連載
ハーツ オブ アイアンIII 連載 / 第6回:「日本」で歴史の激流に身を任せてみる(前編)
この連載は,第二次世界大戦およびその前後の歴史に関わった,いかなる国や民族,集団,個人をおとしめる意図も持っていません。ときに過激な表現が出てくることもありますが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものですので,あらかじめご了承ください。
さて,いよいよ今回から2週にわたって「日本」でのプレイを扱っていく。日本は非常にプレイし甲斐のある国であり,「ハーツ オブ アイアンIII」を語るうえでも外せない勢力の一つだ。一方で,記事には日本と中国が衝突するような箇所も出てくるので,ピリピリする方もいるかもしれないが,そこはどうか寛容に見守っていただきたい。それでは日本編,始めよう。
HoI2でもそうだったが,HoI3においても「日本」という国家は,なかなか難しい。最大の問題は“戦場が常に海の向こうにある”ということで。って,なんだか同じことをアメリカのときにも言ったような気がするが,あちらのバケモノ国家と違って,日本は「海のこちら側」で戦いが始まったら,それはもう戦争にすらならないし,国力の差に至っては,もう何をかいわんやである。
一方,日本には外交的なフリーハンドがかなり幅広く残されていて,何が何でもアメリカと戦争しなくちゃいけないというわけではないし,「どことも戦争しない」ことを選択することだって,まぁできる。向こうから戦争をふっかけてくるところもあるかもしれないけど。
そうなると問題は,「では日本で何をするべきか」という一点に収束する。そしてそれこそが,HoI3における日本プレイ最大の問題なのだ。
外交的なスタンスについて言うなら,HoI3の日本はとても有利な状況にある。というのも,日本にとっての「隣国」(=直接的な軍拡によって警戒心を強める相手)は,国民党とソビエトしかいないからだ。ソビエトと喧嘩するのは楽じゃないが,前回を見ていただければ分かるとおり,ドイツとタッグを組んで超遠距離で挟撃すると,赤軍は意外にも脆い。
また,日本は枢軸・連合・共産,いずれの陣営を目指すことも可能だ。前作のように「アメリカと単独同盟を組む」というのはだいぶ難しいが,とりあえず連合入りしてしまえば,地政学的に言って大敗することはまずありえない。というか,それは史実でいう第一次大戦の焼き直しになるだけのことだ。
ところが,これらの「好条件」は,不思議世界史の探究者にとっては,足かせにも近い。日本が史実と異なる選択をすれば,戦争は基本的に誰もが思いつくような結果に終わるというのは,シミュレーションとしてはもっともなのだが,ゲームとして考えれば,何の味わいも楽しみも見いだせない。「だったらやらなくていいんじゃない?」と言われてしまうだろう。
「アメリカに超速攻をかけて,連中の軍備が手薄なうちにやっちまえ」という,HoI2からの定番プレイだってあるにはあるが,さすがにそれもちと食傷気味だ。3ならではの戦術研究はやりがいがありそうだが,最も根幹となる「東海岸を早急に制圧すべき」という部分に変化はないように思える。そりゃあ,誰がどう見たって,山脈超えて砂漠越えて延々と行軍するより,パナマを速攻で制圧して東海岸に上陸したほうがいいだろうってのは明白だし,アメリカの工業力のほとんどは東海岸に集まっているんだから,そのほうがダメージも深い。
……と,要は「どの道もだいたい先が見えている」のですよ。そのくせ,戦場が海外にしかないので,軍隊作ったら片っ端から船に乗せて,主戦場まで運ばないといけない。ところがAIは,そこまでやってはくれんのですよ。生産と配備まで全部委任すれば別ですが。
ううん,日本には,新しい展開というか,何か残ってはいないんですかねえ。
そんなことを考えつつ,何度か日本の序盤をプレイするうち,そういえば一つだけ“やっていない方針”があることに気がついた。そしてそれは多分,やる価値があるはずだということにも。
ということで,今回の方針は「歴史の流れに身を任せてみる」である。
外交と諜報をAI委任(貿易の調整で人力介入が必要なときのみ手動)とし,盧溝橋だろうが日独同盟だろうが,すべてをAIの判断にお任せする。たぶん高確率で日本は国民党と戦争し,高確率で枢軸に入り,高確率で英仏と戦争になることが想定されるが,それらすべてを超越したトンデモ展開が待ち受けている可能性もある。
さあ来い,複雑怪奇な欧州の天地よ! 相手になってやる!
