レビュー
グレイヴをうならせて,テクノサイトウイルスの謎を追え!
ダークセクター 日本語版
» ズーから5月29日に発売された「ダークセクター 日本語版」は,実力派デベロッパであるDigital Extremesが開発したオリジナルのアクションゲームだ。致死性ウイルスが蔓延した東欧某国の都市を舞台に,自らもうっかりウイルスに感染してしまった主人公が,なんでか知らないけどウイルスの力で繰り出せるようになった強力な武器「グレイヴ」を使って,四方八方から襲ってくる敵を相手に戦うという物語。グラフィックスの美しさや,グレイヴの新鮮で爽快な感覚が魅力の本作を,ライターのUHAUHA氏がレビューする。
グレイヴで敵を切り刻むアクションゲームが登場
2009年5月29日にズーから発売となった「ダークセクター 日本語版」(以下,ダークセクター)。すでにXbox 360版とPLAYSTATION 3版が日本でも発売されている本作だが,PCゲームファンの中には,開発を担当したカナダのデベロッパ,Digital Extremesの名前を聞いたことのある人も多いだろう。Epic Gamesとともに制作した「Unreal Tournament 2003」「Unreal Tournament 2004」などが有名だが,PLAYSTATION 3版の「Bioshock」や,2009年に発売が予定されている「Bioshock 2」のマルチプレイパートを担当するなど,確かな技術力が高く評価されているメーカーだ。ダークセクターはそんなDigital Extremesが制作した,オリジナルのアクションシューティングだ。
あらゆる武器/格闘技に精通したCIAのエージェント,ヘイデン・テンノは,東欧某国の街「ラスニア」に蔓延した“テクノサイトウイルス”の調査に派遣されるが,自らもウイルスに感染してしまう。だが,どういうわけかその影響は右腕のみに現れ,ウイルスに冒されて変質した右腕から生み出される三枚刃の武器,「グレイヴ」まで使えるようになる。
ラスニアには,人を襲う凶暴化した感染者だけでなく,感染者を排除するために軍隊も派遣されており,ヘイデンは双方からの激しい攻撃を銃やグレイヴでかわしつつ,今回のウイルス事件の真相,さらにはラスニアで何が行われていたのかを突きとめなければならないのだ。
というようなバックストーリーを持つダークセクターは,三人称視点のアクションゲームだ。グレイヴがかなり特殊だが,それ以外は一般的なアクションゲームの基本操作とほとんど同じなので,アクションゲーム好きなら戸惑うことはないだろう。画面にはライフゲージなどのインジケーターが一切表示されておらず,ぶっちゃけ,見た目も操作感覚も「Gears of War」によく似ている。PC版の場合,キーボード/ゲームパッドの両方に対応しているので,好みに合わせて使いやすいほうを選べばいいだろう。
そのまま放り投げてもよし,狙いを定めて投げてもよし,手に持って振り回してもよしとグレイヴは万能な武器。一家に一つは常備したい |
ゲームは三人称視点で,最近の流行だが,画面にHUDはいっさいない。グレイヴや銃器を構えたりすると,自動的に視点が肩越しになる |
攻撃が当たると血が吹き出るだけで,激しいゴアな表現はない。それでも痛がりの筆者にとっては十分痛そうである |
見事な光源処理など,グラフィックスは美しい。理由はよく分からないが,似た解像度でもPC版のほうがキレイな印象 |
プレイ中に新たなイベントが発生すると,使い方などの解説がそのつど表示されるため,マニュアルをいちいち読まずにプレイできる |
コンシューマ版と同様,テキストはすべて日本語化され,音声も日本語吹き替えの完全日本語版なので,日本語マニアの筆者も安心だ |
カバーポジションで身を守り,襲い来る敵どもを蹴散らせ
