インタビュー
「ノートPCのNキーロールオーバーは対応を進めている」。ALIENWARE共同創業者兼GM単独インタビュー
7月27日開催の説明会では,国内未発売の有機ELパネル搭載ゲーマー向けノートPC「ALIENWARE 13 R2 OLED」を11月までに発売する計画なども明らかにしているが,今回4Gamerでは,そんなAlienwareにおける4人の共同創業者の1人で,現在はDellにおいてALIENWAREと(一般PC向けプレミアムPCブランドである)XPSの両部門におけるジェネラルマネージャーを務めるFrank Azor(フランク・エイゾール)氏に,単独でインタビューを行うことができた。
創業20周年を迎えたAlienwareという会社自体の話は先の記事に詳しいので,今回は,新製品の気になるポイントや,筆者が前から疑問に思っていたことなどをぶつけてみたので,ALIENWAREの製品戦略や,「ここが気になっている」という部分がある人は,ぜひチェックしてほしいと思う。
なお以下,企業としてはAlienware,ブランド名としてはALIENWAREと書き分ける。また,製品名の一部として含まれるブランド名は,インタビュー中にもAzor氏が省略していたため,記事上でも省いて表記するので,この点はあらかじめお断りしておきたい。
ALIENWARE開発部門のトップに聞く,Aurora復活とGraphics Amplifier,そしてノートPC用キーボード
4Gamer:
本日はどうぞよろしくお願いします。E3 2016,そして国内説明会における発表の目玉はAurora R5でしたので,まずはAuroraの話から聞かせてください。
そういうことなんだと思っていたら,R5として今回,Auroraが復活しました。そこには当然Alienware,そしてDellとしての大きな戦略転換があったと思うのですが,具体的にはどういう経緯でAuroraは復活することになったのでしょうか。
「どのようにすれば快適にゲームをプレイできるか」を考え,私達も市場も動いていたわけですが,(当時の考え方として)たとえば1080pでゲームを効率的にプレイできるPCということになると,小型で,安価でというニーズを取り込んでいかねばなりません。そして,そのニーズにはX51でお応えしていこうという判断をしていました。
また,4Kともなると小型PCでは無理ですから,(デュアルグラフィックスカードに標準で対応する大型マシンとしての)Area-51を投入したわけです。
4Gamer:
はい,よく分かります。
Frank Azor氏:
ですが昨今は,グラフィックスカード1枚で4Kに対応できるようになってきました。同時に,VR(Virtual Reality,仮想現実)では,GTX 970以上,GTX 980やGTX 1070,GTX 1080クラスを搭載できる筐体が必要になってきています。
従来であれば,X51とArea-51の中間ニーズはあまりなかったのですが,そこが出てきたということですね。
4Gamer:
Area-51のシングルカードモデルでも,その中間層のニーズに応えることはできると思いますが,筐体サイズ的にも中間的なものが必要だったということですか。
ご指摘のとおり,従来は「(Area-51を買ったうえで)ユーザーさんが自分でアップデートしてください」と言っていたわけですが,その領域にもしっかり対応していくべきだということで,Auroraを復活させました。
以前のAuroraと比べてもお求めになりやすい価格で,アップグレードもしやすいという,以前の教訓を活かした,よりよい製品になっています。
4Gamer:
今回のAurora R5は,確かに以前の“宇宙戦艦”的な筐体と比べるとかなり小さいですよね。何パーセントくらい小さくなったのでしょうか。
以前の筐体で容積が何リットルだったか,いま正確な数字を持っていないので,「どれくらい小さくなったか」にはお答えできないのですが,最新のAurora R5は30リットルです。
4Gamer:
以前のAuroraは本当に大きかったわけですけども,今回,AuroraをいわゆるミドルタワーPCクラスにまで小型化するに至った経緯を聞かせてください。
実のところ2009〜2010年くらいまで,私達の側では筐体の小型化にあまり力点を置いていませんでした。ただ,その頃に一度調査を行って,ユーザーさんの意見を集めたところ,とくにアジアのお客さまから「製品サイズが大きすぎる」というご指摘を多くいただいたのです。
その流れの中で登場したのがX51であり,Alphaなのですが,Auroraも(復活する以上は)以前のものより小型化する必要があるだろうということで,今回のサイズになった次第ですね。
4Gamer:
筐体サイズという点では,以前から思っていた疑問があります。
ここ3年くらいですが,Alienwareの競合にあたるメーカーからは,Mini-ITXか,それ近いフォームファクタを採用しつつ,GTX 1080だったりGTX 980だったりといったハイエンドのグラフィックスカードを搭載する,小型のデスクトップPCが出ていますよね。
ああいった――サイズ感で言うと,ちょうどGraphics Amplifierくらいの――筐体に,ハイエンドのGPUを載せるというPCセグメント,あるいは市場について,Alienwareはどう考えているのでしょうか。
Frank Azor氏:
現在のラインナップですと,X51はEOL(End Of Life,製造終了)になっています。小型で1080pというニーズには,Alpha R2でお応えしていくというのが今後の方針です。Alpha R2はGTX 960を搭載しており,Core i7や,DDR4メモリも最大容量16GBにまで対応しています。SSDとHDDを混在させることができるので,ストレージ周りでも融通が利きますね。
Aurora(R5のBTO標準構成価格)が,従来のX51より100ドル安価だというのは重要なポイントです。一方でグラフィックスカードはGTX 1080搭載モデルにまで対応できるので,用途や,お使いになるシーンごとに選択いただけるわけです。
4Gamer:
それはよく分かるのですが,たとえば……そうですね,X51の筐体をアップデートして,GTX 1080のような長尺のカードが入るようにするというアイデアはなかったのですか?
