インタビュー
MMORPGにおけるコントローラ操作のスタンダードになりえるか――ついに公開された「FINAL FANTASY XIV: 新生エオルゼア」のPS3版SSに関して,吉田氏と皆川氏にいろいろ聞いてみた
必要な情報はキャラクターの周囲に表示
ログを気にせず遊べるフライテキスト
4Gamer:
スクリーンショットで,キャラクターのセリフが吹き出しになっているものがありますが,これはNPCの発言ですか?
吉田氏:
そうです。発言などのログ関係を,順を追ってご説明しましょう。今回,可能な限りログを見なくともプレイできるように制作したため,バトル中も「誰が何をした」というような情報が,フライテキストとしてPCの周囲に表示されます。
もちろん,こういったフライテキストやNPCのセリフなどは,すべてログに記録されますし,むしろログのほうが詳細に記載されます。ですが,それは装備の計算式まで気になるようなレベルの方が,見るものでいいだろうと。
皆川氏:
上級者プレイヤーの中には,キャラクターではなく,ログだけを見てプレイしている方がいますよね(笑)。
4Gamer:
誰がどんな行動を取ったのか,正確に知ろうと思うとログが頼りになりますからね。
自分もそういうタイプのプレイヤーでしたが,これから新生FFXIVでプレイヤーさんを増やそうと考えた場合,そうではないでしょうと。例えば,コミュニティに入って,初心者の方が「ログ読んでないの? ちゃんと書いてあったでしょ」と言われたら辛いですよね。
一方,PvP主体で遊ぶ人であれば,ログとにらめっこしながらプレイするだろうと思います。PvPでは,情報の見落としが命取りになりますから。しかし,そのスタイルを普通にプレイしている人達に押し付けるのはしんどいだろうなと。
4Gamer:
それを解決するのがフライテキストですか。
吉田氏:
そうです。開発中のエピソードになりますが,初期αバージョンクライアントの内部テストでは,アイテムドロップの情報がフライテキストで表示されなかったんですよ。
僕がプレイしていたらアイテムが全然ドロップしなくて,担当に「これアイテムドロップにバグない?」とクレームを入れるとそんなはずはないと。よくよくログを確認してみたら,確かにログにはボロボロと出ていたんです。つまり,アイテムドロップを含めて,実際にそれまでログをずっと見ないでプレイしていたので,気がつかなかったんですよ(笑)。それで「ああ,これフライテキストにドロップ情報ないよ?」って言ったら,「あ……ほかの開発にも言われたのは,これのせいか……」と担当者が。
開発チームには現行FFXIVのプレイヤーもかなりいますが,彼らですらもうフライテキストに慣れてしまって,ログを見なくなっているという証拠ですね。
4Gamer:
フライテキストだけで,情報が足りていたわけですね。
吉田氏:
ええ。αテストで公開するバージョンでは,ちゃんと「アイテムが手に入った」という情報がフライテキストで表示されます。なお,具体的に何が手に入ったのかは,フライテキストが長くなりすぎるので,ログにだけ記録されます。このあたりのさじ加減も大切ですね。
4Gamer:
それだけログを見なくても遊べるということは,先ほどの画像のように,プレイヤーも吹き出しでチャットができるんですか?
