レビュー
太平洋戦争の艦隊戦を描くストラテジーゲーム
空母決戦
» Si-phonのデビュー作となる「空母決戦」は,1月21日に掲載した記事にもあるように,「PCゲームの復権」を謳った新作だ。かつてはPCでゲームをプレイしていたが,今は遊んでいないという層をターゲットに,「短時間で遊べる」「手軽に遊べる」を主眼として制作されたタイトル。そんな空母決戦を,「長時間遊ぶ」「しぶとく細かく遊ぶ」でおなじみのライター,徳岡氏がレビューした。
「空母決戦」は,新たに設立されたゲームメーカー,Si-phonのデビュー作となる空母戦ストラテジーだ。第二次世界大戦における空母戦を題材としたこの作品において,プレイヤーは日本機動部隊の指揮官となって,史実に沿ったさまざまなミッションをクリアすることを目指す。制作総指揮は,かつて「大戦略」シリーズの開発指揮をとっていた石川淳一氏。
作品のタイトルこそ,ちょっとマニアックなウォー・ストラテジーを思わせるが,プレイ時間は1シナリオあたり1〜2時間程度,筆者がプレイしたところでは30分前後というところで,ライト級の仕上がりになっている。
ゲームシステムも,索敵のマネジメントに比重が置かれた(空母戦の黎明期である太平洋戦争初期においては,空母の攻撃力は艦隊の対空防御力を軽く圧倒してしまうため,なんとしても先に敵を発見する必要がある)もので,プレイヤーは「敵を探し出して,これを撃破する」ことに集中するデザインだ。
この「短時間でプレイできる」「絞り込まれたテーマのゲーム」というコンセプトは,本作の根底となっている構造でもある。以下,実際に本作がどのようなゲームになっているのかを見ていこう。
空母決戦の基本はシンプルなRTS
ゲームは,基本的にはRTSの文法で進行する。ゲーム内の最小単位は5分で,プレイヤーが何の操作もしなくてもゲーム内の時間は刻々と過ぎていく。
ただし,ゲームはいつでもポーズが可能で,また自分の艦隊や基地をクリックしてもその時点で自動的にポーズがかかる(後者はとても便利だ)。ゲーム進行の速度も三段階に分かれており,とくにメニューを呼び出すこともなくワンクリックで切り替えが可能になっている。
操作はマウスですべてでき,キーボードを使う必要はない。また,右クリックにはいわゆる「キャンセルボタン」が割り付けられており,操作を確定させる前に元に戻したかったら,とりあえず右ボタンをクリックをしておけば大丈夫だ。
戦場となるマップはシナリオごとに定められており,いずれのシナリオも一定時間内で特定の勝利条件を達成することが求められる。6段階の勝利が設定されており,5段階めまでの達成は比較的容易だが,6段階目となると多少手こずるという印象だ。
チュートリアルは付属していないが,シナリオを順番にこなしていけば自然にゲームの流れや機能が理解できるので,最初のシナリオからプレイしていこう。
戦いが終わると,戦闘を振り返っての概説図が出る。敵の位置もすべて分かるが,シナリオによっては敵の位置が固定ではないことも |
「勝利」は簡単だが「大勝利」はちょっと難しい。もっとも,気がついたら大勝利でしたということは,しばしばあったりする |
索敵の緊張感をスマートに再現
もちろん,失敗をしでかせばごらんのとおり。ちなみに,ミッドウェイをテーマにしたシナリオには若干,運の要素もあるが,史実どおり最初に関門になるはず |
その索敵だが,空母から索敵機を飛ばして索敵するほか,地上の航空基地からも索敵機を飛ばすことが可能だ。しかし,なにしろ飛行機に乗った人間が目で見て敵を探しているので,情報の精度に問題があることも多い。発見報告には「艦隊を発見した」だけということもある。うまくいけば敵艦隊の編成まで分かるのだが,そこまで待ってしまうと,敵の先制攻撃を受ける危険性も高まってくる。とくに空母の索敵機で敵艦隊を索敵できた場合,敵空母の索敵機もまたこちらの姿を捉えている可能性があるということだ。
