レビュー
“噂の”低消費電力版GeForce 9600 GTを検証する
GF9600GT-E512HW/HD/GE
» 2009年3月上旬から,NVIDIAの公式サイトに追加されていた,消費電力59W版「GeForce 9600 GT」。同GPUを搭載するグラフィックスカードが玄人志向からリリースされたので,宮崎真一氏による検証レポートをさっそくお届けしたい。
「補助電源コネクタを搭載しない初の9600 GTカード」として2月20日にレビューをお届けしたPalit Microsystemsの「GF9600GT 512M DDR3 256B CRT DVI HDMI」(以下,Palit 9600 GT)に,消費電力の低減は見られなかったが,NVIDIAの正式な製品ラインナップとして加わった59W版9600 GTではどうなのか。国内初登場となった「GF9600GT-E512HW/HD/GE」の実機を玄人志向から入手したので,さっそく検証してみよう。
59W版のGPU名はあくまでも「GeForce 9600 GT」
カード長はPalit製品よりやや長め
もっとも,NVIDIAは同時に,96W版と差別化する必要から,搭載グラフィックスカードの製品名として,従来とは異なる名称が用いられる可能性を示唆している。実際,今回入手したGF9600GT-E512HW/HD/GEの製品名にも,“Green Edition”を想起させる「GE」の文字が見て取れるが,ほかのベンダーも,GreenやらEcoやら,あるいはEnergy Efficientやらといった,“それっぽい”名前を付けてくるのではないだろうか。
さて,公称消費電力59W版9600 GTと,Palit 9600 GT,公称消費電力96W版となる従来型9600 GT,そして価格的に競合となる「ATI Radeon HD 4670」(以下,HD 4670)の主なスペックは表1のとおり。Palit 9600 GT以外はリファレンスクロックとなるが,59W版9600 GTでは,コアクロックとシェーダクロックが96W版から下げられ,Palit 9600 GTと同じ水準になっている。シェーダプロセッサ数やメモリ周りのスペックはそのままに,GPUクロックだけを引き下げることで,補助電源コネクタを必要としないカードデザインを実現しているわけだ。
GF9600GT-E512HW/HD/GEのカード長は実測で198mm(※突起物含まず)。公称消費電力96W版9600 GT搭載リファレンスカードの同228mmと比べて30mm短くなっている一方,Palit 9600 GTの175mmよりは20mm強長い。HD 4670のリファレンスデザインは同167mmなので,「長さは96W版9600 GTとHD 4670の中間程度」といえそうである。
GPUクーラーは2スロット仕様。筆者の耳で聞いた限りであることを断ってから続けると,搭載するファンは,よほどの高負荷状況にならない限り規定回転数の34%で動作する仕様になっており,さほどうるさい印象は受けなかった。
GF9600GT-E512HW/HD/GEが搭載していたGeForce 9600 GT GPU。刻印はG94-359-B1だった |
こちらは搭載するメモリチップ。GDDR3メモリである |
なお,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.3.2)で確認すると,リビジョンはA1,プロセスルールは65nmと表示されており,仕様を正しく取得できていない様子。動作クロックは,NVIDIAの公式スペックどおりとなっていた。
搭載するメモリチップはHynix Semiconductor製の「H5RS5223CFR-N0C」(1.0ns品)。これを8枚搭載することで,グラフィックスメモリ容量512MBを実現している,メモリチップ自体は2GHz相当(実クロック1GHz)での動作が可能なので,GF9600GT-E512HW/HD/GEでは,200MHz相当のマージンが設けられている計算だ。
2スロット仕様だが,決して大型ではないGPUクーラーを取り外したところ。メモリチップ用ヒートスプレッダは搭載していない |
GPU-Z実行結果。動作クロックはリファレンスどおりだ(※クリックすると別ウインドウで全体を表示します) |
テスト環境は表2のとおり。今回は,一刻も早く検証結果をお伝えすべく,Palit 9600 GTのレビュー時と環境を100%揃え,流用できるデータはすべて流用することにした。そのため,比較対象となる96W版9600 GTのベンチマークスコアは,ASUSTeK Computer製の「N9600GT/HTDI/512M/A」(以下,ASUS 9600 GT)と前出のWinFast PX9600 GT S-FANPIPE(以下,LR 9600 GT)のもの,HD 4670はASUSTeK Computer製「AH4670/DI/512M/A」のものとなる。また,グラフィックスドライバのバージョンが少々古めだったりするが,この点はご容赦を。
最後になるが,以下,GF9600GT-E512HW/HD/GEは,とくに断りのない限り,「玄人 9600 GT」と表記する。
テスト方法もPalit 9600 GTのテスト時と同じだ。念のため記しておくと,基本的には4Gamerのベンチマークレギュレーション6.0準拠だが,「Crysis Warhead」「デビル メイ クライ 4」「Unreal Tournament 3」は省略する。
