インタビュー
“スリル”の中身はPKがもたらす“緊張感”と思わず笑っちゃうような“意外性”。「アルカディアサーガ」インタビュー
同社は本作を運営するにあたり,ハウジングや生産,そしてPK(Player-Killing)といった要素を充実させており,プレイヤーがゲーム内の世界で“もう一つの生活”を営めるような内容を目指しているという。
いわば,黎明期のMMORPGへの原点回帰を標榜しているわけだが,先日行われた“公開テスト”の参加者はそれをどう受け止めたのだろうか。同社のゲーム企画部 部長 大瀧道華氏に,テストの状況や,今後の展開などを聞いてみた。
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ベテランプレイヤー達によるロールプレイが見られたクローズドβテスト&公開テスト
本日はよろしくお願いします。まずは,クローズドβテストおよび公開テストの手応えを教えてください。
大瀧道華氏(以下,大瀧氏):
私達は開発にあたり,プレイヤーの生活観や,PKが存在することによる緊張感などを前面に出そうと考えました。今のところ,そのコンセプトどおりに仕上げられつつあると実感しています。
4Gamer:
といいますと?
大瀧氏:
例えばハウジングでは,各プレイヤーが自分の家に思い思いの名前をつけたり,家具を配置したりしていましたし,ベンダーを配置してショップを作る人もたくさんいました。
PKに関しても,自衛活動を行うPKK(Player-Killer Killing)ギルドを組織する人もいて,ロールプレイを楽しんでもらえた印象です。
4Gamer:
現状,狙いどおりに進んでいるわけですね。
大瀧氏:
ええ。こちらが用意した要素を活用してもらうことで,ゲームの方向性が確立されてきたと捉えています。
4Gamer:
それらの要素に触れたプレイヤーから,どのような感想や意見が寄せられていますか?
大瀧氏:
最も多いのは,操作性に関するものです。とくに移動速度についてはとても多くの意見が寄せられていますので,正式サービスに向けて最優先で対応しています。
そのほか,ハウジングやPKに関する意見も多かったので,今後のアップデートで順次対応していく方針です。
4Gamer:
細かいところでは,素材収集のモーションが攻撃と同様なのが気になりました。
大瀧氏:
ええ,そういった意見も多数寄せられています。正式サービスには間に合いませんでしたが,近いうちに改善したいと思います。
4Gamer:
それでは,正式サービス開始に合わせて変更される点を教えてください。
大瀧氏:
大きいところでは,クエスト関連の変更を行います。これまでのテストでは,実施期間に合わせ,プレイ時間が短くてもレベルを上げやすいようにしていましたので,正式サービス向けに調整します。
また,クエストの総数を増やしたり,インスタンス形式の目標達成型ミッション,つまりボス戦を追加したりします。
PKのあり方はプレイヤーの自主性に任せ,運営がその広がりをバックアップ
実際,PKあるいはPKKに関する反響はどうでしたか? 最近,PKの存在を前面に打ち出したタイトルは少なくなっているので,非常に興味があるところです。
大瀧氏:
これは本当に賛否両論ありました。ただ,このタイトルについてはPKありきで考えていますので,廃止は考えていません。ただPKする側/される側それぞれのメリットとデメリットを慎重に調整しなければならないと考えています。
その意図の背景には,弊社の「パンドラサーガ」のように“戦争”という形でルールを提供するのではなく,「ウルティマ オンライン」のように,私達が提供するのは素材だけで,それをプレイヤーの皆さんに調理してもらいたいという思いがあります。したがって,今後も開発/運営側でルールを用意することはないでしょう。
4Gamer:
プレイヤーの自主性に任せる,と。
大瀧氏:
とはいえ,PKKギルドの結成などは非常に面白い動きですから,開発/運営側としてはただ見ているだけでなく,それを盛り上げていきたいという気持ちもあります。そこで,このような活動を行うプレイヤーには,何らかの形で“旨み”を感じてもらえる仕組みを用意することを検討中です。例えば,きちんと活動していることを確認できれば,専用のギルドハウスを提供したりとか。
また,逆にPKを繰り返してカルマ値が高くなったプレイヤーについては指名手配告知をしたり,“悪党インタビュー”を敢行したりして盛り上げていくことも考えています。
4Gamer:
PKという行為そのものを推奨するのではなく,“悪人のロールプレイ”と見なし,フォローしていくわけですね。では,PKする側のコミュニティ形成を支援したりする計画はありますか?
