レビュー
まもなく登場の「Clarkdale」はゲームで速いのか?
Core i5-661/3.33GHz
32nmプロセス技術で製造され,グラフィックス機能を統合した新製品は,同じデュアルコア製品であるCore 2 Duoを置き換えると見られており,ついに,「Core Microarchitecture(Nehalem)」――俗にいうNehalemアーキテクチャが,全面展開されることになるわけだが,果たしてPCゲーマーは,この新製品をどう捉えればいいのだろうか。
今回4Gamerでは,「Core i5-661/3.33GHz」と,対応する「Intel H55 Express」(以下,H55)搭載マザーボード「DH55TC」を入手したので,“CPU編”と“グラフィックス機能編”の二記事で新製品を掘り下げてみることにしたい。
本稿はCPU編となるので,グラフィックス機能については,同時に掲載した別記事を参照してもらえれば幸いだ。
→[グラフィックス機能レビュー]Clarkdaleこと「Core i5-661」レビュー,統合グラフィックス機能編
Core 2 Duoを置き換えるデュアルコアCPU
グラフィックス機能をMCMで搭載
まず,「Westmere」(ウエストミア,開発コードネーム)とも呼ばれる32nmプロセス世代だが,ゲーマー的には,製造プロセスが微細化した以外,Nehalemと同じという理解で問題ない。厳密には,AES(Advanced Encryption Standard)という暗号/複合化アルゴリズムのアクセラレーションを行うための新命令「AES-NI」(NI:New Instructions)が追加されているが,明らかになっているのはそれくらいである。
さて,製品ラインナップは,Core i5-600番台とCore i3-500番台の2種類。CPUパッケージはLGA1156で,パッケージ互換となるLynnfieldコア版のCore i7&i5の下位モデルと位置づけられる。Core 2 Duoを置き換えるという位置づけからも想像できるとおり,対象となるのはミドルクラス〜エントリークラス市場だ。
発表時のラインナップは,表1に示したとおりの6製品になる見込みとなっている。
Core i5-600番台とCore i3-500番台の違いは,TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)の枠内で自動的にCPUの動作クロックを引き上げる機能,「Intel Turbo Boost Technology」(以下,Turbo Boost)サポートの有無のみ。「Intel Hyper-Threading Technology」(以下,HTT)をサポートする点や,L2キャッシュ容量が1コア当たり256KBという仕様は,Lynnfieldコア版Core i7&i5と共通だ。コアの数がLynnfieldの半分になったことに合わせて容量も半減したが,コア間で共有となる容量4MBのL3キャッシュも,Core i5-600&i5-300番台に共通して用意されている。
45nmプロセス技術を採用して製造されるこのダイには「Iron Lake」(アイアンレイク)という開発コードネームが与えられているが,その性格上,イメージとしては,「Intel G45 Express」(以下,G45)世代までのノースブリッジ「GMCH」(Graphics Memory Controller Hub)に近い。CPUダイと“GMCHダイ”はQPI(Quick Path Interconnect)で接続されているので,G45世代までにあったようなFSBボトルネックまでは生じ得ないが,「Lynnfieldとは違う」ことは押さえておきたいところだ。このあたりが実際にどうなのかは後ほど検証する。
ちなみに,G45時代まで,グラフィックス機能には「Graphics Media Accelerator」(GMA)という名称が与えられていたが,今回の統合に合わせ,呼び名は「Intel HD Graphics」に改められている。
また,表1を見ると,今回入手したCore i5-661のみが特殊なモデルであると理解できるが,「TDPが高く,仮想化機能を一部サポートしない一方で,グラフィックスコアクロックが高い」という仕様からして,性能が求められるコンシューマ市場を意識したものだと見ることができそうだ。
対応プラットフォームとなる
H57/H55/Q57チップセット
対応チップセットは,冒頭で名を挙げたH55のほか,その上位モデル「Intel H57 Express」(以下,H57)と,H57にビジネス向けの管理機能を追加した「Intel Q57 Express」(以下,Q57)が用意される。
P55ともども,主なスペックをまとめたのが表2だ。
DH55TCのI/Oインタフェース部。グラフィックス出力インタフェースとしてD-Sub 15ピンのほか,DVI-D,HDMIを用意する |
DH55TCではRealtek Semiconductor製の「ALC888S」を搭載していた |
Clarkdaleは,このFDIを介して,チップセットを経由し,最大2系統のデジタルディスプレイ出力をサポートする。このとき,対応するHD Audio CODECと組み合わせれば,(ゲームとは無関係だが)HDMIなどを通じて,「DTS-HD Master Audio」や「Dolby TrueHD」といった可逆圧縮フォーマットのマルチチャネルビットストリーム出力も利用できる。
