連載
ハーツ オブ アイアンIII 連載 / 第10回:「ポーランド」で何ができるか探ってみる
この連載は,第二次世界大戦およびその前後の歴史に関わった,いかなる国や民族,集団,個人をおとしめる意図も持っていません。ときに過激な表現が出てくることもありますが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものですので,あらかじめご了承ください。
最終回は,恒例(?)の「ポーランド」をお届けしたい。かつての強国にして,幾度も国際政治に翻弄されたポーランド。「ハーツ オブ アイアンIII」においては基本的にドイツに蹂躙され,独ソで分割されるほかない国だが,それでもまったく何もできないというわけではない。そして「ポーランドとして何ができるか」という問題は,HoI3の現状(拡張セット「Hearts of Iron III:Semper Fi」適用前)を,非常に良く示してくれるように思う。
つまり今回は,歴史探検というよりも,ゲームとしてのHoI3を探求してみようというハラである。そのため,今回は成り行きのままに結末までを追うのではなく,ポーランドにおける可能性を切り開くまでのプレイをお届けしたい。
さて,まず最初に「明らかに不可能な作戦」を吟味しておこう。
1936年のポーランドを見て,まず最初に思うのは「なんか軍隊たくさんいない?」ということではないだろうか。騎兵の濃度が高めなのは,ポーランドなのでやむを得ない(ポーランドは第二次大戦前夜においてすら「ヨーロッパ最強を誇る伝統の槍騎兵」を堅持していた)として,それにしたってこれはなかなかの軍備だ。人的資源も多いとは決して言えないが,IC的に言えば,ちょっとやそっとでは使いきれない量がある。
かといって,この大量の軍隊を率いてドイツやソビエトを序盤のうちに叩いてしまうというプランは,まったくもって非現実的だ。この連載のドイツ編で,ちょうどその逆のプランを実行し,ソビエトまで打倒している。ドイツはオーストリアもチェコスロバキアも併合しないまま,またさほど大規模な軍拡を行わずにポーランドへ単独宣戦布告し,ポーランドを速攻で片付けた後,日独の挟撃でソビエトを粉砕しているといった具合。つまるところ,ポーランドが速攻を仕掛けるというのは,ドイツに対して自分からこの「勝ちパターン」を提供する行為に過ぎないわけだ。
そしてこの段階において,ポーランドはすでにほぼ詰みと言っていい。
HoI2であれば要塞線を補助として粘ったり,首都篭城して核開発したりといったことも可能だったし,実際ポーランドでドイツに勝つことも不可能ではなかった。
だがHoI3ではプロヴィンス数の増加に伴い,要塞線の建設はあまりに非現実的となり,全VPプロヴィンスが占領されなくても国家(正確には国民)が勝手に降伏してしまうので,篭城も困難だ。
だが待ってほしい。ポーランドは,ドイツに勝たねばならないのだろうか?
そもそも,ポーランドはなぜドイツと戦争しなくてはならないのだろう?
ここに,HoI2時代からの,一つの「パラド史観」が隠されている。HoI3においても,ポーランドは「ダンツィヒか戦争か」の歴史イベントで「ダンツィヒ割譲」を選ぶことで,世界大戦を回避することが可能なのだ。
さて,ではここから逆順で考えよう。ポーランドは,なぜダンツィヒを譲ってはいけないのか? 例えばポーランドがナチス・ドイツに接近し,ダンツィヒ割譲と「何か」をトレードオフさせることはできなかったのか? あるいはもっと連合軍に「仕事をさせる」ことはできなかったのか?
