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ハーツ オブ アイアンIII 連載 / 第8回:「ギリシャ」で中小国プレイを満喫してみる
この連載は,第二次世界大戦およびその前後の歴史に関わった,いかなる国や民族,集団,個人をおとしめる意図も持っていません。ときに過激な表現が出てくることもありますが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものですので,あらかじめご了承ください。
HoIシリーズの醍醐味,それは中小国プレイである。
つい思い出したように断言させていただくが,世にある数多の第二次世界大戦モチーフの作品群の中に,例えば第二次世界大戦におけるハイチの活躍を描く作品など,筆者はほとんど聞いたことがない。それが面白いかどうかはともかく,プレイできるとプレイできないとの間には,大きな隔絶がある。
ともかくとは言ってみたが,ゲームとして考えれば,もちろん「面白いか面白くないか」は大問題だ。ルクセンブルクをプレイしてドイツに踏み潰されるのが面白いかといわれれば,まあ普通はあまり面白くない――が,第二次世界大戦を外交レベルから扱ったHoIシリーズでは,そこで「枢軸ルクセンブルク」などといった工夫を凝らすことで,小国であっても思いがけない戦い方ができることがある。その「思いがけなさ」(あるいは隠れた最適解)を探すことこそが,ゲームとしてのHoIシリーズの大きな楽しみの一つであると言えよう。
もっとも,HoI3になって中小国プレイがいささか窮屈になったのは否めない。最大のポイントはマップの広さで,人的資源が厳しい小国だと,国境線をまともに警備するのすら難しいことがある。ましてや機能的な防衛ラインなんぞ夢のまた夢。要塞線を作って防御に徹しようにも,要塞の建設に必要となる人的資源すらままならない。
だが,まったく何もできないというわけでは,ない。ないだろう。ないはずだ。というわけで,今回は世界的にいろいろとホットな話題をふりまいているギリシャでプレイしてみたい。史実におけるギリシャが第二次世界大戦でどうなったか,というのは欧州戦線マニアしか知らない話題かもしれないが,イタリア相手に割と頑張った国である。
史実ではイタリアがドイツの援助を受けたため崩壊してしまったが,HoI3では必ずしもドイツがギリシャと国境を接するとは限らないし,枢軸に入るという選択肢もある。1936年のギリシャ危機がどう展開するのか,試してみよう。
これまでの大国と異なり,ギリシャは基礎ICが20。平時のペナルティにより,実効ICは10しかない。これを「10しかない」と見るか「10もある」と見るかは難しいところだが,欧州において直接の戦火に巻き込まれ得る土地,しかも枢軸と連合の境界に位置する(すぐ西にはイタリア,すぐ東&南はイギリス)地域ということを考えれば,とにかく慎重なプレイが必要であることは疑いようがない。一歩間違えれば国土のすべてが最前線になって,その瞬間に国家は詰んでしまうだろう。
全体の指針としては,まずは国土の静的防御を前提とする。アルバニアはほぼ疑いなくイタリア領になるので,“アルバニア−ギリシャ”国境間には要塞線を引くものとする。また“ユーゴスラビア−ギリシャ”国境の要塞線を延長するが,こちらは保険的なもので,必要となるのは対ユーゴスラビア単独戦争が発生したときだけだろう。ドイツ軍相手にまともに戦える可能性は皆無だ。
外交としては,いずれの陣営にも当面は歩み寄らないものとする。ギリシャは初プレイなので先行き不透明だが,もしイタリアからの宣戦が歴史イベントであるならば,1940年ごろには態度を明確化しなくてはならないだろう。もし,その時点でフランスが降伏していなかったら,枢軸についてはならない。
ギリシャから見れば超大国と言ってもいいイタリア相手に,単独で戦う時期が発生しうるが,イタリア海軍は連合国海軍にこてんぱんにされていると思われるので,第一波を駆逐できるかどうかが鍵になるだろう。
研究については,工業関係の基礎を固めた後,歩兵と陸戦ドクトリンの研究を主体とする。戦車だの飛行機だの,その手の文明の利器は,あらゆる意味で夢物語に近い――が,海軍に関しては戦況の推移を見ながら,多少考える必要があるかもしれない。ゲームスタート時点では護衛艦の建造すらできないので,同盟の組み方次第ではシーレーン防衛にある程度まで注力せざるを得ない。
最悪のパターンは,ドイツがフランスをスチームロールして,ギリシャがそれを確認して枢軸入りを図ろうとしたらイタリアに宣戦される,という可能性だ。そうなったら,まあ,頑張るしかないだろう。
外交的にはいろいろと問題を抱えまくったギリシャだが,国内の兵力はわりと充実している。ちゃんとした正規の歩兵がほとんどだし,HQも無駄にたくさんある。HQが多いというのは軍拡の可能性を秘めているというだけでなく,いざとなったら不要なHQを解体して指揮官プールに戻してしまうこともできるということで,このあたりは高く評価できる。