GPUコア電圧を下げることで消費電力を抑制
ダウンクロック機能も搭載
というわけで,まずはキーフィーチャーとなる消費電力からチェックしてみよう。ログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を利用してシステム全体の消費電力を測定することにし,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時とした。
その結果はグラフ1に示すとおりで,玄人 9600 GTは,アイドル時,高負荷時とも,従来製品比で15〜20W程度の消費電力低減を実現している。パーセンテージでは,アイドル時に20%程度,アプリケーション実行時に10%強。HD 4670と同程度の消費電力に落ち着いているといってもいいだろう。
補助電源コネクタを持たないという点では同じ条件のPalit 9600 GTと,消費電力で明確な違いが生じている点にも注目したい。
そこで,xtremethemeのBIOS編集ツール「NiBiTor」(Version 4.8)でGPUコアの電圧設定を確認してみると,玄人 9600 GTの動作電圧は1.01V。2月20日の記事でお伝えしているように,従来のGeForce 9600 GTだと1.1Vだったので,0.1V弱低い。
さらに,アイドル時には,コアクロック300MHz,シェーダクロック600MHz,メモリクロック200MHz相当まで落ちる,ダウンクロック機能も用意されていた。この二つが,公称消費電力59Wを謳うほどに消費電力が下がった主要因と考えてよさそうだ。
グラフ2は,3DMark06を30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,アイドル時ともどもGPU温度を測定した結果である。
テスト時の室温は19℃。スコアとしてまとめたのは,PCケースに組み込まれていない,いわゆるバラック状態における温度値で,いずれもGPU温度表示機能を持つGPU-Z(Version 0.3.1,※測定条件を揃えるため,ここではあえて古いバージョンを用いた)から計測したものとなる。
GPUクーラーが異なるため,横並びの評価は難しいが,それほど大がかりなGPUクーラーを搭載しているわけでもない玄人 9600 GTのGPU温度は65℃と,まずまずのレベルにある。熱対策にそれほど力を入れる必要はなさそうで,この点も,消費電力の低減によるメリットの一つといってよさそうである。
実際のパフォーマンスだが,結論から述べると,Palit 9600 GTと同程度だ。動作クロックが同じだから当たり前,といえばそれまでだが,「3DMark06 Build 1.1.0」で見てみると,アンチエイリアシング,テクスチャフィルタリングともに無効の「標準設定」と,4xアンチエイリアシング,8x異方性フィルタリングを有効化した「高負荷設定」とも,公称消費電力96W比でベンチマークスコアは5%程度低い(グラフ3,4)。
そして,この傾向は実際のゲームタイトルでも同じ。グラフ5〜10は順に,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4),「Company of Heroes」,「Race Driver: GRID」(以下,GRID)のスコアをまとめたものだが,玄人 9600 GTとPalit 9600 GTのスコアはほぼ同じといっていい。対HD 4670でも,同等以上に立ち回っている。
多少の割高感は否めないものの
“目に見える”消費電力の低減は魅力
Palit 9600 GTと比べて,カードサイズが長くなってしまっている点は,やはり残念である。また,“安すぎる”ほど安価なPalit 9600 GTや,1万円以下で購入できる例が珍しくないHD 4670搭載カードと比べると,「公称消費電力96W版より気持ち高め」でスタートした59W版9600 GT(≒GF9600GT-E512HW/HD/GE)には,どうしても割高感が残ってしまうのも否めない。
していたが,公称消費電力59W版のGPUを搭載したGF9600GT-E512HW/HD/GEでは,スペックは規格内で,消費電力もHD 4670と同程度にまで抑えられている。それでいて,ベンチマークスコアは同96W版9600 GTからわずかに落ちる程度と,高まっていた「低消費電力版9600 GT」への期待を裏切らないデキになっているのも確かだ。
省スペースPCやミニタワー型PCなど,電源容量に制約のある環境における,低消費電力かつ高性能なグラフィックスカードへのニーズは根強い。それだけに,補助電源コネクタを必要としないGPUとしては2009年3月時点で史上最速の存在といえる59W版9600 GT,そしてGF9600GT-E512HW/HD/GEは,今後,価格がこなれていくにつれ,注目度を増していくはずである。
それにしても,G92コアではあれだけリネームしておきながら,公称消費電力96W版と59W版で,製品名をまったく変えなかったNVIDIAの対応はいかがなものかと思う。59W版は,もはや9600 GTという名を使わなかったほうが,ユーザーの混乱を防げたのではないだろうか。
- 関連タイトル:
GeForce 9600
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