レビュー
原作のうまみとFPSの醍醐味が見事に融合した意欲作
007/慰めの報酬
» 英国の諜報員ジェームズ・ボンドが活躍する映画「007」シリーズの,「カジノ・ロワイヤル」と「慰めの報酬」のストーリーが一度に楽しめてしまうFPS「007/慰めの報酬」。原作付きゲームということでネガティブな先入観を持っている人もいるかもしれないが,ライターAlexander服部氏によると「かなりの良作」とのこと。同作の魅力と「惜しい」ところについて,プレイムービーを交えてたっぷりと語ってもらおう。ちなみに,レビュー用にプレイしたのはXbox 360版だ。
映画とゲームの融合を目指して
実際,近年のFPSでは「コール オブ デューティ 4 モダン・ウォーフェア」や「レインボーシックス ベガス2」など,FPSでありながらも映画的な演出が効果的に盛り込まれており,評価もされている。それら同様このゲームも,ゲームとしての核を優先させながらの映画的演出を,上手く利用する形で作られているのだ(まぁ映画が原作のゲームだから,当然といえば当然なのだが)。
※本稿で使用しているムービーは,筆者のフレンド達に許可を得て撮影/掲載したものです
これは「ゲーム」である
「2に名作なし」というのは,2作目が作られるほど1作目の評価が高いわけで,期待のハードルが高すぎて超えられないことがままあるのは,やむを得ない部分もあるだろう。ストーリーや各種データを差し替えただけの2作目は「革新性がない」と言われるだろうし,新たなシステムを多数盛り込んだ2作目は「1作目の原型をとどめていない。迷走している」などと言われてしまう。
「版権モノに良作なし」というのは,心当たりのあるゲーマーも多いのではないだろうか。とくに原作がアニメや映画だったりした場合には,かなりの割合でゲームとして「……」な出来になるものが多い。ゲームが優先なのか,キャラを前面に押すことが優先なのかというだけの話なのかもしれないが,海外で数多く発表された,「バットマン」のゲームを筆頭に,ゲーム寄りの視点で見た場合には,なかなかツラいものが多い。
しかし007/慰めの報酬は,軸となる部分が“ゲーム”に置かれており,映画的な演出をゲームの上にかぶせているために,遊んでいて不愉快になることもなければ,操作でストレスがたまることもない。むしろ,すでに発売されているFPSの良いところを上手く取り込んでいるといった感じの操作性には,好感が持てる。
Vegasシリーズ顔負けのカバーアクションや,CoDシリーズ伝統の銃撃戦,映画の舞台にもなったベネチアや鉄道,カジノなどの美しいステージなどなど,“遊び”にとって大事な部分が実にしっかりと作られているのだ。
それでいて映画的な演出もたっぷりと入っているので,007シリーズを知らない人でも,“映画のようなゲーム”をしっかりと楽しむことができる。当然,007シリーズのファンを楽しませるギミックも豊富に盛り込まれているので,ゲームとしての満足度は高いといえるだろう。
端的に,FPSファンの視点で本作の良いところをまとめると,以下のようになる。
・限界まで洗練された,CoDシリーズに近い操作方法
・Vegasシリーズと同じ感覚で利用できるカバーアクション
・Vegasシリーズでも評価の高かった「単発/フルオートの切り替え」「サイレンサー着脱の有無」がリアルタイムで反映
・サイレンサーを用いてのヘッドショットや,背後からの暗殺を上手く決めることで,見張りのみを倒し,誰からも発見されずに進むことが可能
・いわゆるトリガーハッピー状態で大暴れしても,倒した敵から武器を拾えるので案外何とでもなるところ
FPSが好きな人なら,上に挙げた「良いところ」を見ただけでも,007/慰めの報酬がどのようなゲームで,どのようにおもしろいのかが,何となく想像できるだろう。これらの要素が,盛りだくさんの映画的演出とうまく融合しているのが,本作の大きな魅力だ。
シングルプレイ用ゲームとしての完成度はかなり高い
では,マルチプレイ用ゲームとしては?
