連載
ハーツ オブ アイアンIII 連載 / 第2回:無敵国家「アメリカ」でHoI3を探る(後編)
この連載は,第二次世界大戦およびその前後の歴史に関わった,いかなる国や民族,集団,個人をおとしめる意図も持っていません。ときに過激な表現が出てくることもありますが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものですので,あらかじめご了承ください。
物量と質にものを言わせてサルディニア島を陥落させたアメリカ軍は,ここで最初の問題にぶつかる。補給線が薄すぎるのだ。島に上陸させた部隊数を安定して養えるだけの補給物資を捌くには,そのための司令部も足りなければ,補給のための輸送船団のラインも少ない。本来なら軍港を拡張して補給を安定させたいところではあるが,現状ではかなり厳しい。
一方,シチリア島にほとんど敵影はなく,パレルモの軍港を守るイタリア海兵隊がわずかに見えるのみ。補給の問題はあるが,この機会を逃す手はないだろう,ということで間髪入れずにシチリア島上陸作戦を遂行する。作戦はあっけなく成功し,シチリア西部は米軍の支配下に落ちた。
このあたりで,さすがにイタリア軍も集結し始める。シチリア島の中央付近で(主に補給的な意味で)いったん戦線は膠着し,アメリカ軍は次の作戦立案に迫られた。平押ししても負ける気はしないのだが,講じられる策は講じたいし,なによりHoI3のさまざまな機動の可能性を探るという意味合いもある。
立案されたのは,重戦車と装甲を基幹とした部隊を主力とし,先払いとして海兵隊を数個師団組み合わせて作った決死隊に,シチリア島とイタリア半島をつなぐ地峡を強襲上陸攻撃させるというプランだ。これに成功すれば,シチリア島に通じるイタリア軍の補給線はカットされ,シチリア島の支配権はたやすく米軍のものとなる。
ウェーデマイヤーを現地指揮官とした強襲上陸作戦は見事に成功,イタリア軍主力は補給線を断ち切られた。上陸部隊はその場で防御に専念し,彼らが補給物資を使い切る前にシチリア全島は米軍の手に落ちた。
シチリアを基地として固めたアメリカ軍には,史実どおり戦線を北上させていくというプランもあったが,イタリア半島の南端部分は地形が狭く,数的メリットを活かしにくい。そこで南端での膠着はそのまま放置し,次なる上陸作戦を立案することにした。南端に集結しつつあるイタリア軍に対し,半島の中央部分でまたも補給線を切るように突破を果たせば,大きなポケット(包囲網)を作れるのではないかという考えだ。
となると問題は上陸地点の選定だが,今度は長期戦が見込まれるため,軍港が近所にあるところが望ましい。そうなると場所は限られる……のだが,よく見ると,とても素敵な目標地点があるじゃありませんか。ローマって名前の。
パレルモに集結した米軍は,そこで空母機動部隊を護衛とした輸送艦隊(日本は攻めて来ない/来られないと確信して全艦隊が地中海に回っている)に乗船,一路ローマを目指した。ローマ周辺には目立った敵影もなく,永遠の首都はたった1個師団によって守られるのみ。戦闘は迅速に終了し,ローマは1日にして陥落した。上陸部隊の兵士達は,降って湧いたような補給物資にウハウハである。てかこれって略奪っていわないですか?
不謹慎なことを思いつつも,いやいやきっと軍需物資だけを徴発したんだよ,とか適当なことを想定し,戦線の拡大を開始する。まずは南部,ナポリの軍港を目標として前進。軍港の数は多いに越したことはない。
さすがに猛スピードでイタリア軍が集結してくるが,ローマを足がかりに数で押す米軍の敵ではなく,イタリアの南北分断作戦は成功。南部に取り残されたイタリア軍は各個撃破されていった。
ここで再び戦線は膠着するが,こうなってしまえば事実上イタリアにとっての戦争は終わっている。米軍はローマを起点として北部イタリアに強襲上陸作戦を決行,辛うじて戦線を構築していたイタリア軍は,巨大な包囲網に飲み込まれるようにして消滅した。あとは抵抗とも言えない抵抗をぷちぷちと潰し続けるうち,イタリアは全面降伏。実にあっさりとしたものである。
……ところで,イタリアの盟友であるドイツ軍の影も形も見てないんですけど,ヒトラー伍長閣下のご判断は「そういうこと」なんですかね,これは。
それはさておき,イタリアが連合国化したいま,急務となるのはオーストリア国境の維持,あわよくばオーストリア国境からドイツ領域への浸透だ。幸いドイツはソビエトと戦争しているので,うまくアルプスを越えれば,あとはベルリンまで機甲師団の特急が突っ走って戦争は終わる。場合によっては北からの上陸作戦を連動させてもいいだろう。
そんなことを考えながら軍を北上させていくと,驚愕のニュースが飛び込んだ。
「スイスが連合国に参加,ドイツに宣戦布告しました」
……ええと?
