インタビュー
[TGS 2017]ALIENWAREは3年前から18コアCPUの登場に向け準備していた。TGSで発表された新製品の勘所をブランドディレクターに聞く
具体的には18コア36スレッド対応CPU「Core i9-7980XE」を搭載する「ALIENWARE Area-51 R4」や,34インチウルトラワイドの湾曲液晶パネル搭載ディスプレイ,Microsoft Mixed Reality(以下,MR)対応のヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD),Inspiron 15 7000 GamingノートPCの新世代モデルなどだ。
4Gamerでは,東京ゲームショウ2017に合わせて来日し,発表会で登壇したALIENWARE製品のディレクター,Christopher Sutephen(クリストファー・サトフェン)氏に,発表会で明らかにならなかったことを追加で聞くことができた。ニュース記事で一部宿題になっていたところも質問してきたので,以下,その内容をお届けしたい。
Area-51 R4は2014年時点で18コアクラスのCPU搭載を想定
本日はよろしくお願いします。まずはALIENWARE Area-51(以下,Area-51)からですが,思い返すと,Area-51が第4世代の「R4」になり,特徴的な「Triad」(トライアド)デザインを採用したのは2014年10月のことでした。
今回,18コア36スレッドのCPUを採用するモデルが登場しましたが,その外観は当時から変わっていないように見えます。2014年設計のPC筐体に18コアCPUを搭載するというのは,想定していたのでしょうか。
Christopher Sutephen氏:
Area-51には,「将来のゲーム用ハードウェアを踏まえて開発する」というコンセプトがありました。ですので,開発を開始した時点で,(Triadデザインを採用するR4の製品寿命があるうちに)16コアや18コアといったCPUがハイエンドのゲーマー向けデスクトップ向けとして出てくるであろうということは想定していました。
4Gamer:
ああ,そうなんですね。
Christopher Sutephen氏:
ええ。
もちろん,当時の時点でそんなCPUを入手して実際にテストすることはできませんでしたが,(シミュレーションにより)Area-51の電源系や冷却システム,そして筐体は,2014年の時点で18コアCPUをサポートできるものになっていたとお考えください。
4Gamer:
東京ゲームショウ2017の展示は動態で,内部構造は明らかになっていませんが,18コアモデルをラインナップへ加えるにあたって,Area-51 R4の簡易液冷システムやファン,電源ユニットといった部分を,従来の10コア20スレッド対応システムからは変えていないということでしょうか。
シャシーの基本設計はまったく変えていません。ただ,ご想像いただけるように,18コアのCPUはとても発熱が大きいので,冷却システムに関してはIntelとAlienwareとの間で詳細を詰めて,新しいものに変更しています。
4Gamer:
具体的にはどのような変更が入っていますか。
Christopher Sutephen氏:
(簡易)液冷システムを採用しているのは従来通りですが,Intelの18コア36スレッド対応CPU,あるいはAMDの16コア32スレッド対応CPUを搭載したとき,定格動作に対してだけでなく,オーバークロック設定を行っても十分に対応できる能力を持った専用のものを,液冷クーラーの大手であるAsetekと共同で開発しています。
4Gamer:
その新設計の冷却システムですが,あくまでも16コア以上のCPUに向けたものという理解でいいでしょうか。それとも,現行の10コアCore i9搭載モデルでもすでに採用されているのですか。
Christopher Sutephen氏:
どのモデルが新しい冷却システムを搭載しているか正確には確認が必要ですので,この場ではっきりとお伝えすることはできません。
断言できるのは,今回発表した18コアモデルと,北米で展開中の「Threadripper Edition」は新しい冷却システムを採用しているということです。
4Gamer:
では,マザーボードはいかがでしょうか? 電源周りが強化されているとか,そういうことはありますか。
Christopher Sutephen氏:
マザーボードは(10コアの「Core i9-7900X」搭載モデルから)変わっていません。
4Gamer:
Core Xファミリーだと,18コアと10コアの間に,16コア32スレッドや12コア24スレッドに対応する製品もありますよね。このあたりをBTOオプションとして採用する計画はありますか。
Christopher Sutephen氏:
はい。「最高性能の選択肢を」ということで,まずは18コアに注力していますが,北米市場では16コアや12コアのモデルも,ホリデーシーズンに向けて投入を計画しています。
ただ,日本での発売予定は私からは何とも言えません。
分かりました。
さて,先ほどちょっと話の出ていたThreadripper Editionですが,北米市場での販売開始からけっこう経った現時点でも,日本では注文できません。その理由は何ですか? 北米市場における需要が高すぎて,プロセッサの供給が間に合っていないとか,そういう理由でしょうか。
Christopher Sutephen氏:
