レビュー
ASUSのデュアルRadeon HD 7970 GHz Editionカードは誰のためのものか
R.O.G. ARES2-6GD5
ARES2が搭載しているのは,2013年春時点におけるAMDの最上位GPU,「Radeon HD 7970 GHz Edition」(以下,HD 7970 GE)。AMDは現在,サードパーティによるデュアルRadeon HD 7900カード投入計画に,「New Zealand」(ニュージーランド)という開発コードネームを与えているが(関連記事),ARES2はまさに,このNew Zealand計画に則ったカードということになる。
HD 7970 GEを2基搭載するということで,その性能にはかなりの期待が持てるわけだが,実際のところはどうか。ASUSから入手した実機をチェックしてみることにしよう。
冷却には簡易液冷ユニットを標準採用
補助電源コネクタはついに8ピン×3へ
HD 7970 GEがどういうGPUなのかはレビュー記事を参照してもらうとして,さっそくカードをチェックしていくことにするが,製品ボックスのなかにアタッシュケースが入っており,カードがその中に入っているというのは,ARESと同じだ。
アタッシュケース自体は,ダイヤル式ロック付きという,けっこう本格的なもの。もっとも,そもそもグラフィックスカードをアタッシュケースに入れて持ち運ぶ人などいないはずなので,完全に雰囲気重視と評したほうがいいだろう。
なお,このラジエータには120mm角のファンが標準で1基搭載されているが,PCケース内にスペース的な余裕がある場合などは,付属の120mm角ファンを追加で取り付けることも可能だ。
もう1つ,実運用にあたって注意が必要そうなのは,カード側のサイズだ。まず,長さは実測約298mm(※突起部含まず)で,HD 7970 GEリファレンスカードの同277mmより2cmほど長い。さらに,カードの高さは同140mmあり,そこからマザーボードに差したときケーブルが垂直方向へ伸びるような形でPCI Express補助電源コネクタが並ぶため,PCケース内のスペース確保は重要な課題となる。液冷クーラーの設置場所だけでなく,カード本体の大きさという観点でも,なかなか人(というかPCケース)を選ぶ仕様になっているといえそうだ。
撮影時,HD 7970 GEリファレンスカードが手元になかったので,iPhone 5と比較してみた。大きさはご覧のとおり |
外部出力インタフェースはDual-Link DVI-I×2,DisplayPort×4。標準で6画面Eyefinity出力に対応する |
まず,カードを覆う,3スロット仕様の巨大なクーラーだが,クーラーの蓋を開けてみると,中は広々としている。3スロット仕様のGPUクーラーに見えるものは,巨大なヒートシンクや放熱フィンで構成されているわけではなく,むしろ,「液冷用ポンプユニットのカバー」的な色彩が濃い印象だ。
ホースによってつながった状態でGPUパッケージの上に置かれている液冷用ポンプユニットをごっそりと取り外すと,カード中央に置かれた90mm角相当のファンは,メモリチップや電源部などのヒートシンクに向かって風を送るような仕様になっているのが分かる。送られた風は,PCI Express x16端子脇の窓と,I/Oインタフェース脇の窓から,それぞれクーラーの外へ吐き出される仕掛けだ。吸気に対して排気が弱いような気はしないでもないが,GPUの熱はラジエータに送ってしまうので,この程度でも問題ないということなのだろう。
なおASUSは,簡易液冷と空冷を組み合わせた冷却システムを「Hybrid Liquid Cooler」と呼んでいる。
GPUクーラーの蓋を開けた状態で別の角度から。写真でファンの上部分と,右手前部分が排気孔となる |
GPU用の液冷用ポンプユニットを取り外したところ。メモリチップや電源部はヒートシンクで覆われる |
GPUクーラー部の側板と一体化したヒートシンク,そしてカード裏面で補強板を兼ねるメモリチップ用ヒートシンクを取り外すと,ようやく基板全体を見渡せるようになる。
その基板だが,中央部に集約されたGPU用電源回路のインパクトが大きい。
ASUSはARES2で20フェーズの電源回路を採用するとしているが,確かにGPUあたり8+2フェーズが用意されているようだ。
その電源回路には,ASUS独自の「DIGI+VRM」仕様を採用。リアルタイムに変化する負荷状況に合わせて電力供給量を制御することで,一般的な電源回路と比べ,電流に乗るノイズを30%低減できているという。
定格クロックで既存のカードや