吉田氏:
いえ,それはないです。また今後やるつもりもありません。
4Gamer:
それはなぜでしょうか。
吉田氏:
やはりPvPを含め,エンドプレイヤー寄りのコンテンツになっていくほど,ほかのプレイヤーの一言が重要になります。「そっちに行くな!」だとか。そのときに,ほかの吹き出しで見えなかったり,吹き出しが消えてしまったりで,発言を見逃してしまいかねないので。
4Gamer:
確かに,戦闘が大規模になっていくほど,指示の見逃しは痛いです。
皆川氏:
ですからチャットのテキストは,必ず画面に表示されることを重視しています。
吉田氏:
吹き出しも“皆がいて,それぞれに話している”という雰囲気が出て,非常に生活感があるのですが,やはり最終的には邪魔だという人が出てくるでしょう。雰囲気と最終的に求められる利便性を両立するのは,相当難しいことです。
ちなみに,吹き出しで会話しているNPCですが,正式名称ではありませんが開発チームでは「賑やかしNPC」と呼んでいます。スクリーンショットで頭上にネームが出ているのがプレイヤーと会話できるNPCで,それ以外がターゲット(直接会話が)できない,「賑やかしNPC」です。
4Gamer:
ターゲットができないということは,近づくと自動で何らかのセリフを話すわけですね。
吉田氏:
僕個人の好みとしては,本来RPGでターゲットできないNPCがあまり好きではありません。「ドラゴンクエスト」シリーズや「ゼルダの伝説」で育ってきましたので,街にいるNPCは全員に話しかけられるものだと考えてしまいます。ゼルダなら,離れたところにいるNPCでも,ナビィがターゲットして会話できるようになっていますよね。
ところが,新生FFXIVはこれだけ広大な世界を描いていますから,すべてのNPCに意味を持たせることは事実上不可能です。しかしNPCを減らしてしまっては,生活感が演出できません。昨今のコンシューマRPGのようにボイスを使った演出も,今後のアップデートを考えると,スピードを重視しつつ、すべての会話セリフに多言語ボイス対応するというのは不可能ですし,現実的ではありません。
4Gamer:
アップデートのたびに普通のNPCにまでボイスの収録をして,しかも多言語となると,時間がいくらあっても足りないですね。
吉田氏:
そこで,「賑やかしのNPC」は,プレイヤーが近づくと吹き出しでセリフが表示され,遠ざかると消えるようにしました。例えば会話できるNPCが演説していると,それについて「賑やかしNPC」が感想を言っていたりするわけです。
これは日本のRPGっぽい部分ですね。「フルボイスにしてほしい」というリクエストもあると思うのですが,長くプレイするゲームだと,BGMを消して,ほかの好きな音楽をかけながら遊ぶようになることもありますし。
4Gamer:
ああ,よく分かります。
吉田氏:
そうなった場合に,例えばフルボイスでテキストを非表示にすると,重要な情報を聞き逃してしまうかもしれません。そういったことも踏まえて,画面上にテキストを表示させることに勝る手段はないだろうと。ここは「古い」と指摘されようが,このままで行こうと考えています。
また,今回,NPCに吹き出しを付けたのは,「FFっぽいね」「ジャパニーズスタイルだね」と思っていただけるような,コンシューマゲームに親しんできた人や,海外の日本のゲームファンに向けた取り組みでもあるんです。
4Gamer:
確かに,コンシューマゲームのような雰囲気が出ていますね。もう1点,スクリーンショットで気になったのが,PC版では左上に出ていた経験値のゲージが,画面右下に移動していることです。表記も違うみたいですが。
吉田氏:
これはまだまだ数値調整中のスクリーンショットなので,数値もほぼダミーのようなものです。バトルもコンテンツも,得られる経験値は現行バージョンとはまったく異なります。
4Gamer:
新生FFXIVでは,クエストをクリアしていくと経験値が入る,いわゆるクエスト主体で進んでいくようになるそうですね。
吉田氏:
そうです。序盤から,どんどんクエストで引っ張っていきます。逆にフィールドにいるモンスターを倒しても,経験値はそれほど獲得できません。
皆川氏:
開発チームでも,実装されているクエストがなくなったタイミングで,「レベルが上がらない!」という悲鳴が上がります(笑)。クエスト担当者が「今クエスト追加してるから,数日待って!」と返答があると「じゃあ,クエスト入るまで待ちます!」って。
吉田氏:
開発のみんなも現行バージョンでは,あんなにモンスターキャンプに行ってたのに(笑)。でも,そう思うくらいに経験値の獲得方法やゲームの導線,スタイルが現行バージョンから変わっているんですね。
4Gamer:
思っている以上に,クエストの比重が高くなっていると。そうすると,クエストへの導線は重要になりますね。
吉田氏:
とくに序盤は一つ一つ丁寧に導線を作っています。やはりMMORPG経験者にとって当たり前のことでも,コンシューマゲームから入ってきたプレイヤーさんには,初めてのことばかりですから。
PC版のαテストは2012年10月末に実施予定。PS3版の情報も順次公開していく
4Gamer:
ところで,たびたびお話に出てきた,PC版のαテストですが,これはいつ頃実施されるのでしょうか。