供給が追いつかないということではありません。正直なところ,アジア太平洋地域ではRyzen Threadripperの需要が高まっていないというのが,最も大きな理由です。Threadripper Edtionを用意しても,それにかけるコストに見合う十分な販売台数が見込めないというのが現状なんですね。
4Gamer:
それは残念ですね。
ということは裏を返すと,北米市場では売れ行き好調ということですか。
Christopher Sutephen氏:
おかげさまでゲーマーからの注目を浴び,販売台数も伸びています。AMDがハイエンドデスクトップ市場に復帰してきたことで,競合も(製品投入を)前倒しし,結果として市場が活気づいていますよね。
健全な競争があれば,ゲーマーにとっての選択肢が増えて望ましいですし,我々としても歓迎しています。
パネルサイズ以外の仕様が大きく異なる34インチウルトラワイド液晶ディスプレイの秘密
4Gamer:
次にディスプレイです。今回は34インチ曲面パネルを採用する2モデルが,復活のALIENWAREディスプレイ第2弾として発表になりました。
それに対して今回の「ALIENWARE 34 Curved Gaming Monitor AW3418DW」(以下,AW3418DW)と「ALIENWARE 34 Curved Gaming Monitor AW3418HW」(以下,AW3418HW)は,むしろ同じ仕様なのはパネルサイズだけと言っていいほど異なるモデルになっていますね(関連記事)。今回の2製品における棲み分けを聞かせてください。
Christopher Sutephen氏:
シンプルに言えば,ハイエンドモデルと,価格を抑えたモデルということです。AW3418HWの日本における価格は決まっていませんが,パネル解像度が3440
4Gamer:
となると,解像度2560
Christopher Sutephen氏:
ちょっと違いますね。
4Gamer:
と言いますと?
Christopher Sutephen氏:
たとえるなら,「フェラーリのエントリーモデル」です(笑)。
4Gamer:
(笑)。
ともあれこれで,ラインナップは24.5インチワイドと,34インチウルトラワイドになりました。一般的なゲーマー向けディスプレイのラインナップだと,23〜25インチクラスが主力としてあって,27〜28インチ,32インチといったアスペクト比16:9のモデルがあって,それからウルトラワイドといった感じになると思うんですが,今回「第2弾でいきなり34インチ」にしたのはどういう経緯なのでしょうか。
Christopher Sutephen氏:
我々が最も重要しているのはユーザーの声です。ご指摘のとおり,23〜25インチのモデルはe-Sportsチームからのニーズが強く,我々も彼ら彼女らからのフィードバックを得て開発した次第です。
e-Sportsチームが最重視するのは垂直リフレッシュレートと応答速度で,だからこそ我々は,240Hzで1msというスペックに設定したわけですね。
4Gamer:
はい。
同じように,34インチモデルもユーザーの声を基に開発した製品です。なぜ「34インチウルトラワイドか」というご質問に対しての正確な理由は手元に資料がないためお答えできませんが,ユーザーの声を聞いて設定したサイズであり,解像度であり,アスペクト比であるということだけは間違いありません。
4Gamer:
34インチの2製品は,上位モデルが垂直リフレッシュレート最大120HzでG-SYNC対応,下位モデルが垂直リフレッシュレート最大160HzでG-SYNCにもFreeSyncにも対応せずとなっていて,今回はFreeSync対応が見送られています。これも「ユーザーの声」に基づくものなのでしょうか。
Christopher Sutephen氏:
まず,誤解のないようにお伝えしておくと,FreeSyncのニーズがないということは決してありません。実際,FreeSync対応のAW2518HFはとても好評をいただいています。
ただ,今回の34インチディスプレイは,まずNVIDIAと協力して(上位モデルとなるG-SYNC対応の)AW3418DWを開発したという経緯があります。なのでシリーズを通じてG-SYNC対応かそうでないかということになりました。純粋にビジネス上の判断ということです。
4Gamer:
そういうことでしたか。
Christopher Sutephen氏:
個人的な見解をお伝えしておくと,AMD(製GPUやCPU)のユーザーには,コストパフォーマンスに敏感な方が多いようです。24.5インチのFreeSync対応ディスプレイは手頃な価格なので,そこがAMDユーザーの方の嗜好にマッチするのではないかと考えています。
一方,今回の34インチモデルは高価なモデルで,この価格帯になると,NVIDIA(製GPU)のユーザーが多いという事実があり,それもG-SYNCのみの対応とした1つの理由にはなっていますね。
AW2518シリーズでは,FreeSync対応モデルのほうが入力仕様は豪華で,また「Dell Display Manager」を使うことで一部の機能をWindows上から変更できるようになっていました(関連記事)。
とくにG-SYNC対応モデルが2系統入力しかサポートしないというのは仕様上の大きな制限だと思いますが,先ほど仰った「協力」の中で,こういう部分を解消していこうという動きは出ていないのでしょうか。
Christopher Sutephen氏:
逆に質問しますが,入力が2系統か3系統かというのは,日本のユーザーにとってディスプレイの価値を大きく左右する要素なのでしょうか。
