連載
ハーツ オブ アイアンIII 連載 / 第7回:「日本」で歴史の激流に身を任せてみる(後編)
この連載は,第二次世界大戦およびその前後の歴史に関わった,いかなる国や民族,集団,個人をおとしめる意図も持っていません。ときに過激な表現が出てくることもありますが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものですので,あらかじめご了承ください。
中国を陥落させたものの,肝心のドイツがフランス戦でつまずくというキテレツ世界において,日本軍にできることは何だろうか?
――ええと,その,何もない,気がしますが……。
いやいや,そんな後ろ向きな敗北主義では話が進まないので,現状の確認と今後の方針策定から行ってみよう。
まず,ここで「軍部がクーデターを起こした」と脳内で仮定,外交をAIから引き上げたとしても,日本はすでに枢軸の一員として戦争に参加してしまっているので,連合軍との戦争から抜け出す方法はない。
それどころか,高確率でソビエトがドイツに宣戦し,これは同時に満州国境の事実上の崩壊を意味する。そしてこれを防ぐ方法はほぼ皆無で,あえて言えば「ドイツがもっと素早く負けて,ソビエトが対独宣戦布告する前にベルリンが連合軍によって落とされる」ことを天に祈る程度だ。
つまり,どう見ても日本(というか枢軸)は,連合国と共産圏の双方に袋叩きにされる。
ここに,わずかなりとも希望があるとすれば,アメリカが連合国に入っていないことだ。これは,とてもとても大きい。そもそもこの状況でアメリカと戦うほど切羽詰まった事情などありはしない。まあ,マフィア梶田さんあたりなら大画面での凛子目当てにiPad強奪のため,ハワイを急襲するかもしれないけど。
……というわけで,戦略方針は「1945年8月15日をメドとして,踏ん張れる限り踏ん張ってみる」ということにしたい。どこまで大陸領を守れるか分からないけれど,やれるだけやってみようじゃないか。
もっとも,「ただ大陸から放逐されない」ことだけを考えるなら,朝鮮半島の付け根あたりに大要塞線を構築して,そこに引きこもってしまうという手が考えられる。要塞線を構築するかたわら,海軍を大幅増強して制海権を維持すれば,朝鮮半島の安全は確保できるだろう。
しかしながら,これはいくらなんでも消極的というか,そんなことをして大陸の土となった者達に,どのように顔向けすればいいのか。
あー,すみません,正直言うとですね,「ソビエト軍はモスクワが補給源で,兵站線は馬鹿みたいに長い。連合軍にしても,それは同じこと。だから,うまくやりゃあ割とちゃんと粘るっていうか,北はシベリアあたり,南はインド前面くらいで膠着させられるんじゃない?」とか思ってました。
あれですよ。この手の,「なんだか根拠があるような気がするけど,実際にはさして根拠があるわけではない楽観」というのは,軍隊においては厳禁だってことは,もう痛いほど分かってるんですがね。自分がその立場になると,ついそういう楽観を抱いてみたくなるわけですよ。
それはともかく,実はちょっとしたトリックも考えてある。中国の各勢力を再独立させ,属国化するのだ。これでとにかく兵隊だけは大量に溢れ出すハズだし,なにより参戦を強要しなければ,新属国は「枢軸だけれど連合軍とは戦争状態にない」状態になるはず。この偉大な中立の壁で南を支え,日本軍+中国各種勢力軍は北を全力で叩けば,兵站線の長さからいって,かなり戦えるハズだ。
というわけで,足元の怪しい楽観主義と,危うい計略に基づいた戦いの幕を開けようではないか。なあに,半年や1年くらいは暴れてみせるさ……。
まず最初に,軍閥その他を一斉に独立させる。これによって日本のICはがっくりと落ちるが,東南アジア方面での兵站線は格段にクリーンになった。関東軍は仏領インドシナを南下,海軍による補給封鎖と合わせてフランス軍を駆逐していく。またビルマ方面も破竹の進撃を続け,やがて日本軍の先頭はインドにまで達した。
とまあ,このあたりで,最初のつまずきが発生する。
外交をAIに委任していたので,AIは勝手に各軍閥に対連合軍参戦を強要したのだ。次々と戦争に飛び込んでいく軍閥勢力。この瞬間,「南方戦線を中立の壁で守ろう」プランは崩壊した。まあ,そもそも本当に機能するかどうか怪しいプランでしたけど。
しかし,こうなってしまっては仕方ない。腹をくくって東南アジア戦線にテコ入れし,ついにインドシナを解放。できればマレー半島にも進みたいが,シャムは中立(フランス軍に通行許可)という状態。外交はAIに完全一任なので,シャムに宣戦してマレー電撃戦と洒落込むことすらできない。かといってマレー半島に上陸作戦を仕掛ければ,今はもちろん攻め落とせるだろうが,将来的にまったく維持できないだけでなく,物資輸送船を損耗することにもなりかねない。ああ,でもマレー半島の希少資源は欲しいんだが……。
考えているうちに,1942年,ついにソビエトが対独宣戦布告。日本にも宣戦布告がなされる。日ソ不可侵条約なんてものは存在しないので,文字通りの問答無用である。
とはいえ,さすがまだ主力が東部戦線に出払っているだけのことはあって,開戦直後は少し押されたものの,満州軍と関東軍守備隊はあっという間に極東の赤軍を押し返し始めた。それ見たことか,予想通りじゃない。
モンゴル方面では,モンゴル軍の圧力が高く(モンゴル軍は兵站距離が短い),中国共産党軍や国民党軍では支えきれないという状況も一時はあったが,日本軍の精鋭を10個師団ほどテコ入れしたところ,じわじわと前線は山岳側に向けて後退,やがてモンゴル南端を掠め取るところまで進撃することに成功した。
