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誰もがみんな“FF病”だった――鉄拳・原田Pによる不定期連載「原田が斬る!」。第1回はスクウェア・エニックス田畑氏が「FFXV」流リーダー術を語る
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印刷2016/05/21 00:00

インタビュー

誰もがみんな“FF病”だった――鉄拳・原田Pによる不定期連載「原田が斬る!」。第1回はスクウェア・エニックス田畑氏が「FFXV」流リーダー術を語る

世界を相手の戦争に挑む,開発チームの作り方


原田氏:
 今,田畑さんは挑戦とおっしゃいましたけど,僕も最初はそう思ってたんですよ。ああ,田畑さんはきっと挑戦しようとしているんだって。でも,途中からそれは実は違うんじゃないかと思うようにもなりました。それはFFXVの開発環境を見せてもらったからなんですけど。あの開発環境と規模は挑戦とかいうレベルじゃない。いわば,世界を相手に戦争をしようとしてるとしか思えない。

田畑氏:
 戦争ですか(笑)。

原田氏:
 今の日本のゲーム開発って,それぞれが得意なところをピンポイントに狙い撃つやり方――いわゆる近代戦的なやり方ですよね。でも,FFXVの開発ルームを見たら……そうじゃないわけですよ。開発チームの規模にせよ,そこで行われている研究開発にせよ,それこそ世界に対して最先端のテクノロジーを持ちながらも,旧来の物量戦を挑もうとしているようにしか見えない。

田畑氏:
 いいですね,最先端テクノロジーを駆使した物量戦。やってみたいです。

原田氏:
 僕もこれまで色々なプロジェクトに関わってきて,それこそ社運をかけた挑戦をやろうとしている現場を見てきました。海外で他社のスタジオを見せてもらって,これは賭けに出たなと思うことも多々ある。でもFFXVは,そのどれとも違う。あれは完全に勝ちを確信している作り方です。表現は悪いですが正直いって,イカレてると僕は思いました。ここの開発現場は,業界とかファンに公開見学させることを提案します!


光が素材に当たったときに,どういう反射の仕方をするかを測定しているところ。原田氏「リアルタイムレンダリングで,一つのアセットを使って24時間朝昼晩すべてを表現するのは,めちゃくちゃ難しいんです。コストを考えたら昼と夜で別のアセットを用意するほうがはるかに簡単ですし,そこに気象まで影響すると考えると,研究開発であることを含めても,良い意味でイカれてるとしか言いようがない」
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田畑氏:
 イカれてますかね? 普通のサラリーマンのつもりなんですけど(苦笑)。そもそもFFXVのディレクターに就任するときに上から言われたのが,「開発チームを改革して確実に強化し,最新のテクノロジーを宿らせたFFを作れ」ということでしたからね。

原田氏:
 よくあの規模の軍隊を動かすことを会社が許可したなって。こんなことを言ったら自分の器が小さく見えそうだからちょっと嫌だけど,あえて言ってしまうと仮に僕がスクウェア・エニックスのオーナーだったら,ぜったい首を縦に振りませんよ(笑)。「はああぁぁ!? ちょっとお前……そこまでしろとは言ってねえよ。コストを1/3にしろ!」ってなります。一体何をやったんです? もしかして“たらし”なの?

田畑氏:
 そんなんじゃないです(笑)。ただ,ずっとノウハウを積み上げてきた海外のデベロッパに今から追いつこうとするわけだから,その道が険しいのは当たり前ですよね。実際苦労は多いですし,もうちょっとコンパクトにたたむこともできると思いますが,今はギリギリまで我慢してやってみている,というのが正直なところです。
 もちろん,未来につなげたいからやっていることではありますが,勝ちを確信しているなんてことはまったくなくて,むしろ「ここで止まったら負けなんじゃないか?」という恐怖とのせめぎ合いの日々ですよ。

