レビュー
ついに登場したAM3プラットフォームの現状と可能性を把握する
Phenom II X4 810/2.6GHz
Phenom II X3 720 Black Edition/2.8GHz
» AMD製CPUが,下位互換を持ったままDDR3環境への移行を開始する。その尖兵となるのは,3コアCPUと,クアッドコアの下位モデルとなるが,これらはゲーマーにとって,意味のある選択肢といえるだろうか。宮崎真一氏が検証する。
別記事でお伝えしているとおり,AMDは「Phenom II」プロセッサのラインナップに,初の「AM3」パッケージ採用モデル,計5製品を追加した。4Gamerでは,AMDの発表に合わせ,同社の日本法人である日本AMDから「Phenom II X4 810/2.6GHz」(以下,X4 810)と「Phenom II X3 720 Black Edition/2.8GHz」(以下,X3 720)を入手したので,そのパフォーマンスを明らかにしてみたい。
AM2+の940ピンから2ピン減ったAM3
従来のSocket AM2マザーボードでも利用可能
表1は,X4 810とX3 720,そして本稿で比較対象としたCPUのスペックをまとめたものだ。
- AM3 CPU + Socket AM3マザーボード + DDR3-1333
- AM3 CPU + Socket AM2マザーボード + DDR2-1066
ここで注意したいのは二つ。まず,既存のAM2+パッケージのCPUは,Socket AM3マザーボードで利用できないこと。そして,「AM3対応」を謳うSocket AM2マザーボードは,「AM3(パッケージのCPUに)対応」という意味であり,DDR3メモリに対応したAM3プラットフォームに基づくものではないことだ。当たり前といってしまえばそれまでだが,AM3プラットフォームの登場からしばらくは店頭のポップなどが混乱する可能性もあるので,これからPhenom II対応マザーボードを購入する予定の人は,ぜひ憶えておきたい。
オーバークロック耐性は空冷3.6GHz前後か
X4 940と大きくは変わらない印象
テスト環境は後述するが,今回はSocket AM3マザーボードとして,ASUSTeK Computerの「M4A78T-E」,Socket AM2マザーボードとしてはMSIの「DKA790GX Platinum」という,両「AMD 790GX」チップセット搭載製品を用意。「Phenom II X4 940 Black Edition/3.0GHz」(以下,X4 940)のレビュー時と同じく,Cooler Master製のCPUクーラー,「V8」を取り付けた状態で,X4 810はベースクロックを引き上げる手法,倍率固定のないX3 720はベースクロック200MHzのまま倍率のみ引き上げる手法で,それぞれオーバークロックを試みた。
テストに当たっては,やはりX4 940のテスト時と同じく,「CPUとメモリに100%の負荷をかけ続け,システム全体の安定度をチェックするソフト『Prime95』を3時間連続実行し,その間エラーが出て停止したりしない」ことをもって,安定動作したと判断している。
なお,BIOS自体はベースクロック300MHz(=3.9GHz)でも立ち上がってくるのだが,OSが起動せずにブルースクリーンが表示され,強制終了してしまった。また,DDR2環境でも同じようにテストしたが,やはり安定動作するのはベースクロック280MHzが上限だったことを付記しておきたい。
先のX4 940検証時には3.8GHz動作を実現しているが,個体差やマザーボードの違いを加味すれば,ほぼ同等と述べていいのではなかろうか。空冷による常用オーバークロックを考えるときには,3GHz台中後半が一つの目安になるだろう。
※注意
CPUのオーバークロック動作は,CPUやマザーボードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,CPUやメモリモジュール,マザーボードなど構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。
X4 940にどこまで迫る?
