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[GDC 2017]FF15のインタラクティブに変化するBGMは,どのような構造で,どのように制御されているのか
実のところ,このような試みはこれまでもさまざまな形で行われてきた。だが「FINAL FANTASY XV」(PS4 / Xbox One)(以下,FF15)においては,新しいツールと工夫によって,より自然なBGMの遷移に成功している。GDC 2017の最終日に行われた「Epic AND Interactive Music in Final Fantasy XV」という講演でその技術が語られたので,概要をレポートしよう。
「FINAL FANTASY XV」公式サイト
FFのウリである音楽の良さを殺さない楽曲遷移
登壇したスクウェア・エニックスのサウンドプログラマー,岩本 翔氏は,まず最初に「インタラクティブ・ミュージックはこれまでも存在したが,そうした楽曲は,必ずしも素晴らしい音楽にはならないことがあった」と指摘する。状況の変化にBGMが追いつかなかったり,あるいは逆に変化が急すぎたりと,「インタラクティブな変化」が,楽曲の質を損ねてしまうことは,決して珍しくないというわけだ。
しかしながら「ファイナルファンタジー」シリーズの歴史は,新しい技術への挑戦の歴史でもある。それゆえに岩本氏は「ファイナルファンタジーにおける顕著な特徴であり,セールスポイントでもある『素晴らしい音楽』を損なわない形で,『素晴らしくて,かつインタラクティブな音楽」を目指すことになったと語った。
具体的に言えば,「音楽が繰り返しているとと感じさせないためではなく」「感情に訴える体験を増強する形で」「BGMの遷移を可能な限り“音楽的に”する」ことが目標となったのである。
楽曲の垂直遷移と水平遷移
インタラクティブな音楽の遷移には,大きく分けて2つの方法がありうる。
1つは垂直遷移。
演奏されている楽曲は原則として同じものだが,実際に音を鳴らすレイヤーを変化させるという手法である。具体的に言えば,主旋律を演奏する楽器が変わったり(主旋律レイヤーの遷移),パーカッションが加わったり(打楽器レイヤーの追加)といった形だ。FF15においては,チョコボに乗っているとき・釣り・拠点といった場面で,垂直遷移によるインタラクティブな遷移が行われている。
もう1つは,水平遷移。
こちらはより分かりやすい手法で,遷移するポイントを境目に,異なる楽曲へと遷移する。FF15においては,召喚獣の召喚や,ボスとの戦闘で水平遷移が利用されている。
MAGIシステムの誕生
岩本氏はこの垂直/水平遷移を管理するためのツール「MAGIシステム」をFF15のために新たに制作した。なんだかどこかで聞いたことがあるような気がする名前だが,あえてそこにはツッコむまい。
MAGIシステムは,垂直/水平遷移の設定が行えるだけでなく,どんなテンポや拍子(あるいはテンポや拍子の変化)にも対応できるという特色がある。もちろん,使い方は――少なくとも,MAGIシステムを使ってFF15のインタラクティブ・ミュージックを管理した岩本氏にとっては――簡単だという。
とはいえ,実際にMAGIシステムをどのようにオペレートするかを説明しても仕方ないので,ここではFF15において垂直/水平遷移がどのような場面で行われ,そこでどのような工夫がなされているかを解説したい。
垂直遷移:モードの切り替え
まずは垂直遷移から。
プレイヤーが最初に遭遇する垂直遷移は,ゲームが始まった直後に到着する拠点「ハンマーヘッド」において,店舗に入るところだろうか。FF15をお持ちの読者は実験してみてほしいのだが,店舗の中と外でBGMが微妙に違っていることに気づくだろう。
もっとはっきりと違いが出るのは,チョコボ騎乗時だ。ノクティス一行がチョコボに乗ると,チョコボ騎乗時のBGMに変わる。しかしよく聞いてみると,チョコボを歩かせて移動しているときは管楽器で演奏されているBGMが,チョコボを走らせると弦楽器での演奏に変化するのだ。
この遷移を自然に発生させるため,まずは「いつ遷移を発生させるか」が設定される。チョコボのBGMの場合,4拍ごとにアクセントが載っているため,4拍ごとに遷移のタイミングが設定されている。
その上で,歩く←→走るが切り替わるたびに素早く遷移してしまうと,楽曲表現は無茶苦茶になってしまう。そこで,走っている状態から歩く状態に遷移するにあたっては,「走っているときの演奏状態」で4小節を演奏してから,「歩いているときの演奏状態」に遷移するように設定されている。
一方で,「歩いているときの演奏状態」から「走っているときの演奏状態」への遷移は,1.5拍という非常に短い猶予での切り替えとなっている。
この猶予時間の違いは,チョコボを動かすUIおよびプレイヤーの実操作と関連している。
チョコボを走らせるとき,プレイヤーはコントローラのR2ボタンを押す。このとき,「走らせるつもりはなかったけれど,うっかりR2を押してしまった」ということは,滅多に起きない――つまり,「歩く→走る」の切り替えにはプレイヤーの意志が明確に存在しており,それだけにBGMの反応も素早くなくてはならない。
一方でチョコボが「走る→歩く」に変化する場合は,フィールド上の障害物に衝突したときなど,プレイヤーの意図によらないことのほうが多い。このため「意図しない歩行」を,BGM側では「歩行」と認めないような工夫が必要となる。これが「走る→歩く」の遷移において,「走っているときの演奏状態」が4小節の猶予を持たされている理由となる。
このように垂直遷移においては,遷移のきっかけとなる「モードの切り替え」ごとに遷移の猶予時間を設定すること,また楽曲にあわせた遷移タイミングを設定することが重要であると岩本氏は語った。