それはそうとして,実効ICが10というのは大変に苦しい。どれくらい苦しいかと言うと,要塞を建設するコストがIC7近い。つまり,フルスピードでは建造できない。いきなり困った。
困ってばかりもいられないので,ICを増やすために工場を建て増ししようとすると,そもそも工場を建てる技術の研究ができていない。物語はこのレベルからのスタートである。
とはいえ,そのまま研究と工場建設に専念するのでは間に合わない気配が濃厚なので,諜報タブから国内の中立度減少を選択する。あわよくばアルバニアに戦争をふっかけて,人的資源やICの戦時補正を獲得してしまおうという腹だ。また戦時体制にも入りやすくなるので,実効ICへのペナルティも段階的に解除していける。
外交は,とりあえずはいずれの勢力にも接近しないものとする。この段階では,誰が勝ち馬かなど,まるで分からない。極東では日中戦争が始まっていて,またヨーロッパ各国もすごい勢いで枢軸・連合入りを決めているが,短慮は禁物だろう。
資源外交については,アメリカとソビエトが良いお客になってくれる。物資生産力を拡充しつつ,希少資源や金属などを補充していく。ICが小さいので,資源の在庫が少なくても悲観する必要があまりないというのは,良いことなのか悪いことなのかなんとも言い難いが,とりあえず良いということにしておこう。
そうやって内政に専念するうち,徐々に要塞線が完成しはじめた。レベル1の要塞とはいえ,ないよりはマシだ。マシなはず。マシだといいな。せめて5レベルにまで拡張できると,だいぶ安心できるのだけれど……。
とかなんとかやっているうちに,イタリアがアルバニアを占領。これによりギリシャ・イタリア間は急に緊張を増した。直接国境線を接したというのが,やはり大きい。ギリシャ軍アテネ司令部は旧アルバニア国境にギリシャ陸軍のほぼ全軍を配備,文字通りの臨戦態勢に入った。
ううん,しかしこれはちょっと……アルバニア−ギリシャ国境の要塞線はいまだ2レベル程度,しかも,とてもではないが,戦時でもないのに予備役の動員なんてかける余裕はない。となると,今できることはただ一つ,歩兵の装備改修と,陸軍ドクトリンの強化だ。その程度でイタリア軍相手にまともに戦えるのかどうか,不安ではあるのだが,やらないよりはやったほうがいいに決まっている。
そうして1939年,ついに第二次世界大戦が勃発。ドイツはあっというまにポーランドを占領し,同時に西部戦線でも攻勢を開始した。
が! ここでまたしても奇妙な歴史がスタートする。スイスが連合国入りしていたため,フランス軍の戦力がスイス入りし,そこでにらみ合いが始まってしまったのだ。ドイツ軍,何やってんだ……電撃戦って,そういう戦争じゃないだろうに。
思いはするものの,これはどうやら枢軸入りはないものと思ったほうがいい。日本は中国を制圧しインド方面にも勢力を伸ばしているが,欧州が平和になれば,そんな栄華は脆くも崩れ去ることくらい,こちとら先刻承知である。
かくして,ギリシャは連合国へと急激に接近を開始する。問題は,イタリアがギリシャに宣戦するのが早いか,ギリシャが連合国に入るのが早いか,だ。
不幸にも,ギリシャの連合国入りは間に合わなかった。イタリアはギリシャに宣戦,ギリシャは戦争か降伏かの二択を迫られる。ここで降伏はあり得ないので,戦争を選択。ギリシャもまた,世界大戦の坩堝へと巻き込まれていった。
ギリシャ陸軍は,アルバニア国境から旧アルバニア領へと侵攻開始。要塞線……防御指令……とか,いろんな言葉が脳内を駆け巡ったが,防御指示を与えているにも関わらず総司令部が攻撃を計画している場合,たいてい,そのAIの判断は正しい。腹をくくって,ギリシャ軍精鋭の活躍を見守る。
ギリシャ軍は順調に北上を続け,ティラナ郊外で初めてイタリア軍の大集団と遭遇する。ここで負けて雪だるま式にアテネ陥落なんて御免だぜと思ったが,指揮官は果敢にも攻撃を指令。マジか。戦闘の行方をハラハラして見守ると,なんとギリシャ軍が優勢。おやおや,やるじゃないか我が軍は。
ギリシャ軍先鋒はティラナを陥落させ,この段階で在アルバニア・イタリア軍の命運は決した。AIによる指揮を一時停止し,ティラナにギリシャ全軍をかき集める。ティラナはアルバニア唯一の軍港であり,上陸してきたイタリア軍はこれによって補給路を失う。あとは彼らが飢えるのを待つばかり。
ティラナが固まったところで,あらためてAIに攻勢を指示する。多少の抵抗はあったが,こうなれば時間はギリシャ軍の味方だ。イタリア軍の抵抗はまたたくまに衰微していき,目視できる範囲で8個師団ほどがアルバニアで降伏した。イタリア陸軍が,その伝説に新たな1ページを刻んだ瞬間である。