マルチGPU構成と比較
テスト環境のセットアップに入ろう。今回用意したシステムは表2のとおりで,比較対象としてはまず,HD 7970 GEのCrossFire構成(以下,HD 7970 GE(CF))とシングルカードを用意した。HD 7970 GEでは,CrossFireのプライマリとシングルカードのテストには4Gamerで独自に用意したSapphire Technology製カード「VAPOR-X HD7970 GHZ EDITION 3G GDDR5 PCI-E」を用い,CrossFireのセカンダリにはHD 7970 GEのリファレンスカードを使う。
競合製品として用意したのは,表1でその名を挙げたGTX 690,GTX TITAN,GTX 680の3つだ。デュアルGPU仕様のカードとしてGTX 690と比較しつつ,シングルカードとしてGTX TITANやGTX 680にどの程度のスコア差をつけるか見てみようというわけである。
導入したグラフィックスドライバは「Catalyst 13.3 Beta3」と「GeForce 314.22 Driver」で,これらはいずれもテスト開始時点の最新版だ。
ただし,今回はスケジュールの都合から,「Call of Duty 4: Modern Warfare」と「Sid Meier's Civilization V」「F1 2012」のテストは割愛する。また,ARES2のオーバークロック設定は行わず,カードとしての定格クロックでのみ検証を行うので,この点はお断りしておきたい。
なお,「Core i7-3970X Extreme Edition/3.5GHz」(以下,i7-3970X)を用いるにあたって,自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」の効果がテスト時の状況により異なってしまう可能性を排除すべく,同機能をマザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している。
デュアルGPUカードらしい弱点はあるものの
「史上最速カード」と述べて問題ない
では,テスト結果を順に見て行こう。グラフ1は「3DMark 11」(Version 1.0.4)から,「Performance」と「Extreme」,2つのプリセットにおける総合スコアをまとめたものとなる。
ここでARES2のスコアは,対HD 7970 GE(CF)で3〜7%程度,対GTX 690で7〜8%程度高い。また,シングルGPU仕様のグラフィックスカードとして現行最速となるGTX TITANに対しては21〜32%程度も高いスコアを示し,寄せ付けていないのも目を引くところだ。
続いて新世代3DMarkのスコアがグラフ2となる。ARES2のスコアは対HD 7970 GEで101〜105%程度。3DMark 11と比べるとスコア差が縮んではいるが,それでもスペックどおり,HD 7970 GE(CF)をきっちり上回ってきている。HD 7970 GEに対して約43%,GTX TITANに対して11〜17%程度高いスコアを示している点も押さえておきたい。
なお,ここではGTX 690が極端にスコアを落としているが,その理由は不明。GTX TITANのレビュー時にそういう問題は起こっていなかったので,GeForce 314.22 Driver固有の問題という可能性が高そうだ。
ARES2とHD 7970 GE(CF)のスコアが似通ったという点では,テスト結果をグラフ3,4にまとめた「Far Cry 3」も同じだ。気になるのは,「標準設定」「でARES 2がGTX 690比で90〜96%程度のところに沈んでいることだが,逆に「高負荷設定」の2560×1600ドットではメモリ周りの強さを活かして10%のスコア差を付けているので,より高負荷環境下での性能に期待できるのはGTX 690よりもARES 2(やHD 7970 GE(CF))だと言えそうである。
グラフ5,6にスコアを示した「Battlefield 3」(以下,BF3)だと,ARES2が文句なしに最速という結果になった。「低負荷設定」の2560×1600ドットでHD 7970 GE(CF)に約18%,GTX 690に対して約35%という大差を付けたのを筆頭に,総じて景気のいいスコアが並んでいる。ARES2にとって,低負荷設定の2560×1600ドットや高負荷設定の1920×1080ドットは,最も性能を発揮しやすいテスト条件なのかもしれない。
