レビュー
45nmプロセス採用の「Deneb」実力診断
Phenom II X4 940 Black Edition/3.0GHz
» ついに,「Deneb」が発表された。45nmプロセス技術で製造されるAMD初のデスクトップPC向けプロセッサが,いよいよゲーマーの手に渡ることになるが,果たして新世代クアッドコアCPUは,ゲーマーのCPU選びに,どんな影響を与えることになるだろうか? 基礎テストやオーバークロックテストを交えつつ,Jo_Kubota氏が検証する。
動作クロックやオーバークロック耐性の向上,L3キャッシュ容量の増量など,従来のPhenomで抱えていた弱点が確実に潰されている印象の新世代クアッドコアCPUは,果たしてどこまで「ゲーム向き」のCPUとなったのか。4Gamerでは,発表に合わせてAMDの日本法人である日本AMDから,発表時点における最上位モデルで,倍率ロックフリー版となる「Phenom II X4 940 Black Edition/3.0GHz」(以下,Phenom II X4 940)を入手したので,さっそくチェックしてみたい。
比較対象にはPhenom X4 9950と
Core i7-920,Core 2 Quad Q9650を用意
今回,比較対象として用意したのは従来製品の最上位モデルとなる「Phenom X4 9950 Black Edition/2.6GHz」(以下,Phenom X4 9950)と,CPU単体価格で競合となりそうな「Core i7-920/2.66GHz」(以下,Core i7-920),そして,動作クロックが同じ「Core 2 Quad Q9650/3GHz」(以下,C2Q Q9650)の3製品。スペックの違いは表1にまとめたとおりで,Phenom X4 9950と比べると,Phenom II X4 940はL3キャッシュ容量が3倍に増え,動作クロックが400MHz引き上げられる一方,消費電力の目安となるTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)が引き下げられている。HyperTransportリンクのスペックも若干下がっているが,このあたりは「2009年第1四半期中に登場予定の“本命”,AM3パッケージ版をお楽しみに」ということなのかもしれない。
テスト環境について補足しておくと,Phenom IIおよびPhenomのメモリアクセスは,ゲーム用途において,より高いパフォーマンスを期待できる「Ganged」で固定している。テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション6.0準拠だが,グラフィックスカードの性能に依存したスコアの出やすい「標準設定」の1920×1200ドット,並びに「高負荷設定」は省略した。
Rampage II Extreme X58搭載のOCer向けマザー メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:4万7000円前後(2009年1月8日現在) |
Rampage Extreme ゲーマー向けのX48+DDR2 メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:4万7000円前後(2009年1月8日現在) |
ENGTX280 TOP/HTDP/1G クロックアップ版GTX 280 メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:4万7000円前後(2009年1月8日現在) |
AMDのアピールどおり,OC時は空冷3.8GHzで安定動作
マザーボードが変わればもう少し行けるか?
