テストレポート
TDP 4Wの超低消費電力CPU「Atom」で,どこまでゲームはプレイできるのか?
Atomというと,ASUSTeK Computerの「Eee PC 901」などで採用されていることから,超小型ノートPC向けというイメージを抱くかもしれない。しかし今回取り上げるのは,Intelのいう「Nettop」(ネットトップ)向け,つまり,インターネットにアクセスして,Webブラウジングやメールのやりとりなどを行うための“デスクトップPC未満”な端末に向けたAtomである。初めから安価なインターネット端末に向けたCPUということもあり,決してゲーム向けではないのだが,小型PC好きの人達や,コストパフォーマンスを追求する人達からの注目度はかなり高いので,4Gamer読者のなかにも,気になっている人はいるかもしれない。
というわけで,いつものハードウェアレビューやテストレポートとはちょっと違った視点で,超低消費電力CPUであるAtomが,どの程度ゲーマー向きかをレポートしてみたい。
Atom 230搭載のIntel製Mini-ITXボード
「D945GCLF」を試す
D945GCLFに搭載されているAtomは「Atom 230/1.60GHz」。45nm High-kプロセスで製造されるAtom 230が持つ最大の特徴は,消費電力の目安となるTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)がわずか4Wということだ。さらに,動作限界温度の目安となるT-Caseも85.2℃と,非常に余裕がある。
誤解を恐れずにいえば,TDPは低いほど消費電力が低く,T-Caseは高いほど,冷却面にあまり気を配らなくてよくなる。デスクトップPC向けのCPU,例えば「Core 2 Duo E7200/2.53GHz」だと,TDP 65W,T-Case 74.1℃。それと比べると,Atom 230の消費電力がいかに低く,そして,いかに静音化しやすい(=冷却ファンのサイズや回転数を落とせる)か,ある程度イメージできるのではなかろうか。
Eee PCなどの「Netbook」用とされるAtom(=Atom N270/1.60GHz)と比べると,省電力機能の「Enhanced Intel SpeedStep Technology」が省かれており,アイドル時に動作クロックが下がったり,コア電圧が低下したりはしない。
このほか主なスペックを見ておくと,L2キャッシュ容量は512KBで,FSBクロック533MHz。シングルコアで,Hyper-Threadingテクノロジーをサポートする。対応するマルチメディア拡張命令セットはSSE,SSE2およびSSE3で,Intel 64もサポートされている。命令セットは最新のものまでサポートしているため,x86用のプログラムを支障なく実行できるものの,実行速度などは保証の限りではない。いろいろと縮小されたCPUなので,そのへんは割り引いて見ておく必要がある。
「CPU-Z」(Version 1.45)でAtom 230のスペックをチェックしたところ |
Atom 230はマルチコアCPUではないが,Hyper-Threadingに対応しているため,見かけ上は2CPUとして振るまう |
続いては,Atom 230を実装するD945GCLFだが,搭載するチップセットは「Intel 945GC Express」。これは(Core 2ファミリーの下位モデルである)Pentium Dual-Core用にもともと用意されていた製品で,統合されるグラフィックス機能は「Intel Graphics Media Accelerator 950」(以下,GMA950)なので,頂点シェーダはCPUによるソフトウェアエミュレーションになるものの,一応はプログラマブルシェーダ2.0(Shader Model 2.0)対応ということになる。
同様に,チップセットレベルではPCI Experss x16スロットなどもサポートされるのだが,同じくサイズ的な要因によってか,拡張スロットはPCI×1のみとなっている。
とまあ,CPUのスペックもマザーボードのスペックも,決して一線級ではないため,これでPCゲームをプレイするというのはかなりハードルが高いことが予想されるが,逆にいえば,このスペックで動作するゲームをプレイする限り,超低消費電力かつ,超小型のPCを作ることができるわけである。電気代が大幅に上がる可能性のある昨今,最適な解決策となるかもしれない。
そこで今回試すことにしたのは,比較的負荷の低そうなゲームタイトルをいくつかである。パフォーマンスをねちねちと計測しても詮ないので,「実際のところはどうなのか」をレポートしていきたいと思う。最後にまとめて,実際に動いているさまをムービーで収録したのでそちらも併せてご覧いただきたい。
念のため記しておくと,テスト環境は表のとおりだ。
ベンチマークで見るAtom搭載PCのパフォーマンス
というわけで一般的なベンチマークテストの結果である。結論からいうと,予想どおりというかなんというか,かなり残念なスコアになっている。
3DMark06 Build 1.1.0:93 3DMarks
3DMark05 Build 1.3.0:242 3DMarks
Vana'diel Bench 3(Version 1.0)- Low:1429
Vana'diel Bench 3(Version 1.0)- High:1020
「3DMark06 Build 1.1.0」についていうと,「HDR/SM3.0」を実行できないのは織り込み済みだったとはいえ,「Game Test」だけで完走に30分近い時間がかかったのは,なかなか衝撃的だった。また,「3DMark05 Build 1.3.0」も見事に“紙芝居”。正直,動いただけ立派といったレベルで,(3DMarkのスコアは,ゲームパフォーマンスと直結しないとはいうものの)DirectX 9世代の3Dゲームをプレイするのは諦めたほうが賢明ではないかと思わせるスコアになっている。
(ムービー内:00:00〜00:28)
「ファイナルファンタジーXI」のオフィシャルベンチマークテストとなる「Vana'diel Bench 3」も,予想どおりというかなんというか,厳しい値だ。
実際にAtom搭載PCでゲームをプレイすると?
以上,メインの3Dゲーム用PCとして無理なことはよく分かったが,では,どのクラスのゲームならどれくらい動作するのだろうか? さまざまな種類のゲームを実際に試してみた。
オンラインRPG:シールオンライン
(ムービー内:00:29〜00:55)
オンラインアクション:モンスターハンター フロンティア オンライン
マップ探索型アドベンチャー:暁のアマネカと蒼い巨神
(ムービー内:00:56〜01:04)
歴史シム:シヴィライゼーション4
(ムービー内:01:05〜01:36)
ストラテジー:ハーツ オブ アイアンIIドゥームズデイ アルマゲドン
(ムービー内:01:37〜02:07)
以下に,動作画面直撮りで3DMark05および各種ゲームをプレイしている状態をムービーにしてみたので,その動きっぷりは各自で判断していただきたい。なお,都合により,モンスターハンター フロンティア オンラインの動画は割愛させていただいたのでご了承を。
ゲーマーにとってのAtomは?
以上,D945GCLF(≒Atom 230とGMA 950)のパフォーマンスを見てきたわけだが,CPUパワー,あるいはグラフィックスパワーを要求されるものはやはり荷が重すぎる。FPSはもちろん,処理する情報量の多いシミュレーションなどで,快適なプレイは期待できない。
しかし,ゲームタイトルを絞れば,十分ゲームになるという感覚も得られた。あるいは,比較的負荷の高いオンラインRPGでも,パフォーマンスの求められない作業,例えば生産などを行うときに,メインPCの脇でちょっと動かしておくようなときには,十分使えそうだ。
CPUとマザーボードあわせて1万円を切る価格を考慮し,消費電力が低いという大きな利点とのトレードオフと考えれば十分納得できるレベルだろう。セカンドPCとして使ったとき,あまり電気代のことを考えなくていいのは魅力といえ,その点に価値を見いだせれば,自作派ゲーマーにとっても,なかなか面白い存在といえるのではなかろうか。
- 関連タイトル:
Atom
- この記事のURL:
(C)Intel Corporation