レビュー
PlayStation版での不満点が払拭され,非常に遊びやすくなった「ペルソナ」シリーズの原点
ペルソナ
そんな,ペルソナシリーズの第1作が,新規アニメーションムービーの追加や,ゲームバランスの調整,サウンドのリアレンジなど,さまざまな部分でパワーアップしてPSP版として登場。PlayStation版をプレイしたことのない人はもちろん,当時,相当やり込んだという人でも新鮮な気持ちで楽しめるタイトルに仕上がっている。かくいう筆者も,当時PlayStation版にハマっていた口である。
本稿では,PSP用として生まれ変わった「ペルソナ」の概要をお伝えしつつ,その魅力に迫っていこうと思う。
■ストーリー■
ありきたりな日常,当たり前のごとく流れていく,青春のわずかな時間。漠然と見据える未来への夢,希望,そして不安。
そんな学園生活のなかで,「未来の自分の姿が見える」という占い遊びである「ペルソナ様」が流行する。
主人公達は,この「ペルソナ様」を始めたことがきっかけで,心の奥底に潜む自分の多面性〜別なる人格〜の力である“ペルソナ”に目覚め始める。
折しも主人公達が麻希の見舞いに訪れているちょうどその頃,ハイテク企業,セベクの支社長・神取の野望が街を覆い尽くそうとしていた。
街を襲う突然の異変の中で,否応なしに社会に投げ出された主人公達は,やがてセベクや神取と関わるようになり,巨大な事件に巻き込まれていく……。
■主な登場人物紹介
主人公プレイヤーの分身ともいうべき存在。レベルアップの際は,主人公のみ自分でポイントを割り振れる。名前入力可能 |
園村麻希(マキ)生まれつき体が弱く,入退院を繰り返している。性格は優しくて友達想い |
稲葉正男(マーク)お調子者でクラスのムードメーカー。テンションの高さは戦闘中でも変わらず |
南条圭(なんじょうくん)南条コンツェルンの御曹司でプライドが高い。本当は寂しがりやな一面も |
桐島英理子(エリー)上品な趣の帰国子女で,学園内では有名人。テキストが一部アルファベットなのは海外生活の影響? |
上杉秀彦(ブラウン)ハデな見た目同様,性格も目立ちたがり屋さん。だが,弱みを見せることに対して敏感な部分もある |
綾瀬優香(アヤセ)典型的なコギャル(と呼ばれる女の子達が昔いた)系で,ハデな外見と性格からか異性に人気がある。感情の赴くまま行動するため,トラブルになることもしばしば |
黛ゆきの(ゆきのさん)さばさばした性格でみんなから慕われる姉御肌。アルバイトをしている影響か,大人びた視点を持つ |
城戸玲司(レイジ)無愛想な性格で,人を寄せ付けない雰囲気を持つ。神取のことになると,突然熱くなるらしいが……? |
オリジナル版で挫折した人も安心
気軽に楽しめるのがウリの新生「ペルソナ」
最も目立つ新要素は,アニメーションスタジオ・神風動画の制作による新規ムービーだ。女神異聞録ペルソナにもムービーは用意されていたが,当時はハードがPSということもあり,今見ると,やはりクオリティ的に物足りなさを感じてしまう。
一方PSP版では,まるでイラストをそのままCGに起こしたような,独特なタッチのムービーシーンが用意されており,プレイヤーをゲームの世界に強く引き込んでくれる。
ちなみに神風動画というスタジオは,これまでにも「ドラゴンクエスト 少年ヤンガスと不思議のダンジョン」「ファイナルファンタジータクティクス獅子戦争」といった有名タイトルのムービーを数多く手がけており,そのクオリティの高さは業界でも屈指の評価を誇っている。
ちなみに,ムービー中のキャラクターにはボイスが設定されていない。この部分については賛否両論があるかもしれないが,筆者のようにオリジナル版に思い入れがあり,すでに自分の中で登場人物のイメージが固まっている人にとっては,むしろ嬉しい配慮といえるのではないだろうか。
