インタビュー
ファイブスターオンラインに聞く,なんとなくとてつもないかもしれない日本展開
発表会後,中国9youの開発したゲームを日本向けにアレンジして展開していくという同社の戦略などについて,代表取締役CEO王子傑氏と取締役COO富永一喜氏に話を聞いてみた。
なぜいま日本サービスを?
4Gamer:
王子氏:
ナインユー・ジャパンを設立した当初は,投資家のための拠点として活動していたのですが,ここにきて中国での開発体制も整って,タイトルもどんどん出てくるようになりました。せっかくですから,社名も変えて開発拠点としてやっていこうということで,増資を行い,ファイブスターオンライン・エンターテイメントとして再出発することにしました。
4Gamer:
社名を新しくしたのはどうしてでしょうか。
王子氏:
一つには独立性を示すものですね。
4Gamer:
すると,将来的には9you以外のタイトルを運営することもありうるのでしょうか。
王子氏:
はい。そういう考えもあります。ただ,現在のところは9youのタイトルだけで手一杯ですので,少し先の話になると思います。
資本関係についても,現在は9youが100%出資していますが,将来的にはサードパーティの投資を受け入れる予定です。資本を開放して,将来,ファイブスターオンラインだけで一人歩きできるようになるほうが,ユーザーにもメリットが大きくなると考えています。
4Gamer:
なるほど。新規参入するうえで,日本のオンラインゲーム市場というのをどのように見ていますか?
王子氏:
まず,ユーザーマナーが非常にいい,それと一人当たりの単価が高いという印象がありますね。マーケットとしてはゲーム業界全体の中でニッチマーケットのような扱いですが,競争は中国ほどには激しくないという実感もあります。
日本国内で行う再デザインなどのローカライズ体制
中国で制作して,日本でローカライズということですが,日本での作業はデザイン変更が主なのでしょうか。
王子氏:
そうですね。現在は主にデザインです。プログラムについては,むしろ中国のほうが得意ではないかと思いますし,人件費の安い中国でまとめて開発したほうがボリューム効果もありますので,プログラムは中国で開発しています。しかし,ビジュアルの効果などについては,日本でデザインというよりは再開発ですね。再開発を行って,日本市場でも通用するようなクオリティにしていきます。このプロセスは,今後扱うすべてのタイトルで必ずやっていきます。
4Gamer:
現在日本のスタッフは何名くらいなのでしょうか。
王子氏:
現在は20名ほどですが,今後タイトルの拡大次第で順次増員の予定です。日本の社員以外にも,上海から出張してきている者も何人かいますし,日本で手がかかる部分は,中国に回すなどの対応ができますので
4Gamer:
そのうちデザイナはだいたいどれくらいなんでしょうか。
富永氏:
だいたい3分の1ですね。
4Gamer:
日本と中国とのやり取りはどうなっているのでしょうか。
富永氏:
王子氏:
中国のほうでも技術者を中心に待機しています。幸い,日本と中国は近いですので,なにかあったらすぐに飛んでくる体制を取っています。
4Gamer:
モンスターヴェルト・オンラインのトライアルテストは,初日にかなり重くてどうなることかと思ったんですが,翌日にはパッチが当たってかなり軽くなっていましたよね。
富永氏:
そうですね。初日は,かなり重いゾーンもあったのですが,開発のほうで,だいたいどのあたりの問題なのかあたりがついたようで,すぐに対応してくれました。
4Gamer:
毎日パッチが当たっていたということですが。
富永氏:
不具合の改善などもありましたが,テストですので経験値の倍率を上げたり,いろいろな実験をしていたというのもありますね。ある程度レベルがないと楽しめない要素もありますので,アイテムをプレゼントしたりレベルを上がりやすくしたりと,いろいろやっていて,結果として毎日のようにパッチが当たっていました。
モンスターヴェルトのCBT秘話
モンスターヴェルトは,ほかのオンラインゲームとはかなり違ったゲームになっていると思うのですが,テスターの反応はいかがだったでしょうか。
富永氏:
非常に,というか予想以上によかったですね。
4Gamer:
アンケートなども設置されていましたが,どういう点が評価されていましたか?