原田氏:
 4Gamerの読者さん向けに,海外のデベロッパがどれだけ先を歩いているかという話をすると,まず開発に関わるチームの規模が違いますよね。欧米――とくに北米は,日本のデベロッパが業界を席巻していた90年代から,PC環境でミドルウェアやゲームエンジンの開発をコツコツと続けてきたおかげで,500人からヘタすると1000人単位の規模でゲーム開発ができるようになってきた。一方日本の会社はというと,どう頑張ったって200人ぐらいが限界で。テクノロジーの合理化や共有化環境だけでなく,実はそういう「組織作り」の立ち遅れが,2000年代に入って日本が綺麗に勝てなくなった原因の一つにもなっている。
 でもFFXVは,日本でその規模の開発をやろうとしている。どうやってこんな大規模な開発チームを運用しているんですか? ここはぜひ聞いておきたい。

田畑氏:
 僕が重視しているのは,「技術をコンソールの中に閉じない」ということと,「流動性の高いプロダクション体制を整えておく」ことですね。とくに後者は日本人の特性がよく現れてると思っていて。
 月並みな表現ですけど,日本人ってチームワークが良いんです。「目標はこれ。その阻害要因はない。あとはみんなでベストを尽くせばできるはず」っていう状態さえ作れば,常にベストパフォーマンスを出し続けられる。僕の仕事は,開発の状況に応じて体制を変化させ,常にこの状態を保つことにあります。

4Gamer:
 海外の開発は人が流動的で,プロジェクトごとに大きく入れ替わると聞きますが,それとも違うのでしょうか。

田畑氏:
 プロジェクトごとではなく,一つのプロジェクトの中で流動性を高めるんです。例えばチームの立ち上げ時期と,最終的にクオリティを引き上げる開発後期では,求められる仕事が異なりますよね。そのときどきに求められるスキルに応じて,チーム内の編成を大胆に変化させるんです。

4Gamer:
 もう少し具体的には?

FFXVの開発ルーム。この広大なフロアのすべてが,一つのゲームソフトを生み出すためにある
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田畑氏:
 例えばゲーム開発の初期っていうのは,少人数でプロトタイプを作ることがゴールになります。このゲームがどういうメカニクスで,何を大事にしているのか。プロトタイプにはそういったキモになるコンセプトが反映されていれば十分で,品質は問われない。でも,どうしても細部にこだわってしまう人はいて,この段階でそういう人はむしろ邪魔なんです。

4Gamer:
 ずっと葉っぱだけを作り続ける職人とか,聞いたことがあります。半ば都市伝説だと思いますけど。

田畑氏:
 ありますね(笑)。仕事の成否基準が自分の中にあると,チームの勝利条件が見えてないことが多いんですよ。なので,この段階では「品質にこだわりたいあなたも,このフェーズではこの人の指示に従い,作業を止めろと言われたら止めること」と決めて,プロトタイプ向けの明確なジャッジができる人をリーダーに据える。そういったチーム編成を,以前からの上下関係に縛られずハッキリ決めるんです。

4Gamer:
 ああ,なるほど。

田畑氏:
 けれど,今みたいな開発終盤になったら,今度は揃ってきたアセット(素材)を磨かなくてはならない。各ロケーションの照明の設計を煮詰めて,影を調整していくみたいな,職人芸が必要になってきます。そこで今度は,クオリティの引き上げを得意とする人がトップに立って,その人のアウトプットを支えるためにチーム全体がサポートする編成に変えるんです。

原田氏:
 開発初期はモックアップモデルを量産しているだけだった人が,後半ではチームを指揮する立場に就いているわけだ。

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田畑氏:
 そうです。といっても,これは突如ジョブチェンジをするようなものなので,いきなりやれと言われてできるものでもない。FFXVは3年半ほど開発していましたが,終盤にリーダーになる人には,その間にトレーニングを積んでもらっています。色々な経験をしてもらい,流動的な編成に耐えうる組織作りを目指したんです。

4Gamer:
 では,チームを構成するスタッフ自体は変わらないんですね。

田畑氏:
 チームの総体はマスプロダクションに向かうにつれて大きくなっていきますが,それとは関係なく,その時点の目標に対して最適なチーム編成にするんです。最適を目指すと,人と人の物理的な距離も影響が大きいので,席もバンバン変えちゃいます。

原田氏:
 それは,田畑さん自身が作り続けながら学習したやり方ですか? それとも,最初から今の状況を見越して計画していた?

