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[GDC 2010]全世界で350万本以上売れている格闘ゲーム「UFC 2009 Undisputed」 成功のカギは物理シミュレーションとアニメーションの統合にあり
今回のGDCでは、このモンスタータイトルの生みの親ともいえるゲーム開発者 上野氏によるレクチャーが行われた。タイトルは「The Next Generation of Fighting Games: Physics & Animation in UFC 2009 Undisputed」である。
UFC2009を作るにあたって,上野氏は「格闘ゲームの新しいスタンダードを自分達が作る」というゴールを設定したという。
ハード性能の向上でグラフィックスの技術は上がったが,アニメーションについては,いまのところ大きな進歩がない。そこで,既存の方法の延長線上にあるものではなく,新しいファイティングゲームを開発しようと思い立ったのだそうだ。
そのために,上野氏はUFC2009の開発では,以下のことに取り組んできたという。
・1. 物理シミュレーションとアニメーションの統合
・2. キャラクターナビゲーション
・3. フルボディIKターゲッティング
1. 物理シミュレーションとアニメーションの統合
既存の多くの格闘ゲームのキャラクターは,アニメーションで動いている。しかしアニメーションのみを使用している限り,キャラクターは事前に用意された動きしかできない。例えば敵のいる位置に応じてパンチの方向や踏み込みの深さが自動的に変わったり,打撃を受けた方向に合わせてリアクションを動的に生成したりといったことはできない。上野氏はこの状況を次に進めるために,物理シミュレーション「havok」の導入を決定した。
物理シミュレーションを格闘ゲームに組み込む場合,既存のアニメーション(技術)をベースに物理シミュレーションを組み合わせる方法と,物理シミュレーションを用いてキャラクターをAI的にコントロールする方法とがあった。上野氏は検討の結果,現時点でのより現実的な選択として,前者を使うことにしたそうだ。
キャラクターの動きはアニメーションをベースとするが,その内部にはラグドールが入っている。ラグドールは平時は脱力した人形でしかないが,関節部の剛体に力を加えることによって,アニメーションを再生させることができる。
行われたデモでは,「基本的にはアニメーションで軽く揺れながら構えているキャラクターが,頭部にパンチを受けたときに,その内部のラグドールに力が加わり,ラグドールはアニメーションに影響を与えて,ごく自然に頭部がのけぞったのち,すぐに戻る」といったシーンを見られた。
しかし,デモ内では完成済みなのでスムースに動いていたが,このように自然な動作が可能になるまでには,“かなりの苦労”などという一言では到底語り尽くせないくらいの,さまざまな苦労があったようだ。
例えば,ゲームで使用される物理シミュレーションの精度には限界があるので,当初は負荷がかかると、すぐにキャラ同士が引っかかってしまったり,関節がずれたりということが起こる状態だったそうだ。また,物理シミュレーションを使ったゲームではよくあることだが,「ジッター」と呼ばれる,キャラクターが小刻みに震える現象にも悩まされたという。さらに“つかみ”の動作でおかしなところに手がいってしまい,どんどん不自然な動きが続いていくという現象などもあったそうだ。
それらの問題を一つ一つ解決していくことで,最終的に,この一つめのゴール「物理シミュレーションとアニメーションの統合」は達成されたということだ。
2. キャラクターナビゲーション
キャラクターナビゲーションというゴールを実現するには,「説得力のあるアニメーションを作り出すこと」そして「スムースでイメージどおりにキャラクターを操作できること」が重要だったという。
現実世界にあるモーションを,ただつなぎ合わせただけでは,操作レスポンスは著しく悪くなってしまう。それはファイティングゲームとしては致命的である。ゲーム的に,プレイしていて説得力のある動きを実現するために,上野氏は「アニメーションブレンド」の手法を導入した。
これは,8方向のアニメーションデータを作成し,アナログスティックの入力に応じて,それらをブレンドするというものだ。こちらもいうだけなら簡単だが,実際にそれがごく自然な動きを獲得するまでには,やはりいくつもの問題をクリアしなければならなかったそうだ。
快適な操作レスポンスを実現するためには,「踏み替え」と「方向転換」のアニメーションの組み込み方に工夫を凝らしたという。
UFC2009では,歩きのアニメーションを途中で停止した場合に,踏み替えのアニメーションを出すようにしている。ただしレスポンスが犠牲にならないように,踏み替えのアニメーションはほかに入力があったら即座にキャンセルされる。また歩きの進行方向が大きく変化した際には,方向転換のアニメーションを間に挟むことで,キャラクターはさらにスムースで説得力のある動きをするようになったとのことだ。
3. フルボディIKターゲッティング
ファイティングゲームでキャラクターのアニメーションを自然に見せるためには,ターゲッティングはとても重要な要素だそうだ。画面上では当たっていないのに当たっていると処理されたり,あるいはその逆のことが起こったりすると,プレイヤーはフラストレーションを感じる。
攻撃を相手に的確にヒットさせるために,上野氏は「フルボディIKターゲッティング」という手法を開発した。
例えばパンチの場合,まず攻撃が相手に当たってほしいターゲットフレームを設定する。次にターゲットフレームのポーズを作成し,フルボディIKを用いて,そのポーズが目標を捉えるような姿勢を求める。これをキャリブレーションと呼ぶ。ここで求めた新しい姿勢は,オリジナルの姿勢からの差分で保持しておき,実際のキャラクターのポーズに対して,徐々にその差分を加えていく。ターゲットフレームを過ぎたら,加える差分量を徐々に減らしていく。そうすることで,スムースに姿勢を変化させることができるのだそうだ。
UFC2009のフルボディIKは,決して本格的なものではないが,ファイティングゲームのような限られた用途であれば,十分実用に耐えるものだ,と上野氏は解説する。
完成してみると,その威力は絶大だった。これにより相手との距離を身体全体で調節できるようになり,ゲームの中で起こるさまざまな状況おいて,攻撃を相手に的確にヒットさせられるようになったそうだ。その様子は,あたかもキャラクターが意思を持って攻撃を行っているかのように見えるという。またこうすることで,似たようなアニメーションをたくさん作る必要がなくなったことも,技術的には大きな達成であるそうだ。
以上,三つのゴールを実現することで,上野氏は「格闘ゲームの新しいスタンダードを自分達が作る」という目標を達成した。キャラクターアニメーションに物理シミュレーションを使うことに関して,大変な苦労を要したが,現在は,これによってファイティングゲームが新しい時代に突入したという手応えを感じることができているという。
最後に上野氏は,「UFC2009では,まだアニメーションデータによってラグドールがドライブされているに過ぎませんが,今後は自律的に姿勢を制御するような仕組みを併用することで,物理が占める割合を増やした形を実現することが,近い将来の理想です」と,自身の次の目標を語り,この講演を締めくくった。
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