まあ,これには正直,状況の利があった。イタリア軍本体はスイス国境に張り付きになっていて,とてもではないがアルバニア方面に援軍を出せなかったのだ。もしイタリア軍が本気で来ていたら,数的にいってギリシャ軍に勝ち目はなかっただろう。もっともその場合でも,イタリア海軍は連合国海軍によってほぼ壊滅させられていたので,ローマ−ティラナ間でどれくらい補給船が沈むかは想像するだに恐ろしい物語となる。
いずれにしても,イタリアと地続きでない土地において,ギリシャ軍がイタリア軍を駆逐するのは,ある程度まで必然であった。ただまあ,その,まさかこんなにあっさりといくとはねえ……要塞線に投入した俺のICと人的資源を返してくれ,イタリアよ……。
その後,西部戦線はそれなりに危うい均衡状態に入り,一時はパリに隣接するプロヴィンスにまでドイツ軍が進出した。ここでフランスに崩れられるとギリシャとしては甚だしく困るので,部隊を選りすぐってシチリア上陸作戦を敢行する。少しでもイタリア軍を引きつけることができれば,西部戦線のバランスもまた変わらざるを得ない。
幸いというべきか,北方ではスウェーデン軍がデンマーク経由で破竹の進撃をしている。ユトランド半島の根元あたりで進撃は止まったが,ドイツは戦力の分散を余儀なくされた。ギリシャ軍がイタリア軍の誘出に成功すれば,西部戦線のパワーバランスは変わるはずだ。
シチリアはあっけなく陥落し,レッジョ・カラブリアとの間で戦線は膠着する。これは狙い通り。だがよく見ると,集まってきたイタリア軍はさほど多くない。クソ,ギリシャ軍を舐めてやがるな? 何がすべての道はローマに通ずだ,ヨーロッパ文明発祥の地をdisってんじゃねーぞ! くらいの意気込みで。
ということで,本土の防衛部隊を削って,シチリア派兵軍を増強する。これにあわせ,たまたまイタリア軍最高司令部(指揮官はバルボ)が近所に見えたので,それを巻き込むようにしてイタリア半島の「長靴のつま先から5センチ」くらいの地点に強襲上陸。1か月以内にケリをつけられなかったら飢え死に確定という博打だったが,虎の子の海兵隊を投入したこともあって見事にイタリア軍を撃破,最高司令部を含めたポケットの構築に成功した。
ポケットを破ろうとイタリア軍が動き始めたのにあわせて,シチリア派遣軍もレッジョ・カラブリアへと上陸。イタリア軍の数個師団が最高司令部もろとも包囲の中に消えた。
ここまでくれば,あとはイケイケドンドン。ギリシャからHQも含めて全軍をイタリア南部に集結させ,攻勢を指示する。すると,ついに戦線にドイツ軍の影が! さすがの精強さに戦線が止まるが,ギリシャは十分以上の仕事をしたと言っていいだろう。この時点で,イタリア軍10個師団近くに加え,ドイツ軍2〜3個師団を拘束したのだ。
案の定,西部戦線は決壊。フランス軍とスイス軍(!)がドイツを南北から蹂躙し,ドイツは連合国に降伏した。東部戦線はモスクワ正面で膠着しており,ハンガリー軍が南方で破竹の進撃をしていたが,ドイツの降伏はハンガリーの破滅を意味していた。
ドイツ軍の支援を失ったイタリア軍は,ギリシャ軍の前に敗走を開始(!!)。ギリシャ軍は遅々とした歩みながらも南部イタリアを解放し,やがてフランス軍のローマ進駐と同時にイタリアも連合国に降伏した。ヨーロッパの戦争は,終結したのである。
その後,ギリシャ軍はポルトガル上陸作戦を敢行。苦戦をするかと思いきやポルトガル陸軍との戦闘はほとんど発生せず,ポルトガルを旧大陸から追放することに成功した。アフリカのポルトガル領はベルギー軍や南アフリカ軍がその大部分を占領し,またマカオは極東ギリシャ軍(もうわけ分かんない)が陥落させ,ここにポルトガルの時代は終了した。
広大な占領地を有していた日本はフランス軍によって列島全土を制圧され,降伏。満州やチベットといった国家が最後の枢軸国として抵抗を試みたが,それが無意味な抵抗なのは誰の目にも明らかだった。
かくして,小国は小国なりに勝ち馬に乗って仕事をすることができ,ついでに美味しいところをせしめることが可能だという,典型的な展開となった。実際のところ,西部戦線は一時期かなり危機に瀕していたので,ギリシャ軍の上陸作戦はそれなりに戦線へインパクトを与えていたと思われる。もっとも,スウェーデン軍の与えていた影響も大きかったので,ほとんど「諸国民の戦い」だったのは否定できないが……ともあれ,「いかに格下の群れとはいえ,同時に喧嘩を売る相手の数には気をつけよう」というところだろうか。
さて,次回は同じく東欧の中小国からお届けしたい。今度は勝ち馬に乗るのではなく、自ら勝ち馬を作ってみようじゃないか……!
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ハーツ オブ アイアンIII【完全日本語版】
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