水平遷移:プリエンドパートという発明
続いて水平遷移。
プレイしていて最も簡単に「水平に遷移した」と感じる方法としては,召喚獣の召喚が挙げられるだろう。FF15では召喚獣を呼ぶと,ごく自然に召喚獣ごとのBGMに遷移し,召喚ムービーが終わると再びごく自然に元のBGMへと戻っていく。
もしFF15の戦闘に十分熟達したという自信があれば,ボス戦闘のほうがより水平遷移を感じられるかもしれない。FF15のボス戦BGMは「メイン」「プリエンド」「エンド」の3パートに分かれていて,ボスのHPが減少するに従って,順番にBGMが遷移していく。
さて,ここにおいてもMAGIシステムは非常にフレキシブルな設定が可能だ。しかしながら聴講者の多くが更に強い感銘を受けていたのは,「プリエンド」という概念である。
仮に,ボスとの戦闘BGMが「メイン」と「エンド」の2パートだけに分かれていたとしよう。
楽曲には,楽曲の事情として「このフレーズの途中で遷移されては,楽曲の良さが壊れてしまう」部分が存在しうる。そして音楽の時間感覚で言えば,「10秒くらいのフレーズ」は,決して「とても長いフレーズ」とは言い難い。
けれどゲームにおける10秒は,ときに「とても長い」(なにせ600フレームもある)。そして楽曲が「メイン」のパートで,この遷移不可能な10秒に入った直後に,ボスが倒されてしまうと,「画面上ではボスが倒れるムービーが表示され,戦闘リザルト画面になっているのに,まだメインBGMが流れ続けている」という状況が起こりうる。10秒もあれば,それはむしろ「絶対に起こる」と考えたほうがいい。
この問題を解決するクッションとなるのが「プリエンド」パートである。
FF15では,ボスとの戦闘において,ボスのHPがある程度減った段階(だがあと10秒程度ではボスを倒せないくらいにはHPが残っている状態)で,BGMは「プリエンド」パートに遷移する。このため,遷移不能な10秒に突入した直後にプリエンドへの遷移がトリガーしたとしても,とりあえずプリエンドへの遷移は確実に起こる。
しかるにプリエンドパートにおいては,「より細かく遷移のタイミングがとれるような楽曲」が提供されている。このため,極論を言えばプリエンドパートに遷移した直後にエンドパートへの遷移がトリガーしても,違和感なくエンドパートへの遷移が行える。これによってボス戦の最後を飾るムービーとBGMがうまく一致しないという問題は回避できるというわけだ。
シンクロの追求とQTE
さて,プリエンドパートという発明があってもなお,問題は残る。
FF15のボス戦闘のうちいくつかは,「ボスが倒されるムービー」でその決着が演出される。またそのムービーシーンを彩る専用の楽曲も用意されている。そして当然ながら,この「ボスが倒されるムービー」が始まった瞬間に,その「ボスが倒される楽曲」もスタートする必要がある。
従って楽曲の遷移を行う場合,「ボスが倒されるムービー」が始まるタイミングで「ボスが倒される楽曲」に遷移するよう,前もってタイミングをあわせて楽曲を遷移させる必要がある。
しかしながら,ここで遷移タイミングの計算を狂わせる要素がある。「ボスが倒されるムービー」を最終的にトリガーさせるのが,QTEだという仕様だ。このQTEは,ただ単に[○]ボタンを押すだけということもあるが,[○]ボタンを一定回数連打することもある。なんにせよ,プレイヤーの反射神経や連打力などなどによって,QTEの画面がどれくらい続くかは(数秒の差とはいえ)変化する。つまり,「ボスが倒されるムービーが始まる最後の最後で,ムービー開始のタイミングに数秒のズレが発生し得る」のである。
これについて岩本氏は「QTEがある以上,完璧にシンクロさせるのは無理」と語っていた。一方,普通プレイヤーはQTEを前にすると「なるべく早くそのQTEを遂行しようとするハズ」なので,完璧なシンクロは得られなくとも,概ねシンクロしている状態にはできるという。
またプリエンド用の楽曲が,常に大量の遷移点を持てるわけではない。岩本氏はこの例として,イフリート戦におけるプリエンド用楽曲を示した。この曲には約1分間のイントロがあり,このイントロ中に遷移点を持たせると楽曲を壊してしまう。
そこで岩本氏は自分でも実際にイフリート戦を何度もプレイしてみて,「これくらいのHPが残っていれば,1分間以内にイフリートを倒しきるのは無理」というラインを見定めたという。そしてプリエンドパートに入るトリガーとして,そうやって調査した「安全に遷移できると思われるHP残量」を設定したというわけだ。
さらなるインタラクティブ性を目指して
この講演においては,実際に楽曲が垂直/水平遷移するところを,MAGI上で再現したり,あるいは実プレイの録画で観せてもらえたりしたが,いずれも驚くほど自然な遷移となっていた。ボスバトルにおける遷移と楽曲のシンクロの事例においては,会場から拍手が湧いたほどだ。
かくして当初に掲げた目標どおりに,楽曲の素晴らしさを保ったままインタラクティブな遷移を可能とするツールを作り上げ,またそれを駆使してFF15のインタラクティブ・ミュージックを完成させた岩本氏だが,「まだまだ改良の余地はある」という。
果たして今後のスクウェア・エニックス作品において,プレイヤーはどんな音楽体験が可能になっていくのか。期待したいところだ。
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(C)2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. MAIN CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA
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