レビュー
79ドルの最新GPUは,2008年秋のエントリーミドルクラス本命となるか
ATI Radeon HD 4670リファレンスカード
» AMDからリリースされた新世代のエントリーミドルクラスGPUは,低い価格と取り回しやすさが魅力的だが,肝心要のゲームパフォーマンスはどうなのか。AMDから入手したリファレンスカードを宮崎真一氏がさっそく評価する。AMDの勢いを感じる,その実力は要注目だ。
コンパクトで外部給電コネクタのない
これぞエントリーミドル向けというデザイン
ATI Radeon HD 4670リファレンスカードのカード長は実測で約167mm(※突起部除く)。200mmを軽く超えるミドルクラスグラフィックスカードが当たり前になりつつある昨今,このコンパクトさは印象的だ。AMDは本カードの消費電力を75W以下と謳っているが,それを裏付けるように,PCI Express用の補助電源コネクタは用意されていない。
出力インタフェースはDVI-Iが1系統,DisplayPortが2系統。この仕様で各社の搭載カードが発売されるわけではないが,トピックとはいえる |
GPUクーラーは小型だが,銅製フィンを採用しているため重い。そのため,GPU周囲の4点以外にも,数か所でネジ留めされている |
GPUクーラーを外すと,GPUとグラフィックスメモリチップが姿を表す。開発コードネーム「RV730」と呼ばれていたGPUのダイサイズは実測で約12.3×12.3mmで,同16×16mmだった,開発コードネーム「RV770」ことATI Radeon HD 4850(や「ATI Radeon HD 4870」)と比べると一回り小さい。
搭載するメモリチップはHynix Semiconductor製のGDDR3,「H5RS5223CFR-N0C」(1.0ns品)で,カードの両面に4個ずつ搭載することで,512MBというグラフィックスメモリ容量を実現している。
GPUクーラーを取り外したところ。基本的に,グラフィックスカードベンダー保証外の行為となるので注意してほしい | |
ATI Radeon HD 4670 GPU(左)と,リファレンスカードが搭載していたGDDR3メモリチップ(右) |
なお,前出のRadeon BIOS editorでチェックする限り,アイドル時はGPUコア電圧が標準の1.25Vから0.90Vへ引き下げられるようだ。
Radeon BIOS editor実行結果。これによると,アイドル時にはATI PowerPlayによってGPUコア電圧が引き下げられている |
こちらは「GPU-Z」(Version 0.2.7)実行結果。「GPU Clock」が異常であるなど,スペックを正しく認識できていない |
価格帯で競合する3製品と比較
“HD 4650”相当のスコアも計測
今回,ATI Radeon HD 4670リファレンスカードのテストに当たっては,GPUスペックが比較的似ている前世代のミドルクラスGPU「ATI Radeon HD 3850」,そして,価格帯で完全に競合すると推測される「GeForce 9600 GT」「GeForce 9500 GT」を用意。また,搭載するメモリチップがDDR2とGDDR3で異なるため,厳密な意味での比較には適さないが,ATI Radeon HD 4670リファレンスカードの動作クロックをATI Radeon HD 4650相当に下げた状態でも,参考までにテストを行うことにした。
各GPUの主なスペックは表1のとおり。
テスト環境は表2のとおり。テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション5.2準拠だ。
なお,ATI Radeon用のグラフィックスドライバは,AMDからレビュワー向けに配布された「8.53-080805a-067864E-ATI」を利用した。原稿執筆時点における月例アップデートの最新版「ATI Catalyst 8.8」だと「Display Driver」のバージョンは8.522だったので,レビュワー向けバージョンは,“ATI Catalyst 8.9”のβ版か,それに近いものだろう。
なお今回は(今回も?),貸し出しスケジュールがタイトだったため,スケジュールの都合上,GeForce 9600 GTとGeForce 9500 GTのスコアは,一部を後者のレビュー記事から流用している。そのため,
- マザーボードのBIOSバージョンは最新版の0407ではなく0403となっている
- GeForceシリーズのグラフィックスドライバが「GeForce Driver 177.72 Beta」となっている
- GeForce 9600 GTのスコアは「標準設定」の1024×768/1280×1024ドットがAlbatron Technology製「9600GT-512X」,それ以外は今回新たに用意したLeadtek Research製「PX9600GT S-FANPIPE」のものになっている
以上の点に注意してほしい。3.については,どちらもリファレンスクロックで動作する製品なので,パフォーマンスに大きな違いは生じないと考えられるが,念のためお断りしておきたい。
このほか,ZOTAC International製「ZOTAC GeForce 9500 GT AMP! Edition」はクロックアップ版なので,「NVIDIA System Tool」から動作クロックをリファレンスにまで落としている。
というわけで前置きが長くなったが,以下,「文中とグラフ中のいずれでも『ATI Radeon』『GeForce』の名を省略したGPU名で表記する」と宣言して,テスト結果を見ていくことにしよう。
ゲームによっては
9600 GTに迫るパフォーマンスを発揮
グラフ1,2は「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)の結果である。HD 4670は標準設定ではHD 3850に今一歩およばない。その一方で,9500 GTには大差を付けており,PCI Express用補助電源コネクタを要しないカードとしては最高性能を誇るGPUになりそうだ。
