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[GDC 2011]発売後1か月で84本しか売れなかった「プリンス・オブ・ペルシャ」。完成への長い道のりと,大ヒットの理由が明らかに
今回のGDCでは,初開催からの25周年を記念して,業界の著名人12名がそれぞれ出世作品の裏話を披露する特別セッション「Classic Games Postmortem」(クラシックゲーム回顧録)が催されている。そして,その開幕を告げるセッションで登壇したのが,誰であろう,Prince of Persiaを生み出したJordan Mechner(ジョーダン・メックナー)氏であった。
そもそも,Mechner氏にとって,ゲーム開発以上に興味を抱いていたのが映画業界で,同じ志望を抱いてハリウッドへ引っ越した友人に感化され,自身も脚本家になることを目標としていたそうだ。大学卒業直後の1985年7月の日記には「2年後には,ゲーム市場なんて消えてなくなっているんじゃないだろうか」と綴っていたらしい。
それでも,KaratekaのパブリッシャーであるBroderbundは氏を放っておかなかった。新作の制作を促されたMechner氏は,1986年9月になってようやく企画作りを始めた。
そのアイデアの源泉となったのは,当時一世を風靡していた映画「インディ・ジョーンズ/失われたアーク」のような,わくわくする冒険譚。また,ほぼ同時期に友人から「アリババのような世界はどうだ?」と薦められていたとのことなので,このときすでにPrince of Persiaの世界観は,かなりできあがっていたようだ。
自分の弟を使ってアクションを録画するところから,あの滑らかなアニメーションを作る作業は始まった |
マジックペンで背景を塗りつぶすなど,なんともアナログな作業が行われたというから面白い |
そこで氏は,クレジットカードで買ったビデオレコーダーを利用し,弟をモデルに,彼が走ったり急停止したりする様子を真横から撮影。これを1コマ1コマずつ静止画に切り出しては部屋の壁に映写して写真を撮り,周囲を黒色ペンで塗り潰し,弟のシルエットを修正液で白くして,1枚ずつコンピュータに取り込んでいったという。
現在のゲーム開発と比較すると,なんともアナログな作業に思えてしまうが,そもそもこの手法は「ロトスクープ」と呼ばれるもので,Disneyが「白雪姫」でも利用した,古典的なアニメーション技法の1つである。Prince of Persiaで主人公が白い服を着ていたのは,「できるだけクッキリと取り込めるよう,背景の黒に対して白を使ったから」という理由だったわけだ。
企画開始から3か月が経った1986年11月には,コンピュータ上で滑らかなアニメーション映像を表示できるようになり,Broderbundとも正式にパブリッシング契約を果たす。ただし,当時はまだKaratekaも売れ続け,ロイヤリティも入っており,生きていくのに十分だったというMechner氏は,Broderbundに就職する気は毛頭なかったとのこと。そこで,映画の脚本家よろしく,完全に独立を保ったままの契約が行われたという。北カリフォルニアにあるBroderbundのオフィスには居座りながらも,月収はもらっていなかったというから,なんともほのぼのとした時代である。
Broderbundに“居を構えて”からは,大ヒットしたピンボールゲーム「Pinball Construction Set」にインスパイアされ,後々の作業を簡単なものにすべく,レベルエディタを開発したりもしたMechner氏。だが,あるとき,「ソビエト連邦から『Tetris』(テトリス)のデモがBroderbundに送られてきたとき,社内で“ハッキング”され,本来なら触れることができないMechner氏の下にもやってくる」という“大事件”が発生。
「数か月間Tetrisで遊び続けた。その間,ほとんど仕事はしてない(笑)」と,氏は回顧していた。
第一志望だった脚本家の道が開けたことで舞い上がったMechner氏は,その翌週にはハリウッドに飛んでいたという。
……ところがその後,映画化に向けた進展はまったくなく,なんと8か月もムダにしてしまい,結局氏は北カリフォルニアに戻る決意をする。「久々にBroderbundのオフィスに出勤したとき,自分のApple IIが埃を被っているのを見たときの切ない気持ちは,生涯忘れられない」(Mechner氏)。
そして,1988年1月,再びPrince of Persiaのプロジェクトが稼動し始めた。
社内の仲間に遊ばせてみせても,「お,すごいアニメーションだ」とか「面白いね」と言ってくれるのだが,数分もするとジョイスティックを置いてどこかへ行ってしまう。そのことに,Mechner氏は焦りを覚えていたのだ。
ちょうどその頃か少し前あたりから,別部門からMechner氏のところへやってきては,「コンバット(戦闘),コンバット,コンバット」と耳打ちをしていく同僚がいた。その名をTony Pierce(トニー・ピアース)氏というが,苛立ったMechner氏は,Pierce氏に「君は分かってないね。これはパズルゲームなんだ。キャラクターアニメーションのためにメモリを食ってるから,2人目のキャラクターアニメーションまでは余裕がない」と何度も説明したのだそうだ。
だが,Pierce氏はまったく懲りず,日課のように「コンバット,コンバット,コンバット」と繰り返しては去っていく。
そう,「シャドウマン」の誕生である。「プレイヤーキャラクターの分身であるがゆえ,攻撃するとプレイヤーキャラクターの体力も減ってしまうので,合体するのが攻略への道」という,エンディングにつながるパズルも完成し,作品に締まりが生まれたのだ。
誰の目にも明らかな著作権侵害であり,現在のゲーム業界では考えられないことなのだが,こういったところは,当時のゲーム業界にあった,あっけらかんとした(あるいは“やんちゃ”な)気風を示すものといえるかもしれない。
こうして,企画からちょうど3年という,当時としては長過ぎる開発期間を経て,Prince of Persiaは,1989年9月にようやくリリースされる。
がしかし! 発売から1か月時点での総売り上げは,たったの84コピーだった。
開発に時間をかけ過ぎたことを反省する時間もなく,翌年にはすぐさまPCやAmigaにも移植されるが,「移植版」ということでゲーマーには見向きもされず,アメリカ国内ではどんなに頑張っても1万本というスケール,大失敗となってしまっていた。
例えば,Apple IIのオリジナル版だと13レベルだったのが,日本で発売されたスーパーファミコン版は20レベルというボリュームになっていたりする。このように,さまざまなプラットフォームへ次々と展開されていき,気が付いてみると合計200万本が売れていた……というわけなのである。
Mechner氏は,「Prince of Persiaを愛してくれたファン,そして僕の知らないところでこのゲームを育てていってくれた各国の開発者達に,本当に感謝する」という言葉で,このセッションを締めくくっていた。
数々の挫折を超えて名作となったPrince of Persiaは,2003年になって「Prince of Persia: The Sand of Time」として再生され,さらに2010年は映画化も行われた。その脚本にはMechner氏が関わり,長年の願望を果たしてもいるのだ。
- 関連タイトル:
Prince of Persia 日本語マニュアル付英語版
- 関連タイトル:
プリンス・オブ・ペルシャ
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プリンス・オブ・ペルシャ
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(C)2008 Ubisoft Entertainment. All Rights Reserved. Based on Prince of Persia(R) created by Jordan Mechner. Ubisoft, Ubi.com, and the Ubisoft logo are trademarks of Ubisoft Entertainment in the U.S. and/or other countries. Prince of Persia is a trademark of Jordan Mechner in the U.S.and/or other countries used under license by Ubisoft Entertainment.
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