さて,恐ろしいことに外交指針が「ほぼ白紙」なので,とりあえずは第一仮想敵国を国民党,第二をソビエトと見定めることにする。この二国は我が国保有の領土と地続きになっているので,脅威のレベルとしては高く設定せざるを得ない。
いやもちろん本当にヤバイものってのは,いつだって海を渡ってやってくるんですが,ここで「地続きのほうが普通に脅威だろ」「島国にとっての制海権舐めんじゃねえよ」と脳内で議論しつつ,今回は「有事においては,陸軍主導」を大原則とする。これだけでも,なんだか随分未来が開けてきたぞ。
――だが考えてみれば,やはりそれはいくらなんでもリアリティに欠けるし,せっかくの「歴史の流れに身を任せる」に反している気もする。そこで,ここで新しい縛りを導入することに決定。すなわち「研究もAI委任」である。
AIは陸海空にわたって,実に平等に研究を進めてくれるので,陸軍主導といいつつ陸軍の強化がいつまでも行われないといった可能性は大いにある。いかにも予算を奪い合っている雰囲気だ。いいですねー。
またこの「予算の奪い合い」は,研究予算・外交予算・諜報予算・将校訓練予算の四分野で発生する。有限のリソースがどう配分され,どう仕分けられてしまうのか,プレイヤーは指をくわえて見守るのみ。いいですねー。
あー,独裁してぇなあ。
……おっと,いやいや,民主主義大事です。シビリアン・コントロール,超大事。
呪文をとなえつつ,とりあえず現状の研究状態や経済状態を見てみる。
資源収支は真っ赤だが,アメリカやソビエトといったあたりから物資を基盤とした貿易ができているので,そこまで重大な問題にはならなさそうだ。希少資源はとくにきわどいので,ときどき手動で調整しておく必要があるが,この程度は許していただこう。
技術開発は,それなりに優秀だ。機甲関係は目を覆うような状況だが,これはやむを得ないだろう。ごくナチュラルに戦車より歩兵のほうが強いので,陸軍の主力は歩兵という方向にせざるを得ない。人的資源には余裕があるので,それはそれで問題ないだろう。当面の仮想敵は国民党軍だし。
ということで,歩兵師団を量産しては,指揮系統を確立し,片っ端から大陸に送り込んで関東軍指揮下につける。関東軍は満州国境全体を戦線として見ているので兵力のロスは発生するが,これはやむをえまい。満州軍が育ってきたら,国境警備くらいは満州軍にも頼めるだろう。
そんなこんな(こっそりと旧式艦艇を破棄したり,空軍を再編成したり)しているうちに,突然,盧溝橋イベントが発生。聞いてないよ。誰だよそんなこと始めたのは。
大本営も与り知らぬところで突如,国民党軍と日本軍の戦争が始まったが,ここで犯人探しをしても仕方がない。関東軍のモードを「攻撃」に切り替え,攻撃目標にとりあえずは北京を設定しておく。
かくして日本は,なんとなく戦争に突入したのである。特別な準備も,長期的な展望もないまま。
さて。始まってしまった戦争だが,中国戦線はなかなかにタフだ。兵の錬度や装備では日本軍のほうが圧倒している(敵軍には民兵も多い)が,とにかく敵軍は数が揃っている。しかも全体的にインフラが低いので,攻撃に成功したが移動先で反撃を受けて後退,というパターンをしばしば見ることになる。
簡単に結果から言うと,この「流れに身を任せた結果起きた日中戦争」第一回は,日本軍の人的資源枯渇で終了した。黄河を越えるあたりで一進一退の攻防が続き,そのうちに戦線が山岳地帯へと横に拡張していって,それを支えるために増援を入れたら補給に問題が生じ,やがて全軍が慢性的な補給切れに悩むようになって,じわじわと国民党軍に押され始めたころには人的資源も枯渇した,というパターンである。