田畑氏:
 予想は最初からしていましたね。というのも,組織を硬直化させてしまった結果,自分ではどうにもできなくなった例というのを,僕はスクウェア・エニックスの中でいくつも見てきましたから。そうなってしまったら,ものづくりで勝つことなんて不可能です。

原田氏:
 ああ,ほかの失敗例を見てきたからこそできるんだ。
 いや,田畑さんが言ったような流動性って,ある程度の規模のプロジェクトになると,必ず起こるものなんですよ。ただ,それを意図的に狙って起こせるかどうかはまた別の話で。なるほど……じゃあ僕も,今後はインタビューで「最初から狙ってました」って答えようと思います(笑)。

(一同笑)

原田氏:
 まあそれは冗談として,真面目な話,よく予想できますね。僕なんか,正直そういう考え方すらしてなかった。例えばウチの場合,開発の後半にビジュアルデバッグっていうのがあって,ゲーム内でビジュアル面の不整合がないかをデザイナー達が確認していく作業が発生するんですが,大抵はある日突然「今日から君はデバッガーだ」って任命される事すらあるわけですよ。それで,「どうやるか分かりません!」ってことになる。やらなきゃいけないことは,予見できたはずなんだけど。

田畑氏:
 その問題って,「開発の合間を縫って皆で遊んでおきましょう」ということをやってないから起こるわけですよね。

原田氏:
 そうです。であるにも関わらず,デバッグの時期になったら「昼休みはみんな遊べ」と言われ,強制徴用されるという。

田畑氏:
 序盤からちゃんと触ってないと,どういう理由で今の形になっているのか知りもせずに,愚痴だか問題提起だか分からないようなことを言ってくるスタッフが出てくるんです。そのときに――これは前のインタビューでも答えましたが――「それは解決しなきゃいけない問題なのか,それともただの愚痴なのか,今すぐここではっきりしろ」と必ず言うようにしています。
 そういう雰囲気を作っておくことで,自分の疑問を実機で確認するようになりますし,自分の担当外の部分についても無責任に発言せず,まず考えるようになる。結果として,全体的な仕事の水準は上がるんです。

原田氏:
 すごく良い話を聞かせてもらいました。なるほど,じゃあ「それは解決しなきゃいけない問題なのか,それともただの愚痴なのか」って,明日からチームに言うようにします。これはいいなあ。あ,このインタビューが掲載されたら,元ネタがバレちゃいますけどね(笑)。

田畑氏:
 またまた(笑)。でも,原田さんもこの手のことは大体やってるんじゃないですか?

原田氏:
 どうだろう。思い返してみると,結果的にやっていることはいくつかあるかもしれません。ただ,田畑さんのように最初から計画していた,というのは恥ずかしながらですが,無いと断言できます。なるほど,僕が絶対FFチームのリーダーになれない理由が,なんとなく分かってきましたね(笑)。

田畑氏:
 僕もFFXVの前は,感覚的にやっていた部分が多かったですよ。でも今回ばかりは,ある程度考えてやらないと勝てないんじゃないかって。

原田氏:
 あともう一つ聞きたかったんですけど,FFXVに出てくる乗り物やメカニックのデザインがあるじゃないですか。あれ,独特の世界観が表現されていてすごくカッコ良いんだけど,実はちゃんと内部構造まで考えられていて,架空の世界でどういう風に飛ぶのかってことまで,きっちり資料になってますよね。表には出ていないですけど,あれもすごい時間がかかってるんじゃないですか?