大瀧氏:
今のところ,“悪党”のコミュニティ形成に関わる予定はありませんが,もし将来的に何らかの形で関与するならば,ほかのプレイヤーを倒す大義名分のようなものを用意できるといいかもしれません。
4Gamer:
現状では,悪党にはロールプレイする楽しみが味わえることや,自己満足が得られること以外のメリットはないんでしょうか?
大瀧氏:
悪党でないと受けられない専用クエストを用意しています。見返りも,通常のクエストより多少大きくなっているんです。また,アイテムを購入できる悪党専用のNPCについても検討しています。
4Gamer:
あれ,まだ悪党用のNPCはいないんですか?
大瀧氏:
最初から悪党に手厚いシステムにしてしまうと,ゲーム内が殺伐としすぎてしまう恐れがあるんですよ。
4Gamer:
ああ,まずは自警ギルドがしっかり機能するようにならないと,運営としては安心して悪党を増やせませんからね。
大瀧氏:
ええ,悪党に関する要素は様子を見つつ進めていきます。当面は,GMがゲーム内でサポートし,システム面はそのあとで強化していく予定です。
また,ギルドがほかのギルドと戦う理由や大義名分も検討しています。とはいえ,これも「戦える場を用意しました」くらいのものであって,システム上で強制的に対立させ,戦わせるといったものではありません。これは,実装するにしても少々時間がかかりますので,決まりましたらあらためて発表します。
“生活”に戸惑う初心者には「コメントボード」を介した相互サポートを推奨
そういった,PKを含むロールプレイの要素が盛り込まれた本作は,今,日本で主流のMMORPGとはややベクトルの異なる内容になっていますよね。
大瀧氏:
はい。私達としては,家を作ったり,生産したりといった要素を楽しんでほしいという気持ちを強く持っています。
また戦闘も独特で,間合いや攻撃のタイミングなどを考える必要があるんです。MMORPGに爽快感を求める人は戸惑いを覚えるかもしれませんが,この先ゲームがどのように進化していくか,想像を膨らませつつ冒険するのも楽しいと思います。
4Gamer:
なるほど。しかし,主流のMMORPGと違う部分も多く,何をやっていいのか分からないという人も出てきそうです。
大瀧氏:
そういう人のためのヘルプやチュートリアルはもちろんですが,そのほかに「コメントボード」を用意しています。これはゲーム内掲示板のようなもので,プレイヤー同士で意見交換するための機能です。各プレイヤーは,いつでも好きなときにその内容を確認したり,書き込んだりできます。
公開テストでは,PKの発生情報や,ギルドメンバーの募集といった有用な情報がコメントボードでやり取りされていましたし,商店の告知なども行われていました。初心者にとって有用な情報も多数書き込まれましたので,正式サービス開始後も活用してほしいと思います。
4Gamer:
ここまでの話を聞いて感じましたが,ロールプレイや生産活動,プレイヤー間での情報交換といったものを重視している本作では,割とハードルの高い遊び方が求められそうです。
大瀧氏:
公開テストでは,そういった遊び方に長けているプレイヤーがかなり見受けられました。例えば,橋のたもとに掘っ立て小屋を建てて簡易作業所にする人や,適切な場所を見つけて店を作り,グローサリーを経営する人がいました。傍で見ていて「すごいなあ」と感心したものです。
4Gamer:
ベテランMMORPGプレイヤーの存在が,ゲーム全体の展開を牽引してくれるだろう,と。
大瀧氏:
ええ,大いに期待していますが,もちろん任せっぱなしというわけにはいきません。そういったことがあまり得意でない人のために,家の機能を拡張していく方針です。まだ検討段階ですが,牧場や農場もその一つです。
また,長期間にわたってショップを経営していると何かしらメリットが得られるようにしたり,GMが名物ショップとしてほかのプレイヤーに紹介したりといったことも考えています。
4Gamer:
コメントボード以外に,初心者向けの機能/要素はありますか?
大瀧氏:
ロックされている家はもちろん無理ですが,アルカディアサーガでは,比較的簡単に他人の家に入れる仕様になっています。そこで,ほかのプレイヤーの家に入れてもらい,家具の配置や生活の様子をチェックすると,新たな発見があると思いますよ。
また本作では,レベル10になるとPKされるようになってしまいますので,それまでに,ほかの人がPKしたりされたりするシーンを見学するなどして,うまくPKをかわすコツを意識的に学んでいくといいんじゃないでしょうか。
4Gamer:
サラッといっていますけれども,PKすることを好むプレイヤーというのは概して上級者が多いので,うまくかわすのは難しいんじゃないですか?