メインとなるシングルプレイモード(ストーリーモード)では,10のチャプターを戦い抜いて,ウイルス蔓延事件の真相を突き止めていくことになる。難度設定は用意されていないものの,全体的にはそれほど難しくないという印象。なお,一度クリアすると「brutal」という高難度モードに挑戦できるようになる。
基本的には,遮蔽物の背後に隠れるカバーポジションを主体にして戦っていく。遮蔽物の近くでCtrlキー(またはBボタン)を押すだけで,自動的にカバーポジションを取ってくれるのだが,タイミングや場所が悪いと前転して遮蔽物の外へ飛び出す……なんてことになるので,注意が必要だ。
本作にはライフゲージに相当するものはなく,ダメージが蓄積されると画面がだんだんと赤くなり,心臓の鼓動音が聞こえてきて,最終的にゲームオーバーとなる。ライフ回復用のアイテムなどは登場しない自動回復式なので,ヤバイと思ったら攻撃を受けないように逃げ回り,遮蔽物の陰に隠れてダメージを回復させなければならない。もっとも,もし死んでしまっても直前のチェックポイントから復活できるのだが。
ダメージを受け続けると画面が赤くなり,心拍音が聞こえてきてたら危険。無理して戦うよりも遮蔽物に隠れてダメージを回復させたほうがいい |
後半になると手強いヤツらが一斉に襲いかかってきたりして,思わず悲鳴をあげてしまうほど怖い。グレイヴと銃器でピンチを切り抜けよう |
“感染者”は非感染者の人間を見かけると,ウイルスの感染を広げるため襲いかかってくる。だったらすでに感染しているヘイデンのことはほうっておいてくれそうなものだが,おそらく感染が中途半端なのだろう,襲ってくるのだ。ヤツらはスピードが速いうえに大勢で襲いかかってくるから大変だ。感染の初期段階で人間の面影のある“ハウラー”,感染が進行した“スティンガー”,そして感染した犬と思われる“モール”のほか,巨大な“コロッサス”や“ストーカー”,そしてヘイデンにウイルスを感染させた“ネミシス”といった,やたらとグロテスクな敵が多数登場する。
一方,“軍隊”の兵士は,強力な武装をし,遮蔽物をうまく利用して攻撃してくるが,闇雲に突進してくることはないため,応戦については感染者よりも楽かもしれない。ザコ兵士である“トルーパー”“マズマット”は簡単に倒せるが,大きな盾で武装して銃撃を弾き返す“マウラー”を倒すのにはそれなりの慣れが必要だ。また,全身を鎧で固めて強烈な銃器で攻撃してくる“エリートソルジャー”はかなりの強敵。軍が開発した“ジャッカル”という兵器なども登場するが,自らジャッカルに乗り込んで一暴れするシーンもあり,これは楽しい。
ちなみに感染者と兵士が同時に登場するシーンにも遭遇した。しばらく待っても,どちらも襲いかかってこないのでヘンだなと思ったら,対立関係にある双方が,ヘイデンなんか気づきもせず戦っていたのだ。なるほど。これを見たときは思わずニヤリとしてしまった。もちろん,「ほらほら,やれやれ!」とばかりに離れたところで眺めていてもいいし,混乱に便乗して感染者や兵士を背後からサクッと倒していくのもありだ。ひひひ。
ロケーションは屋内,屋外,地下などバリエーションに富んでいるが,全体的に薄暗いステージが多い。敵の出現タイミングや効果音などをうまく利用したホラー的な演出が取り入れられており,ホラー系が若干(?)苦手な筆者は終始,鳥肌を立てながらプレイすることになった。ところどころパズル要素もあるが,周囲の状況を観察すればそれほど難しくはないので,おそらく詰まることはないだろう。
恐るべき敵の機銃も,奪い取ればこっちのもの。ただし掃射中も攻撃されるとダメージを受けるので,銃撃に夢中になってやられないように |
もともと人間だったとは思えないコロッサス。最初に遭遇したときは意外な展開で少々驚いた。何度も戦うことになるので覚悟しよう |
兵士は遮蔽物を利用して攻撃をしてくるが,AIがあまりお利口ではなく,パターン化されているため,冷静に対応すれば大丈夫だ |