……というところで,陸軍反省会を開催してみる。
言うまでもなく敗戦の主要因は「侮ってました」なのだが,とはいえ陸軍の増強は最優先で行っていたし,戦術爆撃機も追加で生産していた。空港設備もある程度常備するようにプランニングしていたので,爆撃機の足の長さの問題(中国大陸には空港が実に少ない)もなかったはずだ。
ということは,やはり最大の問題は「正面突破くらいできるだろう」と考えたことにある。もしこれで奇策を弄してもダメだというなら,少なくとも本土防衛戦争においては,日本軍よりもトータルで抗日統一戦線のほうが上回っているということになるだろう。そのような結末に陥らないように頑張るしかない。
さて,では正面突破以外に,どんな方法があるか?
まずやるべきことは,史実の模倣であろう。中国は広大であり,それはつまり長大な海岸線を持つということでもある。であるならば,軍港のある地点を選んで強襲上陸し,敵軍の戦線正面を広げてやるのだ。
統一戦線が日本軍に対して持っている優位は,ひとえに数的優位である。その数的優位は「守るべき面積」を広げてやること,そして「守るべき戦線」をできるかぎり分散して配し,戦線間の連携を絶ってやることによって,崩れ去る。
HoI2において海軍を使った包囲網の形成は,主戦線からさほど遠くない戦線背後を強襲し,そこから敵軍の片翼を食い千切るというのが一般的だった。だがマップの目が細かくなったHoI3では,必ずしもポケットを作らなくても,敵軍の戦力集中を削ぐことによって,主戦線における相対優位を構築できるはずなのだ。理論上は。
よろしい,では理論を実践してみよう。
まずは実験的にということで,5個師団からなる歩兵軍を山東半島の南に上陸させてみた。案の定,わっと国民党軍が集まってくる。無理して戦線を広げる必要はないので,軍港を保持しつつ,上陸軍は塹壕の構築を始める。この歩兵師団は,歩兵連隊2個に重砲連隊2個を組み合わせて作った,いわば「対歩兵」に特化した部隊だ。結果,わずか5個師団で,国民党軍10個師団以上を拘束することに成功した。
当然だが,前線から10個師団も引き抜かれれば,戦線の動きが大きく変わる。日本軍は黄河の渡河に成功し,進撃はなおも続いた。やがて本体と上陸部隊は手をつなぎ,国民党軍数個師団がその包囲網の中に消える。
同じプランを,上海にも仕掛ける。こちらは首都南京に近いだけあって,ちょっと進撃したら国民党軍の総司令部が視野に入った。よろこび勇んで打撃を加え,最終的には瓦解にまで追い込む。敵軍に緩包囲されかけてはいたが,敵軍の人的資源ではなく,士官数に対してダメージを与えられたのは実に大きい。
上海には増援をつぎ込み,1プロヴィンスの死守ではなく,機動しながら一定の支配地域を確保することにする。こちらの部隊は,プレイヤーの手動による指揮だ。指揮系統を関東軍の下に組み込むとAIが部隊をコントロールするが,彼らは別系統の指揮に入れていて,その総本部はプレイヤーの操作を受け付けるように設定してある。AIコントロールといっても,こういう形で部分的な操作も可能というわけだ。
これによって沿岸部分の打通にはほぼ成功したが,さすがにそろそろ戦線が拡大しすぎている。日本軍は平均して1プロヴィンスあたり1ユニット強,敵軍は2〜3ユニットが見える。
こうなるとマズいのは,補給だ。統一戦線の平均的な2〜3個師団の攻撃を受けても,日本軍は十分にその攻撃を捌くことができる。だが彼らはそれで弾薬や補給物資を失ってしまう。そうして長大な兵站を持つにいたった日本は,前線に素早く物資を送り込むことができない。
