連載
徳岡正肇のこれをやるしかない! / 第11回:「Mafia Wars」に見る,「自分のペースでプレイできる」ゲームとは?
不定期連載「徳岡正肇の これをやるしかない!」の本日のテーマは,“ブラウザゲーム”。そして,数あるブラウザゲームの中から,ライターの徳岡氏が選んだのはZyngaの「Mafia Wars」だ。
同じ時間に多数のプレイヤーがゲームに参加する“同期型”ではなく,自分のペースでプレイが可能な“非同期型”のゲームシステムを持ったMafia Wars。このシステムがブラウザゲームの「新たなスタンダードになる(というか,すでになっている)」と言い切るライターの徳岡氏の根拠とは?
このところ,日本でも急激にプレイヤー数が増えているブラウザゲーム。認知度が本格的に上昇したのは,「Travian」あたりからだと思われるが(それ以前にも「箱庭諸島」などが存在したが,規模は小さかった),ブラウザゲームは,重厚長大の一途をたどっているPC/コンシューマゲームのメインストリームに対し,「ブラウザが動く環境であれば,どんなPC/OSでもプレイ可能」という手軽さや,「片手間でプレイできる」気軽さが支持され,現在なお急速な勢いでタイトルを増やしている。
しかしその一方,上記のような売り文句につられて遊んでみたら,思いのほか時間を取られるという現実に直面した人も多いのではないだろうか? あるいは,ゲームを始めてから暗中模索をしているうちに数日が経過し,初心者保護期間が切れた途端に周囲から猛然と攻撃を受けて再起不能になった,などという苦い思いをした人もかなり多いかもしれない。
その理由は,現状の多くのブラウザゲームが持つ「ゲーム性」に由来するといっていいだろう。対戦型ブラウザゲームは思うほど手軽ではないし,時間も拘束される。
さらに,ブラウザの描画能力の向上とPCのパワーアップに伴い,ブラウザゲームと呼ばれるジャンルに,本格的なMMORPGやFPSがタイトルを連ねつつあり,これらのタイトルが持つゲーム性は,パッケージ/クライアントダウンロード型のそれとほとんど変わらないレベルに達している。
だが,本当の意味で「気楽に,自分のペースでプレイできる」ブラウザゲームを開発するという試みも,これまでもずっと続いてきた。そして,いくつもの作品を経て,明らかに従来作品とは異なるブラウザゲームが,Facebookのアプリという形で登場したのだ。
「Mob Wars」と題された,若干ながら前世代のブラウザゲームの影響を残してはいたこの作品は,Facebook上で大ブレイク。Mob Warsは瞬く間に大量のフォロワーを生み,同系統の「Mafia Wars」は,元祖であるMob Warsをしのぐ,実に1000万人以上のプレイヤーを集めた。現状,世界最大のネットゲームの一つと呼んで過言ではないだろう。
今回は,この世界中でプレイされるMafia Warsとは,どんなゲームなのか? について探っていきたい。
Mafia Warsにおいて,プレイヤーは全員マフィアの一員となる。さまざまな悪事に手を染めたり,ほかのプレイヤーを攻撃したりしてお金と経験値を稼ぎ,ビッグなマフィアにのし上がっていくことが基本的な目標だ。
ゲームの構造はシンプルで,能力値は原則として「Attack」「Defence」「Health」「Energy」,そして「Stamina」の五つだけ(「Influence」という能力値を追加で持つこともある)。HealthがHPで,EnergyとStaminaがMPのようなものだと思ってもらえばいい。
ゲーム中,プレイヤーができることは大きく分けて「Jobs」(つまり悪事を働くこと),「Fight」(PvP),そして買い物の三つになる。
Jobsには,プレイヤーのレベル帯に応じてさまざまなものが用意されており,レベルが低い頃は,「Mugging/強盗」「Auto Theft/自動車泥棒」「Collect on a Loan/とり立て」といったケチな仕事しかできないが,高レベルになるにつれ,「Sell Guns to the Russian Mob/ロシアンマフィアへ銃器の密売」「Ransom a Businessman's Kids/ビジネスマンの子供を誘拐」「Make a Deal with the Mexican Cartel/メキシコのカルテルと取り引き」など,派手で大きな仕事が並んでいく。
これらの仕事を遂行するには道具が必要だ。例えば,自動車泥棒を働くのには拳銃とショットガンを持っていなくてはならないし,とり立てにはバットが必要だ。これが,ロシアンマフィアへの銃器の密売ともなれば,当然ながら大量のマシンガンと車両が必要だ。
こういった道具を揃えられれば,仕事は自動的に成功し,決まった量の経験値とお金が入ってくる。ただし仕事をすると,それに応じてEnergyが減る(Energyは時間とともに回復する)。
ちなみに,仕事によってはランダムでレアアイテムのドロップが発生することがあり,得られた武器などが,将来的に発生する仕事に必要になったりすることもある。また,期間限定イベントでは,仕事をするたびに一定確率で特殊なアイテムが得られる場合がある。
Fightを行う場合,攻撃できる相手は原則として同じレベル帯のプレイヤーに限られる。なにしろ1000万人単位のプレイヤー数を誇っているので,対戦相手がいないという状況はまずありえない。Fightを行うと,Staminaを1点消費する(これも時間とともに回復)
