レビュー
CPUに統合されたグラフィックス機能はゲーマーの信頼に足るのか
Core i5-661/3.33GHz
(Intel HD Graphics)
LGA1156パッケージに,デュアルコアCPUダイと,グラフィックス機能およびメモリコントローラからなるダイを搭載したMCM(Multi Chip Module)となる新世代CPU。「Intel G45 Express」(以下,G45)時代まで長らく,Intelのグラフィックス機能統合型チップセットは,3D性能,そしてドライバの完成度の両面で,PCゲーマーの期待に応えることはなかったが,果たして今回はどうなのか。CPUとしての性能検証は別記事に任せ,本稿では,4Gamerで入手した「Core i5-661/3.33GHz」(以下,i5-661)のグラフィックス性能に絞って,掘り下げてみることにしたい。
→[CPU機能レビュー]Clarkdaleこと「Core i5-661」レビュー。新世代デュアルコアCPUはゲームで速いのか?
G45比で実行ユニット数が増加
ドライバはコントロールパネルが一新
動作クロックは,今回入手した個体にして,TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)がシリーズ中唯一の87Wとなっているi5-661が900MHzで,そのほかはすべて733MHz。CPUダイ側には,省電力機能「Enhanced Intel SpeedStep Technology」(EIST)が搭載されており,TDPの枠内で,電流量などに余裕があるとき,自動的に規定以上の動作クロックへ引き上げる機能「Intel Turbo Boost Technology」もサポートされるが,Intel HD Graphicsに,そういった機能はない。基本的には規定クロックで動作し,別途グラフィックスカードが差されると,自動的に無効化され,休止状態へ移行する仕様だ。
なお,DH55TCでは,外部グラフィックスインタフェースとして,D-Sub 15ピンのほか,DVI-D,HDMIが用意されていたが,DVI-DとHDMIによるデュアルデジタルディスプレイ出力は利用可能だった。
そんなIntel HD Graphicsの主なポイントは下に示したとおり。3D性能に関連した最大の特徴としては,実行ユニット(≒シェーダプロセッサ)数が,G45時代の10基から12基へと2基増加したことが挙げられるだろう。スライドでは,頂点シェーダや「Hierarchical Z-Buffer」(階層型Zバッファ)に関する機能拡張も謳われているが,「NVIDIAやAMDのグラフィックス機能統合型チップセットでは以前から当たり前のようにサポートされていたものがようやっと実装された」に過ぎないので,機能的に新味はない。ゲームとの互換性がG45比で向上した,というレベルだ。
対応するグラフィックスAPIはDirectX 10.0(Direct3D 10.0)およびOpenGL 2.1。とくにDirectXサポートは,G45から一歩も進んでいない。
今回4Gamerでは,DH55TCとセットで,「Intel HD Graphics GFX_15.16.4.x.2008_PV」というバージョンのグラフィックスドライバを入手したが,これをインストールすると,まったく新しい外観の専用コントロールパネル「インテルグラフィック/メディアコントロール・パネル」が導入された。そして,同コントロールパネルから,カスタム解像度設定が容易になったほか,アンダー/オーバースキャン設定やアスペクト比固定拡大機能も用意されている。
本ドライバはG45マザーボードにも導入できたので,Clarkdaleの導入に合わせて,ドライバにも大幅なアップデートが入ったということなのだろう。
G45とAMD 785G,GeForce 210と比較
ローエンド環境における立ち位置を見る
具体的なテスト環境は表2に示したとおり。i5-661のPCメーカー向け1000個ロット時単価が196ドルと設定されているので,G45とAMD 785Gでは,この196ドルとなるべく価格帯の近いCPUを組み合わせるべく,「Core 2 Duo E8500/3.16GHz」(以下,E8500),TDP 125W版「Phenom II X4 965 Black Edition/3.4GHz」(以下,X4 965)を用意している。
CPU性能を見たレビュー記事とは,Core 2環境のCPU,マザーボードがともに異なる点はご注意を。また,Core 2環境のみ,組み合わせるメモリモジュールが,当時としてより一般的だったPC2-6400 DDR2 SDRAMになっている。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション8.3準拠。ただし,まだまだIntel製のグラフィックス機能に100%の信頼が置けない残念な証拠となってしまったのだが,今回用いたドライバでは「Crysis Warhead」と「Race Driver: GRID」が正常に動作しなかった。また,「Left 4 Dead」は,CPUレビューと同じ理由――土壇場でシステムアップデートが入ってしまい,従来のリプレイファイルを利用できなくなった――で割愛している。