当然だが,史実においては,そのような選択はあり得なかった。ふむ,いいじゃないか。じゃあ,そこに手をつけてみよう。
鈴木銀一郎先生は,「HoI2がラインラント進駐に始まるのは,それこそがヒトラーが最初に成功させた国際的な博打だったからであり,第二次大戦はそこから始まったというデザイナーの歴史観の現れである」という主張をされている。
この分析は,とても的を射ている。いわゆる「パラド歴史ゲー」が特定の年号でスタートする背景には,そのゲームの根底を成すアイデアや発想が隠されていたりするはずだ。
一方,これはつまり「相手にどこまで譲歩させるか」という凌ぎ合いが,戦争への道を形成していったと解釈することも可能だろう。ラインラント進駐,オーストリア併合,ボヘミア併合――「ズデーテンラントは最後の贈り物」発言を含めて――そしてダンツィヒ回廊の要求と,仕掛けられた方だって,どこかで必ず後には引けなくなる。
では,もしそこに「後に引ける余地」があったら,どうだろう? ドイツAIは,どこまで要求を続けるのだろうか?
ポーランドが,軍隊の力でドイツの意図を挫くことは,おそらくできない。可能かもしれないが,極めて難しい。だが根本から異なる歴史を作る力が,HoI3のポーランドにはあるのだ。
まず,研究をほぼ完全に捨て,指導力を「諜報」へと強くシフトさせる。スパイを送り込む先はオーストリア,チェコスロバキア,ハンガリーで,この3国の脅威度を上昇させるものとする。もちろん自国内のスパイも増員し,自国の中立度を下げさせる。
チェコスロバキアとオーストリアの脅威度を上昇させる理由は,言うまでもない。あわよくばこの二国を,ドイツより先にとって食おうというハラだ。併合すべき国を失ったら,AIは重要なフラグを見失う可能性があり得る。それは世界の歴史を歪め得るはずだ。
そうこうするうち,脅威度上昇に耐えきれなくなったのか,真っ先にハンガリーが軍拡レースに突入,勝手に自分でも脅威度を上昇させていく。これと同時にポーランドの中立度も低下させていたので,なんとポーランド=ハンガリー同盟が結成可能になった。なんだそれ?(ちなみにハンガリーは枢軸に入ってしまったので,途中からスパイを送り込んでいない)。
……さて,それはそうとしてチェコスロバキアに宣戦可能となったので,ポーランドは対チェコ宣戦を行う。いったいどういう言いがかりをつけたのか実に想像し難いが,これも祖国防衛のためである。チェコ軍はなかなか優秀だったが,ポーランド軍の数を相手に戦えるほど精強ではない(捨てたとはいえ,それなりには技術開発もしていたし)。対ドイツ戦争を想定して建設されていたチェコの要塞線も,ポーランドからの攻撃に対しては意味をなさなかった。
続いてオーストリアもと思ったが,こちらもまた枢軸入りしていたので断念。1938年のオーストリア併合を待つ……が,ドイツはなぜかオーストリア併合を仕掛けない! 伍長閣下は,随分と慎重派らしい。この段階で「オーストリア併合」「ズデーテンラント併合」のフラグが消えた。残るは戦争の幕開け,ダンツィヒ割譲要求のみ。
さて,我が国はチェコスロバキアを討伐し,その領土を我が物としたわけですが,ここは一つ,ドイツにダンツィヒを譲ってはいかんものでしょうかね? VP計算的にはあからさまにプラスなんですが。
あ,やっぱりダメ? ポーランドが内陸国家になっちゃうような選択は許されない? ですよねえ。いやごもっとも。
じゃあ,港,取りに行こうか。
というわけで,スパイをラトヴィア一本に集中させる。ラトヴィアの国際的な風聞は急速に悪化,そこにポーランド軍が制裁戦争を仕掛けるという図式が,またしても繰り返された。中欧の警察官としてのポーランドの誕生である。
ラトヴィアのような小国がポーランド相手にまともな戦争ができるはずもなく,ラトヴィアは瞬く間に陥落。ポーランドはリガという外港を得た。
そこへ,ドイツからダンツィヒの割譲要求が出される。断る理由も思いつかないので,受諾。これが宥和政策ってもんです,ってか,現状どう見てもポーランドのほうが侵略者です。ともあれ,ダンツィヒは失ったけれど,こっちはチェコスロバキア全土+ラトヴィア全土を得ているのだから,差し引きではまったくもって比較にもならない。