Fightを仕かける場合,こちらのAttackと装備の修正,および自分のファミリーの人数を基本とし,これを相手の防御力その他と比較する。攻撃が成功すれば,相手の持っているお金の一部を巻き上げ,さらにいくらかの経験値を得る。また失敗すれば経験値は得られず,現金を持っていればその一部を防御側に奪われる。
こういうと「ああ,やっぱり廃人限定の略奪ゲームなんじゃないか」と思うかもしれないが,Mafia Warsには「Bank/銀行」というサービスがある。この銀行,預けるときに10%を召し上げられるというスイス式なのだが,銀行に預けたお金は略奪の対象にはならないし,預けられる金額には事実上,上限がない(上限に達する頃にはお金自体に意味がなくなっている)。初期のうちこそ10%の手数料は重く感じられるが,根こそぎ奪われることに比べればはるかにマシだ。最低でもログイン中は,所持金はできるかぎりゼロにしておく――これがMafia Warsの基本である。
買い物は,基本的にはJobs(およびFight)に使う道具の購入となる。Jobsの遂行に必要になるアイテムは,消費アイテムでない限りは基本的に攻撃力と防御力が設定されておリ,そのままFightでも用いられる。
例えば攻撃力12のTommy Gun/トミーガンを10丁,攻撃力16のChain Gun/チェインガンを10丁持っているとしよう。また,ファミリーは自分を含めて15人いるとする。ここでFightを仕掛けると,攻撃力の高いChain Gunが10人へと配備され,残りの5人はTommy Gunを装備することになる。
もしここで攻撃力20の武器が一つ手に入れば,その武器を一人が持ち,10人がChain Gun,そして4人がTommy Gunを装備することになる。分かります?
装備は「Weapon/武器」「Armor/防具」「Vehicle/乗り物」に分類されておリ,それぞれのカテゴリについて同様な「攻撃力順のソート」が自動的に行われ,装備の配分がなされる。装備配分は自動的に行われるので,ファミリーが300人になったからといって「装備」コマンドを300回実行したりする必要はない(そもそもそんなコマンドはない)。
JobsとFightを繰り返すことで一定の経験値を貯めると,レベルが上がる。
これによって,ステータスに自由に割り振れる5点のポイントを得るほか,Health,Energy,Staminaが全回復する。Healthは病院に金を払うことで全回復できるが,EnergyとStaminaを一気に回復させる手段は,基本的にレベルアップ以外にはない。
こうやってレベルを上げ,より大きな仕事をこなし,巨大なマフィア帝国を築き上げていくのである。レベルが上がると仕事の範囲もニューヨークからキューバ,モスクワへと広がっていく――2010年2月現在,バンコクのβテストが始まっており,また来年にはラスベガスも予定されており,抗争の舞台にはしばらく事欠かないはずだ。
これ以外にも,季節ごとの特別イベント(JobsやFightで特別のアイテムが手に入ったり,期間限定のアイテムをプレゼントし合ったりできる)があったり,複数人で協力して行えるJobsがあったり,ロトが実装されていたりと,遊びの範囲は非常に広い。
上で少し触れたが,Mafia Warsには「ファミリー」という概念が存在する。
あるプレイヤーから勧誘されてゲームを始めると,そのプレイヤーと同じファミリーに所属するのだ。一つのファミリーに所属しているプレイヤーが,別のプレイヤーを自分のファミリーに勧誘することも可能だ。この場合,勧誘に応じたプレイヤーは自分のファミリーの一員となり,同時に自分も相手のファミリーの一員になる(二つのファミリーが合併するわけではない)。
ファミリーの数が多ければ多いほど戦闘は有利になるし,アクティブなプレイヤーの協力によって効率が上がるイベントも多いので,ファミリーは多いに越したことはない。
これが,このタイプのゲームが「ソーシャルゲーム」と呼ばれる所以ともいえる。Mafia Warsは,ゲームをプレイするために集まった人でゲームを行うのではなく,すでに成立している集団(この場合はFacebookに登録している人)が一緒にプレイするゲームとして存在しているのだ。そのため,この手のゲームにとっては必要不可欠ともいえるゲーム内メールといった機能は存在しない。なぜなら,それはすでに外部に存在するからだ。
ちなみにMafia Warsの場合,ゲームを始めたというだけで次々に「フレンドにならないか」という申し込みが飛び込んできたりもする。さすがは,プレイヤー数1000万人だ。筆者はあまりFacebookを真面目に使っていなかったのだが,これを機会に一気にフレンドが増え,Facebookを覗く頻度も上がった。成功したソーシャルゲームは,ネットゲームの持つ「新しくコミュニティを形成する」という機能も果たすのである。
同様の構造を持ったソーシャルゲームは,現在のネットゲーム市場において,いま最もホットなジャンルになっている。日本の場合,mixiで運営されている「サンシャイン牧場」がさまざまな話題を振りまいたことで知られているし,GreeはいまやソーシャルゲームをプレイするためのSNSといっても過言ではないだろう。またゲームが先行したとはいえ,Hangameやモバゲーといったサービスもまた,ソーシャルゲームを運営する場としての機能を持っている。
さて,ざっとゲームを説明してきたが,ではいったいMafia Warsのどこが面白いのだろう? いや,そもそもこれは面白いのだろうか? やることといえば,極論すればボタンをクリックするだけ。戦術性や戦略性らしきものといっても,せいぜいが算数の領域を超えない。果たしてこれは,そもそもゲームなのだろうか?