主人公達の車「レガリア」のメカニック資料
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田畑氏:
 すべてのメカニックに資料があるわけじゃないですけど。ただ,キーになるものについては用意してあります。

原田氏:
 あれを見ると,自分が恥ずかしくなりますね。近年だと鉄拳でアリサのキャラアイデアが自分の頭に浮かんで,それをチームに伝えたとき,デザイナーから「この子はどうやって空を飛んでるんですか?」と聞かれたんです。その時僕は自分で生み出したにも関わらず「飛んでほしいから飛ぶんだよ! 飛んでから考えるんだよ!」で終わらせちゃいましたから(笑)。

田畑氏:
 うちも出発点は同じですけどね(笑)。

原田氏:
 あれはどういう狙いがあって資料にしているんですか? 説得力を出すためとか?

田畑氏:
 これもさっき言った,「技術をコンソールの中に閉じない」という方針の一環なんですよ。ゲーム部分ではオープンワールドの環境面まで研究する。グラフィックスについても,現行世代の技術に対応して終わるんじゃなく,プリレンダとリアルタイムレンダ,それぞれの最新技術まで習得したうえで落とし込む。アートも同様で,必要最低限の絵を描くんじゃなく,構造設計まで考えて,アカデミックな場でも通用するデザインを目標にする。すべてにおいて最先端までキャッチアップすることを目指して取り組んでいます。

原田氏:
 つまり,ゲームの枠を超えたところでものづくりをしていると。

田畑氏:
 ええ。意図的にそういう作り方をしています。……ただ,これを言ってしまった手前,僕自身が「いいんだよ,飛べば!」って言えなくなっちゃった(笑)。

原田氏:
 やっぱり言いたいんだ(笑)。

田畑氏:
 そうそう。だから,どこまで作り込むべきかは,毎回ギリギリで判断しながらやってますね。「へぇ〜この車はエンジン2つ付いてるのね〜なるほど〜(必要ないけど,これはいいや)」とか言って(笑)。


世界から見た日本と,グローバルローンチへのこだわり


原田氏:
 これはFFに限らず,日本のゲームに共通することなんですが,開発費が数十億かかるタイトルの場合は,今や日本だけでは成立しない。開発費を回収するだけでなく,シリーズの存続を考えると,どうしても世界に出て行く必要がある。これは事実じゃないですか。

田畑氏:
 ええ。要望に応えるにはコストがかかるわけで,現実問題として,企業はそこを回収できるかどうかで判断せざるをえないですね。おっしゃるとおり,日本だけで潤沢に回収することは,もはや不可能な時代です。

原田氏:
 例えば鉄拳の場合,アーケードは日本が市場の中心です。しかし家庭用では,4400万本の売上のうちそのほとんどは海外で,とくにヨーロッパの比率が高い。だから新情報を海外で発表することが多くなるし,フィードバックは日本を含め世界中から募る必要があります。

田畑氏:
 FFは鉄拳ほどじゃないですけど,日本が1なら欧州が2,北米が3くらいですね。

原田氏:
 でもそうすると,日本のゲーマーからは「なぜ日本のゲームなのに海外で発表するの?」とか,「もっと日本の意見を聞いてくれ!」とか,そういう意見が当然出てくる。FFXVも同じじゃないですか?

田畑氏:
 そうですね(苦笑)。確かにそういった事情は,プレイヤーには伝わらないのかもしれない。

原田氏:
 国内で100万本売れればいいんでしょって思われるかもしれませんが,もはやそういう時代じゃないんですね。もちろん僕らは日本人だから,日本からの要望が一番心に響くわけだけど,一方でマーケットを客観的に見たら,いまや日本は,市場のなかの「数ある国の一つ」というのも事実なわけで。そういう意味で,FFXVはフィードバックのあり方をどう考えているのかっていうのを,ぜひ聞いてみたいです。

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田畑氏:
 僕はマーケットに対する考え方と,ファンとの関係性は切り分けて考えてます。とくにFFXVの場合は,ずっとお待たせしているっていう事情もありますから,発売前からファンとのコミュニケーションをきっちりと取っておきたかった。それはフィードバックを得るためというよりは,ちゃんと作ってるんだっていうのを知ってもらおうってことなんですけど。

4Gamer:
 プレイヤーからのフィードバックは,実際のところ参考になりますか?

