業界動向
[Gamefest 08#05]カプコンの考えるゲーム開発,そして世界戦略。日本のゲーム会社のあるべき姿とは?
さて,セッションの題目こそ「カプコンにおける海外戦略と次世代機への取り組み」というものだったが,今回の話はそれだけに留まらない,非常に興味深い内容であった。海外マーケットの重要性が拡大していくゲーム業界において,日本のゲーム会社が取るべき戦略,あるいは目指すべき目標とは,いったい何になるのだろうか?
また具体的な話に入る前に,まずゲーム市場の現状について簡単な分析を披露した。曰く,「日本の市場だけ見ると,携帯ゲーム機のシェアが圧倒的。携帯ゲーム機こそメインプラットフォームである! ……と言いたくなるところですが,海外の状況をよくよく見てみると,プレイステーション2のシェアがいまだに根強いこと,ソフトウェアの売り上げでは,携帯ゲーム機のシェアがさほどでもないことなど,状況がまるで違います」としたうえで,「日本市場の延長で海外マーケットを捉えると,読み違える危険性があります」と解説。
またソフトウェアの売り上げに関しても,各プラットフォームの総売上だけではなく,一本当たりの売上,さらにはファーストパーティのタイトルを抜いた売上など,サードパーティという立場から見たゲーム市場の現分析を披露した。
竹内氏は,総売り上げで見ると圧倒的なニンテンドーDSだが,ファーストパーティを除いた一本当たりの売上という視点で見ると,実はさほどでもないことなどを指摘し,安易なプラットフォーム選択には疑問を提起した。
また,よく言われる新世代機における開発費の高騰などに関しても,「実は3DCGが出始めた頃などと比較すると,開発機材などは格段に安くなっている」などとしながら,「じゃあどこがネックかというと,人件費の問題。欧米に習った無闇に高い給与体系などが一因ではないか」と,よく言われる“ゲーム業界の常識”に疑問を投げかける。
氏は続けて,「お金で引っ張れる人材だけでは,会社の礎となるような人材にはなりにくい」「共に戦ってきた仲間という意識が持てることが大事」など,組織論,人材論などにも話を展開した。「資金や販売戦略など,以前は経営サイドに任せきりだったことを,出来る限り開発者達でも考えていくようにスタンスを変えた」「これからのゲーム開発において,分業化は避けられないが,分業であっても仕事に誇りが持てるように」などなど,この辺りの考えというか思想は,ゲーム産業うんぬんというよりは,何か日本のエレクトロニクス産業,自動車産業など世間一般の企業で聞く話にも通じるものがある。
まぁ,近年のゲーム開発費高騰の原因を言うなら,たとえば同じ車一台であっても,それをより写実的に作り上げるために膨大なモデリングデータを要するように,機材云々よりも,やはり作る物量そのものが増加したり,掛かる手間暇が段違いになったりとか,素人目にはそういう辺りも問題なのではないか? と思ったりもするだが,竹内氏の言わんとするところは,安易な欧米至上主義(能力給制など)だとか,そういったゲーム業界の風潮に対する問題提起であって,給与云々という部分にあえてクローズアップしたのかもしれない。
竹内氏は,欧米式の組織/開発スタイルの良いところを認めつつも,日本にあった形にアレンジして取り入れる必要があると説明。「欧米の表層的な部分だけを真似て,効率化を目指しても駄目。日本人に合った,日本独自のやり方を考えるべき」だとして,安易な“おうべいてき”なやり方を批判した。
暗中模索が続く時期,とくに(当時で言う)次世代機も今ほど普及していないという状況のなか,ロストプラネットが懐疑的な目で見られていたというのは,非常に理解できる話だろう。当時……というか,まぁ今もなのだが,FPSやTPSといったジャンルは,海外メーカーの独壇場であった。そこには「Halo」や「Call of Duty」,「Grand Theft Auto」などといった超が付くほどの大作がひしめいており,日本人が作ったゲームがそんな中に割って入るなど,誰も想像できなかったに違いない。