富永氏:
逆に,不満のあった点としては,先ほども挙がっていた重いとか,一部のグラフィックスがきちんと出ないとかいった点です。それらについては,現在対応中です。
4Gamer:
しかし,1日6時間で5日間しか公開されていなかったのに,カフェとかを試している人がいるというのはちょっと驚きなのですが。
富永氏:
30時間テストを行いまして,いちばん長くプレイしていた人は29時間59分何秒と,ほとんど30時間丸々遊んでいた人も何人かいるんですよ。
4Gamer:
普通,農園とかはやり方が分かんないと思うんですけどね(笑)。戦闘などはチュートリアルで分かるんですけど。
富永氏:
そのあたりの情報の出し方は不親切な面もありましたので,オープンβテストで改善していく予定です。
4Gamer:
富永氏:
モンスターとNPCのデザインについては,ほぼすべてです。あとはカードのデザインや一般的なUIなどのローカライズも行っています。
王子氏:
デザイン変更にはかなり時間がかかりましたね。
4Gamer:
日本側でデザインを仕切っておられる園田さんというのは,どういう人なんでしょうか。
富永氏:
日本で一番有名なRPGのシリーズに関わっていた人ですね。
4Gamer:
具体的にいうとマズいんですか?
富永氏:
どうでしょう? FF Xのコンセプトアートを書いてましたね。
4Gamer:
モンスターデザインなども園田さんがやっているんですか。
富永氏:
いえ,そのあたりが得意なデザイナーさんを,同じ会社から呼んできています。
4Gamer:
なかなか豪華ですね。
今後も続々登場する新タイトルはハイエンド指向
新タイトルの話については,まだあまり聞かないほうがいいんでしょうか(笑)。
王子氏:
はい。まだ中国で正式発表されてないものもありますので。
4Gamer:
発表会の案内では新作7タイトル発表ということだったのですが。いくつか取りやめになったのでしょうか。
富永氏:
紹介した5本は,実は6本分なんです。ムービーで最初にあったタイトルは,2本分の内容があって,バーチャルワールド型の次世代コミュニティとダンスゲームが組み合わさって1本になりました。
4Gamer:
バーチャルワールド,バスケットボール,武侠系MMORPGと横スクロールアクションRPGですか。
実は,ドライブゲームではなくて,あれもMMORPGなんです。
王子氏:
近未来を舞台にしたMMORPGですね。今回は,発表が急に決まったので,会場で発表したムービーは古いバージョンの映像になってしまっています。分かりにくい部分もあったかもしれません。現在は,もう少しゲームはできあがっていますので,新しいバージョンでの映像をお見せしたかったのですが,間に合いませんでした。
武侠系のものは,かなり絵も綺麗で,屋根の上を走ったり,空を飛んだりと自由度が高そうでしたね。
王子氏:
あれは香港のマンガをベースとしたものになっています。
4Gamer:
ラインナップを見ると,かなりいろんなジャンルにわたった展開をしていくということでしょうか。
そうですね。今後もいろんなジャンルを予定しています。
なお,今回紹介した5本は,中国でのサービススケジュールに入っているものです。来年はもっと多くなります。ただ,日本での展開については,日本のサービスチームのほうで取捨選択して決めることになると思います。
日本での第2弾となるのは,ムービーで最後に紹介していた横スクロールのアクションRPGになる予定です。バスケットボールと次世代コミュニティも順次投入されるでしょう。
4Gamer:
新作5タイトルは,日本では年内のサービスだと思っておいてよいのでしょうか。
富永氏:
年内,もしくは来年前半くらいにかけてのサービス提供になります。
王子氏:
中国では年内にすべてサービス開始の予定です。中国ではこういった自社開発以外にも多くのタイトルを扱いますが,日本では自社タイトルの中から自由に選んでサービスする感じになります。可能な限り多くのタイトルを扱いたいと思っています。
4Gamer:
そうなるとデザイン変更もかなりの手間になるのではないですか。
そうでもありません。モンスターヴェルトについては,元がかなりクセのあるデザインでしたので手間がかかりましたが,最後に紹介していた横スクロールゲームなどは,ほとんどそのままでも日本でサービスできるレベルです。タイトルによってバラつきはありますが,そんなに手間のかかるものばかりではありません。
4Gamer:
王子氏:
いずれもハイクラスのエンジンを使っていますから。ゲームによってUnreal Engine 3とGamebryoを使い分けています。
4Gamer:
Unreal Engine 3を使っているのは3DのMMO系のものですか? 武侠系のMMORPGと近未来のMMORPGとか。
富永氏:
そうですね。その二つがUnreal Engine 3を使ったものです。ほかはGamebryoです。
4Gamer:
モンスターヴェルトは,Gamebryoでしたね。インストールフォルダにLuaスクリプトがそのまま見えていたりしたので,最近はこんなになってるのかと感慨深く思いました。