Frank Azor氏:
お客さまの中に,小型筐体にGTX 1080を詰め込みたいという方がいらっしゃることは理解しています。ただ,Alienwareとしては,一部の方のニーズに応えるのではなく,最大公約数的に,できるだけ多くのゲーマーのニーズにお応えしたい。それがご質問への回答となります。
また,今後の市場トレンドがどういう方向へ向かうのか。それを見据えたうえで(Auroraのほうに)比重を置いているという部分もあります。
小型筐体に強力なGPUを無理矢理詰め込むのではなく,用途ごとに最適なPCを,という考え方ですね。
4Gamer:
さて,いま少し名前の出てきたAlphaですが,R2でノートPCと同じくGraphics Amplifierを採用しましたね。
はい,(E3 2016でAlienwareは)AlphaをR2として発表していますが,R2の性能は(かつての)X51に匹敵しますし,Graphics Amplifierを接続いただければ,GTX 1080やGTX 1070を使うこともできます。「Alphaだから拡張性がない」というわけではないので,ちょっとずつ追加することにより,イニシャルコストを抑えられるというメリットがあります。
VRであったり4Kであったり,そういったことも,拡張次第では楽しんでいただけるということです。
4Gamer:
イニシャルコストを抑えられて,圧倒的に小さなAlpha R2か,BTOのバリエーションが豊富なAurora R5か,ということですか。
Frank Azor氏:
Auroraのほうは,予算にもう少し余裕のあるお客さまを想定していますので,筐体サイズこそ従来のものより小さくなっていますが,拡張性,増設性に優れています。
4Gamer:
(終息した)X51だとアップグレードの余地が少ないけれども,Alpha R2+Graphics Amplifierと,Aurora R5ではそういう制限がないと。
Frank Azor氏:
私達としては基本的に,せっかく筐体を買っていただく以上,その後,お客さまが必要だと判断したタイミングで,GPUをアップグレードできるように,筐体ごと取り替える必要がないような配慮をしたいのです。
「買った当初からVR体験をしたいわけではないけれども,将来的にはVR体験をしたい」などといった,必要に応じてのアップグレードを検討されるお客さまが非常に多いので,そういった使い方を念頭に置いているわけですね。
一度,ALIENWAREを購入された方は,ざっくり4〜5年は使い続けます。その間にVRの技術は当然のことながら進歩するでしょう。それに対応できる余地のあるハードウェアを最初の時点で手に入れていただきたいというのが,Alienwareとしての考え方になります。
発表会で,「ハンドルのところの隙間を,ケーブルを取り回すためにも使える」とお話しいただいたとき,「筐体前面にHDMI端子を用意すればいいのでは?」と質問しましたが,そのときの回答も,「将来もHDMI端子が使われるか分からないので,そういうことはしたくない」でしたね。そこは首尾一貫しているように感じます。
Frank Azor氏:
ええ。また,将来的には,最適なVR体験にデュアルGPU構成が大前提となってくる可能性があります。NVIDIAが最近リリースしたデモ「VR Funhouse」は,シングルGPU構成からデュアルGPU構成に変更すると,飛躍的に性能が上がるのを肌で感じることができますよね。
4Gamer:
そうですね。
Frank Azor氏:
ですから,それを踏まえて,Aurora R5では最初からデュアルグラフィックスカード構成に対応しておきたかったのです。
VRの話が出たので,1つ,小さな質問を挟ませてください。
個人的には,第1世代VRは,ケーブルが長く伸びる時点で,一般向けではないと考えているのですが,その点,AlienwareとZero Latency VRでやっているバックパック型というのは素晴らしいソリューションだとも思います。
現在のところ,市販計画に関するアナウンスはありませんけれども,この手の「VRを前提としたバックパック型PC」を一般ユーザー向けに販売する計画はあるのでしょうか。あるいは,アミューズメント施設専用になるのでしょうか。
Frank Azor氏:
E3 2016のタイミングで私達は,2つのソリューションを紹介いたしました。1つはいま挙げていただいたZero Latency VRのものですね。これはバックパック型ですが,導入コストが低く,また,VR以外の用途にも効くタイプです。
もう1つは文字どおりのVR専用で,(Zero Latency VRのものと同様に)背負うタイプで,性能は高いですが,ほかの用途には使えず,また導入コストも高いという制約があります。