いまのところ,2012年10月末に実施できる見込みです。ちょっとだけ心配なのは,皆さんの期待が高まりすぎていることですね(笑)。αテストは“あくまでもサーバーの負荷試験”なので,お手柔らかにと。
4Gamer:
どうしてもプレイヤーとしては,新生FFXIVになってどう変わったのか,そのクオリティに目がいってしまいますよね。
吉田氏:
クオリティという言葉も,プレイヤーそれぞれに定義が違っていて,グラフィックスの仕上がりを見たい方もいれば,UIを見たい,ゲームデザイン上の導線の流れを見たいという方もいます。
そこで今回は,サーバー負荷試験ではあるけれども,新生FFXIVの基礎部分まではチェックしていただくつもりでいないとダメだという話を開発チームにしています。
コンテンツに関しては,βテスト以降の実装をあらためてアナウンスしますので,今回はサーバーレスポンスや,フィールドが切り替わったときのローディングのスピードなどにはかなりこだわったので,注目していただきたいですね。
皆川氏:
暗転時間中にローディングの演出を用意していたら,マップによっては切り替えの暗転時間がほとんどなくて,最初に用意した演出をそのまま使えなくなった、なんてこともありましたね(笑)。
吉田氏:
そう,演出を入れたらかえって遅くなったんですよ(笑)。ただ,それくらい基礎はしっかりと作ってきました。
4Gamer:
でも,ゾーンの移動速度が速いというのは,快適にプレイできそうで嬉しいですね。
吉田氏:
ですので,αテストに参加したプレイヤーさんからは,「それで,本格的に遊べるのはいつ?」という話が出てくると思います。コンテンツに関しては,既存コンテンツの移植と,新規追加分の開発を,尋常ではない人数で進めています。そして,それを僕が全部チェックしているので,恐縮ではありますがジリジリお待ちください。
4Gamer:
その作業量も尋常ではないですよね。
吉田氏:
僕はそうしないと気が済まない性分ですし,今回は遊びに対しても責任を持ちたいですから。それに僕が考えるラインと合致するか,それを超えない限りは,この先10年を戦えるタイトルにはならないでしょう。
4Gamer:
10年戦えるタイトル……その言葉で期待がさらに高まりそうです(笑)。では最後に,新生FFXIVの今後を楽しみにしている読者に向けて,メッセージをお願いします。
皆川氏:
コントローラでも,マウス/キーボードと遜色ない操作ができることを目指してUIを作っています。できれば,MMORPGにおけるコントローラ操作のスタンダードと言われるくらいに仕上げたいという野望を抱きつつ,今,追い込み段階を迎えています。βテストでは触っていただけますので,PC版のプレイヤーさんも,ゲームパッドモードを試してみてください。
吉田氏:
皆川の言うとおり,コントローラ専用UIをわざわざ別ラインで作っているのは,これまでのコンシューマ機のFFで遊んでこられたプレイヤーさんを,とても大切に考えているからです。これまでのFFシリーズと何も変わらない,肩に力を入れなくても遊べるものになっています。最初は方向キーとボタンで遊べて,その先も長いあいだずっと使い続けられるUIを作りました。ぜひお友達と情報交換しながら,いろいろ試してください。
また今回,PS3版の情報をようやく公開できました。ここまで長らくお待たせしてしまいましたが,今後は静止画だけでなく,動画,実機プレイと,段階を追ってお見せしていきます。ぜひ期待してください。
4Gamer:
ありがとうございました。
インタビューで言及されているとおり,PS3版および,PC版のゲームパッドモードは,コンシューマゲームメインのプレイヤーでも,戸惑うことなく自然にプレイできるように,さまざまな配慮がなされているようだ。
その一方でMMORPGの経験者に向けては,クロスホットバーのパレット切り替えとマクロのショートカットアイコンが用意され,カスタマイズ次第では,マウス/キーボードに劣らない,もしくはそれ以上の操作性を実現しているというのが印象的だ。
その操作感は,実際にプレイできるまで判断できるものではないが,皆川氏の言うMMORPGにおけるコントローラ操作のスタンダードになりえるものなのか。早くその感触を確かめてみたいところだ。
なお,今回のインタビューで見せてもらったUIは,デザイン周りなどが日々改良されているとのこと。現在の開発チームには,UIを含めゲームのすべての部分をより良くしようという雰囲気になっているそうで,吉田氏はインタビュー後の雑談で,その状況を「開発が全般的に順調だから」と話していた。その一方で,「欲が出すぎて,いつまで経ってもサービスが始まらないような状況は避けないと」と,冗談交じりに言っていたことが印象的だ。
FINAL FANTASY XIV,The Lodesotne
「FINAL FANTASY XIV」公式サイト
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ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア
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