スイス軍は山を駆け降り,ドイツ国内へと侵攻を開始する。初めはアハハとか笑いながら,その様子を見ていたのだが,いかにスイス軍が勇敢といえども寡兵に過ぎず,独軍の灰色の軍服の海に飲み込まれていく。
いや,これヤバイですよ。というかスイスの宣戦にあわせてアルプスを一緒に越えるべきだった? でもそれって時間的に間に合わないよね? 山岳歩兵は用意してあるけど,そんな大量にはいないし。空挺が大量に後詰めでスタンバってましたとか言わなきゃ間に合いませんよ,これ。
大急ぎで,オーストリア国境付近に展開していた米軍を延翼,スイス南部国境に全速で前進させる。目標は南部山岳地帯の要塞線で,ここを死守すれば年単位で戦線を膠着させることも容易だ。だが遅れれば――そのときは北イタリアの平野部でドイツ軍の精鋭と戦う(友軍はイタリア軍)という,大変に楽しい展開が待っている。それはそれで望むところでもあるのだが,さすがに予定に比べて初期の戦線正面が長すぎる。
時間との競争に米軍は辛うじて勝利(ほぼ全軍を自動車化していたのが大きい),ドイツ軍はアルプスを越えられなかった。残念だが伍長,あなたをハンニバルやナポレオンと同格に上げるわけにはいかんのだよ。
しかしこれによって,本来であれば精鋭山岳歩兵師団を中心として,オーストリア方面からドイツ南部を攻略するという当初の目論見は,完全に崩壊してしまった。それをするには,現状維持している戦線はあまりに長く,後詰めをまるで持たない状態だ。しかもこれ以上の兵力をこの戦線に投入しても,補給量の問題から攻勢に出るのは難しい。
ならば,このままソビエトが巻き返すまで膠着させて,しかるべきタイミングで反撃を開始? それはそれでアリだが,ソビエトの巻き返しがいつになるかは分からない。下手をするとこのままゲーム終了までにらみ合い,そしてVP差で枢軸の勝ちとかいう結果になりかねない。勝ち負けはどうでもいいとはいえ,気分が悪いことおびただしい。
よかろう。では,第三の戦線を作ろうじゃないか。史実でも連合軍は,ノルマンディ側とイタリア側で二つの戦線を作ったのだし。
さて,ではどこを上陸地点として選ぶのか。何のひねりもなく考えれば,グレートブリテン島を策源地としてフランス北部に上陸ということになるだろうし,戦線正面をある程度まで限定するという観点からも,それはたぶん正しい。ヴィシー・フランスが中立国として健在であるため,連合軍はフランスの半分でのみ戦えばいいのだから。
一方,このプランには問題がある。史実では,ベルリン到着の栄誉を赤軍に奪われたではないか,という問題だ。加えるにドイツはノルマンディ正面付近に結構分厚い防御を引いており,上陸の段階でかなり苦労することも明白だ。
じゃあいったいどこを狙うという問題になるが,ここでヨーロッパの地図をよく見てみると,なぜかフィンランドとスウェーデンが連合国入りしている。フィンランドというのも驚愕だが,スウェーデンまでもが連合国とは,中立政策を放棄するのがこの世界の流行なのだろうか(ちなみにアイルランドは連合国で,スペインは枢軸国)。
武装中立をあきらめた経緯についての詮索はしないとして,スウェーデンは米軍にとって魅力的な策源地となる。なにしろ軍港のあるロストクに上陸できれば,ベルリンまでは3プロヴィンス。文字どおり目と鼻の先である。ロストクには空港も存在するので,爆撃機を使ってベルリンを攻撃することも容易だ(スウェーデンの空軍基地からでも余裕でベルリン急行が届いたりするのだが,そこはそれ)。
というわけで,イタリアで戦訓を積んだ部隊を中心とした米軍がスウェーデンに集結,かわりにアルプス戦線には新兵を補充する。攻勢主軸となる機甲師団の先陣を切るのは,またしてもウェーデマイヤーである。なんというかご苦労様です。てかパットンさんとかは,どこいったんでしょうかね。
すごく関係のない話だが,将軍つながりで指摘しておくと,閣僚としてのマッカーサーの能力は「精神主義」で,指揮統制の回復速度を向上させる効果がある。「撃つ弾がなくとも,食う飯がなくとも,戦うのが合衆国の兵士である」とか訓示してるんだろうか。意外と似合うところが怖い。
人事はともかく,上陸軍は無事にロストクの隣接プロヴィンスに揚陸,ロストクを守っていたドイツ海兵隊を一瞬で粉砕すると,ロストク篭城に成功した。これで補給の問題は発生しない。あとはアメリカの全生産力をロストクにつぎ込み,山よりも高いハイ・スタックを積み上げるのみ。