また,サウンドが大幅にアレンジされている点も見逃せない。PSP版「ペルソナ」では,PS版のダークでハードな曲調から一転,「ペルソナ3」以降のテイストである,爽やかでポップなサウンドへと生まれ変わっている。「ペルソナ3」や「ペルソナ4」からシリーズをプレイした人には,違和感のない,耳に心地良い楽曲が楽しめるはずだ。
また,ゲームバランスが再調整されていて,全体的にかなり遊びやすくなっているのも無視できないポイントだ。
中でも,エンカウント率の見直し,セーブポイントの追加,中断機能の実装,バトルスピードが約2/3に短縮,といった要素は,新旧のプレイヤーを問わず,非常にありがたい改善だろう。
しかしPSP版では,セーブポイントが増えたことでプレイの区切りを付けやすくなったし,なんといっても“中断機能”がついているおかげで,自分のペースで楽しめる。PS版で「セーブができん!」と苦しんだ人にとって,「これだけで買い!」とオススメしたくなるくらい嬉しい要素である。
戦闘時間に関しても同じで,「長くなりがち」というマイナス要素だけを取り去ることによって,“PS版本来の秀逸な戦闘システム”という部分が分かりやすくアピールされている(戦闘システムについては後述する)。
なお,PSP版では難度変更も可能なので,PS版で挫折してしまった人は,より遊びやすくなったPSP版でリベンジするといいだろう。
ペルソナ合体/戦闘システムの面白さは
「さすがメガテンシリーズ」の一言
ゲーム内での見どころは何といっても“ペルソナ使い”と呼ばれるキャラクター達がペルソナを駆使し,悪魔や敵のペルソナ使い達とバトルを繰り広げる部分である。自らのペルソナを発動し,強力な魔法で敵を攻撃する登場人物達は,人気コミック「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズで描かれる“スタンド使い”にも似て,少年漫画ファンであればまず格好良さを感じるはず。加えて,悪魔を“仲魔”にして共に敵と戦う真・女神転生シリーズとの差異を,あらためて実感させられるのだ。
所有しているペルソナを,後述するベルベットルームでキャラクターに“降魔”させることで,そのペルソナの持つ魔法やスキルが使用可能になり,またキャラクターのステータスが増減したり,防御属性が変わったりする。
ちなみに,キャラクターとペルソナの間には相性があり,相性が悪いペルソナは発動できない/降魔できないなどの制限がある。逆に,相性のいいペルソナを降魔させれば,特定条件下で潜在能力が発動することもあるので,相性のいいペルソナをペルソナ合体で生み出しつつ,相手に応じてペルソナをチェンジしていくのが基本となる。
合体を繰り返すことによってペルソナが強化され,ペルソナが強化されれば使えるスキルも強力になっていく。そして戦略の幅もどんどん広がっていくという,まさにいいことづくめのシステムだ。
まずは戦闘中に,コンタクトコマンドで悪魔に話しかけるわけだが,その際にキャラクターそれぞれが持つ4種類のコンタクトコマンドの中から,適切なものを選ぶ必要がある。下手をすれば,スペルカードを得るどころか,悪魔の怒りをかってしまい,攻撃される恐れもあるので,交渉時にはよく考えてから行動したほうがいい。
……と書くと,何やら難しそうに思えるかもしれないが,悪魔には各交渉コマンドとの相性が存在し,その関係さえしっかり把握しておけば,悪魔の感情をある程度自分でコントロールできる。また,交渉ではスペルカードの入手だけではなく,結果によっては戦闘を回避できたり,アイテムが手に入ったりと,その効果もさまざま。
なお,一度スペルカードを入手しておけば,入手した悪魔との戦闘が回避できるようになるので,戦闘回避の手段としてスペルカードを集めるのも有効だ。
