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[SIGGRAPH]「FINAL FANTASY XV」のビジュアルエフェクトは,「説得力のあるフォトリアル」を技術で実現する
さて,今回レポートするのは,そんなFFXVセッションの1つである「Visual Effects of Final Fantasy XV:Concept,Environment and Implementation」(FINAL FANTASY XVのビジュアルエフェクト。そのコンセプト,環境,実装について)だ。この発表は,ゲームに限定されない視覚効果関連の論文発表をまとめた「Angry Effects Salad」というコースセッションの中で行われたものである。
登壇者は,スクウェア・エニックス 第2ビジネス・ディビジョンのシニアプログラマーを務める長谷川 勇氏と,リアルタイムVFXスーパーバイザーを務める小山正彦氏。長谷川氏と小山氏が,担当分野を交互に説明するという形式で講演は進んだ。
なお,いうまでもないとは思うが,記事中で掲載している画像や動画は,すべて開発中のものであり,実際のゲームとは異なる可能性があることをお断りしておきたい。
長谷川 勇氏(シニアプログラマー,第2ビジネス・ディビジョン,スクウェア・エニックス) |
小山正彦氏(リアルタイムVFXスーパーバイザー,スクウェア・エニックス) |
説得力のあるフォトリアルな表現を目指したFFXVのビジュアルエフェクト
FFXVは,現代的な風景といかにもファンタジーな風景が共存する世界を舞台にしたファンタジーRPGであり,そこで描かれる事象は空想の出来事である。しかし,その世界で生じる火や水,煙といった現象や,光のようなエネルギーの扱いは,徹底して現実世界と同じように描くことを心がけたと,長谷川氏は言う。
たとえば,魔法として火が発生するのは虚構であっても,一度出現した火が燃え広がったり,炎の光が周囲を照らしたりするのは,現実世界の物理現象と同じであるから,そのように描くことにこだわった,というわけだ。
ここで言うリニア空間とは,表示するディスプレイの仕様(たとえば輝度)を考慮しない,現実世界の物理と等価な数値表現体系のこと。事実上のハイダイナミックレンジ(HDR)レンダリングともいえる。
レンダリングパイプラインをリニア空間で扱う手法のことを,映像やCGの用語では「リニアワークフロー」(Linear Work Flow,以下 LWF)と呼ぶ。そしてFFXVのエフェクト群は,すべてLWFで制作されているのである。
「FFXVにおけるPBRとLWFの効果が,最も生きている代表的な材質は『水』である」と小山氏は述べた。
水を正しく表現するには,鏡面反射要素(Specular)と透明度(Transparency),屈折(Refraction)の3要素が必要となる。PlayStation 4世代のゲーム開発では,透明な物質と不透明な物質を切り分け,なおかつ鏡面反射要素を残しながら透明度を下げる表現ができるようになったということで,水の表現のリアル度が向上したという。
FFXVにおけるビジュアルエフェクト制作の指針とは
続いて小山氏は,開発チームがどのようにして,ビジュアルエフェクト(VFX)を作り込んでいったかを解説した。
FFXVの開発チームには,VFXアーティストが何人もいるので,ゼロから各アーティストにビジュアルエフェクト作りを任せてしまうと,各人で流儀が異なり,全体の統一性が取れなくなる可能性がある。そこで,まずは独自のノードベースVFX制作ツールを社内で開発して,ツールの仕組みを理解しているメンバーがプリセット(基本スタイル)となるVFXを制作したうえで,それをベースにして各VFXアーティストがノードを組み上げることで,エフェクトを作り上げていくという手順を徹底したのだそうだ。
なお,ここでいうノードとは,以下の図にある1つ1つの機能ブロックのことである。
VFXアーティストの全員が,この仕組みに精通しているわけではないが,安定した品質の担保と制作効率を考慮すると,こうした制作スタイルは間違いではなかったと,小山氏は振り返っていた。
ノードベースVFXツール活用における課題と対策
このように,FFXVの開発においては,独自のノードベースVFX制作ツールでビジュアルエフェクトを制作していく方式を採用したわけだが,いくつか課題もあったようだ。
たとえば,凝ったエフェクトは複数のオブジェクトを大量発生させるものが多く,結果として規模の大きなものになる。また,エフェクトの性質上,短時間で発生と消滅を何度も繰り返すものが多い。
規模の大きなエフェクトはメモリを多く消費し,短期間に発生と消滅を繰り返す場合,エフェクトの起動と破棄が余計なオーバーヘッドになって,最終的な処理負荷が高くなってしまう。この問題に対処するために,FFXVでは2つの方法を採用したそうだ。
1つは「グループ化」だ。大量発生するエフェクトは,そのエフェクトを構成するノード群をグループ化して管理し,発生と消滅をグループ単位で処理することで,メモリの利用効率を改善できたという。
2つめは「定式化」(Formulation)だ。これは,エフェクト内に含まれる複雑なノード結合のうち,定番と思われる複数のノードを1つの「仮想ノード」として管理するというもの。複数のノードを仮想的な1ノードとして取り扱うことで,それらを無駄に起動したり破棄したりといった処理を減らせたそうだ。
FFXVではビジュアルエフェクトにプロシージャルテクスチャ技術を採用
FFXVでは,ビジュアルエフェクトに用いるテクスチャの一部を,アーティストの手描きではなくソフトウェアのアルゴリズムで自動生成しているのだ。
具体的には,攻撃エフェクトやレンズフレアといった,比較的面積の広いものにプロシージャルテクスチャを採用したという。画面全体に広範囲に広がるテクスチャは,手描きだとオリジナルの解像度から拡大縮小されることで,見た目の品質が下がってしまう場合がある。しかし,プロシージャル生成のテクスチャであれば,どんな大きさでも違和感のない解像度のテクスチャを生成できる。アニメーションするテクスチャも,プロシージャル生成であればループ(繰り返し)やリピート(同じもの何度も使用する)を目立たなくできるという。
もちろん,すべてのビジュアルエフェクトがプロシージャルテクスチャになったわけではなく,従来のような連番画像からなる事前生成型のアニメーションテクスチャもFFXVでは用いられている。
たとえば,先に動画で掲載した水飛沫のアニメーションテクスチャは,連番画像によるものだ。とはいえ,「単なる半透明ビルボードではなく,水飛沫特有の微細凹凸を疑似再現する法線ベクトルを含んでいるところが新世代機ならではないだろうか」と,小山氏はアピールしていた。
FFXVのエフェクト制作にノードベースのツールが使われていたことは,以前から筆者も聞いていたのだが,プロシージャルテクスチャ技術まで使っているとは知らなかった。「近代ゲームグラフィックス技術がほぼ全部入り」といわれるFFXVの一端が,明らかになったセッションといえるだろう。
この後に予定されているFFXV関連セッションでは,どんな種明かしが行われるのだろうか。楽しみでならない。
SIGGRAPH 2016 公式Webサイト
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(C)2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. MAIN CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA
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