4Gamer:
日本では,とくに若い世代だとディスプレイデバイスを1台しか持たないという人が多くなっています。メインがスマートフォンへ移行しているので,「それ以外」用に1台ということですね。
そうなると,PCとPlayStation 4,さらにNintendo SwitchやHDDレコーダーなどをつなぐ……といったことになり,3〜4系統の入力が望まれています。日本のローカルなディスプレイメーカーだと,それを見越してさらに多くの入力系を用意したりもしています。AW2518シリーズについて言えば,FreeSyncモデルはギリ合格というラインですが,G-SYNC対応モデルだとそうではありません。
Christopher Sutephen氏:
とても興味深いですね。参考になります。
ところで,今回の34インチディスプレイもOSDの操作は左下のボタンのみのようですね。ゲーマー向けディスプレイでは,OSDの操作に関してスティック型のコントローラに対応したり,ホイールで操作できるようにするなど,操作性を向上させるためのさまざまな工夫が入るようになってきていますが,ALIENWAREがそういう機能を採用しない理由は何ですか。
Christopher Sutephen氏:
今回の34インチモデルの操作性に関しては2つ新しい点があります。ひとつは,プレイするジャンルに合わせた設定へ,ボタン1つで切り替えられるようになったという点です。FPS,MOBAといったジャンルにチューニングされたプリセットへと,瞬時に切り替えられます。
ここでご質問についてお答えしておくと,確かに他社のような入力系はありませんが,ゲーマーにとって十分にシンプルで分かりやすい操作になっていると,我々は考えています。
4Gamer:
分かりました。もう1つの「新しい」点についても聞かせてください。
Christopher Sutephen氏:
はい。もう1つはソフトウェアです。
「ALIENWARE Control Center」から,「Zone Lighting」という機能を使うとLEDイルミネーションの設定を行えるのですが,従来はこれがALIENWAREのPCとは別でした。
ですが,来年にリリースする予定の新しい「ALIENWARE Command Center」では,プリインストールソフトから,PCと周辺機器を統合的に設定できるようにする予定です。
4Gamer:
それは素晴らしいですね。ただALIENWARE Command Centerは起動がとても遅いので,統合することでさらに遅くならないといいのですが(笑)。
Christopher Sutephen氏:
ご期待ください(笑)。統合しても遅くならないようにしたいと思います。
「日本におけるVRは若干寂しい」が,VRとMRに向けた投資の機運はゲーマーの間で高まりつつある!?
4Gamer:
次はMR HMDである「Dell Visor VR118」(以下,Visor)についてです。Windows Mixed Reality(以下,WMR)はまだ発表からそれほど経っていない規格ですが,Visorの開発にはどれくらいの時間がかかっているのでしょうか。
Visorは,私が関わってきた製品の中でも,開発工期が最も短かった製品の1つですね。WMRは昨年の10月にMicrosoftが発表した仕様ですが,話がきたのは発表の直前です。そこから開発を始めたので,開発期間はほぼ1年ということになります。
WMRに対応する製品はDellも含めて5社から出ていますが,ご存じのとおり,プラットフォームの仕様はMicrosoftが決めています。1440
そこで我々は,とくに人間工学に基づいた部分に力を入れてVisorを開発しました。長く装着していても疲れない,人に優しい設計であるというのが強みだと考えています。
4Gamer:
Microsoftによる仕様上の“縛り”があるわけですね。
Christopher Sutephen氏:
ですね。ただ将来的にはWMRの仕様が変わって,ベンダー側の開発自由度が上がるだろうとは見ています。そうなれば我々も満を持して,ユーザーからのフィードバックに基づいて(次世代の)Visorを開発していくことができるようになるでしょう。
4Gamer:
Oculus VR(以下,Oculus)やHTCは,VR HMDを展開するにあたり,まずゲームに軸足を置いていました。
翻って今回のVisorですが,Dellは東京ゲームショウ2017を発表の場に選びこそしたものの,ブランドとしてはALIENWAREでもInspiron Gamingでもありません。つまりは「ゲームに特化したわけではない」ということだと思うのですが,その理解でいいでしょうか。
Christopher Sutephen氏:
そのとおりです。そもそもWMRは多用途が前提になっています。OculusやHTCとの違いはそこですね。
WMRに準拠するVisorもゲームだけでなく,さまざまな用途で使っていただくための製品です。たとえば,360度ビデオを始めとするMicrosoft Universal Applicationを活用したり,生産性向上のツールとしてVisorを使ったり,といったことですね。そしてMicrosoftから第1世代のWMR対応のゲームとしてMinecraftやHEROがリリースされています。Visorでこうしたコンテンツを楽しんでいただくこともできます。
4Gamer:
ALIENWAREとしてVR,あるいはMR対応のハードウェアを出す計画はないのでしょうか?