また,結果ばかりを求めてしまいがちな悪魔とのコンタクトだが,悪魔の種類によって,しゃべり方や性格などが異なっているので,そこに注目してみるのも面白い。悪魔とのトークそのものが楽しいというのも,実にメガテンシリーズらしい要素である。中には,苦労人で人生について語ってくる者もいれば,おちゃらけた感じの軽いノリの悪魔もおり,その会話のパターンは膨大だ。スペルカード目的で交渉したのに,思わずその悪魔の話に聞き入ってしまうなんてことも,人によってはあるかもしれない。
ベルベットルームでは,イゴールというどう見ても怪しい人物が主人公を待っており,彼にスペルカードを渡すことで悪魔合体を依頼できるのだ。ベルベットルームはゲーム内のいたるところに存在する。ダンジョン内や町中でベルベットルームを発見したときはぜひとも立ち寄ってみよう。
また,ペルソナ合体の際には,消耗品や装備品などのアイテムを組み込むことで,誕生させたペルソナに特殊能力を付与できる。合体のバリエーションは数多く,かなり研究しがいがあるのだが,理想的な能力を持ったペルソナを誕生させるのは当然難しい。戦闘がどれだけ楽しめるかは,ペルソナ合体によって生み出したペルソナによると言っても過言ではないので,常にペルソナ合体のことを念頭に置きつつ,スペルカード集めをがんばりたいところだ。
本作の戦闘はいわゆるターン制/コマンド選択式で,コマンドとしては,ペルソナを使っての行動(スキル)のほかに,通常攻撃,銃による攻撃,ペルソナ変更,アイテムの使用,防御などが用意されている。ペルソナの使用時には“SP”を消費するので,長期戦が予想されるときには,SPを使わない通常攻撃で攻めるのも手だ。
ただし,本作では敵の弱点を突く戦闘が基本となるので,通常攻撃だけではどうにもならないこともある。そんなときにSPがなかったら目も当てられないので,対ボス戦を控えたダンジョン攻略中などでは,SPのコントロールがとくに重要となる。
ちなみに,敵とこちらの属性の相性によっては,攻撃を無効化されてしまったり,跳ね返されてしまったりする。そんなときに役立つのが“アナライズ”だ。アナライズで敵の弱点や性質などを把握しておけば,相当有利に戦闘を進められるだろう。初めて遭遇した敵に対しては,条件反射でアナライズを行うくらいが望ましい。
また,戦闘中に何度もペルソナを使うことによって,ペルソナはどんどんランクアップしていき,新たなスキルを習得することもある。レベル上げをする際には,属性の相性を考慮しつつ,これでもかというぐらいペルソナを呼び出して,スキルを覚えさせていこう。
なお,スキルを覚えるのは,キャラクターではなく,あくまでペルソナなので,ペルソナを変更してしまうと,それまで使っていた有効なスキルが使えなくなってしまうことがある。そうならないためにもスキルの把握はきちんとしていたほうがいいだろう。
一般的な国産RPGでは,キャラクターを強化するために敵との戦闘が欠かせない。そのため,戦闘システムには各社がさまざまなアイデアを盛り込み,工夫を凝らして,繰り返し作業に耐えうる魅力を付与しようと尽力している。本作に関しては,属性の相性が生むスリリングなゲームバランスや,ゲームを有利に進めるために必要な悪魔との交渉,スペルカード集め,ペルソナ合体,ペルソナの多様性など,メガテンシリーズで定評のあるシステムが(一部ペルソナ風にアレンジされつつ)盛り込まれている。
その分,覚えなければならないことも少なくないため,人によってはやや難解に思えるかもしれないが,RPGファンにとって,それらはむしろ歓迎すべき要素と言えるのではないか。
真・女神転生の魅力を継承しつつ,
より親しみやすいゲームデザインを実現
本作がどのような状況の中で生み出されたのかを考えることも,作品の魅力を語るうえで重要な部分だ。「ペルソナ」の始祖ともいうべき「真・女神転生」シリーズは,ゲームデザインやシステムこそ素晴らしいものであったが,キャラクター性/ドラマ性がやや希薄なところもあった。ペルソナは,そんな「真・女神転生」シリーズの弱点ともいうべきキャラクター性/ドラマ性を全面に押し出すという明確なコンセプトの元に生み出された,実に興味深い支流なのである。