また,索敵機が敵の空母護衛機に発見され撃墜されてしまったら,索敵情報は文字どおり「海の藻屑」である。時間をかければかけるほど,情報の確度は高まるが,リスクもどんどん高まっていくわけだ。
しかし,だからといって「敵艦隊見ゆ」の報告に飛びついて空母攻撃隊を発艦させたら,目標は小規模な艦隊でしかなくて,時間を無駄にしただけということも起こり得る。このあたりの決断をどう下すかが重要なポイントになってくるのだ。
索敵の手続きは非常にシンプルだ。プレイヤーがやるべきことは,
1)索敵を行う拠点を選ぶ
2)索敵ボタンを押す
3)索敵方向を決定する
実にこの3クリック(+確認)で実行できる。
索敵範囲は3)の段階で画面に表示されるので,現状自分がどのような索敵網を形成しているのかは一目瞭然だ。
この手のゲームに詳しい人であれば,「索敵コースを自分で設定できないのはどうなのだろう?」と思うかもしれない。だが,実際にプレイした感想として,とりたてて問題は感じられなかった。
むしろ往年のシミュレーションゲーマーであればご存知かもしれない,「ゼロ戦索敵(航続距離の長いゼロ戦で無理矢理索敵する)」「往復索敵(2隻の空母を一定間隔で並行して走らせ,その間を燃料をフルに使って索敵機が往復する)」といったゲーム的に過ぎる方法が禁じ手になっているぶん,プレイ時間の短縮効果が期待できるところも含めて合理的といえる。
繰り返されてしまう大惨事
敵艦隊を発見したら,いよいよ艦載機による攻撃である。
ここでも操作は簡単で,
1)自分の空母機動部隊を選択する
2)航空機を選択する
3)航空機の任務を選ぶ(この場合は攻撃を選択)
4)攻撃対象をクリック
と,シンプルにまとめられている。
攻撃に飛び立った艦載機が敵艦隊に到達すると,自動的に攻撃が行われる。派手なグラフィックスがあるわけではないが,必要十分な演出が入ったうえで戦果が報告される。ちなみに演出自体はボタン一つでスキップできるので,質実剛健派も安心だ。
問題は,ここから先(と,そのちょっと前)である。
攻撃を行う場合,攻撃隊の装備を確認しておく必要がある。装備には「対空」「対地」「対艦」「自衛」の四種類がある。このうち「自衛」は装備を使い切った状況なので,能動的な選択は三つだ。
この装備変更には,ゲーム内時間で2時間が必要になり(戦史に詳しい方であれば,ミッドウェイのことを思い出していただけるだろう),また,一度攻撃に参加した航空隊は,すべての武器弾薬を投入してしまい,帰路は自動的に「自衛」装備での飛行となる。
このため再出撃には,整備(自動的に行われる)→装備変更→出撃の手順を踏まねばならない。
これがなかなか曲者で,艦隊を発見したからといって攻撃隊を投入したら,本命の空母はおらず,その挙句,装備変更中に敵の艦載機から攻撃を受けるという歴史的大惨事を再現することが,ままあったりする。
消耗した攻撃隊は,再編成によってほかの部隊に合流させることもできる。ただし,合流させた部隊は自動的に「自衛」装備になるので,注意が必要だ。
ちなみに,本作で筆者が一番気になったのは,この「合流」部分のインタフェースである。頻繁に使う機能ではないとはいえ,正直いってかなり煩雑で分かりにくい。単純な部隊の合流作業なのに,インタフェースのせいで難しい作業にすら思えてしまうのだ。手厳しい意見になってしまったが,ほかの完成度が非常に高かっただけに,いっそうこの問題が目立つ。
インタフェースには改善の余地ありか?