しかし,Unreal Engine 3では少し重くないですか? 最新ハードではUnreal Engine 3も軽量エンジン扱いになっていますが,日本のPC環境は,一部のコアゲーマーを除くとかなり低レベルだったりしますので。
王子氏:
中国と比べるとそうでもないと思いますよ。
Unreal Engine 3で作ったゲームでもGeForce 7000番台で十分に動きますし,サービス開始は今年ですが,盛商期は来年だと考えています。来年にはPCのスペックも上がっていきますので,ハードウェアについてはとくに心配はないでしょう。
4Gamer:
中国では現在15ラインが稼働しているとのことですが,1作品作るのにどれくらい時間がかかっているのでしょうか。
王子氏:
ちょうど今年から,3年間我慢して開発を続けていたものが上がってきているところです。来年にかけて,さらに4,5タイトルが上がってきます。
あとは,エンジンの共通化を奨めています。とくにサーバーエンジンですね。また,カーネル技術部という部署では,ゲームの核となる部分の共通化を図っています。今後数年でかなりの部分が共通部品にできるでしょう。技術力も上がってきていますので,こういった効率化によって,今後はもっと短いスパンでゲームを作れるようになると思います。
4Gamer:
すると,今後も今回発表されたペースと同じくらいの勢いで作品が出てくると考えていいわけでしょうか。
王子氏:
そうです。さらに効率が上がっていきますので,もっと増えます。数だけでなく,来年以降についていえば,細かさといいますか,1キャラクターあたりのポリゴン数など,作り込みもどんどん細かくなっていきます。これまで弱かった色の配置であるとか,数学モデルなども改善されます。来年発表のタイトルについては,さらに期待していただけるものになるという自信はありますね。
4Gamer:
勢いで見ると,中国のゲームというのはなかなか凄いものがありますね。
王子氏:
中国のゲームでいちばん特徴的なのは,企画の深さとボリュームですね。一時期は,韓国製のゲームも中国でかなり流行っていました。ただ,韓国のマーケットと中国のマーケットの大きな違いは,ボリュームと企画の深さです。韓国で自国をメインターゲットに企画したゲームと,中国で作られたゲームでは,ボリュームにかなりの違いがありますし,企画の深さでも中国のほうが勝っています。
多くのプレイヤーが求めるものは,最初はグラフィックスであったりストーリーだったりするのですが,最後には企画の深さが問題になります。その部分は,長期的にサービスしていくうえでは重要になってきます。
4Gamer:
韓国のゲームでは,看板にしている機能がまだできていない状態でサービスが始まったり,早く出しすぎる傾向はありますね。
王子氏:
中国のゲームと比べるとそんな感じですね。このところ,韓国産ゲームの輸入は中国で激減しています。
4Gamer:
原因はなんでしょうか。
王子氏:
失敗率がきわめて高いからですね。数百本のゲームが入ってきましたが,我々がやっているダンスゲームなど,ほんの一握りのものしか残りませんでした。
最近発表された数字で見ても,中国で国産ゲームの占める割合は7割にまで上がってきています。韓国のゲームはグラフィックスが綺麗で初期印象がよいのですが,それはゲームに入ってくる人を誘うにはよくても,入ってきた人を留まらせる力はありません。どうやってプレイヤーを留まらせるか,それにはゲーム自体の深みが必要です。
ファイブスターが目指すオンラインゲーム運営の姿
4Gamer:
今後,日本展開で力を入れたい部分はどこでしょうか。
王子氏:
9youは中国でも,とくにユーザーの反応を大事にしてリサーチを心がけています。上海の人民広場近く(編注:超一等地だ)に400平米のユーザーリサーチセンターを設けており,毎日一般のプレイヤーにゲームをしてもらって意見を聞いています。そして,そこで得たものを,いかに迅速に次のバージョンに反映させるかというところに力を注いでいます。
そういう意味で,オンラインゲーム運営は,ほとんどサービス産業であると認識していますね。日本では中国よりかなり人口が少ないですので,一人一人のプレイヤーをより大事にしていかなければなりません。
今回のモンスターヴェルトを含め,いかにユーザーの反応を次のバージョンに反映させていくかというところに力を入れていきます。本気でユーザーについていかないと勝ち残れませんから。
更新の早さや技術的なサポートの早さについては,むしろ中国のほうが進んでいます。ユーザー研究のプロセスさえしっかりしていれば,あとはついてきますので,それ以外の部分ではあまり心配していません。
4Gamer:
中国のゲームをいろいろ目にすることも多いのですが,はっきりいってかなりバラツキが激しいですよね。今回のモンスターヴェルトもテストが始まるまでは,ちょっと心配はあったのですが,やってみると,非常に細かく作り込まれていることに驚きました。
王子氏:
まず,ボリュームの問題ですね。中国では,まずゲームのボリュームが求められます。日本ゲームの3倍くらいのゲームコンテンツを作り込んでおかないとサービスも始められない感じです。