田畑氏:
 もちろん参考にはなります。ただ,あれが欲しいこれが欲しいっていう刹那的な意見って,長期間にわたるゲーム開発においては,実はさほど意味はないんです。すべての要望に応えるのは,そもそも不可能なわけですから。それでも僕らが意見を求めるのは,僕らがやろうとしていることと,ファンが望んでいることの間に,うまい着地点を見つけたいと思っているから。あと,不満の出し先がハッキリしていた方が,健全ですからね。

原田氏:
 そこは格闘ゲームである鉄拳とはスタンスが違うところですね。格闘ゲームの場合,どうしても主役はプレイヤーになるので,とくに競技性に関わる部分のフィードバックは,早めに得る必要があります。FFみたいに長い時間をかけて世界観を作り上げていくタイプのゲームとは,根本的に違うってことなのかな。

4Gamer:
 世界市場を意識したゲーム開発というのは,国内のみをターゲットにする場合とどういう違いがでてくるのでしょうか。

原田氏:
 ワールドワイドかつ,鉄拳のように海外比率が高いタイトルだと,少なからず違いは出るはずです。鉄拳の場合,例えばキャラクターデザインなんかがまさにそうで,その地域やコミュニティごとの嗜好に合った設定やデザインにすると,売上も目に見えて変わってくる。効果的なPRの仕方は国ごとに違いますし,宣伝にも力が入りますから。そこへ行くと,FFシリーズのキャラクターは無国籍な印象ですけど,そのあたりはどうなんですか?

田畑氏:
 FFXVでは,「Versus XIII」から引き継いだときに,キャラクターは絶対に守らなくてはならない部分と決めたので,そこを大きく変更することはしませんでした。それはもう,自分の好き嫌いではなく,チームの責任として守らなくてはならないところだと。だから正直,最初は愛着とかまったくなかったんですよ。そこからスタートして,ルックスでなく内面を愛せるように作り込んでいったという。

原田氏:
 主人公達はそうでしょうけど,脇を固めるキャラクターはどうでしょうか。例えば主人公の父親なんかはとても良いと思うんです。恐らく海外から見たら,彼のほうが魅力的に映るんじゃないかな。アートとしてもそうだし,技術的にも難しいことをしていますよね?

田畑氏:
 若者より老人のほうが,人間として描こうとすると技術的なハードルは高いかもしれません。リアリティのレベルで言えば,あの主人公達が一番フワッとしているんです。ある意味,記号的と言ってもいい。

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原田氏:
 主人公達だけちょっと周りから浮いて見えるというのは,確かに感じます。だから,なんでそこを変えなかったんだろうって思ってたんですが。

田畑氏:
 そこを外してしまうと,FFXVを名乗る意味がなくなってしまいますから。あのキャラクター達が冒険するFFをちゃんと出し,買ってくれたユーザーに満足してもらうというのが,我々が背負ったミッションです。だからこそ,僕達が愛せるキャラクターになるまで,内面を作り込んでいったわけで。

原田氏:
 ああ,それはファンにとっては嬉しい話でしょうね。安心して任せられるというか。

4Gamer:
 ちなみに,「FINAL FANTASY 零式」(以下,零式)のときはどうだったのでしょうか。

田畑氏:
 零式のときは,外見も含めて初期プロットから関わっていたので,もう少し感情移入しやすかったですね。

4Gamer:
 零式は,企画の段階では国内向けだったんですよね。

田畑氏:
 あれは完全に国内向けに作ってましたね。一方で,FFXVは最初からグローバルローンチが前提です。さっき,日本のマーケットが小さいという話をしたじゃないですか。現実は確かにそうなんだけど,でもそれで終わりたくないという気持ちはあります。FFXVでグローバルローンチにこだわるのも,実はそれが理由の一つなんです。

4Gamer:
 えっ。それはどういうことですか?