部隊の合流だけでなく,インタフェースの問題はあちこちに感じられる。
部隊の合流インタフェースにはかなり悩んでしまうが,部隊の選択に関するインタフェースにも全体的に疑問が残る。
基本の構造はシンプルで,
1)動かしたい部隊を選ぶ
2)コマンドを発行する
と直感的で分かりやすい。
しかし,空母に格納されている艦載機を選ぼうとすると,
1)該当の空母機動部隊を選ぶ
2)航空機を選択
3)航空機に対してコマンドを発行
このステップを踏むことになる。
部隊を再編成して一つの航空隊にまとめているところ。基本,こうならないようにプレイしたい |
また,ゲームの抽象化を進め,扱うべきユニットの数をここまで減らしたのだから,オプションでもよいのでクリッカブルなポイントを直撃できるショートカットがあってもよかったのではないだろうか。こと,複数の敵艦隊が隣接している場合,敵の具体的な構成が分かっていてもなお,適切なターゲットをクリックするのが難しい。もちろん,「艦隊司令官がいちいち攻撃目標艦を選んだりはしない」という意見もあるだろうが。
また,情報の整理についても同様なことがいえ,敵艦隊の内容が報告されるときは,いったいどこの艦隊の報告であるのかがグラフィカルに明示されればもっとゲームがスムーズに進行できるようになるだろう。解像度の問題もあるが,敵艦隊について判明している情報については,艦隊グラフィックスに簡単なタグをぶら下げるなどしてもらえればありがたいところだった。
そして,最後に定番になってしまっている文句だが,「キーボードを使わないから操作性がいい」わけではない。少なくとも,ポーズキーはあってもよかったと思う。
操作はスマート。艦隊を選んで,行動を入力し,移動ならば移動先を設定する。複数のアンカーポイントを置くことも可能。ちょっと陸地の当たり判定が大きい気がするのと,敵艦隊が陸地の当たり判定内部にもぐり込むことがあるのはご愛嬌か。また,航空隊の操作も簡単。艦隊をクリックし,航空隊行動を選択すれば,その下のサブメニューが開く |
とはいえ,繰り返しになるが,こういったインタフェースの具体的な例をいちいち取り上げるのは,索敵や移動を中心としたゲームの根幹部分が非常にこなれているからだ。ゲームとして完成度が低いという意味ではまったくないので,その点はご理解いただきたい。
すぐれた抽象化が行き届いた好ゲーム
空母決戦は,短時間でプレイできるライトなストラテジーとして十分に評価できる完成度に達していると思う。お値段もPCゲームとしては控えめで,動作環境も緩やかなので,気軽に楽しめる作品であるといえるだろう。
人によっては,本作をちょっと味気なく感じることもあると思う。これはもうテイストの問題なので,議論としては難しい。筆者としては個人的に,「もうちょっと濃い味付けでも」と思わなくもないが,こればかりはなんともいえない。
いずれにしても抽象化とはシミュレーションゲームにとって避けえぬ技法であり,アナログ時代からこのかた,優れた作品とは,すなわち優れた抽象化を成し得た作品のことだ。その点からいえば,本作が目指した進路は正しい方向だと思う。
隠しシナリオになると,複数の艦艇を動かせるようになる。画面は夜陰に乗じてミッドウェイに艦隊が突入するところ |
シナリオは全部で7本。ぜひ追加シナリオがほしいところ。マップやシナリオのエディタなどがあるとありがたい |
むしろ,Si-phonがその主要ターゲットとして「30〜50代ぐらいの男性」を置くのであれば,筆者としてはSDK,あるいはそれに類するものを強く期待したい。この年代でPCゲームを遊んできた人々の多くは,8〜16ビットマシンでPCゲームの黎明期を経験してきたグループだ。もう時効だろうから書いてしまうが,少なからぬプレイヤーが初代「信長の野望」の兵力や国力を天文学的な値にしてみたり,「ブラックオニキス」をどこでも上下移動できるようにした経験がある人々だと思う。
MODという遊び方は,ライトな楽しみではないかもしれない。しかし,時間に拘束されないという意味においてはゲーム本体以上にフレキシブルだし,得られる達成感や満足度はゲーム本体に決して劣らない。むしろゲーム本体が楽しめるものであればあるほど,Moddingの楽しみも増えるものだ。そういう意味で,SDKなりマップエディタの提供があれば,より長く深く楽しめるようになると思う。
ともあれ,シンプルでよくこなれたストラテジーとして,空母決戦はなかなか楽しめるタイトルに仕上がっている。SDKはあまりに青雲の志に過ぎるにしても,追加シナリオなど,今後の展開にも期待したい。
2009年3月10日現在,公式サイトのサポートページにて1.01パッチが配布されている。適用するとセーブデータの継続性が失われるので,ゲームを始める前に必ずダウンロードしておこう。
- 関連タイトル:
空母決戦Ver2.0〜日本機動部隊の戦い〜
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(C)Si-phon