多くのボリュームを揃えておいて,日本のプレイヤーにあうものを選んで提供していくのも面白いのではないかと思っています。
4Gamer:
現在オンラインゲームで中国というと,RMTやBOT問題であまりよい印象を持っていない人も多いのですが,ある意味,そういったものの本場である中国では問題になっていないのでしょうか。対策などはどうしているんでしょうか。
王子氏:
中国のゲーム会社は基本的に政府管理下にありますが,そういったものの対策としては,技術的にしっかりと対応できる力を持つというのがいちばんですね。何重にもセキュリティをかけ,ゲームのバージョンアップごとに最新のものに変えています。
9youでは,セキュリティ部門に40名のスタッフがおり,セキュリティ専門に研究を続けています。なにより,早め早めに封じ込めるサービス対策が重要です。中国で鍛えたものを持ってきていますので,日本でも比較的こういった問題は軽くなると考えています。
4Gamer:
モンスターヴェルトでも,画像認証などが入っていましたね。
富永氏:
あれはBOT対策ですね。それ以外に,アイテムの価格設定であるとか,通貨も種類が多かったり,渡せるアイテムや渡せないアイテムをどのように設定するのかなど,技術的な部分はもちろんですが,そういったものでもRMTなどをやりにくくさせるような構造になっています。
4Gamer:
中国のサービスでは,このような問題は出ていないのでしょうか。
富永氏:
気にはなっているようですね。向こうの運営と話をすると,RMTなどの不正のことはよく分かっていますし,横行すると困るので技術的,戦略的な面から対策を進めているようです。
王子氏:
モンスターヴェルトに関していえば,中国で1年間サービスをして,いろいろな欠陥を修正してありますので,日本では比較的問題は起きにくいかと思います。
4Gamer:
なるほど。では,最後に4Gamer読者に一言ずつお願いします。
富永氏:
王子氏:
一生懸命頑張りますので応援してください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
中国,そして日本,なぜかときどき韓国の話も交えて,それぞれの国柄が分かる興味深いインタビューとなった。
良くも悪くも,日本のプレイヤーは一度始めたゲームを長くやり続ける人が多い。だから,中国では重視されていないらしい「初期印象」は重要だ。グラフィックスやキャラクターには各社とも力を入れている。中国では,放っておいても留まってくれる日本人とは違って,ダメだと思うとすぐにゲームを見捨ててしまうらしく,どうやってプレイヤーを留めるかのほうに血眼になっているという。
ゲーム内容とサービス面ではかなり自信を持っているようなのは,そういった環境で,顧客満足度をいかに上げるかで鎬を削ってきたという背景によるものだ。
PCスペックに関する話も興味深い点がある。
最近,日本では,ノートPCでも動かないと話にならないということで,こぞって軽いゲームを導入しようとしている気配もある。
だが,オンラインゲームビジネスというのが数年スパンで続くものだと考えると,PCスペックは先を見て設定しておくほうがよいかもしれない。そのほうが,タイトルの陳腐化を遅らせて寿命を長くできる。エンジンビジネスの人からはよく聞く話だが,こういう発想になるのは,前述のように初期印象が重視されないことや,中国でのビジネスで余力があるためであろう。右肩上がりを確信できる国の強さというべきか,根本的な発想の違いがある
Unreal Engine 3は,A.V.AやParabellumなどFPS系のオンラインゲームでも使われるようになってきてはいるのだが,MMORPGでは,ときとしてFPSとは比べものにならないくらいのオブジェクト数が現れるため,描画負荷の問題は深刻だ。もともとFPS用のエンジンなのでMMORPGには向いていない面もある。次期アップデートでMMOゲームに対応するということであるが,現時点でMMORPGに使用するとなると,それなりの技術力が必要だ。Unreal Engine 3の使用を表明しているMMORPGで,近々出てきそうなものはTERAくらいではないだろうか。
ゲーム開発ではほとんど実績のない9youが,いきなりそんなゲームを投入してくるあたりが中国の底知れぬところである。
開発についてはまさに「圧倒的」といえるだろう。800人の開発者とはいえ,15ラインで割ると50名程度。いくつかのプロジェクトには100人以上が関わっているという。
そこに日本のデザインチームが加わると,非常に強力な布陣に思える。デザインにはかなりよいスタッフを集めているようだ。第1弾のモンスターヴェルトは,すでに元となったモンスターフォレストよりも,洗練されたゲームとして生まれ変わりつつある。
今後,グラフィックスのデザイン面以外にゲームデザイン分野でも協業したりすれば,日本だけでも中国だけでも作れないゲームが生まれてくる可能性もある。今後の展開にはかなり期待できそうだ。まあ,うかうかしていると,デザイン面でも追い越されかねない勢いがあるのが,中国という国の恐ろしいところなのだが。
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