なお,Intel HD Graphicsのスペックから,テストは,アンチエイリアシングおよびテクスチャフィルタリングを適用しない「標準設定」(※「バイオハザード5」は「エントリー設定」)でのみ実施し,解像度も1024×768/1280×1024/1680×1050ドットの3パターンに絞った。
P5Q-EM HDMI出力対応のG45マザーボード メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 予想実売価格:1万〜1万1000円(※2010年1月4日現在) |
M4A785TD-M EVO 容量128MBのSidePort Memoryを搭載 メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 予想実売価格:1万2000〜1万4000円(※2010年1月4日現在) |
以下,文中,グラフ中とも,AMD 785G環境は「AMD 785G+X4 965」,G45環境は「G45+E8500」と表記する。また,GeForce 210カードは,H55マザーボードに差してi5-661と組み合わせた状態で利用すること,AMD 785G+X4 965では,メモリアクセス設定を,ゲーム用途でより高いパフォーマンスが見込める「Ganged」モードに指定してあることもあらかじめお断りしておきたい。
R195で性能向上のGeForce 210には届かないが
AMD 785Gを上回るスコアを記録
i5-661は,グラフィックスメモリとして,システムメモリの一部を共有するUMA(Unified Memory Architecture)方式を採用している。今回組み合わせたDH55TCの場合,BIOSからUMAの容量を指定することはできなかったため,動的にグラフィックスメモリ割り当て容量を変化させるDVMT(Dynamic Video Memory Technology)を最大限に活用する「Maximum DVMT」を選択した。G45+E8500でも同様だが,AMD 785G+X4 965では,SidePort MemoryをLFBとして使いつつ,UMAも併用する設定としている。
では,そんなグラフィックスメモリは,どれほどの帯域幅を確保できているのか。SiSoftware製のシステム情報表示ツール兼ベンチマークソフトである「Sandra 2010c」(Version 16.26)に用意されたグラフィックスメモリバス帯域幅テスト「Video Memory Bandwidth」を使って,同じくDDR3メモリを採用したAMD 785G+X4 965と比較してみることにした。
その結果をまとめたのがグラフ1だ。「Aggregate Memory Performance」(グラフィックスメモリの総合性能)と「Internal Memory Bandwidth」(内部メモリバス帯域幅)ではAMD 785G+X4 965を上回る一方,「Data Transfer Bandwidth」(データ転送帯域幅)では逆に差を付けられている。これは,共有グラフィックスメモリ(=メインメモリ)へのアクセス性能そのものはi5-661のほうが優れているものの,AMD 785Gでは専用の高速なグラフィックスメモリ「SidePort Memory」をローカルフレームバッファとして持っているため,その優位性が出ているものと考えられる。
これを踏まえ,「3DMark06」(Build 1.1.0)の総合スコアから見ていくことにしよう。グラフ2を見ると,i5-661は,G45+E8500からスコアを大きく伸ばしていることが分かる。パーセンテージにして60%前後。GeForce 210にこそ届いていないが,AMD 785G+X4 965に対しても19〜28%という差を付けているのは,なかなか印象的だ。
ただ,これはCPU性能差とも考えられるため,以下,3DMark06のデフォルト設定である解像度1280×1024ドット,標準設定のFeature Testの結果も掘り下げてみたい。
まず,主にグラフィックスメモリへの出力性能を見るFill Rateだと,i5-661は,グラフ1譲りの良好なテスト結果を示した(グラフ3)。とくにSingle-Texturingのスコアは,比較対象より一歩抜け出している。
グラフ4,5は順に,Pixel Shader(ピクセルシェーダ)およびVertex Shader(頂点シェーダ)のスコアを見るものだが,前者を見る限り,グラフィックスドライバは,3DMark06への最適化を果たしていると述べていいだろう。
どちらかというと汎用演算性能を見る性格の強いShader Particles(シェーダパーティクル),DirectX 9世代における長いシェーダプログラムの実行性能を見るPerlin Noise(パーリンノイズ)の結果はグラフ6,7にまとめたとおり。G45+E8500は前者が動作しなかったのでスコアをN/Aとしている。