現状は,「お客さまの声も聞いて,どちらがより支持されるのかを判断する」という段階です。なので,具体的な最終形がどうなるとか,どういった市場を対象に(Alienwareとして)販売するのかとか,そういったところはまだ決まっていません。
4Gamer:
ここからは,Graphics Amplifierに関していくつか聞かせてください。おそらく何度も同じ質問をされていると思いますが,Thunderbolt 3接続の外付けグラフィックスボックスに対してGraphics Amplifierが持つ優位性を,あらためて聞かせていただけますか。
Frank Azor氏:
4つのPCI Express Gen.3レーンを専用で割り当てられる。しかも専用で割り当てられるというのが,最大の違いです。GTX 1080だと,デスクトップPCに直接差したときの95%の性能が得られ,それ以下のGPUですと,性能差はほとんど無視できるレベルだと考えてください。
Graphics Amplifier自体は,VRが注目される以前から,VRもも想定して開発していたものでした。(VRが盛り上がりを見せる過程において関係者から)さまざまな意見を聞き,これこれこういうニーズがあり,乗り越えるべき課題はこれだといったところを踏まえたうえで,他のベンダーにはない先見性を持って開発できたと考えています。
4Gamer:
先見性を持って開発したとのことですが,そこに不安を持っているエンドユーザーもいると思います。Thunderbolt 3は業界標準のインタフェースで,各社が対応製品を開発しており,すでに一部は北米市場でデリバリーが始まっています。こちらのほうが今後は主流になるのではないかということです。
Alienwareとして,Graphics Amplifier関連技術の標準化に向けて,何か働きかけていく予定というものはあるのでしょうか。
Frank Azor氏:
ご質問の件ですが,まず一点お伝えせねばならないのは,「Thunderbolt自体は標準技術だけれども,Thunderbolt 3接続の外付けグラフィックスは標準ではない」ということです。ご指摘のとおり,Razerが市販化を果たしていますが,だからといってこれが標準というわけではありません。
ではGraphics Amplifierはどうかというと,PCI Expressを4レーン使っています。業界標準です(笑)。
4Gamer:
ああ,確かに(笑)。
Graphics Amplifierで採用している技術自体は,Alienware固有でもなんでもなく,10年も前に策定された,ありふれたものです。なので,当たり前ですが,IP(Intellectual Property,知的財産権)や特許は持っていません。物理的なポートとケーブルだけはAlienware独自のものですが。
なので,もし他社から「使わせてほしい」と声がかかるのであれば,協力もやぶさかではありません。十分にあり得る話だと思います。
4Gamer:
それは面白いですね。
あと,(これはThunderbolt 3接続のグラフィックスボックスが潤沢に流通するようになれば周知されることだが)外付けグラフィックスボックスでVRに対応できるのは,Grapjhics Amplifierだけです。
せっかく強力なグラフィックスカードを購入して,VRに使おうと思っても,(Thunderbolt 3接続の外付けグラフィックスボックスでは)対応していないため,無駄になってしまいます。Graphics Amplifierの開発で私達は最初からVRを想定しているので,そういう心配はありません。
4Gamer:
一点,Graphics Amplifierが不利かなと思う点がありまして,それは挙動関連です。
Razerの「Core」を試したことはないので,100%の確証を持ってお話しできるわけではありませんが,少なくともRazerは,Coreにグラフィックスカードを差して,NVIDIAかAMDのグラフィックスドライバを入れれば動くと言っています。
一方のGraphics Amplifierは,少なくとも登場当初に試した限り,動作にややクセがあり,それに対策しようとした場合,英語ドキュメントはとてつもなく充実しているのに対し,日本語ドキュメントはほぼ皆無でした。英語ドキュメントを読める人なら問題なく使えるものの,そうでない人にとっては極めてハードルの高いものになっていたわけですが(関連記事),この部分はどうお考えですか。
Frank Azor氏:
まず,Razerの言う「入れれば動く」ドライバというのはそもそも,AlienwareがNVIDIAやAMDと協力して開発したドライバです。それをいまRazerが使っているということは,誤解のないようにお願いします。
