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[GDC 2011]Unityを使い,1週間の開発周期に移行して進められるEAのブラウザゲーム開発事情
さて,そんなUnity Track Dayで,導入事例として紹介されたのが「EA Sports」のCarlos Barbosa氏による「How Electronic Arts uses Unity」という講演だ。以前,CEDECの取材でゲームエンジンUnityを紹介したときに,Electronic Arts(以下EA)が採用したということでも話題にしていた(関連記事)エンジンだが,では実際,EAはどのようにUnityを使ってゲーム開発をしているのかというのが,このセッションで解説されたわけだ。
もともとEAは,同社が保有するコンテンツのマルチ展開を目指しており,有名タイトルを複数のプラットフォームで展開することに意欲的で,今回の講演者が担当した「Tiger Woods PGA Golf Tour」(Tiger Online)もその一つである。そういった背景のもと,ゴルフのブラウザゲーム化を検討していた開発チームが目をつけたのがUnityだった。標準サンプルプログラムであるIsland Demoにぶったまげ,とりあえずUnityを使い,アジャイル開発を導入して少人数チームでプロトタイピングしてみたのだという。その結果,実働するデモを2週間で仕上げることができたそうだ。
既存のアセットを使い回していることもあるが,サーバークライアント型のゲーム,それもブラウザゲームとは思えないクオリティのものを,初めて使ったエンジンを用いて2週間で仕上げるというのは,驚異的な開発速度といっていいだろう。ちなみに,コード部分での流用はまったくなく,スクラッチで作ったということだった。
なお,ゲームで使用するアセットについては,社内の移植用チームが手馴れていたこともあって,ブラウザゲーム用に変更することは(他社と比べれば)いくぶん楽だったようだ。それでも,キャラクターで使用できるボーンの数を数百から25個に縮小しなければならなかったりなど,相応の手間はかかっているとのことだった。
そうこうしてゲームをリリースすると,やってきたのがソーシャルゲームブームで,セッションの話題は同社の「Live Development」に移行する。ソーシャルゲームブームの到来で,これまで開発してきたコンシューマゲームとは大きく体制を変えなければならないことがはっきりしたわけだ。DAU/WAU/MAUといったアクティブユーザー数(日/週/月ごと)や継続率,ARPU(ユーザー一人当たりの平均収益)とARPPU(課金ユーザー一人当たりの平均収益)などを指標としたデザインが求められ,EAではこれまでとは違ったデータの収集を開始している。データになんらかのパターンが見出せないかいろいろと実験を繰り返すため,従来の6週間単位の開発サイクルから,一気に1週間単位の開発サイクルに移行したとのこと。
そうして作られたのが,Facebook版のゴルフゲーム「PGA Tour Golf Challenge!」となる。Tiger Onlineから無駄な部分を削り,一度はWeb要素に追い出していたUI部分をクライアント内に取り込み,シェーダや地形,キャラクターなどを新しくしてFacebook用に落とし込んでいるという。開発期間はTiger Onlineのときの1/4にまで短縮され,結果もかなり良好だったようだ。
EAでは,さらにプラットフォームを広げようと,スマートフォンやタブレットなどに目を向けており,極秘プロジェクトも続々と進行しているという。
これらの成果は,UnityなしにはありえなかったとBarbosa氏は語る(独自の手法を使った同様のプロジェクトはことごとく失敗しているそうだ)。Unity上でアジャイルプロセスを完成させた,同社の今後の展開が気になるところである。
- 関連タイトル:
Tiger Woods PGA TOUR BY EA SPORTS
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