ジャッカルは弾薬に制限がないので派手に撃ちまくれる。一定以上のダメージを受けると爆発するので,その直前に脱出しよう |
多種多様に使えるグレイヴ
それに加えて銃器をうまく使いこなせるかがキモ
レティクルが黄色になったときにグレイヴを投げるとパワースローになり,破壊力がアップする。パワースローを確実に使えるようになるとゲームの展開も楽になると思うので,完璧に出せるようにタイミングを習得しよう |
メイン武器はいうまでもなく,ウイルスに感染した右腕から出るようになったグレイヴだ。目標に向けて投げるとブーメランのように戻ってきて,目標だけでなく軌道上にいる敵にダメージを与えられる。投げたら戻ってくるまで再攻撃ができないので,銃器による攻撃を織り交ぜると効果的に戦える。またグレイヴは,投げるだけではなく斬りつけることも可能なので,敵との距離に合わせて使い分けよう。
最初は狙って投げるだけのグレイヴだが,ウイルス感染の進行によって(タイミングよく投げることで)攻撃力が高くなる“パワースロー”や離れたところにあるオブジェクトを取ってく“スティール”が使えるようになる。グレイヴに特定の能力を与える“エナジートラップ”と,投げたグレイヴを直接操作できる“アフタータッチ”もやがて使用できるようになり,ゲーム中はこれらの機能を多用するはずだ。
エナジートラップは炎やショートした配電盤,故障した冷却装置などにグレイヴを当てることで,それぞれの属性がグレイヴに付加されるというもの。炎の属性のついたグレイヴを敵に当てれば燃え上がって多くのダメージを与えられるし,電撃の属性で敵を感電させることも可能。氷ならば水を凍らせられたりするのだ。
また,アフタータッチはグレイヴを投げたあと,Uターンする直前までグレイヴをコントロールできる能力で,感染者や兵士の首を正確に狙ったり,グレイヴの軌道上にいない敵への連続攻撃が可能になったりする。アフタータッチを発動すると画面がスローモーションになり,操作しやすくなる。かなり便利で楽しいので筆者は多用してしまった。エナジートラップが付加されたグレイヴをアフタータッチでコントロールすることで高い攻撃力を発揮するので,効果的に利用したい。
アフタータッチでグレイヴをコントロールし,狭い隙間を通したり,死角になる場所の敵を攻撃したり,スイッチを動かしたりできる |
戦闘ヘリは,落ちているロケットランチャーと弾を拾って撃墜する。ロケットランチャーは消滅しないので,ゆっくり狙って撃とう |
アフタータッチでグレイヴをコントロールして,通常では当てられないスイッチを操作したり,電撃の属性を付加したグレイヴを当ててドアを開けたり,炎の属性を付加して邪魔なものを燃やすといった使い方ができ,これらがパズルの要素になっている。「この先にどうやって行くのだろう」と思ったときは,グレイヴを試してみよう。
もちろん,グレイヴ以外にもハンドガン,ライフル,ショットガン,手榴弾,ロケット砲,そしてガトリングガンといった銃器なども登場する。それぞれに種類がいくつかあるが,最初から持っているのはTeknaというハンドガンのみで,ほかの銃器はゲームが進むにつれて手に入るルーブル(通貨)を使い,ブラックマーケットで購入する必要がある。
ロックが故障して開かないドアは,電撃の属性を付加したグレイヴをぶつければいい。敵に当てると動きを止められる |
ブラックマーケットでは銃器の売買とアップグレードパーツの取り付けが可能。一度取り付けると外せないのが困りものだ |
また,ブラックマーケットではリロード速度向上,命中率向上,貫通弾,ダメージ率向上などといった機能を持つアップグレードパーツを銃に装着できる。アップグレードパーツはゲーム中に手に入るが,銃器ごとに同時に装着できる数と種類が決められており,しかも一度装着したパーツは取り外しできないため,どれを使うか悩みどころだ。