という疑問はもっともである。
だが,Mafia Warsは面白い。ゲームかどうかについての考察は,「ゲームとは何か」という哲学的命題が待ち構えていそうなのでパスするが,間違いなくMafia Warsは面白いのである。筆者はこの2か月くらい,懲りずに飽きずに遊んでいる。
何が面白いのか? ざっと箇条書きしてみると,
- 戦闘で勝って,敵からお金を巻き上げ経験値を得る
- クエストをこなし,経験値とお金を得る
- レベルが上がる
- レベルが上がると,新しいギミックがアンロックされる
- ときどきレアアイテムを拾ってくる
- 貯めたお金で豪勢なお買い物をして悦に入る
――標準的なMMORPGにおける楽しさのほとんど(場合によってはすべて)が,ここにある。チャット機能こそついていないが,Facebookを介してファミリーとコミュニケートする手段には事欠かない。
また,上記の点がとにかくテンポよく展開するのも大きな魅力だ。序盤はEnergyとStaminaを全部消費する頃にはちょうどよくレベルが上がるし,基本的にそのテンポが維持されていく(筆者は現在レベル500程度だが,1日1〜2レベルは上がる)。新しい仕事をこなすための道具を買ったり,より強力な武器を買ったりといった「ゲームの節目」が定期的に訪れるので,なかなか飽きない。
同種のブラウザゲームと比較した場合も,このゲームのテンポの良さは際立つ。従来,このタイプのゲームは,「仕事」を選ぶと,その仕事をこなすのに一定時間がリアルタイムで要求されるのが普通だった。プレイヤーは5分なり10分なり60分なり待って,次の仕事を入力するのだ。これはPvPも同じで,「勝負のあとは10分から15分は対戦できない」といったルールが一般的だった。
Mafia Warsは,待機時間の代わりにEnergyとStaminaというパラメータを用いることで,長い目で見たときの入力数は同じでありながら,それを「プレイヤーが遊びたいと思っている時間」に集約させることに成功しているのだ。
選択の余地がほとんどないように思えるステータスも,実はプレイスタイルに応じたカスタマイズが可能という点で重要な役割を果たす。
Fightは,手っ取り早い経験値獲得手段だが,どうしても廃プレイが必要になる。Fightで手に入る金銭には限界があるし,レアアイテムを狙って獲得することも不可能だ。強くなるためには,課金アイテムを購入したりする必要もでてくる。
しかし,Fightを全部捨ててEnergyに全振りすれば,Jobsを着実にこなしていくというスタイルでゲームに参加できる。こっちは廃プレイは不要で,それこそ1日1回のログインでも十分に楽しめるし,上記の「Energyの限り連打可能」という仕様があるので,その1ログインもテンポ良く進められる。
そのうえで,Mafia Warsが従来のブラウザゲームと決定的に違う点をあげるなら,それは,「銀行」の存在に,強く支えられていることだ。
Mafia Warsでは,どれだけ派手に殴られても,とりあえず銀行に財産をしまっておけば,損害にならない。仮に3日間放置したとしても,「最後にログアウトした時点での進捗未満」になることは事実上なく,形として得たものは,ほとんど失われないのだ。
一応,Fightを仕掛けられて大ダメージを受けて死亡すると経験値ロスが発生するが,このロスは1桁に過ぎない。Jobsを行うと最低でも1Energyは1経験値になり(レベルが上がって「美味しい仕事」ができるようになると,2経験値にまで増える),1Energyは原則5分で1点回復する。これははっきりいって,誤差に近い――誤差に近いのだが,ややムッとすることには違いなく,その勢いのまま攻撃してきた相手に仕返しをするといった展開になるのもまた楽しいのだ。
では,PvPで相手を攻撃することにはメリットがないか? メリットはいくつもある。それなりには収益は上がるし,何より経験値が入る。攻撃しないよりはしたほうが,レベルの上がりは早い。
そしてまた,「壊滅的一撃」がまったくないかといえば,実はわずかながらその可能性は潜んでいる――何かを購入する場合は,必要な金額を銀行から引き出して購入しなくてはならない。何百万ドルという高額な買い物をするために銀行から預金を引き上げた瞬間に攻撃を受けると,すさまじい勢いで被害が拡大することがある。