テストに当たっては,CPUの動作倍率をBIOSから変更しつつ,
- 前述したテスト方法準拠で,すべてのゲームテストが完走すること
- CPUとメモリに負荷をかけ続け,システム全体の安定度をチェックするソフト,「Prime95」を3時間連続実行し,その間,エラーが出て停止したりしないこと
をもって「安定動作」としているが,結論からいうと,Vcore電圧を+0.200Vにした状態で,ベースクロック200MHzの19倍設定(=実クロック3.8GHz)が安定動作。AMDは,Phenom II X4 940が空冷で3.8GHzを狙えると謳っているが,果たして謳い文句どおりのクロックまで引き上げが可能だったわけである。なお,この状態を,以下本稿では「PII X4 940@3.8GHz」と表記する。
ちなみに,4GHz以上の設定でもOSの起動そのものは可能だったが,ベンチマーク完走までは至らず。一方,200MHzの19倍設定時にOSを起動させるだけならVcore電圧+0.100Vでも可能だったので,「オーバークロックに強いCPU」というのは,間違いないと述べてよさそうだ。
ところで,若干余談気味に続けると,今回AMDから借用したGA-MA790GP-DS4Hは,(製品全体の問題なのか,個体の問題なのかは分からないが)かなり不安定で,Vcoreと倍率しか変更していない今回のテストでも頻繁にBIOSが“飛び”,何度もDualBIOSからの復旧を余儀なくされている。オーバークロックテスト時のVcore設定が高めになっているのも,不安定ななか,できる限り動作安定性を高めようとしたためである。
もう少し完成度の高い個体,もしくは別のメーカーの製品であれば,もう少し上の倍率,あるいはより低い動作電圧での19倍設定を狙えるかもしれない。
※注意
CPUのオーバークロック動作は,CPUやマザーボードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,CPUやメモリモジュール,マザーボードなど構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。
まずは基礎テストで
Phenom II X4の特性を理解する
ゲームテストに先立って,CPUの基本性能をざっとチェックしてみることにしよう。
今回は,システム情報表示ツール兼ベンチマークソフトである「Sandra 2009」(Version 2009.1.15.72)と,「Everest」(Version 4.60)を使って,いくつか気になるポイントに絞って見てみたいと思うが,まずグラフ1,2は順に,Sandra 2009の「Processor Arithmetic」「Processor Multi-Media」テスト結果だ。
Processor Arithmeticは,整数演算の古典的なテスト「Dhrystone」,そして浮動小数点演算テスト「Whetstone」を実行するが,前者はCore i7のみSSE,それ以外はALU(CPUの通常演算)が用いられるため,横並びの比較には適さない。Processor Multi-Mediaの「Mulit-Media Int x8」も同様である。
そこで,“それら以外”を見てみるが,Phenom II X4 940は,Phenom X4 9950と比べて,クロック分に相当すると思われる差が確実についているのが分かる。C2Q Q9650との比較では,勝ったり負けたり,といったところだ。
同じく,CPUの整数/浮動小数点演算性能をチェックするために用意したEverestのスコアも見てみよう(グラフ3,4)。テスト名が「CPU」で始まるものが整数演算,「FPU」で始まるものは浮動小数点演算性能を主に見るテストだが,マルチスレッド性能がスコアを左右しやすい「CPU PhotoWorxx」で,Phenom II X4 940がPhenom X4 9950より50%も高いスコアを示している点は注目に値しよう。それだけ,コア間のデータ転送がうまく行っている――言い換えれば,容量6MBのL3キャッシュが“効いて”いるというわけだ。
また,メモリバス帯域幅が効果を発揮しやすい「CPU ZLib」でC2Q Q9650を上回っている点や,FPU性能が動作クロック分,順当に上がっている点もトピックといえるだろう。
続いては,コア間のデータ転送速度を見る,Sandra 2009の「Multi-Core Efficiency」だ。グラフ5に示したとおり,Phenom II/PhenomのL2キャッシュ容量に収まる512KBまでのデータ量だと,コア間のデータ転送速度がうまく取得されず,AMD製CPUは極めて低いスコアになってしまうが,L3キャッシュに収まる2MB(=16x128kB Blocks,64x32kB Blocks)では,Core i7-920といい勝負を演じることができている。
メインメモリの帯域幅を見る,Sandra 2009の「Memory Bandwidth」では,Phenom II X4 940でメモリコントローラに若干の改良があった可能性を見て取れる。さすがにトリプルチャネルのCore i7-920には歯が立たないが。