DDR3とDDR2の違いも比較
なお,2枚のAMD 790GXマザーボードに共通して,メモリアクセス設定は,ゲームにおいてメリットの大きいGangedモードを選択。また,DDR3 SDRAMおよびDDR2 SDRAMの両環境ともに,グラフィックスカードを装着してテストを行うため,AMD 790GXに統合されたグラフィックス機能はBIOSから無効化している。
比較対象として用意した競合製品は,X4 810やX3 720と価格帯が近いところから「Core 2 Quad Q8300/2.50GHz」(以下,C2Q Q8300)。スケジュールの都合もあり,C2Q 8300はDDR3 SDRAM環境でのみテストを行う。
また,文中,グラフ中とも,X4 810とX3 720は,DDR3/DDR2環境のどちらでテストしたかを示すべく,CPU名の後ろに「DDR3」または「DDR2」と付記。オーバークロック状態については,DDR3環境でのみスコアを取得することにし,それぞれ「X4 810 DDR3@3.64GHz」「X3 720 DDR3@3.60GHz」と表記する。
DDR3とDDR2でパフォーマンスに大きな違いはない
X4 810はC2Q 8300とほぼ互角か
さて,まずはグラフ1,2に示した「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)から。ここで注目したいのは,総合スコア(3DMarks)だと,L3キャッシュ容量の多さと動作クロックの高さで,X3 720のほうがX4 810よりもスコアが高くなっていることだ。
3DMark06がマルチスレッド対応していることもあり,CPU性能を見るCPU Scoreではコア数の多いX4 810がX3 720を上回るが,ゲームタイトルによっては,X3 720のほうが良好なパフォーマンスを得られる可能性がありそうである。
また,DDR3 SDRAMとDDR2 SDRAMの違いでは,スコアに違いがまったく出ていない点,X4 810とC2Q Q8300のスコアがほとんど同じ点も興味深い。
続いて,FPS「Crysis Warhead」における平均フレームレートをまとめたものがグラフ3となる。
GPU負荷の大きいゲームだけに,CPUの性能差は表れにくいが,一応は「X4 810のほうがX3 720よりスコアが高いので,4コアに相応の効果がありそう」とはいえそうだ。一方,「DDR3かDDR2か」によって,スコアに変化が生じる気配はほとんどない。
続いて同じくFPSから,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)の結果がグラフ4だ。ここでもGPUの依存度が大きく,CPUによるスコアの違いは,まったくといっていいほど見られない。
3DMark06と比較的似た傾向になったのが,グラフ5に示したFPS,「Unreal Tournament 3」のテスト結果である。Unreal Tournament 3は,動作クロックが“効く”タイトルということもあり,X3 720のスコアはX4 810のそれを10%前後上回る。X4 940に迫るほどだ。オーバークロックの効果も大きい。
一方で,同じ理由により,動作クロックが一段落ちるX4 810のスコアはあまり芳しくない。
DDR3とDDR2でパフォーマンスに違いが出ることもある証左となるのが,TPS「デビル メイ クライ4」の結果である(グラフ6)。
X4 810よりもX3 720のほうがスコアが高いのは3DMark06やUnreal Tournament 3と同じだが,X4 810,X3 720とも,DDR3 SDRAM環境のほうがDDR2 SDRAM環境よりも高いスコアを示しているのだ。PC3-10600かPC2-8500かというメモリバス帯域幅の違いが,ゲームのスコアに影響を及ぼした一例といえるだろう。
グラフ7の「Company of Heroes」では,また趣が少し異なる。動作クロックが高いX3 720のほうがX4 810よりもスコアが高いという傾向自体は3DMark06やUnreal Tournament 3と同じだが,X4 810やX3 720の1280×1024ドット以上で,DDR2プラットフォームのほうが,DDR3プラットフォームよりも高めのスコアが出ているのだ。
もちろん,2fps程度では測定誤差の可能性も含まれるが,X4 810 DDR3とX4 810 DDR2の1680×1050ドットで生じている6.6fpsという違いは,無視できない。Company of Heroesでは,負荷の比較的高い状況において,レイテンシの低いDDR2 SDRAMが有利になる可能性を指摘できそうである。
最後に「Race Driver: GRID」(以下,GRID)の結果がグラフ8となる。GRIDは,マルチスレッド処理に最適化されたタイトルとして知られているが,果たしてX3 720よりもX4 810のほうがスコアが高く,コア数の多さがゲームパフォーマンスに有利に働く例といえる。
同時に,GRIDが,Company of Heroesと同じく,DDR2有利になる傾向を示している点も付記しておく必要があるだろう。
さて,ゲームと直接の関係はないのを承知のうえで,ゲームによって傾向の異なるメモリ周りの挙動を探るヒントを得るべく,「Sandra 2009」(SP2,Version 15.72)を実行してみた。「Memory Bandwidth」の実行結果がグラフ9で,総じてDDR2プラットフォームのほうが高い。メモリクロックだけを見ると,DDR3に分があるのだが,そうはならなかった,というわけである。
Company of Heroesのテスト結果を考察したときに言及したとおり,その理由の一つとしてはレイテンシが考えられる。しかし,どうもそれだけではないようだ。
