レビュー
新世代ミドルクラスGPUは“買い”なのか
WinFast PX9600 GT 512MB
ZOTAC GeForce 9600 GT AMP! Edition
» GeForce 9世代の幕開けを告げる新世代のミドルレンジ市場向けGPU,「GeForce 9600 GT」。置き換え対象となるGeForce 8600シリーズから飛躍的なスペックアップを果たし,いきおいそのパフォーマンスにも注目が集まるが,果たして新製品は,コストパフォーマンスを重視するタイプのゲーマーにとって福音となり得ているだろうか。
WinFast PX9600 GT メーカー:Leadtek Research 問い合わせ先:アスク(販売代理店)TEL:03-5215-5650 予想実売価格:2万6000円前後(2008年2月21日現在) |
ZOTAC GeForce 9600 GT AMP! Edition メーカー:PC Partner(ZOTAC) 問い合わせ先:アスク(販売代理店)info@ask-corp.co.jp 予想実売価格:3万円前後(2008年2月21日現在) |
GeForce 8800 GTリファレンスカードとよく似た
GeForce 9600 GTリファレンスデザイン
外観は一目見ただけだと,GeForce 8800 GTのリファレンスカードと見分けが付かない。よく見比べると,6ピンのPCI Express補助電源コネクタの位置が異なるほか,GeForce 9600 GTリファレンスカードのほうがGPUクーラーのファンサイズが大きくなっているが,実測228mmのカード長(※突起部除く)も含め,非常によく似ている。
別記事では,GeForce 9600 GTの「G94」コアが,「GeForce 8800 GT」や「GeForce 8800 GTS 512」の「G92」コアと同等のアーキテクチャを採用していると述べているが,カードデザインに関しても,G92を踏襲していると見ていいだろう。GeForce 7/8世代のミドルクラスGPUであるGeForce 7600/8600のようなコンパクトなカードサイズや,補助電源を必要としない仕様を実現できていないのは残念だ。
さて,GPUクーラーを取り外すとGPUと8個のグラフィックスメモリチップが姿を見せる。今回入手した個体はいずれもSamsung Electronics製のGDDR3チップ「K4J52324QE-BJ1A」(1.0ns品)を採用していた。
TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.1.6)で動作クロックを確認して,取得した動作クロックは以下のとおり。GPU-Zによれば,G94-300チップ(=GeForce 9600 GT)のダイサイズは240平方mmだ。
- WinFast PX9600 GT:コアクロック650MHz,シェーダクロック1.625GHz,メモリクロック1.8GHz相当(実クロック900MHz)
- ZOTAC 9600 GT AMP:コアクロック725MHz,シェーダクロック1.75GHz,メモリクロック2GHz(実クロック2GHz)
また,せっかく2枚あるので,GeForce 9600 GTのNVIDIA SLI(以下,SLI)パフォーマンスも検証する。検証スケジュールの都合で,比較対象――例えばGeForce 8800 GTXなど――を用意できていないため,SLIのスコアはあくまで参考程度に捉えてほしい。なお,2枚のカードで動作クロックは異なるが,SLIの仕様上低いクロックで揃うため,今回は“リファレンスクロックのカード×2”でSLIを構成したときと同じスコアになるはずだ。
ELSA GLADIAC 988 GT 512MB Crysis推奨のGeForce 8800 GT搭載カード メーカー&問い合わせ先:エルザジャパン03-5765-7615 実勢価格:3万8000円前後(2008年2月21日現在) |
GV-NX88T256H Zalman製クーラー搭載のクロックアップモデル メーカー:GIGABYTE UNITED 問い合わせ先:リンクスインターナショナル(販売代理店) 03-5812-5820 実勢価格:2万7000円前後(2008年2月21日現在) |
EAH3850/G/HTDI/256M リファレンス仕様のHD 3850カード メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:2万6000円前後(2008年2月21日現在) |
EN8600GTS SILENT/HTDP/256M 独自のファンレスデザインを採用 メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:2万3000円前後(2008年2月21日現在) |