なおこれは逆にいうと,FDIを使わない(=グラフィックス機能を利用しない)のであれば,ClarkdaleをP55マザーボードで利用したりできる,あるいは,LynnfieldをH57/H55/Q57マザーボードで利用できる,ということでもある(※)。
※実際には,表1で示したとおり,マザーボードの設計ガイドライン「FMB」(Flexible Motherboard)という見えない壁が存在する。Lynnfieldをサポートした既存のP55マザーボードは「09B」仕様なので,BIOSさえ対応すれば基本的にClarkdaleを利用可能だが,今後登場する“i5-661以外のClarkdale向け”マザーボードが「09A」仕様を採用していた場合,Core i5-661やLynnfieldは利用できない可能性が高い。小型のマザーボードを選ぶ場合は注意したいところだ。
この制限はLynnfieldにはないため,LynnfieldとH57やH55,Q57の組み合わせではマルチGPUがサポートされる。また,Clarkdaleでも,P55と組み合わせたときには8レーン×2がサポートされるようなので,この点は押さえておく必要があると思われる。
ちなみに「Intel Rapid Storage Technology」というのは,旧「Intel Matrix Storage Technology」から名前を変えたもの。つまり,RAID 0/1/5/10を利用できるのは,H57かQ57ということになる。
H57のブロックダイアグラム |
こちらはH55のブロックダイアグラム。基本的な仕様はH57と変わらず,サポートされる機能でのみ差別化されている |
メモリアクセス周りに懸念が残るi5-661
i5-750より確実に性能ダウン
以上が概要になる。ここからは,メモリ周りの性能について見ていくことにしよう。
Lynnfieldコア版のCore i7&i5において,メモリコントローラはCPUダイに統合されていた。これに対してClarkdaleコア版Core i5&i3では,CPUパッケージ上でQPIによって接続されるグラフィックス機能側にメモリコントローラがある。GM45時代のようなFSBボトルネックまではいかないにせよ,メモリアクセス性能の低下,とくにレイテンシの増加が懸念されるところだ。
比較対象として用意したのは,上位製品となるCore i5-750(以下,i5-750)と,規定クロックがCore i5-661と同じ「Core 2 Duo E8600/3.33GHz」(以下,E8600),そして,Phenom IIの最上位モデルで,TDP 125W版となる「Phenom II X4 965/3.4GHz」(以下,X4 965)だ。
Core i5-661は基本的にH55マザーボード,Core i5-750はP55マザーボード上でテストを行うが,前者についてはP55マザーボード上でもテストすることにし,「i5-661+P55」と表記する。また,i5-661はCPUに統合されたグラフィックス機能,X4 965は,組み合わせた「AMD 785G」チップセットに統合されたグラフィックス機能をそれぞれ利用した状態でもテストを実施することにし,それぞれ「i5-661(GFX)」「X4 965(GFX)と書いて区別する。
なお,今回用意したCPU 4製品の基本的なスペックをまとめたものが表4となる。X4 965のメモリアクセス設定は,「Ganged」「Unganged」と用意されている選択肢のうち,ゲーム用途でより高いパフォーマンスを期待できるGangedモードを選択したことを付記しておきたい。
グラフ1は,メモリバス帯域幅を見る「Memory Bandwidth」の実行結果をまとめたものだ。
E8600だけ,Core 2 Duo環境としてより一般的なPC2-6400 DDR2 SDRAMを組み合わせているため,スコアは一段落ちるが,デュアルチャネルDDR3-1333環境となるそのほかのCPUに着目すると,i5-661とi5-750の差がかなり大きいことが分かる。
その原因は,メモリコントローラがGPU側に移ったことが第一に考えられるが,L3キャッシュ容量半減の影響もあるだろう。また,統合されたグラフィックス機能を利用すると,UMA(Unified Memory Architecture)によってメインメモリの一部がグラフィックスメモリとして利用されるが,その影響もグラフからは読み取れよう。
なお,当たり前といってしまえばそれまでだが,i5-661のスコアは,H55,P55というチップセットの違いがあってもほとんど変わらない。
続いてグラフ2は,データサイズごとのメモリアクセス性能を見る「Cache and Memory」実行結果だ。i5-661は,データ容量がL3キャッシュに収まるサイズを超えた16MB Blocks以上で,i5-750から一歩置いて行かれる。Clarkdaleのメモリアクセス性能が,Lynnfieldより一段落ちることは間違いないと見ていいだろう。
気になるのは,i5-661+P55で,キャッシュ周りのスコアが露骨に低く出ていること。下がる理由が見当たらないことからして,BIOSがまだ最適化されていないのではなかろうか。
この結果を基に,今回は,i5-661とi5-750がこのタイミングにおけるベストなパフォーマンスを発揮できるよう,前者はH55,後者はP55マザーボードと組み合わせてテストを行うことにするが,このメモリアクセス性能がシステム全体のパフォーマンスにどのような影響を与えるのかを見るべく,システム総合ベンチマークソフト「PCMark05」(Build 1.2.0)を実行してみることにした。