一方,かねてよりCrossFire環境のスコアが上がりにくいタイトルとして知られている「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)だと,やはりARES2のスコアは振るわなかった(グラフ7,8)。「Ultra設定」の2560×1600ドットではシングルカード構成に対して約35%高いスコアを示してはいるので,「極めて高い描画設定であれば意味がある」とは言えるのだが,そのスコアは対GTX 690で約87%でもある。
マルチGPU構成は,ドライバとの相性やゲームタイトルとの相性によってスコアが左右されやすいが,それはARES2でも変わらないというのを再確認することになったわけだ。
消費電力はHD 7970 GE(CF)と同レベル
簡易液冷ユニットの冷却能力は高い
本稿の序盤でも触れたように,ARES2には最大で525Wもの電力を供給できる(※ASUSは,ARES2の最大消費電力を500Wとしている)。当然のことながら消費電力はかなり高くなることが予想されるが,実際のところはどうだろうか。ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用い,システム全体の消費電力を計測,比較してみよう。
ここでは,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果がグラフ9で,アイドル時はARES2だけが突出する結果となった。HD 7970 GEカードによるCrossFire構成の場合,アイドル時のような,GPU負荷が低い局面では,省電力機能「AMD ZeroCore Power Technology」(以下,ZeroCore)が機能し,セカンダリカードへの電源供給がほぼゼロとなり,公称3W以下にまで消費電力が低下するのだが,ARES2は1枚のグラフィックスカードということもあり,「カードの半分だけ電源供給をカットする」わけにはいかないようだ。
一方,各アプリケーション実行時を見てみると,ARES2の消費電力はHD 7970 GE(CF)とほぼ同じ。もっともこのスコアはGTX 690より194〜331Wも大きく,端的に述べて衝撃的な値である。HD 7970 GEはシングルカードでも消費電力がかなり高めなので,それを2基搭載すればさもありなんといったところか。
最後に,3DMark 11の30分間連続実行時を「高負荷時」として,アイドル時ともども,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.6.9)からGPU温度を追った結果がグラフ10となる。テスト時の室温は24℃。システムはPCケースに組み込んでいないので,簡易液冷ユニットのラジエータは,マザーボードの傍らに設置することとなる。ラジエータの冷却にあたって,PCケースの影響は受けないため,PCケースに搭載したときよりもARES2の冷却能力は高く出る可能性が高いことに注意してほしい。
注意といえば,GPUクーラーが異なり,GPU温度センサーの配置や精度も異なるため,横並びの比較には適さない点も押さえておいてほしいと思うが,ARES2における2基のGPU温度は高負荷時にも50℃以下。これはさすが簡易液冷クーラーと述べていいだろう。少なくともバラックで動作させる限り,ファン回転数は高負荷時にも1100rpm強に留まっており,筆者の主観であることを断ったうえで述べるとかなり静かな点もポイントが高い。今回のテストにおいては,むしろIntel純正の空冷CPUクーラー「RTS2011AC」のほうが動作音は大きく感じるレベルだった。
なお,HD 7970 GE(CF)のアイドル時にセカンダリカードのスコアが0になっているのは,先のZeroCoreの効果によるものだ。
今回も明らかなコレクターズアイテム
ただ,シリーズを続ける姿勢は称えたい
ただこれは,悪い意味ではない。同コンセプトで「GeForce GTX 580」を2基搭載した「MARS II/2DIS/3GD5」を試したときにも述べたが,これほどまでにニッチな製品シリーズが途切れることなく出てくること,それ自体には大いに意味がある。開発を続け,しっかりと市場投入してくるASUSに敬意を表したい。
ARES2の製品情報ページ(英語)
- 関連タイトル:
Republic of Gamers
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Radeon HD 7900
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