NVIDIAやAMDと違い,(少なくとも現時点では)グラフィックス機能を利用した汎用演算を志向していないIntel HD Graphicsだけに,Shader Particlesにおけるi5-661のテスト結果は妥当といったところか。
Perlin Noiseは,機能面の弱点を潰したことで,高い動作クロックの恩恵を受けられるようになっている印象だ。
実際のゲームタイトルのうち,動作したものではどうだったかだが,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)において,i5-661のスコアは少々不可解なものとなった(グラフ8)。「解像度が上がってもフレームレートが落ちない」と好意的に解釈することも可能ではあるが,むしろ,なんらかの原因で,低解像度においてもボトルネックが生じ,パフォーマンスが上がっていないと見るほうが自然であるように思われる。
なお,2009年10月16日に掲載したレビューでは,Call of Duty 4でまったくパフォーマンスが上がらなかったGeForce 210だが,Release 195世代のドライバを導入した今回は,ローエンドの単体GPUとして,そこそこのスコアを示すことができている。
続いてグラフ9は,「バイオハザード5」のテスト結果だが,同タイトルはIntelのサポートを受けて開発されていることもあり,i5-661はGeForce 210に続く位置を確保。ドライバの問題なのか,G45+E8500にすら及ばないAMD 785G+X4 965を,完全に引き離しているのは印象的だ。i5-661については,ドライバの最適化がうまくいったときのベストケースがこのあたりと見るべきではなかろうか。
最後は「ラスト レムナント」だが,ここでもi5-661はGeForce 210に迫る。AMD 785G+X4 965に対しても34〜37%高いスコアだ。
グラフィックス機能の消費電力は高く
i5-661のウイークポイントに
900MHzという高いクロックで動作し,CPUとしてのTDP引き上げにもつながっているi5-661だけに,消費電力が懸念されるところだが,実際はどうなのか。OSの起動後,30分経過した時点を「アイドル時」,アプリケーションベンチマークの実行時を「アプリケーション実行時」として,ログを取得できるワットチェッカー,「Watts up? PRO」から,システム全体の消費電力を計測してみることにした。
その結果がグラフ11だ。マザーボードが異なるため,厳密な横並び比較は行えないが,それでも,アイドル時の消費電力で,i5-661を用いるより,単体グラフィックスカードであるGeForce 210を搭載してi5-661側のグラフィックス機能を無効化させたほうが低いというのは興味深い。45nmプロセス技術を利用して製造されていることもさることながら,省電力機能が搭載されていないことが,消費電力に関しては相当不利に働いていると述べてよさそうである。
なお,アプリケーション実行時で見ても,i5-661より,i5-661環境にGeForce 210を差したときのほうが消費電力は低めに出ていた。
G45比で確実に3D性能は向上
最大の課題は依然として互換性
テスト結果を基に語ると,i5-661に統合されるグラフィックス機能は,消費電力が高いという問題はあるものの,G45を圧倒し,AMD 785Gすら上回るポテンシャルを持つ。単体GPUであるGeForce 210にすら迫るほどで,ローエンド環境の3Dグラフィックス環境は,Clarkdaleの登場によって確実に底上げされるだろう。解像度を低く設定するなど,グラフィックス設定に妥協は必要だが,ひとまず3Dゲームが動作するレベルには達したと評してよさそうだ。
ただし,それが“動けば”の話だということも,忘れるわけにはいかない。
本稿の中盤で述べたとおり,今回,Crysis WarheadやRace Driver: GRIDは,テストを行うことすらできなかった。長らく,Intel製のグラフィックス機能における最大のアキレス腱となっている「グラフィックスドライバの完成度が低く,ゲームとの互換性も競合と比べて劣る」という問題は,少なくとも,Clarkdale時代の開幕と同時には解決しないわけだ。
ハードウェア的には,AMD製のグラフィックス機能統合型チップセットが席巻していた,ローエンド市場の勢力図を変えるだけのポテンシャルを持っているといえるi5-661。それだけに,Intelのドライバチームには,いっそうの努力を期待したい。
[CPU機能レビュー]Clarkdaleこと「Core i5-661」レビュー。新世代デュアルコアCPUはゲームで速いのか?
- 関連タイトル:
Core i5&i3(LGA1156,デュアルコア)
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