その結果をまとめたのがグラフ3だが,やはり,i5-661の「Memory」スコアはi5-750に大きく離されている。
ちなみに,i5-750が「Graphics」で大きくスコアを落としているのは,このテストが動作クロックとL2キャッシュ容量の影響を受けやすいためである。
今回はオーバークロックで4GHzに達せず
プロセス微細化の恩恵はまずまずか
メモリ周りの傾向が見えたところで,ここからはi5-661のゲームにおけるポテンシャルを掘り下げていくが,まずはオーバークロック耐性がどの程度期待できるのかをチェックしてみたい。
今回は,ストレステストツール「OCCT」(Version 3.1.0)のCPUテストが6時間完走したことをもって「安定動作」と判断することにしたが,テストした個体における安定動作の上限は,ベースクロック155MHz(×25)の3.88GHz(3875.5MHz)だった。CPUクーラーを,LGA1156対応のより高性能なものに変更し,オーバークロック設定の充実したマザーボードと組み合わせれば4GHzを狙えそうなので,常用レベルでのオーバークロック耐性は,そこそこ上がっている可能性がありそうだ。
ともあれ,以下本稿では,3.88GHzへとオーバークロックしたi5-661を「i5-661@3.88GHz」と書いて区別する。
※注意
CPUのオーバークロック動作は,CPUやマザーボードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,CPUやメモリモジュール,マザーボードなど構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer 編集部も一切の責任を負いません。
E8600以上i5-750以下という
順当な性能を発揮
前振りがたいへん長くなったが,ここからはゲームアプリケーションにおけるパフォーマンスをチェックしていくことにしたい。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション8.3準拠だが,時間の都合により「Crysis Warhead」のテストは省略した。テスト中にSource Engineのアップデートが入ってしまった関係で,レギュレーション8.3準拠のテストを行えなくなってしまった「Left 4 Dead」も,今回はテスト対象から外している。
テスト解像度は,CPUの影響が現れやすい1024×768/1280×1024/1680×1050ドットの3パターンを選択。同じ理由で,4xアンチエイリアシング&16x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」のテストは割愛し,アンチエイリアシング,テクスチャフィルタリングとも適用しない「標準設定」(※「バイオハザード5」は「低負荷設定」)のみでテスト行うことにした。
さて,まずは「3DMark06」(Build 1.1.0)の結果からだ。
総合スコアをまとめたグラフ4を見てみると,i5-661は,i5-750とE8600の間という,極めて順当な結果に落ち着いている。3.88GHzへのオーバークロックで,i5-750との力関係を逆転させている点にも注目しておきたいが,しかし,マルチスレッド性能を見るCPUスコアについて,解像度1280×1024ドットのそれを抽出したグラフ5では,2コア4スレッド動作の限界か,i5-661@3.88GHzがi5-750を上回っていない点も押さえておきたい。
実際のゲームから,グラフ6は「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)のスコアになるが,L2キャッシュ容量がスコアを左右するCall of Duty 4だけに,容量6MBのL2キャッシュを内蔵するE8600が有利。同512KB×4のX4 965も健闘する一方で,1コア当たり256KBというCore i5は一段低いスコアに落ち着いている。
i5-661についていうと,高い動作クロックであることや,あるいは2コア4スレッド動作であることのメリットも,L2キャッシュ容量差の前にかき消されており,また,オーバークロックの効果も見られない。
一方,マルチスレッド処理に最適化されたバイオハザード5だと,i5-661は定格動作(+Turbo Boost)でX4 965と互角(グラフ7)。E8600に大差を付けているあたり,HTTによる2コア4スレッド動作のメリットは大きい。
もっとも,i5-750との差もかなり大きく,マルチスレッド処理に最適化されたアプリケーションにおいて,クアッドコアCPUとの性能差は看過できないレベルにあるともいえる。
i5-661とi5-750の力関係は,グラフ8で示した「ラスト レムナント」でも同じである。X4 965のスコアが今ひとつ伸びきらない理由は,これだけだとなんともいえないが,最適化度合いの違いかもしれない。
マルチスレッドへの最適化が進んでいる「Race Driver: GRID」のテスト結果はグラフ9のとおりで,全体的にはバイオハザードのそれを踏襲している。
4コアCPUであるX4 965が,2コア4スレッドのi5-661を上回っており,こちらのほうが素直にマルチスレッド性能を反映している印象も受けた。
32nmプロセス技術の恩恵はここにあり?!