購入する以外に,敵の兵士を倒すことでも銃は手に入るのだが,感染者が触れると一定時間で消滅する安全装置が付いている。もちろん,感染者であるヘイデンが持つと直ぐに警告音が鳴りだして一定時間で消えてしまうため,それまでせいぜい撃ちまくるしかない。これはなかなかうまく考えられた設定だと思う。
外殻に発生する化学迷彩効果で一定時間,不可視状態(透明)になれる。でも,割とすぐに元に戻るので過信してはいけない |
ひるんでいる敵(赤く表示)相手に一撃必殺のフィニッシュムーブを繰り出せる。このときは無敵状態なので,混戦で効果的だ |
アクションシューティングとしての完成度は高いが
不満な部分も……
遮蔽物を利用することが戦い方の軸であり,ワンタッチでカバーポジションが取れる親切設計。敵を見かけたら,まずは遮蔽物の背後に飛び込もう |
本作はいろいろな銃器を購入/強化してバリバリ撃ちまくるタイプのアクションシューティングではない。銃の購入に必要なルーブルと弾薬はステージ中にあるものだけしか利用できず,また敵を倒しても何も落とさない仕様なので,得られるルーブルと弾薬は限られている。
全体に入手できるルーブルは少なく,そのためブラックマーケットに新しい武器が登場してもルーブルが全然足りないなんてこともしばしば起きる。筆者の場合,手持ちの武器やアップグレードパーツを売ってようやくお目当ての武器を購入したのだから,このへんのバランスはもう少しどうにかしてほしいと思った。
弾薬は比較的頻繁に入手できるが,やはり少なめの設定になっている印象で,グレイヴと併用したり,敵の落とした銃を拾って使うなど,弾薬の節約がポイントだ。後半になって登場する敵は強く,倒すのにはグレイヴを数回当てる必要があるため,グレイヴよりダメージの大きい銃器のほうが使い勝手がいい。前半はグレイヴを主体に戦い,後半に向けて弾薬を温存していく必要があるだろう。
ルーブルや弾薬を二週目以降のプレイに持ち越せないため,繰り返し遊んで銃器を強化することはできず,せっかく多彩な武器やアップグレードパーツを用意しながら,リプレイ性はやや低めという印象だ。例えば,銃器は初期装備のハンドガン一丁だけにして,あとは数十秒しか使えない敵の武器をとっかえひっかえして進めるというゲームバランスのほうが,スリルがあって良かったかもしれない。
破壊したり取得できるオブジェクト/アイテムは(たいていの場合)光っているので,分かりやすい |
敵の銃も使えるが一定時間が経過すると消滅する。とはいえ,弾薬を節約するためにも積極的に使っていこう |
接近されるとコマンドモードに入る。表示されるキー&ボタンを連打して危機から脱出するのだが,それほど難しくはない |
いろいろな銃器を使って戦いたいが,悲しいくらいに貧乏なまま進行していくため,すべての銃器を購入できないのが残念 |
最後にマルチプレイモードにも触れておこう。マルチプレイには,一人または複数でヘイデンを追いかける鬼ごっこのような「Infectionモード」,チームに分かれてチームリーダーを倒す「Epidemicモード」の二つのモードが用意されている。しかし,PC版では残念なことにLAN接続のみがサポートされており,インターネット経由でのマルチプレイはできないという悲しい仕様。そのため,マルチプレイを楽しむ機会はあまりない。
以上,多少気になる部分はあるものの,シングルプレイモードの全体的なボリュームも長すぎず短すぎずちょうどよく,ストーリー展開の面白さやグラフィックスの美しさなど,アクションシューティングとしての総合的な完成度は高い。
グレイヴという特殊な武器を使って敵を倒していくのは斬新で爽快感があり,好みのアップグレードパーツを装着して銃を強化できる要素も興味深い。今までにない戦闘を楽しみたい人に勧められる一本だ。
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