案の定,ロストク周辺には住民より多いんじゃないかと思うくらいの軍隊が集まってきた。ロストクにいる米軍人口を合わせると,だいぶ天文学的な数になっているが気にしないことにする。
ここから先は,重戦車や機械化歩兵を中心とした打撃軍を一番弱い敵軍スタックに突っ込ませ,ひたすらドイツの人口を削る勝負が始まる。戦術爆撃機は雲霞のようにロストク周辺を飛び回り,移動するドイツ軍に片端から猛爆撃を加えているので,ドイツの兵役人口は急速に減少しているはずだ。そして,やがてドイツ軍スタックの充足率が回復しなくなったら――そのときこそ,第三帝国は真に崩壊する。
……と,思っていた頃もあったんですがね。
戦術爆撃機は常時いい仕事をしているし,ときには米軍の攻撃でドイツ軍のスタックが崩れて,そこに猛爆撃という勝ちパターンも発生するのだけれど,いっこうにドイツ軍の壁が崩れる気配がない。戦線正面に「チェコスロバキア軍」とかいう名前の軍隊がちらついているので,ドイツ軍の台所事情は相当苦しいのだろうと推測はできるけれど,それにしたって頑強にもほどがある。ソ連軍,いったいなにやってんだ。
可能性として考えられるのは,独ソ戦が機動戦を機軸とした消耗戦に発展しているのではなく,互いに縦深陣地を作りあう膠着戦として停滞し続けているというパターンだ。この仮説が正しいなら,ドイツは想像以上の人的資源を抱えていることになる。しかも必要に応じて東部戦線からロストク正面に部隊を持ってくるだろうから,「いつまでたってもキリがない」のも実に自然な流れだ。
仮説の真偽はともかく,このとき,とても現実的なところでアメリカは危機に瀕していた。驚くべきことに,アメリカの人的資源が尽きかけているのだ。いやはや,さすがにこんな光景は初めて見た。まさかここまでの消耗戦に引きずり込まれるとは……。正直,ここまできたら,あとはベルリンに空挺強襲で主力を釣ってから突破包囲殲滅ゲームセット,の予定だったのに。
とはいえ,ここまできた以上,作戦を継続するほかない。理論上は軍を再編してノルマンディー付近に再上陸,戦線正面を一方に限定するとかいった手段が考えられるが,敵に休息する時間を与えれば,それだけこちらが不利になるし,撤退戦で多大な犠牲を強いられるのは確定だ。それをコストとして許容できるだけの体力は,今のアメリカにはない。
こうなったら本腰を入れるしかないということで,最後の大型増援として,超重戦車を主軸とした打撃部隊を編成。なんともバカバカしい「陸の大艦巨砲主義」だが,超重戦車や重戦車の防御力は,人的資源を湯水のように消費できない現状にあっては,たいそう頼もしい。
到着した最新の機甲師団を槍の穂先(というか巨大な棍棒)として,あちこちで定数割れをしているドイツ軍スタックに攻撃を再開する。戦闘に勝利したときのキルレシオは,当方1に対して敵軍が2〜3。このペースで兵力をすりつぶしていけば,先に倒れるのはドイツだ。ドイツのはずだ。
そしてついに,その日は来た。東部戦線が南方で決壊,限界を悟ったロストク正面のドイツ軍が,東部戦線へと移転を始める。凄惨な消耗戦は,ドイツの人的資源を根こそぎにし,その戦闘能力に支障をきたすレベルのダメージにまで達したのだ。さすがにベルリン正面には分厚い防御が敷かれるが,ロストクへの圧力は一気に減少した。
このチャンスを逃しては,もう後はない。米軍は機甲師団を先頭とし,自動車化・機械化師団がそれに続いて戦線を拡大する。勝利はもう目と鼻の先だ。
だが,ドイツはあきらめなかった。
東部戦線における戦線の後退は,自動的に,アルプス戦線と東部戦線の距離を縮める効果を持つ。かくしてアルプス戦線の数的バランスは微妙なものになっていく。イタリア方面への突破を許したところで戦争の帰趨は変わらないが,その場合,下手をすると(というか,かなりの高確率で)イタリアを赤軍が席巻することになる。それは避けたい。
そんなことを考えていると,突然のお知らせが。
「カナダは遠征軍を撤収させます」
いやいや。いやいやいやいや。ちょっと待ってよ。いまあんたらに帰られたら,アルプス戦線はヤバイんですって。もう戦争は終わったと思ったかもしれないけどさ! BGMも戦勝モードになってるし! もしかしたら国内がアレなのかもしれないけど! それはうちも一緒だし!