ここで,キャッシュメモリ周辺を掘り下げて見てみよう。グラフ7は,Sandra 2009から,CPUのキャッシュとメモリ周りの性能を見る,「Cache and Memory」の結果だが,ここで注目したいのは,PII X4 940@3.8GHzとPhenom II X4 940,そしてPhenom X4 9950のグラフが,相似形を示していること。動作クロックに比例したスコアになっていることからして,キャッシュアルゴリズムに大きな変更はないと考えてよさそうだ。
同時に,4MBのスコアに差がほとんどないあたりからは,Phenom II X4のL3キャッシュに,“L2キャッシュ的な”効果を期待してはいけないことも分かる。
基礎テストの最後は,データサイズごとに,何クロックで転送できるかをチェックするためのテスト,Sandra 2009「Memory Latency」の実行結果だ。ここでは,グラフの高さが低いほど,少ないクロックサイクルで転送できたことになる。
グラフ8におけるポイントは,Phenom II(やPhenom)でL2キャッシュから溢れる,1MBの結果。Phenom II X4 940は60クロック,Phenom X4 9950は54クロックかかっており,これだけだとPhenom IIのほうが遅いように思うかもしれないが,Phenom II X4 940の1クロックは約0.33ns,Phenom X4 9950は同0.38nsなので,60×0.33=19.8ns,54×0.38=20.5nsで,実際にはPhenom II X4 940のほうが速い。本来であれば,動作クロックを揃えてテストすべきだが,このあたりはスケジュールの都合によるものであり,ご容赦のほどを。
動作クロックといえば,Phenom II X4 940とC2Q Q9650は同じだが,両製品で比較すると,ダイ当たり6MBという大容量L2キャッシュを持つC2Q Q9650が1MB,4MBでPhenom II X4 940を圧倒する。L2/L3キャッシュ周りにある差は,ゲームタイトルによってはハンデとなるだろう。
Core i7-920やC2Q Q9650と
十分に戦えるPhenom II X4 940
4Gamerのベンチマークレギュレーション準拠となるテスト結果の考察に移ろう。
グラフ9は,定番中の定番,「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)の実行結果,グラフ10はそのうち,1280×1024ドットにおけるCPU Scoreを抜き出したものだ。Core i7-920にはやや置いて行かれるものの,C2Q Q9650にはかなりいいところまで迫っている。Phenom X4 9950の惨敗ぶりと比較すると,Phenom II X4 940の健闘は光る。
さらに,オーバークロックするとCore i7-920を易々と抜き去る点も好印象。今後,TDPが下がるなどして,より高いクロックのモデルが登場すれば,Core i7の上位モデルとも戦えるのではなかろうか。
次に,FPS「Crysis Warhead」のDirectX 9モードにおけるテスト結果をまとめたのがグラフ11である。グラフィックス描画負荷が非常に高いテストのため,CPUごとの差はそれほど大きくは出ないものの,先述したキャッシュ周りの使い方によるものか,Phenom II X4 940のスコアは,Intel製CPUと比べると今一つである。
比較的キャッシュ容量がスコアを左右しやすいFPS,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)のテスト結果がグラフ12である。Core i7はCall of Duty 4でスコアがあまり伸びないので,この結果は予想どおりだが,一方,Core i7と同じようなL2&L3構造を採るPhenom II X4ではそうなっていない。オーバークロックしたPII X4 940@3.8GHzでもスコアが上がらないことからすると,GPUボトルネックなど,さまざな要因が複雑に絡み合った結果のようにも思われるが……。
これ以上は分からないので,断言しないが,Phenom II X4 940はCall of Duty 4のプログラムと相性がよく,高解像度でもGPUボトルネックが生じるほど,十分なCPUパフォーマンスを発揮できている可能性はある。
同じくFPSの「Unreal Tournament 3」だが,グラフ13の1024×768ドットでCore i7-920のスコアが落ち込んでいるのは,ゲームの負荷が低すぎて,正常なスコアが出なかったためと思われる。
そこで1280×1024ドット以上を見ていくが,Core i7のスコアが突出しているのを除くと,Crysis Warheadと傾向は比較的似ている。少なくとも,Phenom II X4 940は,C2Q Q9650に敵わないが,Phenom X4 9950には大勝だ。