大瀧氏:
不意打ちでの“一撃死”でさえなければ,逃げられる可能性はあります。というのは,戦闘システムの特性で,一直線に走れば攻撃が当たりにくくなるよう設定されているからです。襲われても諦めずに走っていれば,倒されずに逃げられる確率も高くなります。そこからは,頑張ってくださいとしかいえないんですが。
4Gamer:
PKされると,所持品をドロップしてしまう可能性がありますよね。具体的に何をドロップするのでしょう?
大瀧氏:
装備品,所持アイテム,お金,ペットですね。
4Gamer:
ペットは倒されるのではなく,持っていかれてしまうのですか?
大瀧氏:
ええ。公開テスト中も,PKされた人が「僕の馬を返してください〜」とお願いする場面などが見られました。
4Gamer:
そのような状況になったら,持っていった相手より強くなって奪い返したいところですね。
大瀧氏:
あるいは,交渉でどうにかする方法もあります。
4Gamer:
プレイヤー達が嫌がらせに走るのではなく,PKという仕組みをうまくロールプレイに結び付けられるようにしていくことが大切ですよね。それぞれのプレイヤーがどう考えるかにもよりますが,皆の意識を高く維持できるかは運営の腕の見せどころといえそうです。
大瀧氏:
まさに苦心惨憺しています。システム的なものにせず,自由度を保たせたまま規律を設けるにはどうすべきか。ロールプレイの邪魔にならないような規律ができるように誘導したいと考えています。
「亜人」の襲撃はこれからが本番。ロジックによる行動パターンの分岐も
4Gamer:
本作のシステム的な特徴の一つに,「亜人」による家の破壊がありますよね。
大瀧氏:
公開テストで亜人に遭遇した人が少なかったためか,反響は今のところあまりありませんが,実際に体験したプレイヤーからは「緊迫感があって楽しかった」という意見が寄せられています。中には,「家が襲撃され,一瞬のうちに灰燼に帰して唖然とした」という報告もありました。
また,おいしい狩りポイントに多くのギルドが集中的に家を建てて敵対状態になっていたんですが,亜人が襲撃してきたのを見て,一時的に協定を結んだりといったこともあったようです。
4Gamer:
おお,ここでもプレイヤーが狙いどおりに動いてくれている感じですね。
大瀧氏:
ええ,楽しんでいただけている実感があります。
4Gamer:
亜人の襲撃には,何か予告があるのですか?
大瀧氏:
予告ではありませんが,まずは亜人の斥候がマップ上を徘徊し,どの家を襲うか当たりをつけます。
亜人がその家に襲撃をかけるとプレイヤー達と交戦状態になり,援軍を呼んだり,撤退したりします。場合によっては,家を1軒壊しただけで満足し,帰っていくこともあります。このように亜人の襲撃にはいくつかの分岐ポイントがあるんです。
4Gamer:
それは,GMが操作しているんですか?
大瀧氏:
いえ,ロジックが組まれており,状況に応じてどのように進行するか決定されます。
また亜人以外にも,家の存在が気に食わないというモンスターがいて,亜人の襲撃とは無関係に,家をかじったりすることもあります。
4Gamer:
ということは,ログインしたら家が壊れていたということもあり得るんですか?
大瀧氏:
運が悪かったり,あるいは1軒だけポツンと建っていたりすると,そのようなことが起こるかもしれません。
4Gamer:
なるほど。それではやはり,一人で暮らしていくというより,ほかのプレイヤー達と協力して安全な居住地を築き上げていく感じになるわけですね。
大瀧氏:
そうです。マップの追加に併せて,防衛手段も増やしていきたいと考えています。例えば,壁や罠,ガードNPCなどを検討中です。
4Gamer:
家が壊された場合,どのようなデメリットがありますか?