結果的に,「明らかに優位なのに押される」という状況が発生し始めた。これはとても良くない兆候で,ここで焦って戦線の数的補強を急ぐと,人的資源を大量に使ったあげく,投入した部隊もあっという間に補給切れの列に並ぶという悪循環が始まってしまう。
しかし今さら作戦を変更することもできないので,帝国海軍の全軍を投入して台湾沖の制海権を確保(この頃,いつのまにか日本は枢軸に入っていて,英仏な人達とも戦争していた。あれれ。やばくないですかこれ),英国東洋艦隊を空母機動部隊で袋叩きにしてから海南島沖に展開する。しかるに輸送船団のすべてをつぎ込んで,大規模な強襲上陸を仕掛けた。
これによって統一戦線のほぼ半分近く(プレイヤー感覚値)を占めていた広西軍閥が瓦解,険阻な地形と日本軍の補給の悪さに頼って戦線を維持拡大していた国民党軍は,情勢の変化に対応しきれず崩壊した。
かくして,日中戦争は日本軍の勝利で幕を閉じたのである。東京では盛大な提灯行列が出たに違いない。
とはいえ,戦争は終わっていない。日本軍はいまや枢軸の一員として英仏と戦う立場にあり,アジアを欧米列強の支配から解放するための戦いは,今まさに始まったばかりなのだ!
勝利の波にのった日本軍は,仏領インドシナを攻撃開始。シャムやビルマも電撃的に占領していく。
……って,あれ?
……あれれ?
まあ待ってくださいよ。仏領インドシナ? シャム? なにそれ? ビルマはいいとして,なんでシャム? てかもう1941年11月ですよ。史実なら真珠湾攻撃を絶賛準備中ですよ。なんで仏領インドシナ,日本に割譲されてないの? もしかしてAI様は「いらない」とか言った?
いいや,それもおかしい。「いらない」といったなら,仏領インドシナはヴィシー・フランスの支配下にあるはずだ。
答えは一つ! 「フランスはまだ元気!」
おかしいだろそれ。
おそるおそる欧州の地図を見てみると,やはりフランスは元気だ。元気どころか,ドイツが敗走しはじめていて,低地諸国のあたりが回復されつつある。何が起こった,この世界。さすがにこんなの初めて見たぞ。
しかしながら,もう世界の動向は変えられない。明らかにドイツの人的資源は切れていて,ヨーロッパ本土では英仏連合軍(アメリカ抜き)による反攻が始まっている。いまさら日本軍を派遣したところで,無駄死には確定だ。それくらい,戦局は決まってしまっている。
かくして日本は,重大な岐路に立たされた。ドイツ崩壊後,日本は枢軸の盟主となる。幸いにして日本は目前の戦争にすでに勝利していて,英仏は「もうすぐ勝つ」という状況だから,たぶんインドあたりまでは日本軍の支配地になるだろう。うまくいけば,アラビア半島もいけそうだ。でも,その先は?
もっと危険な可能性もある。それはこの局面で,弱ったドイツに,ソビエトが宣戦するケースだ。そうなったら,日本もまとめておしまいだ。
ぐぬぬ,ここまでの複雑怪奇は求めてなかったぞ! と,声にならない叫びをあげつつ,これまでひたすらに棚上げし続けてきた問題に対し,軍部ができることを考える――つまり,日本は,どこにむかって進むべきなのか?
……というあたりで,後編にご期待ください。シビリアン・コントロールは死守しますからね!
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ハーツ オブ アイアンIII【完全日本語版】
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