬ戦士の旋律 完全版」では,音楽から戦士を生み出すという,「バーコードバトラー」のような使い方が提示されています。ですが,多くのゲームにおいてはBGM機能として利用可能なくらいでしょう。
ともあれ,こうした機能を組み合わせることによって,従来のゲームハードにはなかった,新しい〈ゲーム〉が生まれる可能性が,iPhone/iPod touchにはあります。
そうした方向性はまだ模索段階ですし,従来のゲームとは開発規模もビジネスモデルも異なるケースが多いので,あまりいろんなことを言いすぎないほうがいいのかもしれません。実際,海外製のアプリで,アーティストのプロモーションを兼ねたピンボールゲームなんかがリリースされているのを見ると,ことさらに「ゲームができる」という部分だけに注目して,ゲームの文脈でiPhone/iPod touchと,そのアプリを扱う必要もない気がしてきます。
けれど,だからといって,せっかくの可能性を無にしてしまうのももったいないでしょう。
これからはどんなゲームが?
では今後,とくに日本の市場で受け入れられそうなiPhone/iPod touchのゲームには,どんなものがありそうでしょうか。完全に主観になりますが,いくつかのパターンを挙げてみたいと思います。
・暇つぶしニーズに応えるゲーム
いわゆるガラパゴスケータイ用のアプリと同じく,1キー(というか1タッチ)のみの簡単な操作で,1〜3分程度で1サイクルを終えることのできるシンプルなゲーム。ケータイ向けアプリとしてもヒットした「糸通し」などが典型です。
これはとくに電車の待ち時間や,友達からのメールの返信を待つ間などにプレイするのに適したゲームで,ケータイのモバイル性や,コミュニケーションデバイスでもあるという特性とうまく接続した事例でした。iPhoneでも,そのあたりの事情は変わりません。
ガラケー向けのゲームとの大きな違いは,ハードウェアの処理能力とグラフィックスにあります。この点で「iBasket Free」は,ゲームとしてのコンセプトは糸通しなどとよく似ているものの,物理シミュレーションをうまく活かして,iPhoneならではのクオリティを出すことに成功していたと思います。
・コンテンツの追加が可能なゲーム
クイズゲームやパズルゲームは,飽きが来るのが早い上記のようなゲームと違って,うまくハマると,ついつい繰り返しプレイしてしまいがちです。しかしこれらはその特性上,同じゲームを永遠に繰り返すことができません。そこで,ネットワークに繋がるという機能を活かし,追加コンテンツを配信することで,〈ゲーム〉としての楽しみを継続させるわけです。
実はこの分野で最も可能性があり,また場合によっては最も面倒になるかもしれないのが,いわゆる「音ゲー」だと思います。アーケード版ほどの迫力や体感は得られないものの,例えば「太鼓の達人 プラス」で二本指を使って連打しているときなど,ちょっとほかにはない爽快感があります。
ですが,まさにこの種のゲームは,追加コンテンツとしての楽曲を配信し続けなければ,即座に飽きられてしまうものです。
アーティストプロモーションの一環でアプリを配信している事例があることは既に書きましたが,同じような理屈でオリジナル楽曲を提供するレコード会社,アーティストが出てくれば,もう少し音ゲーアプリも注目されるようになるのではないでしょうか。
・旧作・名作の移植やリメイク
ものすごく後ろ向きに聞こえるかもしれませんが,現在も多数リリースされている旧作や名作の移植版,リメイク版は,今後の可能性という意味では大きな意義を持っていると,僕は思っています。
従来のゲーム機の多くは,後継ハードであっても下位互換がほとんどないため,中古市場は発達しているものの,消費者にとっては過去の作品はハード込みで所有せざるを得ません。メーカーにとっても,中古ソフトが売れたところで利益にはならないという現在の状況は,ゲームを,一定の蓄積を持った文化として考えるうえで,とても不利なものです。
確かにほかのハード向けにも移植版は作られていますが,パッケージ販売がメインの場合,新しいハードが出るたびに移植版を作ってリリースするのは,開発コストの面から見ても非効率です。その点,iOS向けの移植ならば,アップデート版をユーザーに提供することで互換性問題を解決できる可能性が高く,日本のゲーム文化が持つ蓄積を世界に知らしめるという意味でも大いに役立つのではないかと思います(「FINAL FANTASY」は,日英以外の複数の言語に対応していますね)。
むろんそこには,価格をどうするかという問題はあります。例えば「キラ☆キラ for iPhone+iPod touch」は間違いなく名作だと僕は思っていますが,それでも2200円は,ちょっと(かなり)躊躇する値段です。
それでも「いつかMac OS上でノベルゲームが動くようになるなら,投資だと思って買ってもいいかも」と逡巡しますが。ともあれこの辺,ビジネスモデル上の問題も含めて,是非各メーカーさんに検討してもらいたいところです。
とまあこんな感じで,ゲームハードとして考えたときに,iPhone/iPod touchとそれを取り巻く環境はどう見えるのかについて考えてみました。
有料無料含めていくつかのゲームをプレイしただけの感想ですが,正直なところ,まだまだ発展途上の部分が多く,可能性は大きいけれど芽を出さないままの種も多そうだなと思えました。
ですが,とくにモバイルゲームはユーザーのライフスタイルによって,求められるゲームがダイブ変わるので,一つの視点だけで語るのは危険なもの。さまざまな発展の可能性をにらみつつ,頭ごなしに否定しない姿勢が大事なのだと思います。
■■鈴木謙介(関西学院大学准教授)■■ 社会学者として教鞭を執る傍ら,TBSラジオ「文化系トークラジオ Life」やNHK教育テレビ「青春リアル」に出演中。この記事で触れたもの以外では,「Crazy Snowboard」や「クレヨン・フィジックス」にはまっているそう。そのかわり(?),夏のうちにクリアするつもりだった「ファイナルファンタジーXIII」は,先月以来触っていないとか……。 |
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