「女神異聞録ペルソナ」以前の作品でいえば,1994年にスーパーファミコンで発売された「真・女神転生 if...」や,1995年にセガサターンで発売された「真・女神転生 デビルサマナー」などが,ストーリー性/キャラクター性を「真・女神転生」にいち早く取り入れ始めた作品で,「ペルソナ」はある意味,それらの発展系とも言える。
しかし,新たな要素を取り入れたことによって「真・女神転生」から派生した「ペルソナ」という作品は,いい意味での“メガテンらしさ”を失っているのではないか,と考える人もいるだろう。
これに関しては人それぞれ思うところがあるはずなので,筆者の意見に異議を唱える人もいるかもしれないが,少なくとも筆者は,当時そのような印象は受けなかった。
確かに「女神異聞録ペルソナ」は,「真・女神転生」シリーズのウリの一つである,悪魔を仲魔にする,という要素がなく,基本的にパーティメンバーは全員人間だ(3のアイギスやコロマルといった例外もあるが)。
またADV(アドベンチャー)マップでは,キャラクターの姿が見えるクォータービュー視点が採用されており,フィールドマップ以外は一人称視点だった「真・女神転生」に慣れ親しんできたファンの中には,大きな違和感を覚えた人もいるだろう。
しかし,「真・女神転生」の根本ともいえるコンセプト,本作独特の廃頽的な雰囲気はしっかりと受け継いでいるし,悪魔合体も,新たなペルソナを生み出すための大切な要素として,ペルソナ合体という形できちんと存在している。
それら,シリーズ独特の魅力を残しつつ,疑似3Dダンジョンモノよりは親しみやすいと思われるクォータービューに変更し,学園モノという設定を採用したことは,その後のメガテンファンの拡大に大きく貢献していることは,疑いようのない事実だろう。
そんな女神異聞録ペルソナの最大の欠点だったいくつかの問題点は,先述したように,PSP版でしっかりと改良されているのだから,筆者としては(少なくともPSP版に関しては)あまりこまかな不満を抱くことはなかったのだ。
本作はPS版を未プレイの人にとっては,手軽に「ペルソナ」シリーズの原点に触れられる1本であり,PS版をプレイ済みの人にとっては「女神異聞録ペルソナ」という作品の素晴らしさを再認識しつつ,新たに生まれ変わった「ペルソナ」をプレイする,という楽しみ方ができる。
ペルソナ合体や属性の相性といった,一見コア向けのイメージのある本シリーズではあるが,PSP版「ペルソナ」は1度プレイしてしまえば,そういった偏見が一気に吹っ飛ぶほどのハードルの低さと魅力を持った作品だ。本作が発売されたことで,シリーズの他作品に対する偏見が薄れ,シリーズそのもののファンが増えることもあるだろう。とくに,当時PS版の読み込みの遅さにストレスを感じた人には,ぜひ一度遊んでもらいたい秀作だ。
一方,「ペルソナ3」「ペルソナ4」からシリーズに触れた人にとっては,キャラクター達のデザインや会話内容に,若干の古さを感じるかもしれないが……,そこは,その時代の若者文化に影響されざるを得ない,学園モノの宿命ということで,割り切って遊ぶのが吉である(逆に,PS版直撃世代にとっては,懐かしさと気恥ずかしさが感じられて,ある意味面白いのも確かだ)。ともあれメガテンファンおよびペルソナファンは,生まれ変わったペルソナの原点に触れ,今後のペルソナの方向性についてあれこれ考えてみてはどうだろうか。
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ペルソナ
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