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[OGC 2009#12]「コミュニティには,適度な距離感が必要」 はてなの伊藤直也氏が語るオンラインコミュニティ運営の秘訣
はてなブックマークは2008年11月にリニューアルしており,その利用者数は,現在22万人に上る。累計で3500万件のブックマークが登録されている国内最大のソーシャルニュースサービスは,どのような思想の下に運営されているサービスなのだろうか?
ちなみに,この伊藤氏は,その昔に「ディアブロ」や「ウルティマ オンライン」といった,4Gamer読者にはお馴染みとなるオンラインゲームのプレイヤーだったことでも知られている人物。日本でインターネットが流行りだした黎明期からオンライン上のコミュニティを見つめてきた,伊藤氏の講演の模様をお伝えしよう。
今回の伊藤氏の講演は,そんなはてなブックマークのコミュニティ要素について詳しく述べたもの。オンラインゲームの運営にも応用できそうな(?),なかなかに興味深い内容であった。
順を追って説明すると,伊藤氏はまず,一般にコミュニティを形成する方法が二つあることを指摘した。一つは,そもそもコミュニケーションの需要があるところにサービス(掲示板,チャット)などを提供して,コミュニティを発生されるパターン。もう一つは,なにかをテーマにした“つながり”を発生させることで,コミュニティを自然発生的に形成させるパターンだ。
伊藤氏は,自身が運営を手がけるはてなブックマークは「その後者に当たるサービス」だとしながら,それを実現するための機能として,記事をブックマークする以外の各種サービス,すなわち「コメント」「はてなスター」「IDコール」「お気に入りユーザー」といった機能があるのだと説明する。「コメント」は,4Gamerの記事を例に挙げれば,右上にあるアイコンをクリックすることでリンクページが開くので,読者の中にも見たことがあるという人は多いかもしれない。
伊藤氏の話のなかで,とくに興味深かったのは,コミュニティとはいっても,直接的なやりとりをさせない「ゆるいつながり」であることが大事だという部分だ。例えば,直接ユーザー同士でメッセージのやりとりをさせるだとか,なにか明確なコミュニティの枠でくくってしまうような方向にせず,「適度な距離感が大切だ」と伊藤氏は言う。つまり,あまりに直接的なコミュニケーションをさせてしまうと,トラブルや気疲れが生じてしまい,コミュニティが長く続かないというのだ。このあたりは,オンラインゲームでも似たような話を聞くところだろう。
伊藤氏は,「あんまりユーザーさん同士を近づけすぎると,いさかいなども生まれたり,ほかのユーザーさんの目を気にして疲れてしまう」「ネットは日々ずっと使い続けるものだし,そういう意味でも,なるべくゆるいほうがいい」と,はてなブックマークの方向性を語る。
また伊藤氏は,大規模なソーシャルアプリケーションを構築するうえでは,「あくまで,個々のユーザーが自由に活動するということが重要。なにかのテーマに沿ってみんなで,とかではなくて,みんな好き勝手やっているんだけど,そこから“結果的に”大きなテーマが見えてくる仕組みがよい」と,はてなブックマーク(というか,ソーシャルサービス全般)のあり方についても言及。検索の人気キーワードなども同様だが,サービス側が下手にお題などを与えるのではなく,個々のユーザーの独立性を尊重したほうが,面白い情報が集約されやすいのだという。
講演では,さらにはてなブックマークが直面している課題,すなわち「ネガティブコメント問題」や「ユーザーの蛸壺化」といった部分にも話が進展する。例えば,ネガティブコメント問題というのは,はてなブックマークのコメント欄に殴り書きの“文字通り否定的なコメント”を書き記す行為が,見る人,そしてブックマークされたサイト/ページのオーナーや著者に不快感を与えるとして,一部で問題視されているという話だ。
この問題に対して伊藤氏は,「みんな意見もそれぞれだろうし,一定の割合で批判が出てくるのは仕方ないところもある。ただ問題なのは,批判的なコメントが続くと,その場に“否定してよい空気”みたいなものが生まれること。あとから来て石を投げつけるような行為は,よくないと思っていた」と説明しながら,対策として追加した「非表示ユーザー設定」が大きな効果を生んでいることなどを明らかにした。
ネット上では,相手をしていて埒があかない場合は「スルーする」という表現をよく使うものだが,この機能は,それをシステム的に用意したものと言える。非表示ユーザー設定は,ニコニコ動画などでも見受けられる機能だが,メールにおけるスパムの問題と同様,見たくないものをシステム的に排除する機能は,コミュニティサービスでは必要なの要素なのかもしれない。
また「ユーザーの蛸壺化」云々というのは,コミュニティが大きくなってくると,古参が幅を聞かせて新参者が入りにくくなるだとか,参加するための前提知識が必要になったりという,オンラインサービスの命題とも言える問題の話である。これについては,カテゴリの細分化と「お気に入りユーザー機能」を追加することによって,コミュニティを分散化。新参者が入りやすいような雰囲気作りを行っているとのことであった。
ともあれ,最後には,「コミュニティ運営は,実施してみないと結果(効果)は分からない。頭で考えるだけでは限界がある」「サービス側とコミュニティ側がWin-Winになる仕組みが重要」だとして,講演を終了。コミュニティ運営は,常に改善に取り組む姿勢が重要だとアピールした。
さて,今回の伊藤氏の話にもあった「ゆるさ」という単語は,Twitterやニコニコ動画,そして今回のはてなブックマークに代表されるように,ここ1〜2年のオンラインコミュニティのキーワードになっている言葉である。
というのも,近年,BlogやSNSといったコミュニティサービスが爆発的に広まる一方で,「Blog炎上」や「mixi疲れ」などといった言葉にも見られるような,コミュニケーションそれ自体に対するリスクや面倒くささが表立ってきているのが,その原因。他人とつながる,あるいは一緒にいる感覚が味わえながらも,より気軽な“疲れない”サービスが,ユーザーの間で求められてきているのだ。
日々の活動をゆるく共有させたTwitter,動画をみんなで見る楽しさを匿名的な空間で演出して見せたニコニコ動画,ブックマークという行動それ自体がコミュニティへの参加につながっていくはてなブックマーク。これらに共通するのは,「なにも,議論/会話するだけが,コミュニケーションのあり方じゃない」という考え方であり,この思想は,最終的には「ライフログ」の共有に行き着くと言われる。
つまり,なにかを買う,音楽を聴く,動画を見る,Webサイトを見る,ゲームをする……などなど,それら活動の記録自体(ライフログ)を共有化することで,“話さなくてもコミュニケーションが図れる”という話だ。まぁ,今あげた例のいくつかは,すでに実現されているものもあるので,それらを連想する人も多いことだろう。
今回の伊藤氏の話は,そうしたネットコミュニティの動向にいち早く対応した事例として非常に興味深いものであったし,オンラインゲームを含む各オンラインサービスが抱える問題を鋭く突いていたという意味でも,たいへん刺激的な内容だった。
一風変わった視点とアイデアで,日本のWebサービスをリードし続けているはてな。今回の講演のテーマであった「はてなブックマーク」や,「うごメモはてな」などの展開も含めて,今後の活動に注目していきたい。
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