マルチスレッドへの最適化が進んでいるTPS,「デビル メイ クライ 4」だと,Phenom II X4は,第2世代のネイティブクアッドコアCPUである実力を存分に発揮する(グラフ14)。同じ3GHzで動作する“なんちゃってクアッドコア”CPUのスコアを安定して上回り,Core i7と拮抗。高度にマルチスレッド最適化の進んだタイトルでは,Core i7-920と遜色ないパフォーマンスを期待できるというわけだ。
続いても,マルチスレッド処理に最適化されているタイトルから,RTS「Company of Heroes」だが,グラフ15に示したスコアは3DMark06と似た傾向になっている。PII X4 940@3.8GHzとPhenom II X4 940,Phenom II X4 940とPhenom X4 9950のスコアを比較するに,L3キャッシュ増量の効果が出ていることも見て取れよう。
最後はレースタイトル,「Race Driver: GRID」(以下,GRID)の結果だ(グラフ16)。を見てみよう。傾向的にはCoHと似た傾向を示しているが,Phenom X4 9950のスコアが頭打ちになるのに対し,Phenom II X4 940では解像度ごとの差が現れている。
TDP 125Wの割に
意外と省電力なPhenom II X4 940
45nmプロセス技術で製造されるPhenom IIだが,Phenom II X4 940のTDPは125Wと,決して低くない。一方,AMDは,Core i7と比べて消費電力が大幅に低いことを謳っている(関連記事)が,実際のところはどうなのか。OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,システムに100%の高負荷をかけ続ける,「Prime95」(Version 25.6 build 6)の「Torture Test」 ブレンドモードを30分連続実行し,その間に最も高い省電力値を示した時点を「高負荷時」とし,ログの取得が可能なワットチェッカー,「Watts up? PRO」からスコアを取得した。
もちろん,AMD製CPUとIntel製CPUでは,組み合わせられるマザーボードが異なるため,スコアはあくまでも参考値となるが,省電力機能を有効化すると,アイドル時の動作電圧が1V以下に下がり,かつ動作クロックも800MHzまで下がるという,Phenom II X4 940の特徴がよく分かる結果になっている。少なくとも,アイドル時でCore i7-920と比べて50W近く低いのは,特筆すべきだろう。高負荷時は,さすがにC2Q Q9650を上回るが,それでもPhenom X4 9950やCore i7-920と比べると間違いなく低い。45nmプロセス技術の本領発揮といったところか。
グラフ17の時点におけるCPU温度を,「HWMonitor Pro」(Version 1.02)で測定した結果がグラフ18だ。ただし,Phenom IIとPhenomはV8,Core i7-920とC2Q Q9650はいずれも製品ボックスに付属のCPUクーラーを用いているため,横並びの比較にはまったく適さない。付け加えるなら,テスト時の室温が15℃であるにもかかわらず,GA-MA790GP-DS4Hは14℃という値を返すなど,いよいよ同マザーボードの信頼性に疑問の残るスコアが出てきているが,Phenom II X4 940とPhenom X4 9950の温度傾向は消費電力のそれと比例した形になっているので,「ミドルクラスのCPUとして,度を超えた発熱はしていない」とはいえるだろう。
ようやくIntelの中上位モデルと戦えるレベルに到達
まもなく登場するAM3を待つべきか,待たざるべきか?
Phenom IIは,AM2+パッケージのPhenomに対応したマザーボードで,適切な電源デザインのなされた製品であれば,基本的にBIOSのアップデートだけで対応できるのがウリだが,一式まるごと新調するコストも,Core i7-920とは比べるまでもなく安価。それでいて,倍率ロックフリーで,比較的容易に4GHzの壁へチャレンジできそうな点など,アッパーミドルクラスのCPUとして,堂々と胸を張れる仕上がりである。パフォーマンス指向のAMD派PCゲーマーに向けて,久しぶりにオススメできそうなCPUが登場したといえそうだ。
一方で,気になる点もある。別記事でも指摘されているように,AMDは2009年第1四半期中にも,AM3プラットフォームへ移行するという計画を持っている。AM2+パッケージのPhenom IIは,Phenom II X4 940と,その下位モデル「Phenom II X4 920/2.8GHz」のみで,すぐにAM3へ切り替わるとすると,いまこのタイミングで買い換えるというのには,やはり心情的に引っかかるものがある。
ちょうどいま,PCの買い換えタイミングを迎えていて,長く使うつもりなら,今すぐ購入しても後悔はしないだろう。だが,あと少し待てるというなら,AM3版のパフォーマンスとラインナップを見てからでも,遅くないかもしれない。
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