……ったく,これだから多国籍軍ってのはよぅ。
こちらの嘆きを意に介さず,悠々とご自宅にお帰りあそばすカナダ軍の皆様。これによってアルプス戦線西端と中央での戦力バランスが崩壊し,ドイツ軍とスイス軍の山岳歩兵師団が群れをなして襲いかかってきた。要塞線での防衛に務めるも,数の差はいかんともしがたく,戦闘は劣勢のまま推移する。これはまずい。一刻も早くベルリンを陥落させ,この戦争を終わらせる必要がある。
そう,一刻も早く。いかなる犠牲を払ってでも。
共産勢力に,これ以上占領地を拡大されるのは困るので,戦争を一気に終わらせることに。最後の抵抗勢力に対して“最後の手段”を講じる
続いて最新鋭の機甲師団を先頭とした米軍がベルリンに突撃。突入の指揮をとるのはガイガーさん。いやほんと,偶然ですからこれ
かくして1948年4月10日,特命を帯びた戦術爆撃機部隊がストックホルムを飛び立った。彼らはベルリン上空に到達すると,朝もや未だ晴れぬ帝都に「秘密兵器」を投下する。これからの戦争の方向性を決める兵器,すなわち核爆弾である。
ベルリン死守のため集結していたドイツ軍の大集団と,大量のベルリン市民は,一瞬にして壊滅した。ベルリン正面にいた米軍主力は死の灰が振るベルリンに突入,ドイツ軍残存兵力を一蹴すると,ベルリンの国会議事堂(それがまだある程度形を残していたと仮定して)に星条旗をたなびかせる。この爆撃と,それに続く掃討作戦が,どれくらい多くのドイツ人とアメリカ人の将来に影を落とすのか,ちょっと想像したくない光景ではある。
ともあれ,長く不毛な戦争は,それに勝る不毛な方法で決着した。
原爆投下とベルリン占領から間もなくして,ドイツは連合軍に降伏。第二次世界大戦は終結した。世界中を見渡して,まだ戦争をしているのは,日本と中国軍閥だけである。アメリカとしては,そのどちらに介入する必要もないし,実のところそれだけの体力が残っているとは言い難い。そもそも連合軍の盟主はイギリスなので,いまだ交戦状態にない日米がアメリカ主導で戦争を始める可能性は,ほぼ皆無である。
この後,ドイツは東西に分割統治され,フランスは北部フランス(連合軍占領地域)とヴィシーフランスに分割された状態で終戦を迎える。なんだかフランスが再起不能に見えるが,長い時間をかければきっと何とかなるだろう。ならないかもしれないけど。
さて。
今回は基本的に,「HoI2的な手法をメインとしてHoI3で無理矢理戦ってみた」というニュアンスが強い。とくに司令部まわりはもっとちゃんと活用しないと,ご覧いただいたとおりの大損害を被ることになる(今回の場合,司令部関係をちゃんとしていても,こうなった可能性は高いが)。
一方で,これだけの無茶をやっても,アメリカならばなんとかなる。なんとかなるので,今回は何が悪かったか,どこを改善できるかも見えやすい。また,一部はAI委任しているとはいえ,軍事関係のほぼすべてをマニュアルで操作しているので,ゲームシステムの理解も進む。
HoI3日本語版にはマニュアルのほかに「戦略ガイド」という本がついてくるが,この戦略ガイドは,こうやって一度でもゲームの各種ギミックを使った後で読むと,理解の進み方がまるで違う(ゲーム内の「研究」が,実践を必要とするのに酷似している)。ゲーム中,どうしてもうまくいかなかった部分を探して読みなおすことで,ほぼ確実に新しい発見があるだろうし,そうなるとまた遊びたくもなってくるものだ。
とりあえず,HoI3を最初にプレイするときは,まずはアメリカから。最高のチュートリアル国家として,確実にお勧めできるコースである。
次回は,もう一つの分かりやすい国家,ソビエトからお届けしたい。要はドイツ軍に陸上で勝てる軍隊を作れれば勝ち,作れなければ負け。さて,ソビエトの明日はどっちだ。
|
- 関連タイトル:
ハーツ オブ アイアンIII【完全日本語版】
- この記事のURL:
キーワード
(C)2009 Paradox Interactive. "Hearts of Iron III" is a registered trademark of Paradox Interactive. All rights reserved.