ここで「諜報」に振っていた指導力を「外交」へ転換,前々から進めていた連合国への接近を密に行い,ポーランドは連合国入りする。また独自外交として,ベルギーとルーマニアを「ポーランド同盟」に引き込んだ(ベルギーはそのまま連合入りする)。ポーランドの車両工場ではイギリスからライセンスされたクルセイダー戦車が量産体制に入り,研究は電撃戦関係のドクトリンを中心に急ピッチで進められる。これで独ソと戦えるわけではないが,いざ戦争となったとき,最低限の抵抗力を示すことは可能だろう。
また,もう一つの選択肢として,この宥和政策によって稼ぎ出した時間を利用し,ドイツ=ポーランド間に巨大な要塞線を引くという戦略もあり得る。ポーランドの人的資源は要塞線の構築でへこたれるほど少なくない。チェコスロバキアの要塞戦と連結すれば相当な規模の防御線が構築可能だ――そしてこの国境線は,外交的な「譲歩」によって勝手に引き直される心配がない。
別方向の可能性として,核開発に乗り出すのも効果的な選択肢だろう。核と,それを運搬できる飛行機の双方を手にできれば,ポーランドに宣戦した国には悪夢が訪れることになる。HoI3では,核を含めた大規模な戦略爆撃は国民の士気を喪失させる効果があるので,やりようによっては攻勢を一気に頓挫させることも可能かもしれない。
もちろん,枢軸入りを目指すという方向性だってある。ダンツィヒをドイツに譲渡し,その引き換えとしてソビエトを叩くというのは,これはこれで興味深い戦略だ。連合国との二正面作戦を心配しなくて済む以上,勝算は十分にある。
「失ってはいけないもの」をたくさん持っている国は,それだけ選択肢が狭まる。その一方で,世の中に,失われないものなどないのだ。失うなら失うで,損失以上のものをその代償に得ればいい――その選択肢を常に残しておくのが「失う側の戦術」であり,そう思わせるのが「失わせる側の戦術」である,そう言えるのかもしれない(現実の国家経営を論じているわけではなく,ゲームにおいての話ですよ)。
以上,10回にわたってHoI3を各国でプレイしてきたが,総括して現状を言うならば,「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII」を初めてプレイしたときの感触に,極めて近い。大局的に見ると,現状のHoI3は各国が歴史の荒波の中でサバイバルレースをするゲームと言っていいだろう。
結果,やはりちょっと大味というか,味気なさを感じる部分があるのは事実だ。陸戦の機動や補給に関する緻密さの陰に隠れがちではあるが,HoI2のときのような「歴史の手触り」は,筆者にはいま一つ感じられなかった。
ではHoI3は失敗作かといわれれば,それはまた違う。EU3が「イン・ノミネ」で大成したように,HoI3が拡張パックによって洗練されていくのは,ほぼ疑いないだろう。「Semper Fi」がそのきっかけになったかどうかはまだ判断できないが,少なくともHoI3という素材そのものには,EU3同様の魅力がある。
もっとも,HoI3にはHoI3なりに,独特の難しさを感じるのも事実だ。1.4パッチの登場以降,筆者が連載のテーマにフランスやイギリスといった国家を選択しなかったのは非常に簡単な理屈で,AI連合国はきわめて高確率でAI枢軸に勝つからだ――つまり,「戦争に勝つ」ことを目指すのであれば,プレイヤーはすべての判断をAIに任せてしまえばいいじゃないか,ということになりかねない。
もちろん人間がコントロールしたほうが,より良い成果や,より変わった結果を出せる。また,筆者もしばしばそうしていたが,部分部分でAI委任とプレイヤー操作を切り替えるのは,HoI3を快適にプレイするためには必須とすら言える。ただそのさじ加減では,ゲーム全体のバランスとも絡みあって,非常に困難な調整を強いられる。
ともあれ,まずは「Semper Fi」,そしてその次の拡張セットにより,HoI3がどういう経路をたどって,どこにたどり着くのかを見届けたい。それはもしかすると,ゲームそのものと同じくらい面白いかもしれない。
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ハーツ オブ アイアンIII【完全日本語版】
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