消費電力が低い傾向にあるi5-661
さて,32nmプロセス技術の採用によって,Clarkdaleの消費電力がどれくらい下がったのは気になるところだ。統合されたグラフィックス機能を用いた状態については別記事を参照してもらうとして,ここでは,より4Gamer読者のユースケースに近い「グラフィックス機能を休止させた状態」での消費電力をチェックしてみることにしたい。
テストでは,OSの起動後,30分間放置した時点を「アイドル時」,OCCTのCPUテストを30分連続実行した時点を「高負荷時」とし,ログの取得が可能なワットチェッカー,「Watts up? PRO」からシステム全体の消費電力を測定することにした。アイドル時については,Intel製CPUが持つ省電力機能「Enhanced Intel SpeedStep Technology」(以下,EIST),AMD製CPUが持つ「Cool'n'Quiet」のオン/オフ両方でスコアを取得することをお断りしつつ,スコアをまとめたのがグラフ10となる。
テストに用いたマザーボードがCPUごとに異なるため,数W程度の違いは誤差の可能性もある。とくにi5-661はこれだけ組み合わせているマザーボードがmicroATXフォームファクタなので,この結果のすべてがプロセス技術微細化の恩恵と断言することはできないが,しかしそれでも,i5-661の消費電力が既存のプラットフォームより低いレベルにあるとは見てよさそうだ。
なお,CPUコア電圧設定を引き上げていないi5-661@3.88GHzでは,動作クロック引き上げ分しか消費電力も上がっていない。
最後に示したグラフ11は,室温20℃の環境に,テストシステムをバラックのまま置き,アイドル時と高負荷時のCPU温度を測定したものになる。CPUによってCPUクーラーが異なるため,結果は「リファレンスクーラーを搭載したときの参考値」として捉えてほしい。
また,測定に用いたツールは「HWMonitor Pro」(Version 1.08)なのだが,ご覧のとおり,i5-661のCPU温度は室温を切っており,i5-661のTjmaxを正確に捉えられていない可能性を指摘できそうだ。消費電力からすると,高負荷時の温度が少々高いようにも感じられるので,このあたりは,正式発表後,環境が揃ったタイミングで,あらためて測定し直す必要があるかもしれない。
性能は極めて順当だが価格がネック
「Clarkdaleを選ぶ理由」がほしい
ただ,問題はその価格。i5-750の実勢価格が1万8500〜2万1000円程度,X4 965が同1万8000〜2万円程度(※いずれも2010年1月4日現在)なのに対し,i5-750より間違いなくパフォーマンスの低いi5-661は,PCメーカー向けの1000個ロット時単価が196ドルに設定されている。国内での店頭価格がどれくらいでスタートすることになるのかは分からないが,i5-750を大幅に下回る,ということはなさそうで,Clarkdaleコア版Core i5の割高感はどうしても拭えない。しかも,Core 2環境から移行するとなると,マザーボードだけでなく,多くの場合,DDR3 SDRAMモジュールの新規購入という追加コストもかさんでしまう。
別記事で統合されたグラフィックス機能の性能評価も行っているが,4Gamer的には,たいていの場合,「どうせグラフィックスカードを差すことになる」わけで,グラフィックス機能はいらないからもう少し価格を下げてほしいというのが正直なところだ。
消費電力と高い動作クロックは確かに魅力的で,悪い製品でないのは疑いようがないものの,少なくとも今のところは,Clarkdaleでなければならない理由に乏しい。これが,発表を控えた1月4日時点におけるゲーマー的な結論になるのではなかろうか。
[グラフィックス機能レビュー]Clarkdaleこと「Core i5-661」レビュー,統合グラフィックス機能編
- 関連タイトル:
Core i5&i3(LGA1156,デュアルコア)
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(C)Intel Corporation