X4 940のテストにおいて,Sandra 2009のMemory Bandwidthスコアは10.3GB/sほどで,それと比べると,今回のスコアはかなり高いが,これは,MSI製のAMD 790GXマザーボードであるDKA790GX Platinumで,メモリ周りのチューニングが進んでいるためと考えられる。
AMD 790GXベースのAM2+対応マザーボードは十分に“枯れ”ており,パフォーマンスを発揮しやすいのに対して,DDR3プラットフォームはスタート地点に立ったばかり。それが,メモリ周りのパフォーマンスとして露骨に出た可能性はありそうだ。AMDが,「AM3マザーボードのBIOSチューンを,マザーボードベンダーと協力して行っている」とレビュワーに対して情報開示していることからしても,AM3パッケージのCPUとDDR3 SDRAMの組み合わせに,パフォーマンスの伸びしろがまだある可能性が高いことは指摘しておきたい。
グラフ10は同じくSandra 2009から,キャッシュとメモリ周りの性能を見る「Cache and Memory」の実行結果。Phenom IIにおいて,128〜512kBはL2キャッシュ,512kB〜4MBはL3キャッシュの速度がそのまま数値となっているため,X4 810 DDR3/DDR2,X3 720 DDR3/DDR2間に違いはない。一方の16MB以上だと,グラフではほぼ同じに見えるが,実際のスコアではやはりDDR2環境のほうが高めのスコアになっている。
なお,X4 810 DDR3@3.64GHzとX3 720 DDR3@3.60GHzでスコアが大きく異なるのは,前者がベースクロックを高めているのに対し,後者はベースクロックが200MHzから変わっていないためだろう。
TDP 95Wの意義をはっきりと
感じ取れる消費電力の値
その効果はいかほどか,いつものように,システム全体の消費電力をチェックしてみよう。ログを取得できるワットチェッカー,「Watts up? PRO」を利用して,OS起動後30分放置した時点を「アイドル時」,Prime95によりすべてのCPUコアに30分間負荷をかけ続けた時点を「高負荷時」とし,前者についてはCPUが持つ省電力機能「Cool’n’Quiet」あるいは「Enhanced Intel SpeedStep Technology」を有効化・無効化した状態のそれぞれで測定を行う。
その結果はグラフ11のとおりだが,目に留まるのは,DDR3とDDR2で,消費電力に一定の差がついていることだろう。もちろん,マザーボードの違いは考慮する必要があるものの,今回テストしたDDR3メモリモジュールの動作電圧が1.6V,DDR2メモリモジュールが同2.0Vであることが,要因としては大きいと見るべきだ。
なお,高負荷時の消費電力は,今回の構成で200W前後。X4 940の同250W弱と比べると低減しているのは明らかで,下位モデルらしいTDPの引き下げが,大きな効果を発揮しているのも分かる。同じTDP 95WのC2Q 8300と比べると,多少高めではあるが。
最後に,アイドル時と高負荷時におけるCPU温度を,「HWMonitor Pro」(Version 1.02)で測定した結果をまとめたのがグラフ12となる。
前述のとおり,X4 810 DDR3@3.64GHzとX3 720 DDR3@3.60GHzは,CPUとしてV8を利用しているが,それ以外は,「Athlon 64 X2 6000+」の製品ボックスに付属するリテールCPUクーラー,C2Q 8300は,TDP 95W版用CPUの製品ボックスに付属するリテールCPUクーラーを装着して測定した(※今回,日本AMDから入手したCPUは単体で,CPUクーラーが付属していない)。
テスト時の室温は19℃。システムはPCケースに組み込まない,いわゆるバラック状態のスコアになるが,これを見てみると,高負荷時のCPU温度はX4 810,X3 720とも50℃台半ばで,それほど熱い印象はない。C2Q 8300と比べても,温度はかなり低い印象だ。
もちろん,CPUクーラーが異なるため,横並びの比較に意味はあまりないが,X4 810やX3 720が,あまりシビアに熱対策をしなくても大丈夫そうだとはいえそうである。
少々インパクトを欠く新プラットフォームの船出だが
コストパフォーマンス重視ならX3 720は面白い
DDR3環境への移行コストをかけるくらいなら,AM2+プラットフォームのまま,グラフィックスカードなどに予算を回したほうが幸せになれるだろう。ゲーム用という観点において,AM3プラットフォーム自体はしばらく様子見が正解と思われる。
それを踏まえ,Socket AM2マザーボードを持っている前提で両新製品を見るに,面白そうなのはX3 720だ。ニュース記事でも触れたとおり,メーカー希望小売価格は1万4980円(税込)で,同1万7980円のX4 810より3000円ほど安価ながら,動作クロックは200MHz高く,L3キャッシュメモリ容量も1.5倍。クアッドコアCPUに最適化されたタイトルではやや不利になるものの,あくまで「やや」レベルであり,動作クロックが効くタイトルでは,明らかに有利である。2009年2月時点で,トリプルコアCPUであることのデメリットを感じることは,ことゲームプレイにおいてはほとんどないはずだ。
また,倍率固定のない(=ロックフリーの)Black Editionゆえに,オーバークロックの自由度が高い点もポイント。空冷での耐性そのものはX4 810とあまり変わらないため,オーバークロックという観点でも,X3 720の買い得感は高い。手軽に遊べる低コストの選択肢として,注目に値する存在といえる。
- 関連タイトル:
Phenom II
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