いまのところそうした計画はありません。VRプラットフォームとしては「Rift」や「Vive」を使っていただく前提ですね。OculusもHTCも,ハードウェアとソフトウェアの両面でゲームに向けた最適化に力を入れていますから,ゲーマーにとってはそちらのほうが(Visorよりも)メリットは大きいでしょう。
もちろん,将来にまでわたってまったく可能性がないかというと,そういうことではありません。Visorが市場から受ける評価いかんでは,ALIENWARE版Visor的なものを出すことになるかもしれませんね。
ただ,先ほどお話ししたとおり,現在はWMRの仕様縛りがとても厳しいので,Dellとして独自の仕様を入れることができません。その意味では,市場から受ける評価が定まり,WMRの縛りが緩くなって初めて,我々独自の工夫を盛り込むことができるようになるでしょう。そのときにはALIENWAREとしてMR HMDを出すこともあり得ると思っています。
4Gamer:
VRやMRの市場は向こう1年でどうなっていくとお考えですか? 日本市場を見ていると,少なくともPCゲームにおけるVRのブームは一段落したかなという印象があるのですが。
世界規模でVRやMRの市場がどうなっていくのか,不安を抱くゲーマーが出てきているような印象もあります。
Christopher Sutephen氏:
私も東京ゲームショウ2017の会場を見て歩きましたが,「意外にVRを見かけないな」という印象は確かに持ちました。E3やChinaJoyだと,本当にそこら中にVRのデモがありますから,それと比べると若干寂しい印象がありますね。
ただ,北米市場においては依然としてゲーマー向けのデスクトップPCが非常に好調で,その一因としてはVRがあると我々は見ています。また,ノートPCとVR HMDのコンビネーションが定着しつつあるというデータもあります。
4Gamer:
北米市場では「普及している」と言い切れるレベルなんでしょうか。
Christopher Sutephen氏:
「ゲーマーにVRが普及している」とまでは言えない状況だと思います。ただ北米では,「いずれVRは普及する」という理解がゲーマーの間で定着しつつあるとは考えていますね。
実際,ゲーマーの側でも,「将来に備えてVRに対応できるPCへ投資していこう」という機運が高まってきました。そして,それを後押しするのが立ち上がってきたMRだというのが我々の見解です。
MicrosooftはMRやVRに多額の投資を行っています。それによって,PCユーザーにも,将来,MRやVRが生活の隅々に行き渡るのだという理解が進むでしょう。それがPCの購入パターンにも影響を与えてくるようになると私は思っています。
4Gamer:
時間が来てしまいましたので,最後に「Inspiron 15 7000 Gaming(7577)」について1つだけ。本製品ではMax-Q対応が大々的にアピールされていますが,それ以外で新しくなったのはどこでしょう?
Max-Qの採用で,GPUが従来の「GeForce GTX 1050 Ti」から「GeForce GTX 1060 6GB」となり,より幅広いゲーマー層に対応できるノートPCになりましたが,このGPU変更にあたって,冷却構造に大きな改良を行ったというのが1つです。
また,少々地味ですが,いくつか細かな点に改良を加えています。そのなかで特徴的なものを挙げるとすると,液晶パネルでしょうか。TNパネルでは画質に不満があるというユーザーからのフィードバックが多くありましたので,新モデルではIPSパネルを採用して,非常にクリアな映像表示を行えるようになっています。
4Gamer:
本日はいろいろと興味深い話をありがとうございました。
(インタビュー:佐々山薫郁&米田 聡,構成:米田 聡,Visor撮影:林 佑樹)
[TGS 2017]ALIENWARE,最大18コアCPU搭載の「Area-51」や34インチ湾曲ディスプレイなど,複数のゲーマー向け製品を発表
4Gamerの東京ゲームショウ2017特設ページ
DellのALIENWARE公式Webサイト
- 関連タイトル:
Alienware
- この記事のURL:
キーワード
(C)2012 Dell