このほかテスト環境は表のとおり。GeForce 9600 GTのテストに当たっては,NVIDIAから提供された専用バージョン「ForceWare 174.12」を用い,それ以外のGeForceでは「ForceWare 169.28 Beta」を用いた(※試したところ,ForceWare 174.12は確かにGeForce 9600 GT以外には適用できなかった)。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション5.1準拠。以下とくに断りがない限り,カード名ではなくGPU名で表記し,グラフ中はGeForce,ATI Radeonの表記を省略する。また,クロックアップ版GeForce 9600 GT(=ZOTAC 9600 GT AMP)は「GeForce 9600 GT OC」,グラフィックスメモリ256MB版GeForce 8800 GTは「GeForce 8800 GT 256」と表記することを,あらかじめお断りしておきたい。
8600 GTSを圧倒しつつ
8800 GTにはあと一歩及ばない9600 GT
「3DMark06 Build 1.1.0」の結果から見ていこう。グラフ1,2は順に「標準設定」,4x AA&8x AFを適用した「高負荷設定」のスコアになるが,「GeForce 8600 GTの2倍以上」というNVIDIAの主張に,根拠はあるといっていい。4Gamerでは2007年後半の時点で「ミドルクラスGPUとしてのGeForce 8600は過去のものになった」と主張してきたが,GeForce 9600 GTの登場で,GeForce 8600シリーズはトドメを刺されることになるだろう。また,高負荷設定のスコアで比較する限りは,「ATI Radeon HD 3850より明らかに速い」というNVIDIAの主張にも頷けるところがある。
一方,上位陣との比較では,見事なまでにGeForce 8800 GTにあと一歩のところで留まっている。高負荷設定時にはグラフィックスメモリ容量の制約によってGeForce 8800 GT 256が大きくスコアを落とすので一部逆転現象が起きているが,総じて「クロックアップモデルの健闘は光るものの,地力の差はいかんともしがたい」といったところか。もっとも,差が大きくないのも確かだ。
念のため,標準設定の1280×1024ドット,3Dmark06のデフォルト設定時における詳細スコアをチェックしてみたが,ここでもGeForce 9600 GTが確かにGeForce 8800 GTの下位モデルであることが見て取れる(グラフ3)。
では,実際のゲームだとどうなのか。グラフ4,5はFPS「Crysis」のベンチマークテスト「Benchmark_GPU」における平均フレームレートをまとめたものだ。Crysisのような描画負荷の高いゲームタイトルでは,GPUのポテンシャルの差が出やすくなるが,果たしてGeForce 9600 GTとGeForce 8800 GTの違いは顕著になっている。やはりストリーミングプロセッサ数で大きく差を付けられている――前者64基に対して後者112基――のは大きいようだ。ただし,Crysisは描画負荷が非常に高く,そもそも推奨グラフィックスメモリ容量が640MB以上とされていることもあって,標準設定の1600×1200ドット以上,あるいは高負荷設定時における,GeForce 8800 GTS 256のスコアの落ち込みは尋常でない。その意味では,GeForce 9600 GTのほうがGeForce 8800 GT 256よりもバランスは取れているといえるだろう。GeForce 8600 GTSでは,標準設定の1024ドット×768ドットでも苦しいのに対し,GeForce 9600 GTが軽々とレギュレーション5.1の合格点(=40fps)をクリアしているのも感慨深い。
なお,高負荷設定の1024×768ドットでSLI構成のテストを行うと,ゲームがフリーズする問題に見舞われたため,スコアはN/Aとなっている。また,GeForce 8800 GT 256のシングルカードでは1920×1200ドット設定時にテストが途中で落ちるため,こちらもN/Aとした。
お次もCrysisから,グラフ6,7は「Benchmark_CPU」スコアをまとめたものだ。傾向としてはBenchmark_GPUと同じだが,GeForce 9600 GTとGeForce 8800 GTの差はより開く。1920×1200ドットでGeForce 8800 GT 256のスコアがN/Aなのは,先ほどと同じ理由だ。
同じFPSから,「Unreal Tournament 3」(以下,UT3)の結果をグラフ8に示す。Crysisと比べると描画負荷の低いタイトルということもあって,1024×768ドットではCPUのボトルネックによる数値の頭打ちが見られるが,1280×1024ドット以上では差が出てくる。ここでもストリーミングプロセッサ数の違いが決定的な違いを生んでいるわけだが,比較的“軽い”タイトルでは,クロックアップの効果が比較的大きいことも,GeForce 9600 GTのスコアからは見て取れよう。
もう一つFPS,「Half-Life 2: Episode Two」(以下,HL2 EP2)の結果をまとめたものがグラフ9,10となる。HL2 EP2も描画負荷が比較的低いので,全体的にUT3と似た傾向になっている。