大瀧氏:
家具は手元に残りますが,家は造り直す必要があります。家を建てる前にPKされるとドロップしてしまう可能性があるので,早めに倉庫に入れておく必要も出てくるでしょう。
逆に,亜人を倒すことで家の材料が手に入ることもあります。
味わってほしいのは“意外性”。コンテンツも続々とアップデート予定
そのほか,アルカディアサーガでここを見てほしいという点を教えてください。
大瀧氏:
世界の広さです。このタイトルは,水野 良さんに世界観の監修をしていただいたり,崎元 仁さんに作曲をお願いしていたりと,雰囲気作りを重視しています。開発のヘッドロックさんが描き出すグラフィックスについてもそうですね。それらの要素からなるファンタジー世界での生活を,ぜひ満喫してもらいたいと思います。
とはいえこの世界は,必ずしも治安が良いわけではありません。名所に出かけてみたら,そこに待ち受けていた悪党に身ぐるみ剥がされたなんていうことにならないよう,十分に注意してください。
4Gamer:
生産を極める,あるいは大悪党になるといった最終目標は各プレイヤーが決めるにしても,その中間段階での目標のようなものは用意されているんですか?
大瀧氏:
そういう意味では,一般的なMMORPGと同様,ボスモンスター討伐ミッションなどが用意されています。正式サービスでは,とても大きなワイバーンがまず実装され,以降もドラゴンなどが続々登場する予定です。
4Gamer:
そういったミッションやクエストを順次クリアしていく楽しみ方もできる,と。
大瀧氏:
個人的にMMORPGで一番好きなのは,「信じられないようなことが起きて大笑いできる」ところなんです。本作は,そういうことが起こりやすいように作られており,実際に起こっています。
あり得ない数の亜人がやって来て自分の家が壊されてしまったり,歩いていたら目の前ですごい数のプレイヤーがPKされ始めたりといった意外性を,ぜひ楽しんでほしいと思います。
4Gamer:
キャッチコピーにある“スリル”には,PKする/される,PKされて大事なものをドロップする/しないといったことだけでなく,“意外性との遭遇”という意味も込められているのかもしれませんね。
それでは,正式サービス開始以降のアップデート予定などを教えてください。
大瀧氏:
最初のレベルキャップ開放や,それに伴うマップとモンスター,そしてアイテムの追加を12月下旬に行います。そのあとは,月1回ほどのペースでアップデートを重ねていく予定で,すでに2010年夏頃までの具体的な見通しを立てています。
また,現段階でいつ実装とはいえないのですが,システム面ではさきほど説明した家機能の拡張や,集団戦闘が行えるようにするための土壌作りを進めています。そのほか,“遊べる要素”をどんどん追加していく予定です。
4Gamer:
アルカディアサーガにおける,集団戦闘の意義はなんでしょう?
大瀧氏:
まだ検討段階ですが,土地の占有権の奪い合い──つまりほかのプレイヤーの縄張りに攻撃をかけるような内容を考えています。敵対関係にあるプレイヤーの家を壊せたりといった,ある意味,血生臭いドロドロとしたものですね。
その一方で,好戦的なプレイヤーが,PKを望まず,自分の縄張りで仕事をする職人気質のプレイヤーを守るといった具合に,さまざまなタイプのプレイヤーが共存できるような仕組みを用意したいと考えています。
4Gamer:
それでは最後に,アルカディアサーガに期待している人や,4Gamerの読者にメッセージをお願いします。
大瀧氏:
最初は戸惑うかもしれませんが,足を踏み入れるごとにヤミつきになっていく独特の世界に仕上がっています。さまざまなMMORPGがサービスされていますが,“普通の作品”には飽きたと感じている人は,ぜひアルカディアサーガの世界に足を踏み入れてください。
4Gamer:
ありがとうございました。
冒頭で述べたように,アルカディアサーガが目指しているのは黎明期のMMORPGへの原点回帰である。生産を一つの軸にしたコミュニティの形成や,PK/PKKをはじめとするロールプレイの実現など,プレイヤーのリテラシーと力量に頼る部分も多く,正直,理想が高すぎて本当に実現できるのだろうか? と感じる部分もある。
とはいえ大瀧氏自身,それは重々承知しているそうで,これまで慎重に準備を進めてきたと述べていた。
実際,公開テストまでのプレイヤー動向から,独特のゲーム性を持つ,ハードルが高めの作品であるからこそ,MMORPGの本来的な楽しみ方を求めるプレイヤーが集まってくれていることを実感したそうだ。
ともあれ,多くのMMORPGとは一線を画す内容だけに,今後の動向が楽しみなタイトルである。興味のある人は,この正式サービス開始のタイミングでぜひプレイを始めてみよう。
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