田畑氏:
 国内と同時に海外でもしっかりプロモーションして,その評判や反響が海を越えて日本にわたってきたときこそ,「このゲーム良さそうじゃん」と反応してくれる日本人が増える──つまり日本市場への追い風になるんじゃないかって。

原田氏:
 ああ,おっしゃるとおりです。AAAの概念なんてまさにそれですよね。日本に返ってくる影響――つまり“箔をつける”ことを考えるなら,もっと海外中心で盛り上げた方が良いはずなんですよ。もちろん,これは実績値を元に言ってるんですけど。

4Gamer:
 つまり,日本の映画監督や俳優なんかがアカデミー賞を取ると,日本でも話題になって盛り上がる,みたいなことですか?

田畑氏:
 そうそう。メイドインジャパンのものが評価されるのって,日本人ならやっぱりすごく嬉しいですよね。あと僕自身もそうなんだけど,日本人は「これが大好きだ」と主張するのが苦手な一方で,英語圏で評価されたものを素直に受け入れる気質がある。

原田氏:
 日本人が自分達の価値に気付かないっていうのは,海外の伝統工業の市場なんかでもよく言われますね。「ものすごく精巧なものを作っているのに,価値の付け方がおかしい。なぜそこに誇りのプライスを足さないのか」みたいな。これはブランド作りが下手ってことでもあるんだけど,逆の部分では海外で生まれた価値や流行を抵抗なく受け入れられるということでもある。それって僕らの長所なんですよね。

田畑氏:
 うん。だから,グローバルローンチを成功させることは,日本人ゲーマーにとっても絶対にプラスになるハズなんです。

原田氏:
 これが日本のゲーマーには,なかなか理解してもらえなくて。もちろん「日本のゲームなんだから,日本先行でプロモーションしてほしい!」という声には応えたい。でも一方で,ファンは世界中にいるわけだから。その時々で一番良いやり方を考え,やれることをやっていくしかない,というのが実情ですね。

4Gamer:
 ……むしろ,市場規模を基準に考えるなら,もう日本とかどうでもいいってなりませんか。

原田氏:
 いや,ここは明確に否定しておきます。それはまた違うんですよ。僕らは日本に住んでる日本人なんだから。本当にどうでも良かったら,それこそ開発拠点を海外に移しちゃってますよね?

田畑氏:
 日本がどうでもいいなんて思ったことは,僕も一度もないですね。もちろん数字を考えたら,海外は当然意識しなくてはならないです。だけど,僕らは日本に住んでいて,日本の会社で,日本のIPで作ってるわけだから。まあ,その日本人はすぐネガティブな方向に考えて,心をディフェンスしちゃうから,そこが玉に瑕なんだけど(笑)。

原田氏:
 ほんとうに悪い意味でのネガティブな事を言う人って,これはどこの国でもそうなんだけど,100人いたらそのうち1人とかなんですよ。いわゆるノイジーマイノリティってやつです。でも日本人はその1人の意見に影響されて,大勢が染まってしまう傾向にある。これが海外になると,最後の1人になってもムキになって反論するか,他人は他人だと割り切るかなんですけど。

田畑氏:
 そのときに重要なのが,僕はメディアだと思うんですよ。ポリシーを持ったメディアは,ノイジーマイノリティなんかより,よほど大きな説得力を持ちますから。プレイヤーとメディアの間に信頼関係があれば,例え誰かがネガティブなことを言ったとしても,「いや,4Gamerにはこう書いてあったから」って説得力を持って返せるじゃないですか。

4Gamer:
 えーと……はい。がんばります。

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