だがここが,日本軍と極東連合軍の,最後の輝きだった。
まず最初に訪れた危機が,よりによって「フランス軍による日本本土上陸作戦の成功」だった。
「燃料の残りがヤバイから,艦隊を哨戒させるのはやめとこう」などと甘いことを考えていた結果,気がついたら四国と九州のほとんどをフランス軍によって制圧されていたのだ。なんてこった。
あわてて各所から軍隊を引き抜いてきて,本土防衛に充てる。新規生産された歩兵も防御ラインの構築に投入し,なんとか戦線は膠着。次の生産ターンで作られた歩兵部隊で四国のフランス軍軍港を制圧し,上陸軍の補給を絶ったところで彼らの運命は決した。
しかしまあ……こんな失態,軍上層部の首がいくつ飛んだだろうかと想像するだに恐ろしい。つーか,なんでフランス軍なんだ。どこから来たんだ彼ら。やっぱりオランダ領インドネシアあたりだろうか? しかしこの状況で絶対防衛権を太平洋方向にまで拡大するなど,物理的に不可能だ。
同時に,希少資源が底をつき始めた。アメリカとの関係は+170ときわめて良好だが,それでもアメリカが資源外交を拒むシーンが増えてきたのだ(欧州での戦火がおさまり,アメリカが物資をさほど必要としない状況が増大したため)。あわてて南米諸国とのパイプを模索するが,どこの国も日本の不足分を補ってくれるだけの余力を持ち合わせていない。
IC効率が安定しなくなり,また人的資源も次第に乏しくなってきた日本。しかも南方戦線は事実上の崩壊を始めており,それに対して有用な手がまるで打てない。増援を出しても出しても北方の火消しに投入せざるを得ない状態で,英軍の進撃を止められないのだ。
そして北方はといえば,なんとか均衡状態を保ってはいるものの,ドイツ降伏後,シベリア鉄道で輸送されてきた赤軍本体が戦線に到着しだし,次第に押され始める展開に。強力な戦車を主軸とした赤軍主力を迎え撃つには,日本軍の装備はあまりにも貧弱だし,必死で数を揃えた対戦車砲も,長期間の戦闘となると歩兵の脆さが目立ってくる。
北方の戦線にトドメをさしたのは,あろうことか,またしてもフランスだった。今度は海軍が哨戒するなかを,北京近郊に強行上陸。だいたい半数近くは海に沈めたが,それでも相当数が陸揚げされた。急いで艦隊で港を封鎖し,補給切れに追い込んだが,上陸したフランス軍を迎撃するために前線から部隊が引き抜かれた結果,北方戦線も致命的に崩壊。ついに満州国境を赤軍が超え始めた。
当然といえば当然なのだが,敵軍AIに対して仕掛けると効果的な作戦というのは,自軍AIに対しても効果的なのだ。フランス陸海軍の犠牲とともに,大陸における日本軍の抵抗には終止符が打たれようとしていた。
というところで,1945年8月15日を迎えた。一応,朝鮮半島のど真ん中に要塞線の建築を始めたので,「大陸から完全に追い出される」ことはないだろうが,勝ちか負けかという議論については,あまりにも自明なので言及しない。
「なぜこうなった」と言われれば,こればかりは「欧州の天地は……」と口走ってしまうほかない。「ドイツがソビエトに勝ちきれなくて,やがて日本も押しつぶされました」と言うなら,日本にもやりようはあるが,「フランスに勝てませんでした」と言うのでは手助けのしようもない。
「枢軸」という,国際政治勢力の行く末を確認しないまま同盟してしまったという政治的なミスは,軍事的な努力では打破できなかったのである。
とはいえ,選択肢として「占領地を独立させず,超巨大要塞線を引いて粘る」という方針はあり得た。とくに南方戦線においては,3〜4レベルの要塞線がどこかにあっただけでも,まるで違った結果が出ていたと思われる。ダンジョンRPGには「『まだいける』は『もう危ない』」という鉄則があるが,この掟に従い,自軍が優勢なうちに,堅固な静的防御体制を構築しておくべきだった。
もう一つ反省点として挙げられるのは,指揮系統ツリーの構築ミスだ。今回のプレイでは,関東軍を最高司令部として,ほぼすべての部隊を運用していたが,これは最低でも2分割して,満州方面と南方で指揮系統を分けるべきだった。
これは関東軍司令部の一つ下の階層でAIコントロールを行うことでも可能となるが,実際にやってみると,これがなかなか混線しやすい(司令部の位置と部隊の位置がかけ離れていることが多い)。
とはいえ,では最初からそんな編成が必要だったかといえば,そういうわけでもなく,戦線の拡大に伴って発生した問題なので,どこかの段階(中国が降伏したあたりか)で行っておくべき作業だった――が,この「指揮系統の再編成」というのは,現状のHoI3のインタフェースでは悠久の時間が必要な作業となってしまう。
この点,次期拡張パックである「Semper Fi」では,指揮系統の構築を行う専門の画面が用意されているとのこと。最初の指揮系統樹立だけでなく,途中における改変も容易になっているのであれば,相当にありがたい。それで上級司令部ごとに担当戦線の指示も可能だったら,本当に素晴らしいのだけれど,そのあたりは実物を見てから語っても遅くはあるまい。
昔なら「パラドゲーに使い易いUIを求めるなんて!」と一笑に付すところだが,EU3以降はUIの進歩も著しいので,期待だけはしておきたいのだ。
さて,これでおおかた第二次大戦のメインプレイヤーは見た(イギリスはまだだが,まあ,イギリスなので)ことになる。次回はいよいよ中小国の獣道に踏み込みたい。HoI2よりもできることが少ない傾向はあるものの,それなりに妙な立ち回りができる国だってあるのだ。
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