だが,そうしたギャンブル的な部分があってこそ攻撃する楽しさが生まれるし,買い物だって,そんな可能性からくるドキドキ感があるからこそ面白い。そして何より,従来のブラウザゲームとは違い,そうした甚大な被害を受ける一撃は,プレイヤーがログインしている間にのみ発生する。「プレイヤーが寝ている間に軍隊(ないしは蓄財)が壊滅し,再起不能です」という現象は起きないのだ。
Mafia Warsは,ネットゲームの利点であり欠点ともなった「同期性」を脱し,非同期ゲームとして成立している。プレイヤーの「時間」は,EnergyとStaminaという数値に換算される(上限はあるが)。プレイヤーは,この二つのパラメータという形でキャラクターに保存された「時間」を,自分の好きなタイミングで消費してゲームを楽しめる。
もちろんこれは,例えば「時間経過で資源が増えていく」ゲームでも同じことかもしれない。だが従来のそういったゲームにおける資源は,非常に不安定な状態にあった(そのごく一部を保管庫に収めることはできても,ほかのプレイヤーの軍隊に攻撃されたらほとんど根こそぎ持っていかれてしまう)。
また「資源を使って何かをする」ことにも時間が必要とされるという点において,Mafia Warsの処理とは大きく異なっていた。
Mafia Warsにおいて,プレイヤーは自分の好きな時間に,好きなように遊ぶことが可能だ。プレイヤーの預かり知らぬところで,数か月の蓄積が無に帰すといった事態は起こらない。あるいは,「今このタイミングで遊びたい」を分割されるようなことも起こらない。
もちろん,このゲームのすべてが非同期というわけではない。前述したように,抗争によって大きな収益を得たり失ったりする瞬間は,ほかのプレイヤーと時間が同期していることによって発生する。また,EnergyやStaminaの上限は,おのずと「なるべく長時間をこのゲームに投入したプレイヤーが有利」という状況を生む。
けれど,それはそれで構わない。非同期という前提のなかに,スパイスとして混ざる「接触事故」はゲームを面白くするし,長時間プレイしたならそれだけの見返りがあってしかるべきだろう。
現在,日本でもMafia Warsのクローンは増加傾向にある。ネット界隈で有名なのが「モブストライク」で,これはTwitter/mixiアカウントやGmailアカウントを用いてプレイできる。用語が完全に日本語化されているし,プレイヤーのほとんどは日本人らしい(確認のしようはないが)ので,英語が苦手という方でも無理なくプレイできるはずだ。ソーシャルゲームとしてのコミュニティ基盤は基本的にTwitter上にあると思ってよく,ハッシュタグ#mbst(新サーバの話題は#mbst2)ではファミリーの募集や意見交換などが積極的に行われている。
こちらはMob Warsの画面。最近リニューアルがかかり,コンテンツが増えるとともに追加コンテンツへのアクセスも容易になった。Mafia Warsより,抗争に負けたときの損害が大きいのが最大の特徴かも
また,ニコニコ動画で活躍中の投稿主が多くプレイしていることでも知られており,しばしばニコ生で「モブストライク講座」「モブストライクのすすめ」のような番組が放映されることもある(当然のようにボーカロイドによる歌まであったりする)。
「モブストライク」以外にも,mixiアプリでMafia Warsベースの作品が見られるし,モバゲータウンでヒットしている(最近,mixi版も登場)「怪盗ロワイヤル」もまた,基本的なシステムは同様だ。
いずれにしても,Mafia Wars(およびその先行としての,Mob Wars)が普及させたゲームエンジンは,これからのブラウザゲームを根底から変え続けるだろう。このゲームシステムの持つ楽しさと快適さは,ブラウザゲームが持つ印象を大きく変貌させる力がある。
未来のブラウザゲームを体感したいなら,試してみよう。ただし,このところかなり改善されているらしい(個人的にトラブルに遭遇した経験はない)が,1月22日に掲載した連載記事にもあるように,とくにソーシャルゲームは新たなジャンルであるだけに,全体的に混沌とした状況にあるのも間違いない。あくまで,自己責任でお楽しみいただきたいと思う。
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