言語については,すぐに確認します。ただ,Command Centerは翻訳済みで,そこに必要な情報はすべてあるはずです。Graphics Amplifierがちゃんとつながっているかどうかといった部分は,Command Centerのステータスからすぐに(日本語で)分かるようになっています。
4Gamer:
初期だと,たとえば「ドライバの入れ方」といった情報が,北米のAlienware Arenaフォーラムにあって,そこに日本のAlienware公式ページから辿り着く方法が皆無だったりしたんですよ。ちゃんとドライバが入ればCommand Centerも役に立つのでしょうが……。
Frank Azor氏:
貴重な情報をありがとうございます。(インタビューで同席している)日本のチームに調査させます。
4Gamer:
こちらこそありがとうございます。よろしくお願いします。
さて,いまRazerの話が出たので,「ゲーマー向けの薄いノートPC」について聞かせてください。
Frank Azor氏:
ノートPC全般では,Dell全体として,ブランドを問わず「できるだけ薄く軽量に」しようと努めています。XPS 13の最新モデル(である9350)をご覧いただくと,薄く,軽いことを確認できるでしょう。
ALIENWAREにおけるファーストプライオリティは品質です。品質第一であって,これを損なうことはできません。
そして第2が性能。第3がキーボードだったりサウンドだったりといった,ユーザビリティに関連する機能ですが,それらを保証できる範囲内で,最適な小型化,薄型化を図っていくというのが,Alienwareとしての基本的な考え方です。物理的特性や,採用する部品に素材も含めて,ですね。
確かに最近は薄型軽量なゲーマー向けPCが世の中にたくさん出回っていますが,私達が重視する3つの特性のどれか,あるいはすべてを犠牲にしている製品が多いと思うんですよ。ですがALIENWAREとしては,そこは妥協できないと考えています。
残り時間が少なくなってきたので,単発の質問をいくつかで終わりにさせてください。
いまキーボードの話が出ましたが,AlienwareとしてNキーロールオーバーに対応する計画はありますか。現状のALIENWAREノートPCはせいぜい4キーで,とくにFPSをプレイしていると,高確率でゴースト(Ghosting,複数のキーを同時に押下したとき,押したにもかかわらず入力されなかったり,逆に,押していないキーが入力されたりする現象)が発生してしまうのですが。
Frank Azor氏:
ご指摘のとおり,需要が高まってきているという認識でして,Nキーロールオーバーへの対応は強化していくべきだと認識しています。
人間の手には左右合計10本しか指がないので,最大でもそこまでの対応にはなると思いますが,「最大4キー」とは言わず,もう少し対応できるようになればと,現在,実際に対応を進めているところです。
4Gamer:
おお! それは期待しています。
Frank Azor氏:
ナイスフィードバック。そのご指摘は開発チームと共有します。
4Gamer:
少し時間をオーバーしてしまいました。お付き合いいただきありがとうございます。これが最後の質問です。
今後,当然のスケジュールとして,NVIDIAからノートPC向けのGTX 10シリーズが出てくると思われます。すると,ノートPC用のGPUがほぼVR Readyになってしまって,Grapjhics Amplifierの価値が相対的に低下するのではないかという気もするのですが,その点はいかがでしょうか。
Frank Azor氏:
とは言っても,「どんどん上のものが出てくる」わけですから,1台のPCを4〜5年使い続けるとして,「より強力なGPUが出てきたら,それに入れ替える」という需要は,どこまでもあると思うんです。
たとえばいまAlphaやノートPCにGTX 1070やGTX 1080を接続するためにGraphics Amplifierを用意したとして,数年も経てばGTX 11や12,果ては19といった具合に,どんどん新しいGPUが出てくるでしょう。それらをすぐにはAlphaやノートPCの小型筐体に内蔵できないとしても,外付けであれば搭載できる,このメリットが失われることはありません。
GPU,そしてグラフィックスカードがアップグレードされる以上,Graphics Amplifierのニーズも,存在し続けると考えています。
ALIENWARE日本語公式Webサイト
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