また,高負荷設定では1600×1200ドット以上でHD 3850のスコアを上回っている点も興味深い。HD 4870やHD 4850で見られた高負荷に強い傾向は,HD 4670も変わらず踏襲している。
続いて,解像度1280×1024ドット,標準設定という,3DMark06のデフォルト状態におけるFeature Testの結果をグラフ3〜5に示したが,ここでは後二者に注目したい。
頂点シェーダテストの「Complex」こそHD 3850に置いて行かれるHD 4670だが,同テストの「Simple」およびピクセルシェーダテストでは,シェーダプロセッサ数が同じHD 3850のスコアを上回った事実からは,HD 4000シリーズで施されたアーキテクチャの改良が,HD 4670にもきちんと生かされていることが見て取れる。
では,実際のゲームをプレイできるほどのパフォーマンスを備えているのか,まずはグラフ6,7,FPS「Crysis」の結果から見ていこう。
ここではGPUの性能差が顕著に表われる「Benchmark_GPU」を実行しているが,
描画負荷が高まれば高まるほど,HD 4670のスコアがHD 3850のそれを大きく引き離す。高負荷な状況に強いHD 4000シリーズの実力が遺憾なく発揮できている印象だ。
PCI Express補助電源のないカード同士の比較となる対9500 GTでは,ほぼダブルスコア。9600 GTに届きそうなスコアを叩き出しているのには,ただ驚くほかない。
続いて,同じFPSから「Unreal Tournament 3」(以下,UT3)の結果をまとめたものがグラフ8である。UT3はCrysisと比べると描画負荷はぐっと低くなるが,そんな状況下でもHD 4670はHD 3850と互角以上に立ち回っており,対9600 GTでもいい勝負に持ち込んでいる。HD 4800シリーズでも見られた,レンダーバックエンド(=ROP)の改良による奏功だろう。
さらに,グラフ9,10はFPS「Half-Life 2: Episode Two」(以下,HL2EP2)のテスト結果だが,ここでも傾向は同じ。HL2EP2の描画負荷はUT3よりもさらに低いため,HD 4670の優位性は見えづらくなるが,それでも9500 GTに大差を付けているのは十分に確認できる。
一方で,グラフ11,12に示した,TPS「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下,ロスト プラネット)の結果はいま一つ。ロスト プラネットはメモリ周りの負荷が高いこともあって,メモリバス幅が128bitに留まるHD 4670は不利だが,ものの見事にその不利が顕在化してしまった格好だ。
RTS「Company of Heroes」の結果がグラフ13,14である。
Company of Heroesではロスト プラネットと同様の傾向が見られ,HD 3850との差は依然として大きい。また,9600 GTとの差も顕著だ。ドライバアップデートで,今後,差がどの程度縮まるか注目といえるが,メモリインタフェースの制限が存在することは,同時に憶えておきたい。
消費電力の低さは想像どおり
冷却能力に多少不安が
補助電源コネクタを有していないことから,消費電力が低いのは容易に想像できるが,実際にはどの程度なのか。いつものように,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時とし,数値をログとして残せるワットチェッカーの「Watts up? PRO」で,システム全体の消費電力を測定したものがグラフ15である。
なお,HD 4650については前述のとおり,HD 4670からダウンクロックしたもので,搭載するメモリチップも仕様どおりではないため,テスト対象から外している。
さて,まずアイドル時から見ていくと,HD 4670は92Wと,ATI PowerPlayの恩恵を受けて最も低い値を示している。また,負荷が掛かる状態では総じて170W程度で,さすがに9500 GTと比べると10Wほど大きいが,HD 3850や9600 GTとは20Wほど低い。表1に示した公称消費電力の違いが,ほぼそのままグラフに表われている点も興味深いところだ。
さらに,3DMark06を30分間連続実行した時点を「高負荷時」としてGPUの温度を測定したものがグラフ16である。測定に用いたのは,GPU温度表示機能を持つソフトウェアツール「HWMonitor Pro」(Version 1.02)。テスト環境は,室温24℃の室内に,バラックで設置してある。
GPUクーラーが異なるため,横並びの評価にあまり意味はないが,それでもHD 4670の高負荷時の温度は少々高い。80℃台前半なので,それほど気にする必要はないと思われるが,もう少し低い温度で運用したい場合は,さほど間を置かずにリリースされるであろう,グラフィックスカードベンダー独自のクーラー採用したモデルを待つのも手だ。
ケースや電源ユニットを選ばない点が魅力で
ライトゲーマーには最適な解
HD 4670が持つ最大の魅力は,消費電力が低く,カードサイズが小さく,そして補助電源が不要な点にある。それは言い換えれば,PCケースや電源ユニットを選ばないということ。さらに,HD 3850に近い――ゲームによっては上回る――スコアを発揮できており,消費電力あたりの性能は秀逸といっていい。グラフィックスカードをアップグレードしたいが,PCケースのサイズや,電源ユニットのスペックに懸念があるという人にとって,まさにHD 4670は待望のGPUだ。
さすがに,高解像度や高負荷設定でのゲームプレイは厳しいが,そもそもそんなものを1万円台前半で購入できるGPUに期待するほうが無理な話。低解像度ならば,最新世代の3Dゲームでもかなり快適にプレイ可能ということを踏まえるに,ライトゲーマーには打ってつけといえるだろう。
- 関連タイトル:
ATI Radeon HD 4600
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