TPS「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」から,より実際のゲームプレイ時に近いスコアを取得できる「Snow」テストの結果をまとめたのがグラフ11,12だ。同タイトルはCrysisと同様。総合的な3D性能が要求され,とくにメモリ負荷の高さで知られるが,やはりGeForce 9600 GTはGeForce 8800 GTより一段落ちる。個人的に興味深いのはATI Radeon HD 3850のスコアで,ATI Catalystのバージョンアップに合わせて,最適化は確実に進んでいる印象だ。
グラフ13,14は「Company of Heroes」における平均フレームレートである。GeForce 9600 GTはGeForce 8600 GTS比で2〜3倍のスコアを叩き出し,高負荷設定の1920×1200ドットでも十分ゲームをプレイできるフレームレートを維持。一方,GeForce 8800 GTには確実に置いて行かれる。
GeForce 8800 GT最大の弱点を克服
ファンの動作音も及第点
いつものようにシステム全体の消費電力をワットチェッカーにより測定する。OSの起動後,30分間放置した直後を「アイドル時」,3DMark06を30分間リピート実行し続け,消費電力が最も高かった時点を「高負荷時」として各時点のスコアをまとめたのがグラフ15だ。
アイドル時はGeForce 9600 GT,GeForce 9600 GT OCとも120W前後。GeForce 8800 GTより若干低い程度で,省電力機能「ATI PowerPlay」を持つATI Radeon HD 3850と比べるとやはり高めだが,注目したいのは高負荷時だ。GeForce 9600 GTおよび同OCはシステム全体で200Wを割り込んでおり,とくに最大消費電力が95Wで同じATI Radeon HD 3850よりも低い点は評価したい。
そして,それ以上に注目したいのがGPUの温度だ。室温20℃の環境で,PCケースに組み込まないテスト環境において,グラフ15の時点におけるGPU温度を取得し,まとめたのがグラフ16だ。温度は「ATI Tool」(Version 0.27β3)で測定しているが,GeForce 9600 GTのGPU温度は高負荷時にも70℃を超えていない。GeForce 8800 GTリファレンスクーラーの冷却能力が低いことは再三指摘してきたとおりで,今回も高負荷時に90℃という“景気のいい”値を記録しているが,ストリーミングプロセッサ数の大幅な削減が奏功したのか,はたまたファンの大口径化に意味があったのか,GeForce 9600 GTは,クーラーが1スロット仕様であることに疑問を感じない温度となっている。
当然,ファンの動作音が気になると思うが,筆者の主観になることを断ってから続けると,GeForce 8800 GTリファレンスカードのクーラーと同程度か若干静かといったところ。GeForce 8800 GTのリファレンスクーラーが持つ冷却能力について世界中から文句が出たと聞くが,GeForce 9600 GTのGPUクーラーがほぼ同じ形状を採用しながらGPUを冷やしきっているあたりには,なかばNVIDIAの意地らしきものが垣間見えて面白い。
なお,GeForce 8600 GTSはファンレスモデルなので,当然のことながら温度が高く出る。同GPUのスコアは参考程度に考えてもらえれば幸いだ。
課題は価格
最安値で2万円を割り込むようになれば魅力的に
ただし,残念ながら発表時点では,価格という大きな問題がある。
GeForce 9600 GT搭載グラフィックスカードは発表と同時に販売がスタートするため,明けて22日にはPCパーツショップの店頭に並ぶはずだが,その予想実売価格はおおよそ2万5000〜3万円。あと数千円足せば,GeForce 8800 GT搭載カードを購入できてしまうのである。付け加えるなら,ATI Radeon HD 3850カードは2万円台前半の価格帯が主流なので,コストパフォーマンスでも絶対的な安価さでもGeForce 9600 GTカードの“初値”は中途半端だ。消費電力の低さや,リファレンスクーラーの優秀さは魅力的だが,2万円台後半では,GeForce 9600 GTの存在意義はあまりない。
また,GeForce 9世代ならではのインパクトに欠けるのも事実だ。GeForce 8世代では,「GeForce 8800 GTX」が市場に強烈な衝撃を与えた。ライバルのATI Radeon HD 3000シリーズにはDirectX 10.1サポートという錦の御旗がある。しかし,GeForce 9600 GTにはそれがない。これが“GeForce 8700 GT”であれば,また印象は変わっただろうが,エンドユーザーにGeForce 9を選ばせるだけの何かが,GeForce 9600 GTには欠けている印象だ。
率直に述べて,GeForce 9600 GTカードは「高い」。ATI Radeon HD 3850と同程度の価格,つまり2万円台前半に落ち着き,一部特価などで散発的に1万円台の値付けがなされるようになれば,GeForce 8800 GTに迫る性能,1スロット仕様でしっかり冷却できるクーラーなどが大きな意味を持ってくると思われるだけに,今後の値下がりに期待したいと思う。
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