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日本市場再上陸を狙うFoxconnに聞く,ハイエンドブランド「Quantum Force」
同社の子会社であり,Foxconn(フォクスコン)のブランド名で知られるFoxconn Electronics(以下,Foxconn)は,過去にもPC自作市場にマザーボード製品の投入を試みたが,中国など一部市場でシェアを伸ばしたのみで,欧米や日本市場では成功を収められずに来た。だがFoxconnは2007年末,GIGABYTE UNITEDを率いていたDavid Chang(デビッド・チャン)氏を迎えてチャネル(=一般小売り市場)部門を再整備。優秀な人材を揃え,本格的にPC自作市場向けのラインナップを整えつつある。
今回4Gamerは,そんな同社でチャネル向けマザーボード開発を指揮するAJ Chuang(AJ チュアン)氏に話を聞いた。
ゲーマー&パワーユーザー向けの「Quantum Force」
“Ultra ATX”のハイエンドマザー「F1」とは?
CeBIT 2008でFoxconnは,ゲーマー並びにパワーユーザー向けとなるサブブランド「Quantum Force」に属するハイエンドマザーボード群を展示した。「最高のパフォーマンスを引き出す」として開発された新製品のうち,とくに特徴的なのはフラグシップモデルとなる「F1」のプロトタイプだ。
F1は,「Intel P45 Express」(以下,P45)チップセットを搭載し,Foxconnが「Ultra ATXフォームファクタ」と呼ぶ独自仕様を採用している。Ultra ATXは横幅9.6×14.4インチ(約244×366mm)のサイズを持ち,10本の拡張スロット用スペースを確保したものだ。Chuang氏は「このUltra ATXにより,2スロットを占有するハイエンドグラフィックスカードを4枚搭載可能な余裕を持てる」と,フォームファクター拡張の理由を説明する。
拡張スロットを10本搭載するF1マザーボードをサポートするため,Foxconnが開発した超巨大ケースを採用した“F1システム” |
Ultra ATXと呼ばれる新規格。ちなみに,F1では各スロットにLEDが備え付けられ,データ転送の状況を見て取れる |
F1のノースブリッジとサウスブリッジ,そしてVRM部には,液冷にも対応できる銅製のヒートパイプが走っており,さらにノースブリッジには「TEC」(Thermo-Electric Cooler:サーモ・エレクトリック・クーラー)を装備する。
ヒートパイプだけでなく,チップの冷却にTECを採用したノースブリッジクーラー |
ノースブリッジに搭載されたTECでは,ヒートシンク周辺の温度より10℃低い温度まで冷却できると謳われる |
さらにF1ではFoxconnが「DTSCS」(Dynamic Tracking Silicon Cooling System)と呼ぶ,TECを利用したCPUクーリングも可能になっているという。DTSCSは「CPU負荷による温度変化をリアルタイムに監視し,CPU温度を常に一定レベルに保つもの」(Chuang氏)だ。これにより,F1では圧倒的なオーバークロック性能を実現すると氏は胸を張る。
ただTECにも弱点はある。冷却性能を高めようとすると,多結晶半導体をドライブすることになるため,より多くの電力が必要になる(熱源を移動するときに蒸気が発生してしまうという問題もある)。Foxconnでは最新の多結晶半導体を採用することで消費電力を抑えたとしているが,マザーボード上には4スロット分のPCI Expressスロットへの電力供給も含め,補助電源として電源ユニットをもう一つ搭載できるよう,24ピンコネクタを二つ用意しており,ある程度のペナルティは存在するようだ。
Chuang氏は「F1は,ゲーム用プラットフォームとして最高のパフォーマンスを実現することだけを考えて,Foxconnの威信をかけて開発したモデル」と,部門再整備を経た)同社のPCゲーム市場に対する意気込みを強く見せる。
Quantum Forceシリーズの拡充を図るFoxconn
グラフィックスカードでも攻勢に
ちなみにBlackopsは,CeBIT 2008のFoxconnブースでオーバークロック動作デモにも用いられたが,「Core 2 Extreme QX9750/3.20GHzで5.9GHzの動作クロックを実現する」(Chuang氏)など,圧倒的なオーバークロック性能がアピールされている。
nForce 790a SLIを採用した「Destroyer」 |
nForce 790i Ultra SLIを搭載した「Dreadnought」 |
これらラインナップと,「ゲーマーおよびパワーユーザー」という製品コンセプトを見る限り,ライバルはASUSTeK Computerの「R.O.G」ブランドになるだろう。冒頭で述べたように,2008年3月時点で,Foxconn製品の販売網は国内で整備されていない(※販売されていないわけではない)が,CeBIT 2008の会期中に別途話を聞いたDavid Chang氏は,4Gamerに対して,日本市場再参入に向けた話し合いを進めていることを明らかにしてくれている。あくなき性能追求を求めるハイエンド指向のPCゲーマーにとって,近い将来に選択肢は増えることになりそうだ。
一般論として,新GPUの発表直後しばらくの間,ミドルクラス以上のグラフィックスカードはリファレンスデザインのものがそのまま流通するケースが多く,差別化が難しい。そこでFoxconnでは,自社設計の基板を採用できるようになった時点で,日本メーカー製の固体コンデンサを採用したり,電源周りを改良したりすることで,他社と同じスペックでも,より高いパフォーマンスやオーバークロック性能を発揮できるようにするという。Foxconnは,その圧倒的に速い開発能力にOEM/ODMメーカーの定評があるが,同社でグラフィックスカードビジネスを統括するHun Shen Yue(ハンシェン・ユー)氏は「Foxconnの技術力とスケールメリットを生かし,高性能かつ静音性にも優れた製品群を手頃な価格で提供する準備を進めている」と述べ,グラフィックスカード市場でも攻勢に出る構えだ。
CeBIT 2008会場でも,マザーボードベンダーやグラフィックスカードベンダー関係者は「今年,最も脅威になるのはFoxconnだ」と口を揃える。いよいよ目を覚ました巨人によって本気で繰り出される新製品が,PC自作市場を活性化させるとすれば,それは大いに歓迎すべきだろう。
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