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海外ゲーム四天王 / 第3回:「Stalin vs. Martians」
第二次世界大戦まっただなか,怒濤のようなナチスドイツ軍の侵攻を食い止めようと必死に戦うソビエト連邦軍の前に新たな敵が現れた。それは地球のお隣,火星からやって来たエイリアンだ!
ソ連の指導者スターリンは,火星から来たこの新たな侵略者を撃滅すべく,手元にとっておいた精鋭部隊の派遣を決定した。もしこの作戦に失敗すれば,母なるロシアの大地が,ナチスドイツだけでなく火星からやって来た醜悪な異星人にも蹂躙されてしまうだろう。
同志スターリンの期待に応え,ロシアの善良なる国民を守り,そしてわがソビエト連邦の偉大さを太陽系全域に知らしめるためにも,この作戦に失敗は許されないのだ!
大人気連載「海外ゲーム四天王」の第三回は,ライターの朝倉哲也氏がそんな電波系ともいえるバックストーリーを持った新作タイトルを紹介する。本作は,Black Wing Foundation(ウクライナ)とDreamlore(ロシア),そしてN-Game Studios(ウクライナ)という,比較的新しめの三つのデベロッパによる国際共同企画ゲームだ(かなり限定された地域の国際共同企画だが)。北米でのパブリッシングは,硬派な歴史シミュレーションを数多く手がけるParadox Interactiveが担当しており,「東欧/ロシア産」「パラドゲー」「スターリン」といったキーワードにクラッとくるハードゲーマーも多そうだが,どうしても「火星人」の部分で頭に疑問符が浮かんでしまうという,罪作りな一本なのである。
「Stalin vs. Martians」(筆者訳「スターリン対火星人」)は,第二次世界大戦のソ連軍を率いて,襲来してきた火星人と戦うというリアルタイムストラテジーだ。資源の確保や施設の建設,技術ツリーなどの要素はない,いわゆる「戦闘特化型RTS」である。敵を倒すと出現するお金でユニットを購入すると,マップ上の補給地点にすぐユニットが出現。そのユニットも,歩兵が2種類,戦車やカチューシャなどの戦闘車両が6種類のみと非常にシンプルで,大戦モノのビギナーでも安心のお手軽ゲームになっている。
シングルプレイのミッションは全部で12種類。侵攻して来た火星人の先遣部隊を壊滅させたり,シベリアで天然資源を漁っているUFOを破壊したり,火星人のポータルを奪取したりと,割とバラエティに富んでいる。とくに最後の戦場には,多くのプレイヤーが驚くだろう。シングルプレイ専用でマルチプレイがないというのも,いまどき潔くて好感が持てる。
プレイして感じるのは,いうまでもなくその「変なノリ」だ。ゲームを立ち上げると,いきなり「起立して国歌を斉唱せよ」という文字とともに,ソビエト連邦の国家が大音量で流れ出したり,反面,ゲームのBGMはダンサブルなテクノポップだったり。しかもその歌詞は,「ロシア語を話せない奴は死ね」など,物騒このうえない。
敵味方ともに,ユニットの防御力は紙並みで,容赦なく倒し倒されを繰り返すわけだが,ユニットの補充がやたら簡単なので,結局はひたすら敵を倒してお金を拾い,新たなユニットをどんどん補充して前線に送り込んでいけば,たいてい勝てるのだ。ここに,第二次世界大戦のソ連軍の姿を重ねるのは,たぶん考えすぎである。
火星人のユニットは,かなり個性的というかなんというか,例えば歩兵ユニットは全身タイツに着ぐるみの頭を付けたような姿をしており,ほかにも二足歩行の象(インド神話に出てくるガネーシャを思い浮かべてほしい)のようなのや,クッションに手足がついたものや,キノコのお化けみたいなものなど,さすがに火星人だけあって,かなり変わっている。
これらのユニットがどういう名前なのか,あるいはどのような性能を備えているのかといった詳細は不明だ。一般的なRTSなら,ユニットを選択すると,その名称や性能が表示されたりするが,そういった機能は一切ないし,公式サイトにも載っていない。要するに戦いながら体で覚えていくしかないのだが,敵も味方同様にあまり種類がないので,簡単に覚えられるというエコ設計(?)になっている。
各ミッションの難度は,上にも書いたように数で力押ししていけば何とかなる程度だが,ときおり,えらい数の敵が隠れているミッションがあるので油断はできない。とくにゲーム終了直前のミッションでは敵の数がやたら多い割に,出てくるお金が少なくて失ったユニットの補充がままならないという,難度の高いものが突然のように用意されており,いままでスイスイと来たプレイヤーをガツンとへこましてくれるだろう。ここに,優勢を誇ったソ連軍が大損害を被った第三次ハリコフ攻防戦の姿を重ね……まあ,いいか。
さらに,感動(?)のラストミッションには,アッと驚く最終兵器が登場し,そしてこれまたアッと驚くラスボスとの戦いになる。これをバラしてしまっては,本作最大の見せ場を教えてしまうことになるので,ここでは明かさないが,おそらく誰も見たことも聞いたこともないような前代未聞のユニットが登場するとだけ書いておこう。ええ,気をもたせますとも。
とにかく,おばか系かつ,おふざけ全開の個性的なゲームになっているのは間違いない。このあたりを理解(許容?)できるかどうかで,本作に対する評価は「超おもろい」か「ついていけない」の真っ二つに分かれるはずだ。
筆者はこういうノリ(右のカットシーン参照)が大好きなので最初から最後まで楽しめたが,「何が何でもぜひ購入しよう」とは言い切れないゲームではある。Valveのデジタル配信システム「Steam」を使えば日本からでも簡単に購入できるが,2009年5月の時点の価格,19.99ドルは高くはないが安いともいえない微妙なあんばいである。
というわけで,開発元がYouTubeに公開した本作のムービー(スターリンが,ダンスミュージックにのってパラパラのようなダンスを踊る)をまずは見てみよう。このノリについていけそうなら購入しても大丈夫かもしれない。
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