ゲームを購入してまず最初に思ったのが,マニュアルの薄さ。操作方法とクレジットだけが記された,7ページほどのシンプルな内容なのだ。人気映画シリーズを題材にしているだけに,もう少しストーリーの解説や,雰囲気作りなどに注力してほしかった。ゲームそのものの日本語ローカライズは,メニューからセリフまで非常に良くできていただけに,この点は「惜しい」と感じてしまった部分である。
もっとも,そもそも海外版のマニュアルも同様にページ数が少ないので,スクウェア・エニックスにはどうすることもできない事情があるのかもしれない。
もう一つ「惜しい」部分として,オンライン要素についても触れなければならない。
一般的なFPSのオンラインプレイというと,チーム同士に分かれてのデスマッチが基本だが,007シリーズをモチーフとしている本作には,本作ならではの興味深いルールが用意されている。とくに,ジェームズ・ボンドになりきって,犯罪組織に守られた爆弾を解除する“ボンドバーサス”や,ボンドが組織から逃げるか,ボンドが組織に倒されるかすると決着が付く“ボンドエスケープ”などは,FPSファンはもちろん,007シリーズファンにとっても魅力的なコンテンツだ。そのほかにも,一般的なチームデスマッチや陣取り合戦ともいえるモードも用意されている。
筆者が「惜しい」と感じたのは,オンラインプレイにおけるマップのデザインについてだ。マップに関してはどのエリアを選んでも,ほかのFPSと比べると明らかな差違がある。それは迷宮のようになっている部分。袋小路に追いつめられると死ぬ以外に道がないのはオンラインFPSの哀しいところだが,本作のオンラインマップは複雑に入り組んでいるため打開も可能になっている。建物を上手く利用したマップが多く,高さの概念もうまく盛り込まれているので,簡単に追いつめられるケースはまずない。それは非常に優れているところでもあるのだが,その結果として別の部分でのバランスの悪さを生み出してしまっている。
“マップが複雑+通路が狭い”となっているので,一部の武器,とくにスナイパーライフルの存在意義が薄い。立体的なマップも多いので2階から狙撃しようにも,さほど遠距離の敵は狙えない。マップの広さそのものは広いのだが,結果的に迷宮部分で闘うケースが多いので,遭遇戦に強いショットガンかサブマシンガン以外を選ぶメリットが,あまりないのだ。
当然ながら,サイレンサーを装着すれば相手のレーダーに映らないので,遭遇戦をこなせる程度の腕があれば,ゲームに不慣れな人を狩りまくることも余裕でできてしまう。サイレンサーの弱点ともいえる有効射程距離の低下などは,迷宮内部では何のデメリットも生まないのだ。
空港のターミナルマップは例外的に直線が開けているのだが,このマップではカバーからの待ち伏せ合戦になってしまいがち。カバーできるのは良いのだが,同じシステムを採用しているRainbowSix Vegasなどと比べると,キャラクターの体力に余裕があることでゲームのテンポが低下してしまっている。カバーのないCoDシリーズでは,敵を視界に入れるということは,同時に敵に身をさらすというリスクも伴うのだが,本作にはカバーがあり,体力も多めなので,開けた場所での銃撃戦はややもたつくのだ。
現状,ランクマッチでプレイされているゲームが少なめなのは,このあたりのゲームバランスが一因なのではないだろうか。ランクマッチの体力を調節したり,武器の特性を調整するだけで,オンラインゲームのバランスは劇的に変化するはずなので,今後アップデートで対応してもらえるとうれしいのだが……。007だからこそ成立するルールや,オンライン対戦によくある“袋小路から出られない状態”を改善しようという着眼点は素晴らしいだけに,本当に惜しいのである。
「映画のようなゲーム」としてはかなりの完成度
FPSファン/007ファンであればぜひ一度はプレイを
オンライン対戦に関しては,人が多いルールと少ないルールの差が大きいように思える。今後なんのアップデートもされないのであれば,対戦ゲームとしてはちょっと遊びづらい。ただし,着眼点や雰囲気はとても良いので,仲間うちでプレイするだけでも,それなりに楽しく遊べてしまう点はさすがだ。
結論としては,「掛け値なしの名作」にはやや及ばないものの,FPSファン/007ファンであれば,購入する価値は十分にあるといえる。興味のある人は,ぜひ一度実際にプレイしてみてほしい。
動画撮影機材:トムソン・カノープス HDRECS
動画編集用ソフト:トムソン・カノープス Edius Pro 5
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Quantum of Solace (C)2008 Danjaq, LLC, United Artists Corporation,Columbia Pictures Industries, Inc. 007 Gun Logo and related James Bond Trademarks (C)1962-2008 Danjaq, LLC and United Artists Corporation. Quantum of Solace, 007 and relatedJames Bond Trademarks are trademarks of Danjaq, LLC. All Rights Reserved.
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