竹内氏は,「ロストプラネットを作るうえで,まずカプコンとして,アクションゲームでやっていくんだという“選択”,そこへリソースを投入するんだという“集中”,これを行いました。そしてそのうえで,海外のFPS/TPSを徹底的に研究しました」という。
驚きなのは,この研究が文字通り「徹底」しているという点だろう。曰く「6か月間,まったく“開発”をしませんでした」とのこと。要するに,日々HaloやらCall of Dutyを遊びまくり,その長所と短所を徹底的に分析。それを詳細なリストにして共有するなど,研究部分に大きなコストを費やしたのだという。
ゲーム開発については,よく「開発の最後の調整が大事。ここにコストを掛けれるかどうかで,作品のクオリティが変わる」なんて話が聞かれるわけだが,優れた作品の裏には,そういった地味な作業(努力)の積み重ねがある。今回の話も,そんな当たり前の事実を改めて認識させる逸話だといえるかもしれない。……というか,「半年間開発をしない」なんていう無茶を,よく経営サイドが許したものだ。その辺りの懐の深さが,今のカプコンの躍進を支えているのだろうか。
竹内氏は,「研究してみると,確かにFPSなどの分野では欧米が随分と先に進んでおり,真っ向勝負では勝てないと思った」と語りながら,「海外産ゲームの良いところを取り込みつつも,日本人ならでは味付け……ロボットだとかゲームバランスだとかの調整を行っていきました」と解説。ロストプラネットの開発の初期には,“日本のゲームっぽいプロトタイプ”も作ったとかで,海外のゲームを研究しつつも,開発自体は自分たちのスタイルを軸において進めていったことを強調していたのは印象的だ。
最後には,「今はまだ“洋ゲー”と言われ,一部のマニアしか遊ばない印象がある海外ゲームですが,いずれ膨大な開発費を掛けた海外の大作が,日本の市場で普通に遊ばれる日が来ます。そのときに備えて,それらと渡り合える力を付けなければなりません」と警鐘を鳴らし,講演を締めくくった。
さて,いろいろと示唆に富む内容が多かった竹内氏の講演。今回の氏の話は,言うなれば「心構え」「精神論」といった部類の話が少なくなかったわけだが,小手先の技術/方法論などではなく,海外市場へ切り込んでいく,あるいは海外のゲームメーカーと戦っていくうえで,“本当に必要なもの”とは何か? 竹内氏が真に伝えたかったのは,そんな部分だったように思える。
ちょっと話はずれるのだが,ご存じのように,過去の日本のエレクトロニクス産業や自動車産業というのは,その高い開発力によって,「日本製」というある種のブランドを作り出していった経緯がある。その結果,「Made in Japan」は高品質の代名詞となり,「ホンダ」や「ソニー」といった企業は,世界的なブランドへと成長していくわけだが,例えば,海外の市場へ打って出るからといって,日本の自動車産業が海外のやり方を模倣し,海外の自動車のコピーを作っていたら,どうなっていただろうか?
きっと今のようなシェアを獲得することはできなかったのではないだろうか。日本人らしいきめ細やかな製品開発を行い,「日本車」というブランドを構築できたからこそ,今日の「ホンダ」や「マツダ」があるのではないか。
今回の講演を踏まえ,一歩引いた視点でゲーム産業というものを考えてみると,竹内氏の主張は,つまるところゲーム産業における「Made in Japan」というブランドを確立,その価値を高めていこうという1点に尽きる気がしてならない。日本ならではの独自性,ゲーム性,面白さの追求というのは,究極的にはそういう話なのではないだろうか。
近年,海外のゲーム産業が急激に力を付けていくなか,相対的に日本のゲーム産業の存在感が薄れつつある,という話がよく聞かれるが,世界のゲームマーケットを見据えたとき,日本のゲーム産業とはどうあるべきなのか? 今回の竹内氏の講演は,そうした問題を解決するための道程を示した。そんな内容だったように思う。
ストリートファイター,バイオハザード,そしてモンスターハンター……,その折々で,時代を切り開く作品を生み出してきたカプコン。新作「バイオハザード5」の展開と共に,その次なる一手に注目していきたい。
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